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【あつ森】クリーム島青春与太話(ラムネルート5)

(前回↓↓)


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嫌な意味でドラマのような光景だ。クソヤロウ共に連れられてやってきたのは周りに人気のない、使われなくなった空き倉庫の中だ。どんだけテンプレな展開なんだよ。

縄やチェーンみたいな拘束具がなかった為、自称ラムネファンクラブのガタイの良い男に両腕を抑えられ、羽交い締めの状態にされる。

トビー「死なない程度にやれ。」

トビーの合図と共に残り複数人の男達が下卑た表情を浮かべて取り囲む。そして俺が目を瞑り腹に力を入れたところで拳が振り下ろされるのだった…。

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ラムネ「やめて!やめてえ!!!」

トビーに腕を掴まれたラムネが悲鳴に似た声で叫ぶ。それでも男達は遠慮なく俺の身体のあちこちを殴ったり蹴り飛ばしたりする。

ラムネ「どうして…どうしてやめてくれないの…」

トビー「僕のものに手を出したんだ。それ相応の報いだよ。ラムネ、君もいい加減分かってくれ。君を幸せに出来るのはこの僕しかいないんだ。」

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トビー「ラムネ。どうすれば止められるか君なら分かるはずだ。さぁ、返事を聞かせておくれ。僕を愛してるだろ?」

ラムネ「…………。」

非日常な生活に縁のない俺でも分かる。これはプロポーズの返事でも愛を確かめ合う返事でもない。単なる脅しだ。

ラムネ「私…私は………」

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もしかしてラムネは俺を助ける為にトビーを受け入れてしまうのか。止めなくちゃ…でも待てよ、俺にそんなこと言う権利があるか。俺は彼女と同じ立場にたてないしただの男子高校生だし。でも、どうする…


※ストーリーが分岐します。目次を選んでください。

ダメだ!

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「言っちゃダメだラムネ!そんなこと簡単に受け入れるな!」

ラムネ「加納くん…」

「お前ら…ラムネの為を思うならいつまでも彼女に付き纏うな…!ラムネは婚約者の言いなりになる人形でもアイドルでもない!彼女は…どこにでもいる普通の女子高校生なんだ!」

そうだ。俺もついこの間までファンクラブ幹部の連中と同じように彼女を見ていた。非の打ち所がない清楚な容姿で品が良くて、ましてやお金持ちのお嬢様で…手を伸ばしても届くことのない高嶺の花として見てた。その花を汚してしまわないよう大事に大事に遠くから見守るようにしていた。

でも一緒に行動することでラムネがそれを望んでいないことをにやっと気付いた。婚約が決まって将来安定の令嬢、または皆にチヤホヤされる学園のアイドルとして何もかも完璧かに見える生活…それは反対に彼女の心の自由を縛り付けていたんだ。

幹部の男「偉そうに説教たれてんじゃねえ!てめーにラムネちゃんの何が分かんだよ!!」

逆上した幹部の男達が再び殴る蹴るを繰り返す。拳がみぞおちに入り、思わず咳込んだ。

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ラムネ「加納くん!」

トビー「ダメだよラムネ。近付いたらドブ鼠の菌が移ってしまう。」

そう言ってトビーはラムネの腕を掴み直す。するとラムネは怒りで表情を歪ませトビーの腕を振り払った。

ラムネ「トビーさん。あなたとの結婚をお断りします。私、人をドブ鼠だなんて言う人の女になりたくありません。」

トビー「ラムネ……なぜそんなこと言うんだい。僕があんなに目をかけてやったというのに…全て台無しにしようとするのか…」

トビーの顔から感情が消え、ゾンビのようにラムネに向かって腕を振り上げる。まずい、このままじゃラムネが!と思った時だった。外からパトカーのサイレンが鳴り響き、次に倉庫に入ろうとする複数人の足音が聞こえた。

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キャビア「やっと見つけた。」

チェルシー「お嬢様!ご無事ですか…!」

ラムネ「お姉ちゃん、チェルシー、それにこの方達は…どういうことなの???」

入って真っ先にラムネに駆け寄ってきたのは猫宮キャビアとメイドのチェルシーさんだ。そしてトビーのところに来たのは…

「トビー・バーミンガムさんですね?我々と一緒に来て頂けますか?」

なんと複数人の警察官だった。

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トビー「警察だって!?僕が何をしたって言うんだい!!?」

キャビア「すっとぼけるのも大概にして。あなたには横領罪の疑いがある。」

トビー「横領罪?なんのことかな。」

キャビア「あなた、自分の父親の会社のお金をバレないように隠したそうね。隠したお金をプライベートで使い込んだんでしょ。」

トビー「な………!?何故それを…」

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え??この金持ち…親の会社の金を勝手に着服してたってことか?そこへラムネを心配してきたのか、ラムネの母親まで現れた。

ショコラ「残念だわトビーさん、これでは安心して愛娘を任せることは出来ません。罪を認めて反省なさい。」

トビー「くそ…!誤解だ、誤解なんだよ!使った金もラムネも僕の家の為、ひいては我が社と猫宮家の為なんだぞ!」

こうしてトビーは警察に連れて行かれた。ファンクラブ幹部らは警察の介入にビビって逃げようとしたが何人かは逃げきれずそのまま警察に連行されていったようだ。
しばらくして現場には俺とラムネ、駆けつけてきたラムネの家族達と1台のパトカーが残された。トビーから解放されたラムネがぼろぼろになって座り込む俺のところまで駆け寄る。

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ラムネ「加納くん…加納くん…!!」

優しく取り上げられた手の甲に涙がぽたぽた落ちる。あぁ、その涙さえ手の擦り傷にすごく滲みる……。

ラムネ「ごめんなさい…ごめんなさい…!私のせいで………こんな…ひどい目に……」

苦しい思いをしたのはきっとラムネだって同じだ。せめて泣きじゃくるラムネを落ち着かせようとヒリヒリする表情筋で精一杯笑顔を作る。

「気に、すんなよ……ラムネも、頑張ったな…」

ラムネ「…………う……うぅ、ありが、とう……。」

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ラムネ「皆も…助けてくれてありがとう!」

キャビア「別に。私もトビーのことが気に食わなかったから。」

チェルシー「お嬢様がご無事で何よりです。」

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ショコラ「大丈夫よラムネ。次はもっと有望な人を探して紹介するわね。」

ラムネ「…あのね、お母さま。」

ラムネは涙を拭い深呼吸すると、何か根本的に違う慰め方をしている母親に向き直る。

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ラムネ「お母さまが私の為を思って結婚相手を探してくれてるのは分かるわ。でも私、将来結婚する人は自分で見つけたいの。」

ショコラ「ラムネ……。」

その表情はその場を上手く誤魔化す為に取り繕ったものではない。ラムネが自分の意思をハッキリ伝えようとしているのが分かる。どうやらそう感じたのは俺だけでは無かったようだ。ラムネの母親は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐにウンウンと頷く。

ショコラ「…そうね。私もあなた達のお父様を自分の力で見つけたんだったわ。分かりました。ラムネ、貴女は貴女で愛する人をしっかり見極めなさい。」

(次回↓↓)


(黙ってしまう)

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「…………。」

幹部の男「なんだ?さっきの吠えっぷりはどうしたよ。」

ダメだ。俺がラムネのことをあーだこーだ言う権利はない。吐き出したい言葉が喉につっかえてそのまま出てこなくなってしまう。

幹部の男「まだまだぶつけんぞオラ!」

男の1人が顔を殴ろうとした時だった。

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ラムネ「こんなのいや……!もうやめて!!!!!」

悲痛な声で叫ぶ声が聞こえた。見るとラムネが泣きじゃくっている。そして……

ラムネ「トビーさん…あなたを、愛してます…あなたと結婚します…だからお願い…もう、加納くんに……ひどいこと、しないで。」

絞るような声でそう告げた。トビーは今にも飛び上がりそうで目をギラギラと輝かせている。

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トビー「ああ…その言葉を待っていたよラムネ。すごく嬉しいよ、明日にでも式を挙げたくなってきた。分かった、他でもない君の頼みなら聞き入れよう。」

トビー「お前達、これ以上はもういい。」

すると男達はパッと俺から離れた。支えを無くした身体がずるりと床に転がる。床に頬をすりつけた状態で身体上の殴られ蹴られた痛みをじんわりと感じたが、今となっては痛がる気力も無い。

トビー「適当な病院に連れて行け。なに、階段から落ちてひどい怪我をしたところを見つけたとでも言えばいい。」

幹部の男「…ち!おい、ラムネちゃんに感謝すんだな。」

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トビー「さぁ愛しのフィアンセ。もうこんな時間だ、僕が家まで送り届けよう。」

トビーはラムネの肩に腕を回し、いつの間にか呼んでいた黒いリムジンに乗り込んでいった。ドアが閉められる直前、ラムネがこちらを振り返る。その表情はすごく悲しげだ。

ラムネ「………。」

何か口を動かしているように見えたが何を言っているのか遠すぎて聞き取れなかった。扉が閉められ、黒いリムジンがエンジン音を立ててその場から走り去る。

これが、俺が見た猫宮ラムネの最後の姿だった。

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怪我の治療が終わりまた学校へ通った時にはもう猫宮ラムネの姿は無かった。というのも…………

ハムカツ「おい聞いたか!あの猫宮ラムネが転校したらしいぞ!」

シベリア「ああ、留学したって噂になってる。それにしても変なタイミングだよな。」

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猫宮ラムネはもうこの学校に通ってない。どこか外国で留学するということでいつの間にか転校したらしい。

ふと誰かに自分の机をコンコンと叩かれた。見ると隣の席の猫宮キャビアが何か言いたそうな顔でこちらを見ている。

キャビア「話すことがあるの。昼休み、屋上にきて。」

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屋上へ行く途中、ラムネファンクラブの幹部共と鉢合わせた。目を合わせたらめんどくさくなる…そう思って足早に通り過ぎようとした途端、奴らは急に俺達の前に一列に並び「スンマセンしたー!!」と大声で叫び一斉に土下座してきた。これはこれで……逆に気持ち悪い。

幹部の男「オメェから引き離したらラムネちゃんは帰ってくるって思ってたんだ。でも結局、アイツが俺たちのラムネちゃんを連れていっちまった。どんなに悔やんでもラムネちゃんはもう帰ってこないんだ、チクショウ…」

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屋上に着くと既に猫宮キャビアが待っていた。彼女の言う話すことというのは多分……猫宮ラムネのことなんだろう。だから「話ってなんだ?」と聞く前にこう切り込んだ。

「ラムネは…どうなったんだ?」

キャビア「ラムネはトビーとアメリカへ行った。本格的に結婚する為に。」

淡々と非常に残念な事実を告げられた。が、俺自身不思議なくらい冷静に話を聞けている。それに猫宮家の一族の1人が言うことなのだから多分間違いないだろう。だが………

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キャビア「出発する日、ラムネは泣いてた。せめてあなたにお別れを言いたかった…て。」

「…………………。」

そう言われた時、俺の脳裏に最後に悲しげな顔でトビーのリムジンに乗せられるラムネの顔が浮かんだ。俺に向かって何か言っていたような気がするけど…一体何を言おうとしてたんだろう。そう思った瞬間、心臓部分がキュっと締め付けられた。

…………………………。

…………………………………………………。

END



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