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飢餓海峡(Famine sector)5 日高屋は無かった

 
 ダブルラーメン。どんぶりにかかる虹の架け橋────

さて、日高屋はお好きですか?サブカルチャーとの親和性も高い日高屋。わたしは好きだ。とくにレバニラ炒めとチャーハンを頼んでチャーハンを40%食べた所でレバニラ炒めを全部チャーハンの上にひっくり返す説明不要のド定番「レバニラチャーハン」が好きだ。

しかし、2001年、新世紀の訪れに沸き立つ街並みの中に、まだ日高屋は無かった。代わりに「全国ラーメン館」があった。

全国各地のラーメンが食べられるのがウリのラーメンチェーン。後に日高屋を展開する、株式会社ハイデイ日高のかつての事業だ。

それまで食べてきたラーメンといえば、地元の「ラーメンふるさと」や「らーめんオクチャン」のシンプルな醤油ラーメンか味噌ラーメンだったが、上京した1995年、全国ラーメン館で初めて食べたとんこつラーメンは、わたしを虜にした。

ラーメンふるさと
らーめんオクチャン

それまでのわたしのラーメン観は「親と車で出かけて食べたい物が思いつかない時しょうがなく食べるもの」であり、好きな食べ物ランキングで言えば10位ぐらい。(1位は小僧寿し) 東京の有名ラーメン店に並ぶ人々を横目で見ては「なんであんなに並んでまでラーメンなんかを食べるんだろう?」と思っていた。

しかし、某新入生親睦会で行った「全国ラーメン館」にて、一瞬で納得した。「東京のラーメンは、こんなにうまいんだ!」まだメディアも現在ほどラーメンを評価していない時代。「環七ラーメン戦争」が世間を賑わし始める半年前。
「チェーン店でこんなにうまいんだから、有名店はもっとうまいに違いない。」
わたしはテレビで観た、当時ナンバーワン有名店「なんでんかんでん」に行ってみることにした。
その頃新代田の環七ぞいに住んでいたので、アパートから徒歩5分の所に「なんでんかんでん」があった。
「いらっしゃいませ!」床が脂で滑るっ!
「クッ!」
田舎育ちの足腰のおかげでいきなりの洗礼にも屈せずラーメンと味玉を注文。「いただきま~す。」
味玉を床に落とした!こんな床に落ちた味玉をいかにすべきか…いくら腹が減ったわたしでも食べられなかった。とりあえず、どんぶりの下にあるお皿に落としてしまった味玉を置き、ちょっとトイレに行って帰ってくると味玉がなくなっていた。トーキョーイリュージョン!なんでんかんでんは床がすべるけど気に入ったので新代田に住んでる間10回ぐらい行った。

さて時は少し流れ2001年。
仕事帰り、今は「日高屋」になっている吉祥寺駅南口の「全国ラーメン館」へ。
さてこの頃になると、「背脂チャッチャ系」がテレビ、雑誌を賑わし、「ラーメン二郎」はというと、黎明期を過ぎ徐々に勢力を伸ばし始めたインターネットの中で着々と伝説を築きはじめたところだった。その頃のわたしがよく行っていたのは「にんにくげんこつらーめん 花月」。現在は「らーめん花月 嵐」という名前になって様々なコラボラーメンがウリだが、当時は「飲食店でのにんにく使用量世界一でギネスブックに載った」のがウリだった。今も記録は破られていないのかどうなんだろうか。そういえば新横浜ラーメン博物館は1994年に開館したが、その蒔いた種が実り始めたのであろう。
とまあ様々なうまいラーメンが世の中に出始め、「全国ラーメン館」は苦戦を強いられていたのかもしれない。まず、店内に不自然なパーテーションが建ったと思ったらそこは店員さん用の賄い喫食スペースで思いっきり外部ガラスに面していたので店員さんが思いっきりラーメン食ってタバコ吸ってスポーツ新聞読んでる姿が見えた。ラーメンの傍らには缶コーヒー…客には出来ない反則コンボ!そしてリニューアルされた店頭のメニューからも狂気を感じた。「唐揚げラーメン」「チューリップラーメン」…なんかこれラーメンになんかを乗っけただけじゃないのか…?当初のコンセプトは…?
えっ「でらうみゃ~名古屋手羽先ラーメン」だって!?

手羽先とラーメン──この組み合わせに不吉なものを感じとる妖怪アンテナが反応してしまったわたしは、思い出のために食べてみることにした。
──と、いう経緯でわたしは「全国ラーメン館」に入店したのだった。
「ご注文は?」
「あの、でらうみゃ~名古屋手羽先ラーメンを下…さい……。」

名前を口にしただけで、楽しいはずのラーメンがなぜか哀しくなってきた。
この気持ちは、現場で先輩に「なんでもいいからジュース買ってこい」と言われて、ダイドーの「ウルトラマン ソーダ」を買って行ったらキレられて、仕方ないから自分がウルトラマン ソーダを飲んでいる時の気持ちに似ている。楽しいはずのウルトラマン ソーダ。しかし、誰でもそんな名前の飲食物を口にしたくない気分の時がある。
今はこれを蛙化現象というのか?違うか。合ってるか。
「お待たせしました。」
店員さんが、やたらでかいお盆で近づいてきた。
「ラーメンと。」ゴトリ
「手羽先ラーメンです。」ゴトリ
「以上でご注文お揃いでしょうか?」待ってなんか余分なのある!
「すみません自分このでらうみゃ~名古屋手羽先ラーメンってのを頼んだんですけどラーメンは頼んでないんですけど」
「えっでも伝票にラーメンと手羽先ラーメンって書いてありますんで。」
(いや貴様が間違えたんじゃねえのか…おれがダブルラーメン食うように見えたか…あと貴様もでらうみゃ~名古屋手羽先ラーメンって言え!)
「ラーメンはいらないです。」
「あっじゃあラーメン取り消します。」
店員はラーメンを持って帰った。
こんな気分で、ただでさえ哀しいネーミングの名古屋手羽先ラーメンなんか食えるか…

と思いつつ結局食った。ただのラーメンに手羽先を乗っけたやつだった。
あと、手がめちゃくちゃベタベタになった。

あと会計で「ラーメンと手羽先ラーメンで1650円になります。」と言われた──

そして「全国ラーメン館」は消滅した。

「全国ラーメン館」があった場所は全て「日高屋」になった。

おわり

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