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アイアンマウンテン報告2

【前回まで】スカートをはいた男性がいきなりあらわれて自販機のジュースの補充をしました。

26年前──

新宿の24時間営業のゲーセンで、わたしは「鉄拳3」をやっていた。深夜1時を回っていたがまだ対戦者はひっきりなしだ。

その時わたしは住む場所をなくし、頼れる知り合いもいない状態。荷物はギターと着替えのカバンのみ。財布には5000円弱。外は雨。
逃げるように入った狭いゲーセンで、ホームレスなのを周囲に悟られたくない思いから、鉄拳3に100
えんを投入。3からの新規キャラ、エディ・ゴルドを選択。稼働間もない鉄拳3で適当にキックボタンを押してるだけなのに強い技が出るエディは嫌われていた。そして、そんなキャラを使い「遊び」とかけ離れた精神状態で遊びの無い無慈悲な連勝を重ねてしまっていたところ、15連勝ぐらいしたところで「クソが!」と声がするや否や向かいの対戦台をガン!と蹴られた。ゲーム筐体に立てかけてあったギターが倒れた。わたしは怖くなって、荷物をまとめいそいそとゲーセンを出た。操作する主を突然失ってしまったエディ・ゴルドが画面の中でボコボコにされているのが横目で見えた。ごめんエディ そして皆さん もう~無理です!


親に電話で泣いて謝り、茨城県北部の実家に、鈍行列車で帰った。


 さあ、ここで、一旦冷静になります。当時の世相、カルチャーを反芻するとともに自分が何を考えていたか思い出し、そして自分を客観的に見てみましょう。

1997年、日本はイケていた。テクノロジーの先端を突っ走り日本の文化は世界の5年先を行っていると言われていた。ちょっとバブルの頃よりは景気よくないけど、まあプレイステーションも世界中で売れてるし携帯もPHSも普及してるし、未来は明るい!そしてこれからは個性の時代だ。服装も近未来的でジェンダーレスな格好をしなくてはだめだ!というわけで俺は金のショートボブのウィッグを被ってビリビリの黒いシャツ、ベルボトムの上からスカートをはいた。

そうです

わたしがスカートをはいていたおじさんです。
スカートをはいた自販機補充の人に対してスカートをはいていた作業員。何かが26年の時を隔ててつながって・ない!何がなんだかわからない。

そしてその格好のまんま実家に帰った時の両親の気持ちを思う。本当にすみませんでした。

「近所に見られると困る」しかし当時のわたしの意志は固かった。その格好のまま地元の職安に行って(びっくりされた)、水戸市にある道路工事の警備員の会社の面接のアポイントを取った。

面接当日──
ショートボブのウィッグにスカートとベルボトムをはいて、JR水郡線に乗って水戸駅へ。そこから常磐線で少し離れた友部駅。職安でもらった地図(手書き)によるとそこから警備の会社までほぼ一直線。駅から20分ほどで着くという。歩き始めて30分後、駅から車で20分と書いてあるのに気づいた。

面接に間に合わない!猛ダッシュする。辺りには人家がまばらになり、アスファルトだった道が砂利道からあぜ道に変わって行く。ウィッグを脱いでスカートをたくしあげ、走る。徐々にあぜ道が坂になっていき、草の匂いがむっと香る。いつしかわたしはカヤの中をかき分け進んでいた。車通れなくないか?

不意にカヤが無くなると、そこには立派な松の木が。これは普通に山だ PHSは圏外になっていた。
山を登り続け、頂上と思われる場所に着いた。なんか立て札が立っている。
【タバコのポイ捨て禁止】
その下に、なんかDISCが落ちていた。

拾ってみると、「フォーミュラ ワン」という、プレイステーションのF1レースのゲームだった。

俺は山の頂上でフォーミュラ ワンのゲームを拾ったぞ!何なんでしょうか

分かったのは何も意味なんてないということだ。全てを受け入れよう。面接は間に合ったし、採用もされた。

半年働いてカネがたまったから東京にまた出てきた。拾ったフォーミュラ ワンはなんか濡れてたからやらなかった。


おわり

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