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飢餓海峡(Famine sector)4-The punishment due

 2019年末からのコロナ禍、わたしの実家の方では「東京に行った、または東京から客を招いたというだけで村八分にされる」状態だったので、2020年に産まれた孫にまだ会えていないわたしの両親。
しかし先日ついに「孫が2歳になる前にどうしても直接見たい」とコロナの間隙を縫って茨城県の山奥から上京してきた。新宿のバスターミナルまで迎えに行くと、「絶対に靴流通センターにしか出せない風合いの黒」の合皮靴を履いた老夫婦。間違いなく両親だ。会うのは2年半ぶり──ほら孫ですよ!「オジイチャン!オバアチャン!ヤマノテセン!」立派に挨拶する我らが家名を継ぐ6代目の者(息子)。両親は驚きと喜びの表情。わたしは少し泣いた。
家に来てもらい妻が用意してくれたいい弁当を息子を囲んで食べながら歓談したり、近所の庭園を散歩したりするとあっというまに帰りの時間。
「もっとコロナが落ちついたら、ゆっくり泊まりでラーメンでも食べに来なよ。うまいラーメン屋つれてくよ。」とわたしは父に言った。

父とラーメン──

わたしの父(76)はそれほど食にうるさいほうではないと思うが、昔からラーメンに関してだけはやたら厳しく、また語るときの毒舌っぷりが偏見だらけで、例えば茨城名物スタミナラーメンに関しては、「あんなの名物にすんでねえ知ってるうまいラーメン屋のおじいさんが観光客にスタミナラーメンばっか作らされてぶっ倒れっちったっぺよ」などと言っていた。わたしがラーメンの話題をふったのも最近の父のラーメン観が知りたかったからだ。

「ヌアーッ(口ぐせ) ラーメン!?こないだ家の近所に東京で人気だっつ

ラーメン二郎


ってのがでぎだがらよ、行ってみだんだよ!」

来た…!
たぶん近所と言っても50kmは離れているのだろうが、これはいい話が聞けそうだ。

父「そしたらよ、麺もチャーシューも野菜もあまりにもふぞろいでよ!こんなふぞろいなラーメンは初めてだ。あれじゃふぞろいの林檎たぢだ~

まさがみづのり(本名)はラーメン二郎なんか食ってねえべな!? 」

わたし「あ…(お父さん親不孝すみませんラーメン二郎好きです)あれは腹が減った学生向けのラーメンだね。」

父「お姉ちゃんのラーメン屋も学生むげ(向け)に「二郎ラーメン」なんて名前つけで出しはじめだげどよ、あんなのが東京のラーメンだっつんだったらおら福島行って喜多方ラーメン食う。喜多方ラーメンはうまいな~」

わたしの姉は茨城の某大学のそばでラーメン屋の店長をやっている。やたらでかい背脂チャッチャ系ラーメンがメインらしい。

姉も雑に乗っかったもんだ

父「不揃いの林檎たぢ。」

もうそれを言いたいだけモードになってしまった父と、息子にだっこをせがまれるまでに懐かれたわたしの母。
東京駅のバスターミナルまで送っていき、「ソフトクリームかなんか食うべ。」と言った父はなぜかズンズン「シュウマイ スタンド」に入って行ってしまいメニューがシュウマイとウーロン茶と酒しかない。
シュウマイが蒸される時間がやたらとかかりバスの時間が迫る──
 シュウマイがモウモウとおいしそうな湯気をたててやってくるや否や父と母は凄まじい勢いでシュウマイを食べ尽くし、ゴップゴップとLサイズのウーロン茶を飲み干していた。  おわり 


(いつまでも元気でいてほしいです。) 

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