飢餓海峡(Famine sector)7 裸のランチ
超大型現場の中には食堂が設置されることが多いし、それ専門の業者さんもいる。作業員しか知らない味がそこにはある。もし超大型現場に食堂がなかったら?昼休みになると1000人からの作業軍団が大挙して周辺のコンビニや飲食店に押し寄せパニックになることは想像に難くない。実際「昼休みに現場から出るの禁止」というルールを設けた現場もかつてあった。その現場の近くにあるラーメン屋さんがラーメンよりチャーハンについてくるスープのほうが美味くて「チャーハンにトッピングチャーシューでスープにチャーシュー入れる」という正解を導きだしてから俺がそればっかり頼んでいたことはそんなに関係ないはずだ。
松屋や吉野家を5点、駅のホームの立ち食いそばを7点、超渋い定食屋さんを10点とするなら常に12点ぐらいのスコアを叩き出している現場の食堂。何の点数かは秘密だ。行きたくなってきた?作業員になろう。そしてわたしと苦しみを共有しましょう…
さてわたしが若かりし頃、働いていた超大型現場の食堂にオードリー・ヘップバーンのような店員さんがいた。ある日わたしが15時の一服の時にビックチョコを買いに行くと、オードリー・ヘップバーンのような店員さんがスッと近づいてきて
「あとで寄って…」
とカヒミ・カリィばりのウィスパーボイスでわたしに耳打ちした。仕事終わって17時半、高鳴る胸を押さえつつ食堂に行くとサッシ扉が閉まっていたがカーテンの隙間から幽かに明かりが漏れている。意をけっしてノックしようとするとシャッとサッシが開いた。
「入って!」
オードリー・ヘップバーンはわたしを食堂に引き込みサッシにカチャンとカギをかけた。
いつものエプロン姿ではなく私服のヘップバーンからは、とても普段たぬきそばを作っているような姿が想像できない気品があった。
「これ、貰って…。」
ヘップバーンが差し出したでかい袋には、昼、食堂で出していた唐揚げ弁当が10個ぐらい入っていた。
弁当は1こ350円ぐらいで売られていたが、みんな「この唐揚げ弁当すっげえまずいな!」と言っていた。
「みんなには内緒ねっ…☆」
わたしは10個の唐揚げ弁当をぶら下げ家路についた。
おわり
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