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【疎開日記2021】#9 びしょ濡れの朝

6月14日(月) 疎開生活14日目

ブンタウは今日も快晴。だいたい朝は晴れている。

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爽やかな気分で洗濯物を干す。
とても狭いベランダで、真下に見える道路が視界に入らないように出来るだけ顔を上げたまま、部屋側の壁に沿うようにそろそろ動きながら。

ジャーーーー!あっ、またやってもうた。
慌てて水を止めて、びしょびしょに濡れたズボンを絞る。
朝の爽やかな気分が一瞬で消える。

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ベランダにある蛇口はレバーを右にすると水が出る。おわかりだろうか。狭いベランダで洗濯物を干している時、ついつい、後ろ向きに進みながらこのレバーを押してしまう。結果、左足が水浸し。これをほぼ毎日やっている。

Tシャツ類は何枚か持ってきたが、下に履くもの、部屋着用のパンツは2枚しか持っていないわたし。毎朝濡らすので、濡らして着替えて乾かして、の繰り返し。


ベトナムの最近の物件はだいぶきれいなものが増えてきた。このアパートホテルも築3年らしい。たった3年でよくここまで汚せる物だと思うが、その話は置いておく。
見た目はおしゃれだ。以前は重厚な木のリビングセットが置かれた伝統的なスタイルが多かったが、最近はシンプルで現代的なスタイルの部屋が多い。
(写真、左が旧スタイル)

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一見おしゃれなのだが、使い勝手がものすごく悪い。動線とか全く考えていないんだと思う。
例えば、メインルームの寝室のドアは内開き。だが、開いたそのすぐ裏にシャワールームのドアがある。ドアが重なるので、トイレに行く場合、開けたドアを一回避けてシャワールームへ入らなければならない。
ベランダの蛇口も然り。ハンドルの向きを変えればこんなことにはならないのに。

ぐちぐち言っても仕方ないので、気持ちを切り替える。


娘はいつも通りオンライン授業。zoomの授業が増えたので、わたしは横で静かにじっとしている日々。この部屋は勉強机がないので、娘はダイニングでタブレットを見ている。テレビを見ていると気が散るだろうし、音を出してもいけない。
キッチンへ行くにも娘の後ろを通らなければならないので、ビデオにうつってしまう。休み時間のタイミングでこそっと水を取りに行く。行動が制限されるというのはストレスが溜まる。
かと言って、娘を置いて出かけるわけにもいかないので、手持ち無沙汰だ。

サイゴンの家では別の部屋だったので、いつも筋トレをしたり、料理を作ったり、やりたいことができたのでそれなりに充実していた。
朝はいつもと同じ時間に起きて、授業が始まる前に娘と散歩に行っていた。その時についでにスーパーで買い物を済ませてしまい、帰ってきてから授業が始まるまでに、ルーティンで読書タイム、そろばんなどやることを決めていた。

ブンタウでは朝の散歩はやっていない。朝の散歩で買い物を済ませられないので、夕飯の準備も授業後にするしかない。
暇を持て余すことがわかっていたので、本を数冊持ってきた。オンライン授業になってから、読み始めたのは『赤毛のアン』シリーズ。
子どもの頃から何度も読んでいるのだが、結婚して子どもを産んだところまでしか読んでいなかった。母親になってから読み返すと、また違うはずだと久々に読み返すことにしたのだ。近所の私設図書館ガーデン文庫で借りてきた。
やっと8冊目まで読み終えて、あと2冊。最終巻の10冊目は『アンの娘リラ』というタイトルで、戦争の話になるらしい。

活字中毒のわたしは家でいつも本を読んでいる。本当は週に4、5冊くらいのペースがちょうどいいのだが、ベトナムでは日本語の本が手に入りにくいので、少ない本をゆっくり読んで、何度も読み返して、なんとか凌いでいる。

赤毛のアンシリーズ。持ってきたのはいいが、何故かブンタウでは読む気にならない。戦争の話というのが、いまの疎開中の心理状態では食いつきが悪いのだろう。なかなか進まず、集中力が続かないので頭に入ってこない。大好きな読書し放題のはずなのに、本も読まずに時間を持て余している。もったいないけど仕方がない。

ちなみに、電子書籍ならいつでも読めていいじゃないかと勧められることも多いのだが、古い人間なので活字は紙で楽しみたい。海外にいるのだから、背に腹はかえられぬとKindleにした友人の話も聞くのだが、やはり紙がいい。

だから、この日記は暇つぶしにちょうどいい。


週末を振り返ってみる。土曜日の散歩に続き、日曜日も散歩に行った。
タクシーに乗る時は窓を開けなければならないのだが、うちからロッテマートへ向かう道で必ずイカの臭いがする場所がある。海の街ブンタウ、干物を作っているのか、海産物を取り扱っている店があるのか、ずっと気になっていたので、歩いて確かめに行くことに。

日中、汗をかきかき歩いているおかしな外国人親子、ベトナム人の目にはそう映るに違いない。水筒持参で帽子を被り、遠足スタイルで炎天下の下、鼻をクンクンさせながら歩いた。

マスクをしているからか、日曜日だったからか、いつもの強烈なイカ臭は漂っておらず、ほんのり香るのみ。ここだろうと思われる工場らしきものを見つけたが、詳細はわからぬまま。

帰り道、歩いていたらぶわーっと煙に巻き込まれる。
火事かと思ってよく見ると…

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ただの焚き火だった。煙が目にしみるので、ダッシュで通り抜ける。

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行きには気がつかなかった小さい赤い虫が沢山いる場所があり、娘が怖がって爪先立ちで小走りでうちに帰った。
いつも使わない筋肉を酷使して、どっぷり疲れた楽しい散歩だった。


そんなわけで、楽しい週末の後の爽やかな月曜日、のはずが…

リビングの電気が切れて、なんだか嫌な予感がすると思っていた午後。
案の定、31日に出された15号、わたし達がブンタウに来なければならなくなった理由である首相指示第15号が二週間延長されることが決まった。
サービス業は営業停止。レストランはデリバリーのみ。不要不急の外出は避け、感染防止に努める日々。そろそろ引きこもり生活もしんどくなってくる頃だ。

5月10日から休校中のベトナム。学校再開までの道のりは長そうだ。
何でもいいから、もう少しブンタウを楽しむ方法を増やさなければ。

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