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自力整形

自分の顔を自宅の鏡で見ると、俳優の綾野剛さんが映っている。
しかし、家以外の場所で鏡を見てみると、神経締めされた鯛のような顔が映っているこの現象は、なんでかな?
つまり綾野剛さんが外で鏡を見ると俺が映るのかな?恥ずかしいわ。


仮に自分が美形に生まれたらきっと顔の良さに妥協して、傲慢な性格で今より自分に甘い奴になっているかもしれない。
だから外見も内面も綺麗な人は末恐ろしい。勝てるわけがない。
そんな人と喋っていると常に敗北感を感じてしまい、いつのまにかテンションが低くなっている節がある。


とかく、自分の顔が嫌で外見ばかりに囚われていた高校生の頃「骨叩き」というのを実践していた。
「骨叩き」とは自分の鼻や眉の軟骨を指で叩き、肥大化させ、ホリを深くさせる自力の整形方法だ。
医学的根拠はない。

それでも今の状態よりマシになるならと数ヶ月間、叩き続けてると効果が現れ始め、平地だった顔面に少し鼻の骨が浮き出し始めていた。
「よし もう少しで綾野剛だな」と鼻叩きの成果に満足。ここから鼻が高い人の人生を歩めると思っていた。

しかし学校や周りの人は誰も何も言わない。「あれ?綾野剛さんですか?」なんて声をかけられそうにない。誰も俺の鼻なんか見ていないのか。
それなら鼻を赤くしながら、一生懸命に叩き続けてきた俺が馬鹿みたいじゃないか。所詮は荘司奏多、綾野剛の糸偏にも及ばない。


でも、たった一人だけ鼻が高くなったことに気づいてくれた人がいる。

お婆ちゃんだ。
お婆ちゃんの家で食事中「奏多くん生まれた時は鼻がペチャッとしてて可愛かったんだけど、男の子は成長するとゴツゴツして鼻高くなるんだねぇ、うちのもそうだったし(父親の事)」と唐突に言われた。
孫から「自分の顔が嫌だから叩いて高くしたんだよ」と言われたらなんて思うだろうと考えて「そうなんだね」と知らぬ顔をして言葉を返した。


鼻叩きの成果にやっと気づいてくれた人が現れたが喜びというより、遠回しにお婆ちゃんを裏切ったような虚しく後ろめたい気持ちになり、それ以来一度も鼻叩きをする事は無くなった。

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