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若き現場ウェルテルの悩み

 建築現場内のコンビニで、ユニークな感じの方(上下前歯がない)がモンスターエナジーを全種類6本ぐらい買っていたので思わず「それ全部一人で飲むんですか?」と話しかけたところ、逆に「今日コンクリ何階だっけ!?」と質問された。
「4階っすね。」と答えると「間違えた!」と言って店内でモンスターエナジーを飲み始めた。全種類飲んだかは確認できなかった。

仕事上のカラミで他業種の人とLINEを交換することがある。ある日の夜、鳶職の方から
「レッドブルとタバコ買ったらちょうど666円だったわ。」
とLINEが来たので
「何かかっこいいですね。」
と返した。

また別の鳶職の方が、現場の敷地内にある木の前で、フットワークも軽やかに革手袋で何かを素早くつまむような動きを繰り返していたので
「何してるんですか?」
と訊いたところ
「いやスズメバチがいるから殺そうと思って。」
と言われた。

ある日の休憩中にペンキ屋さんが「昨日暑いから部屋の窓開けて寝てたら1メートルぐらいのトンボが入って来たから窓閉めて、今俺の部屋にいるんだよ。」
「今日帰ったら甥っ子に見せる。」
と言っていた。

そんな愛すべき作業員たちに仕事をさせるのが現場監督。【施工管理者募集 月給70万円 完全週休二日制 アットホームな職場です】の言葉に釣ら…ではなくまあとにかく、若者が来ず高齢化人手不足が慢性化した職人たちと違い現場監督はいまや若者の人気職!新卒、中途、次から次へと若者たちが押し寄せる。

そして辞めていく

「自分、DJやってるんですよ。」と言っていた若者は上司に机の上の物を全部捨てられて現場に来なくなった。
確認ミスで職人に無駄な仕事をさせ詰められた若者は逆ギレして殴りかかってしまい………病院送りになった。
「どうしても電車から降りられないんです……」との連絡を最後に現場に来なくなった若者。彼は「彼女と来月結婚式挙げるんですよ。新婚旅行はハワイに行くんですよ。」と笑顔で言っていた。

そんな彼らにわたしができる事は何もない。わたしは一人の作業員として真摯にクライアント──彼らと接するのみ。
わたしの年齢の半分に満たない監督にでも、わたしは敬語で話しかけ、彼らに安心を与え信頼を得る。そしてカネ儲けをする。それがわたしの商売だ。

ある日の夕方、屋上に仕事に行くと現場監督Aさんが手すりの鉄パイプにもたれうなだれていた。彼は24歳、ここが初めての現場だった。何かを感じたわたしは話しかけた。
「お疲れ様です。どうかしたんですか。」
「…もう辞めたいです。」

そうか。わたしには彼の身に降りかかっている問題を解決することはきっとできないが、話を聞くことはできる。

「何で?」
「会社入って…いきなり現場出させられて…」
「ふんふん」
「毎日残業で…カネ貯まったんで全身脱毛しようかなと思って…」

全身脱毛ですか 

「まずVIOから」

VIO 何【検索】

「足もツルツルにして短パン穿きまくって」

「ヒゲは最後にします…。」

…わたしは全身脱毛の事は何も知らないが何か脱毛の順番逆じゃないかな?

「やったらいいんじゃない?何で今うなだれてたんですか?」
「明日仕事休んで脱毛行きたいんですけど…昨日彼女にフラれちゃって…」

なんか悩みを話す順番逆じゃないかな?

その後Aさんは「ゲーム実況をやりたい」「歯のホワイトニングがしたい」などやりたい事をわたしに教えてくれた。

わたしは、そんなにたくさんやりたい事があるならどんどん人生が楽しくなるね、今は落ち込んでても大丈夫だね。脱毛半年コース頑張ってね。と言って作業を始めた。
彼女にフラれた理由も何か分かった気がするが指摘はしなかった。

そして彼のとりとめのない話を聞いてたせいで結局わたしは残業になった──

──てな事が前あって今日久しぶりに現場で彼に会ったんだけど歯がめちゃくちゃ真っ白だった。歯のホワイトニングはすごい!
まだ辞めてなくて良かった。

おわり

余談

A「自分野球が好きなんですけど」
とんかつ「ふんふん」
A「彼女パ・リーグが好きなんですよ。で、自分ヤクルトが負けるとツイッターになんで打たねーんだ死ね!とかツイートするのが彼女イヤだったみたいで」
とんかつ「パ・リーグ関係あんの?」
A「パ・リーグファンはみんな頑張れ!ドンマイナイスファイト!ていうノリなんですよ。」
とんかつ「ふーん(脱毛)」

おわり



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