【あつ森】クリーム島青春与太話(モニカルート5)
(前回↓↓)
モニカさんとプールに行ってから数日後のこと。5限目の授業の時から俺はあることばかり考えていた。最近、モニカさんの姿を見かけない。昼休みに体育館に行けば会えるかもしれないと思い何度も通ってみたが、モニカさんはここ数日昼休みに練習に来ていない。いや、来ないのも無理はない。プールに行った日に足を挫いてしまったんだ。何も足を引きずって練習するのは無理があるだろう。しかし同時にモニカさんに会えずに少しがっかりする気持ちもあった。
放課後の時間、気付いたら俺の足は体育館に向いていた。ほんの1秒でもいい。モニカさんがいるかどうか確かめたくてウズウズしていた。女の子しかいない部活動を覗く男子1人。明らかにアレだ。
体育館からテンポの高い明るい音楽が聴こえる。あの音楽に合わせてモニカさんは踊り続けてるのだろうか。逸る気持ちを抱えたまま体育館に繋がる廊下まできたが、不自然なタイミングで音楽が止んだ。俺は入口で足を止めそっと中の様子を覗いた。
モニカ「チョコちゃんごめん!大丈夫!?」
マットの上で仰向けになってる甘露と慌てて駆け寄るモニカさんの姿がいた。モニカさんがいたことに俺は安堵したが、チアリーディング部の部員達の間によくない空気が流れているのが伝わる。
リラ「モニカ。今のは何?ボトムスとしてあの失敗はないでしょ!」
モニカさんのところへ1人の女子部員が詰め寄る。リラさんだ。モニカさんがダンスやスタンツにおいて信頼している人である。
チョコ「リラ先輩!アタイはなんともないですって。だからモニカ先輩を責めないでくださいよ。」
リラ「チョコちゃんはいいから!」
モニカ「………………。」
モニカさんは何も言い返さない。ここぞとばかりにリラさんは更にモニカさんを責め立てにいった。
リラ「モニカ、前から皆で思ってたんだけどアンタはダンスの時も皆と呼吸が合ってないじゃん。音楽だけじゃなくて周り見てる?いつもいつも…アンタ本当にやる気あんの!!?」
「!!!!」
その言葉が耳に入ってきた瞬間、何かが腹の底から込み上げてきた。俺はモニカさん自身でもなければ家族でもない赤の他人だ。モニカさんの気持ちを正しく理解出来てないかもしれない。それでもリラさんの最後の言葉は聞き捨てならなかった。あんな言葉をモニカさんにかけていいわけない!
俺は体育館の…チアリーディング部が練習しているステージに乗り込みにいっていた。
「待てよ。その言葉、今すぐ取り消してください!!」
モニカ「え…?」
モニカさんやリラさん、甘露だけじゃない。女子部員の視線が結構痛いが俺は伝えずにいられなかった。
「モニカさんがやる気ないなんてことは絶対ありえません!アンタ達だって知ってる筈だ。モニカさんがチアリーディング部の為にどれだけ努力してきたか!」
モニカさんとプールに行く前、俺はシベリアから話を聞いていた。
シベリア「姉貴は困ったやつだよ。自分のやりたいことなら周りに無理だと言われてもやりたがるからな。チアやってるのだってそうだ。最初は親に反対されてた。だが今となっちゃ誰もとやかく言わないのは…」
シベリア「誰よりも努力を惜しまない人だからだ。それだけじゃない。あれは誰かに求められたらそれに最大限応えようとするんだ。でもこれじゃ姉貴は他の連中に元気バリバリウーマンだと誤解されちまう。本当はそうじゃないのによ。」
身体が弱いというハンデに挫けずにずっとチアの練習を続けてた。自分の身を砕いてでも誰かを喜ばせる、笑顔にすることを優先し続けていた。それが爽やかだけど色っぽくて大胆な部長姿の裏に隠された、本当のモニカさんの姿だと気付かされたんだ。
「モニカさん、あなたは…」
※ストーリーが分岐します。目次を選んでください。
もっと自分を大事にしてください。
モニカ「柊二…。」
「だってモニカさんは本気で頑張ってるじゃないですか。どんなにしんどい目にあっても笑顔で乗り切ろうとして。それなのにあんなことを言われ続けて何も思わないんですか!」
モニカ「…悪いけど帰ってくれる?これはチアリーディング部の問題。部外者が口を挟むことじゃないわ。」
「でも…………!」
モニカ「お願い、帰って。」
普段からは想像もつかない鋭く強い口調だ。他の何をも受け付けない口調。これ以上俺は何も言うことが出来なくなってしまった。
結局そのまま学校の外に出て帰ることにした。今思えば、俺バカなことをしたな。あんなタイミングで乱入するなんて空気が読めないにも程がある。かえってモニカさんに迷惑をかけてしまった。明日謝りに行かなきゃな…なんて考えている時だった。
???「いたー!!おーーい加納ー!!!」
校門まで来たところで誰かが俺を呼びながら猛スピードで走ってくる。
「甘露?」
甘露は息を切らしながら俺の制服の裾を引っ張って引き留めようとする。そこまでしなくても用があるなら話を聞くのに。
「どうしたんだよ、ジャージのままで。」
チョコ「加納、今すぐ保健室に行って!モニカ先輩が倒れたの!!」
「え……」
モニカさんが倒れた…?
チョコ「ぼーっとしてないで!早く!!」
「あ、あぁ分かった!」
(次回↓↓)
もう、無理しなくていいんです。
モニカ「柊二…。」
「モニカさんは充分頑張ってます。期待に応えようと頑張り過ぎていったらいつか限界が来ます。自分自身に負担を負うことないんです!」
モニカ「…話の続きはまたいつか聞くから。今日は帰ってくれる?」
言ってることはそっけないけど、その静かな口調から頭に血が上った年下の弟を冷静に宥める年上のお姉さんのような雰囲気を感じた。さっきまでのボルテージが急激に下がっていく。
「……………はい。」
こう言うしか、ないじゃないか…。
それ以降、モニカさんに会うことがないまま数日が過ぎた。今日はシベリアが退院して学校に復帰してきてる。
シベリア「よ、お前ら。待たせたな。」
ハムカツ「ノコノコ戻ってきやがって。お前も補講の苦しみをたっぷり味わいやがれよー。」
シベリア「生憎だが俺はお前より能率がいいんでね。ちょっと出席数が少ないくらいで遅れを取ることはねーんだよ。」
あー、補講で思い出した。ハムカツに渡すものがあるんだった。
「そうだハムカツ。これ化学のしょうこ先生から預かってたぞ。」
廊下で化学の先生とすれ違った時にハムカツがなかなか受け取りに来ないからと渡されたのだ。中身は補講の小テストの結果だ。ハムカツの名誉の為にテストの結果内容は細かく見ないでやってる。
ハムカツは俺から補講の小テスト用紙を受け取ると身体を真っ青にしてブルブル震わせ、しまいにはトイレにダッシュしに行った。あーあ、また追加の補講かな。
シベリアと2人きりになったところで俺は彼女について聞いてみることにした。
「シベリア。その…モニカさんは元気にしてるか?」
シベリア「……まぁ、元気だぜ。あの姉貴がテンション低かったら槍でも降ってきそうだ。」
そう答えるシベリアの表情はほんの少しだけ寂しそうだった。やっぱり何かあったんだろうか。でもそれはあえてシベリアから聞かないことにする。
その答えを知る機会は突然やってきた。放課後の時間、玄関で靴を履き替えて外にちょうど出た時だった。
モニカ「あれ?加納少年じゃん。ひっさしぶり〜!!」
ここ数日聞いていなかった声がした。振り向くと制服を着たモニカさんが汗をかかずに爽やかに笑っている。
「え!モニカさん!!?」
モニカ「そうよ〜。もぉ変わってないわね加納少年は。そうだ。これからモニカお姉ちゃんと一緒に帰ろうか。」
ここでそのノリか!?でも俺の知ってるモニカさんのようで少し安心した。
結局モニカさんと一緒に途中まで下校することになったが、会話が思ったより弾まない。そこで俺はずっと気になっていることを尋ねることにした。
「あの、今日は部活休みなんですか?」
モニカ「あー、チアのこと??」
モニカさんは少し考えるようなポーズをした後、さぞ何ともない表情で答えた。
モニカ「チアリーディング部は退部したの。今はリラが部長をやってくれてるよ。」
「退部…?」
モニカ「親も塾を探し出しちゃったし、これからは受験勉強かな〜。」
モニカさんの答えに俺は耳を疑った。あんなにチアが好きだと言って部長になってまで続けてきた部活を辞めていたなんて。正直、信じられない。だから俺はついきいてしまった。
「これで良かったんですか?」
モニカ「ええ。これで………良かったのよ。」
モニカさんがチアを辞めてしまった、その経緯を聞こうにも聞けなかった。聞いてしまったら更に彼女を傷つけてしまいそうだったからだ。俺がかろうじて出来たのは薄く、切なく笑うモニカさんの横顔を黙って見ているだけだった。
…………………………。
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(END)
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