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【疎開日記2021】#23 てんとう虫と雨宿りの奇跡

10月11日(月) 疎開生活133日目

このところ、家の中でてんとう虫をよく見かける。ほうきでそっと塵取りに乗せて外へ出す、というか、ベランダから放り投げる。

てんとう虫の丸い形は他の虫と比べて愛らしく、比較的苦手意識が少ない虫ではあるが、虫は虫。てんとう虫の幼虫を初めて見た時は、あまりの気持ち悪さにウゲーッと叫んで逃げた。あれが変化した物だと思うと、やはり怖い。

もうそんな季節かと思ってアルバムを確認したら、ホーチミンの家でも、去年の9月末にてんとう虫が大量発生していた。

一年があっという間だった気がする。引きこもりの連続で、2020年のテト明けから記憶が曖昧だ。


規制緩和が進むブンタウ。とは言うものの、相変わらず15号は出たまま、ソフトロックダウンの状態だ。不要不急の外出は禁止されているし、一部サービス業は営業停止中、タクシーは走っていないし、10人以上で集まるのも禁止されている。

けれど、一度部屋に閉じ込められて、食べ物も自由に手に入らない生活を経験した身としては、自由に買い物に行けるだけでかなりの開放感、解放感でもある。デリバリーのみとはいえ、レストランも徐々に営業を開始し、もうそれだけで万々歳。かなり喜びのハードルが下がった状態だ。


9月末、実に2ヶ月半ぶりのご飯デリバリーに成功。
美味しいのは勿論のこと、いろんな想いがぶわーっと溢れてきて、忘れられない味になった。

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最初に注文したのはバインクオン。
お久しぶりのベロベロモチモチ食感。


10月1日からホーチミンも規制が緩和された。「ニューノーマル(bình thường mới)」に移行するということで、急速に町が動き出した模様。
買い物に出られる喜びを共感し合うメッセージが飛び交い、けれど、どこまで何が許されているかもわからない手探りな日々が続いた。

外出は許可されたものの罰金を取られる可能性があるとかないとか、ビクビクしているところにつけ込んで、町には偽警官が出没し出した。
パトロールを装った偽警官は、ワクチンパスポート(携帯アプリを使い、ワクチン接種証明できるようになっている)を見せろと言い、QRコードをスキャンするために携帯を取り出したところを引ったくって逃げるらしい。

また、ひったくりや強盗、特にATMや銀行を出たところで狙われることも多いらしく、治安の悪化が顕著に感じられるように。ホーチミン領事館からも「社会隔離措置緩和に伴う犯罪増加の注意喚起」というお知らせが回ってくるほど。

ニューノーマル=新しい常態に向けての日々はやはり簡単にはいかないようだ。


ブンタウの我が家はと言うと…

ベランダにでっかい茶色いカメムシのような虫がやってきて、ガラスに卵を産みつけて行ったり、

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上の階の排水溝が詰まったのか、ベランダに泡があふれ、うちとは違う強烈なベトナムの洗剤臭が充満したり、

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シャワールームの排水溝が詰まり気味なので、蓋を開けたら、Gが出てきて「こんにちは」してしまったり…と期待を裏切らない相変わらずのてんやわんやな日々。


嬉しかったのは、お盆明けに友人が日本から送ってくれた荷物が、ようやく届いたこと。ホーチミンで足止めされること1ヶ月以上。我が家の食糧難を心配して、春に帰国した友人が送ってくれた愛情いっぱいの荷物。

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現地を知っている友人の流石のラインナップに、
涙とよだれ垂れまくり。

久々に手元に届いた活字を娘と一緒に貪るように読み耽った。もったいないからチビチビ読もうかと思ったのに、受け取ったその日に一冊読み切ってしまった。ああ、生き返る。


不要不急の外出は禁止されているとは言うものの、ここ数ヶ月の引きこもりでこの生活に慣れ切ってしまったわたし達、何も困ることはない。週2回程度の買い物以外は部屋から出ることもないけれど、食べるものに困らないのだから不満もない。

淡々とオンライン授業をこなす娘、洗濯•掃除•料理といつもの家事をこなすわたし。食べるものを心配しなくていい当たり前の生活が戻ってきて、ふと我にかえる。

あぁ、自分のうちに帰りたい。


ホーチミンが日常を取り戻しつつある今、あとはブンタウ⇄ホーチミン間の行き来が可能になってくれさえすれば、我が家は自宅へ戻ることができるのだ。

しかし、わたしは知っている。前回も、すんなりとは戻れなかったことを。ここからが長いのだ。期待が大きくなればなるほど、焦ったく待ち遠しい。

娘が耐えきれず「ホーチミンのおうちに帰りたい」と泣くことが増えてきた。しかも、毎回ギャン泣き。そりゃそうだ、よく我慢している。もうブンタウへ来て5ヶ月目だ。

ノートも鉛筆もなくなってきて、ちびちび使っている。ホーチミンはスクールバスが市内を回り下の教科書などが配布された。教科書を受け取るとすぐに全部読んでしまうような本好きの娘、早く教科書が読みたい。他にも図工で使う材料も、理科の実験キットも、単元テストも、ブンタウにいては受け取れない。

考えれば考えるほど、自宅が恋しくなってくる。あと少し、あと少しと言い聞かせて毎日を乗り切る。


元々うちで本を読んでいるのが好きな娘、やっと外に出られると言うのに、感染が怖いから外には行きたくないと言う。家の中で運動させているとは言っても、体力の低下が心配だ。夫が出勤の土曜日、うちでテレビを見るより、買い物がてらの散歩がしたい。

人がいない道を通って行けるところ…そうだ、ちょっと離れた韓国スーパーへ娘を誘う。外出禁止中に差し入れでもらった韓国のお菓子を探しに行こう、という作戦。

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娘が狂喜乱舞したメロン味のスナック菓子

韓国コンビニGS25でこれのイチゴ味とチョコ味は売っていたけれど、海沿いのGSはほとんど閉まっていて手に入らない。ふわふわのチョコスナックが食べたいと思っていたところに、初めて見るメロン味の差し入れで大喜びしたのは数週間前。また食べたいから、外に出られるようになったら買いに行こうねと、娘は何度も言っていた。

それなら行く!案の定、食いついてきた娘。気が変わらないうちに、と急いで出かける準備をする。

いつも部屋着の楽ちんワンピースで過ごしているので、慌ててTシャツとショートパンツに着替えさせる。汗もかくだろうからと下着を着せると、お腹の辺りがムズムズすると言う。ロックダウン前は毎日着ていたのに。

久しぶりに履いたサンダルに、くすぐったいという娘。裸足生活の弊害か、足のサイズも大きくなっているのだろう。学校が始まったら、スニーカーで通学できるだろうか。しかも、靴下も履かなければならない。

服を着て靴を履いて出かけるという当たり前のことが、当たり前ではなくなっている引きこもり生活。改めて危機感を覚える。出来るだけ、連れ出さなければ。


目的地までは子どもの足では30分弱かかる。この弱った足でたどり着けるだろうか。多少不安はよぎるが、健脚で名を馳せている我が家。ホーチミンでは結構あちこち歩いて行っていたし、休みの日は家族でいつも一時間くらい散歩していたので、今日は疲れても、すぐに立派なふくらはぎを取り戻せるはずだ。

そうこう思いながら歩くこと10分弱。急に空が曇って、怪しい風が吹いてきた。

あ、これ、ダメなやつだ。

とっさに判断して、少し先の民家の軒先へとダッシュ。駆け出すとほぼ同時にポツポツと雨が降り出し、屋根の下に入った途端にざざーっと大雨に変わった。

ギリギリセーフ。だけど、こんな中途半端なところで困ったな。

横殴りの雨、スコール。こんな時は待つしかない。海の方の空が明るいから、すぐに通り過ぎるはず。風の向きを読んで30分ほど待つ覚悟を決める。

お店の奥から家の人が出てきたので、マスク越しにでも伝わるように精一杯の笑顔を作って「ここで少し休ませてください」とお願いする。このご時世、訳のわからない外国人が家の前にやってきたら嫌がられるかもしれない。

お姉さんはこちらをちょっと見ると、プラスチックの椅子を出してきて座らせてくれた。怪しまれずにすんだのは、子連れだったからかもしれない。雨に濡れたから温かいものを飲みなさいとお茶まで入れてくれた。良い人で良かった。

ナニジンですか?どこから来たの?

ベトナム語と英語での質問。日本人だと答えると、その人は言った。

えっ?日本人ですか?

その流暢な日本語にびっくりしていると、お姉さんもブンタウに日本人がいるんですねとびっくりしていた。ホーチミンでもここまで日本語が上手い人はそう多くないと言えるレベル。

そして、なんと同い年だった。

いつも通らない道で雨宿りをした家の人が、偶然にも日本語がペラペラだった。
こんな偶然、奇跡としか言いようがない。雨のおかげでブンタウに新しい友達ができた。出かけて良かった。これは神様のくれたプレゼントだ。

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雨宿りといえば、さだまさしの「雨やどり」♪
おばさんとおばさんの出会いだけれど。


座って話していると、隣のおばあちゃんもやってきて、おしゃべりに花が咲く。

お姉さんの名前はリンさん。日本語がわかる人だからか、わたしのベトナム語も理解してくれる。

その辺りの人たちは昨日ワクチンを打ったばかりで、みんな頭痛とだるさでまいっているところだという。ブンタウにもワクチン接種が回ってきたんだなと一安心。


雨が止んで、そろそろお暇しようと思っていると、なんと車で店まで送ってくれるという。わたし達日本人にとっては20分歩くことなんて普通のことだけれど、ベトナム人にとっては子連れでそんなに歩くなんて、正気の沙汰とは思えなかったらしい。ワクチンのせいで頭痛がすると言っているのに、近いから大丈夫だと絶対送って行くと言って譲らない。

申し訳ないとは思ったけれど、娘もいることだし、お言葉に甘えて送ってもらうことにした。店の前で待っていて、帰りも家まで送ってくれるというリンさんに、丁寧にお断りを入れて、連絡先を交換して別れた。

お目当てのメロンスナックは売り切れで、イチゴとバナナ味しか置いてなかったけれど、満たされた気分で歌を歌いながら歩いて帰る。


案の定、引きこもりで弱った足に30分の散歩はきつかったらしく、夕方には足がパンパン、疲れてげっそり。翌日曜はどこにも出かけず、家で映画三昧の時間を過ごした。『新解釈・三國志』、『トワイライト ささらさや』、『騙し絵の牙』、と見事に大泉洋祭り

娘には三国志はまだ難しいかなと思っていたけれど、出演者がヨシヒコ!仏!メレブ!落武者のおじさん!と娘には馴染みのある方々ばかりだったので、所々止めながら説明を挟みつつ、楽しみながら見終えることができた。続きは?と三国志に興味を持ってくれたようで嬉しい。

関東ローカルだけれど、土曜日の深夜にやっていた「タイムマシーン•ハズ•ゴーン」も良かった。ヨーロッパ企画とムロツヨシと言えば『サマータイムマシン・ブルース』、懐かしい。今週もう一回観ようかな。


休み明けの今日もまだ疲れが残っている。筋力の低下は思った以上だったようだ。40代半ば、一度失った体力はなかなか取り戻せないのか?

ブンタウとホーチミンの行き来はまだできないけれど、今週も楽しいことを見つけよう。




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