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『漂うがごとく』映画レビュー(ネタバレ、感想)

原題:『Chơi Vơi』

製作年:2009年

監督:ブイ・タック・チュエン

レビュアー:岡 吹樹(現代社会学部)

漂うがごとくとは、ベトナムのハノイを舞台に満たされることのない思いを抱えるベトナム人女性のリアルな姿を描き、第66回ベネチア国際映画祭で国際批評家連盟賞を受賞したベトナム映画である。

映画のストーリー
舞台は、ベトナムの首都ハノイから始まる。旅行ガイド兼通訳として働くズエンは、タクシー運転手のハイと出会い、ハイの純粋で素朴なところに惹かれてわずか三ヶ月で結婚した。結婚式のあと、新郎のハイは料理店を営む実家で友人たちに祝福されて酔い潰れウエディングドレスのまま二階で待っていたズエンのところへと担ぎ込まれる。ハイは、朝まで目覚めず彼の母親からは、「夜が遅くなる仕事だから夜は眠らせてあげて」と釘を刺される。
二人は、自分たちのアパートに移り、ようやく二人きりとなるが、ハイは長い間仕事を休んでいたからと言って仕事に出て行ってしまう。ズエンは、結婚式に来られなかった友達のカムに会いに行くが、その帰りにカムに手紙をある人物に渡してほしいと言われ、その住所へと向かう。しかし、そこで手紙を待っていた人物、トーに突然キスをされ部屋に連れ込まれ床に押し倒される。必死に抵抗し部屋を飛び出すズエンだが、ハイとは違う危険で野性的なトーに魅力を感じてしまう自分に動揺してしまう。
一方ハイは、客の男を賭博場へと送り届ける。賭けに勝った男は、三人の女たちを侍らせてハイに、好きな子を選べと要求するが黙ってそれを拒否し目的地に彼らを下ろした。別の日、ハイは、客の男の用事が済むまで雨の中外でサッカーを楽しんでいた少年たちに混じってサッカーをしていたが、蹴ったボールが木に引っかかり取りに行くが木から落ちてしまう。実家で母の手当を受け、好物の食事を作ってもらいハイは、子どもに戻ったかのようだ。
その頃ズエンは、カムとトーと食事をしていた。そこでトーは、二人に旅行に行かないかと誘われるが、カムは断るがズエンは悩んでいた。迷った末旅行に行く決心をしたズエンは、通訳が必要になったから出張するとハイに言うと許可してくれた。旅をする中でズエンは、女としての彼女が目覚めるがやがて悲劇を招く。

映画の感想
漂うがごとくを鑑賞してみて、ベトナムの街並み・美しい景色・突然変わる天候など東南アジアの文化や景色を楽しむことが出来るはずだ。私自身もベトナムを訪れたことはあるが、この映画で雰囲気を味わうことが出来た。
ベトナムの恋愛映画は、初めて見たが、日本で作られている恋愛映画とは全く違った雰囲気を味わうことが出来た。ベトナムの恋愛映画は、多くを語らずに情景などを駆使して視聴者へと投げかけてくるように作られているように感じた。
また、漂うがごとくの脚本を手掛けたファン・ダン・ジーは、「満たされない渇望や人間の欲望をさらけ出す」ことがテーマだと述べており、監督のブイ・タク・チュエンは「本作は、人間誰しもが隠し持っている孤独、そして決して満たされることのない人間の願望や欲望とは何かを深く考えさせてくれるはず」と述べている。
ズエンは、夫にかまってもらえず夫にはない野性的なトーに対し魅力を感じていくように、登場人物それぞれが持っている孤独、願望・欲望がはっきりと描写されていた。ハイは、母親から親離れが出来ておらず、ズエンといるよりも一人でいたいと思っているなど人間の願望・欲望を照明をあまり使わず自然な光を使い彼らの感情をうまく表現している。
慣れ親しんだ自国の映画に見飽きたといった方には一度は見てほしいと思う。

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