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J2第42節 ヴァンフォーレ甲府vsファジアーノ岡山

コロナ禍に揺れたシーズンも今節で最終戦となる。
無事にJリーグ全試合開催することができた。
多くの人にとって厳しい一年であったと思うが、サッカーを見られる日常を作って頂いたJリーグ関係者の皆様、日々懸命に努力されている医療従事者の皆様には感謝しかありません。

前節長崎と引き分けたことで昇格クラブも決まったが、甲府としては昨シーズンを越える順位で終えるために勝ちきる一戦としたい。
また、伊藤監督の続投も決まり、来シーズンへの期待を抱かせる内容も示したい。

一方の岡山はシーズン前の期待値が高いクラブであったが、18位と苦しいシーズンとなってしまった。
9戦勝ち無しと厳しい状況となっている。
有馬監督も続投が決まっているだけに勝って来シーズンに繋げる試合としたい。

前回対戦は岡山ホームでスコアレスドローに終わった。
直接対戦の成績は6勝4分3敗。
甲府ホームでは4勝2敗と勝ち越している。

お互いにこのメンバーで戦える最後の試合。
悔いのない試合を期待したい。

1.風下

スタメンはこちら。

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甲府は前節から7人、前回対戦からは6人の変更となった。
注目は荒木翔。
左右のWBで出場機会を得て飛躍のシーズンとなった。
終盤戦になり、存在感を高めて来ているが今節はシャドーでの出場となる。
チームトップのアシスト数を誇っているが、よりゴールに近いポジションでの出場となるだけに得点に絡むプレーを見せたい。

岡山は前節から4人、前回対戦からは3人の変更となった。
注目は上田康太。
今シーズン限りでの契約満了が発表された選手。
2014年にレンタルで加入したシーズンを含めると4シーズン岡山を牽引し続けてきた。
岡山での上田康太のプレーは今節で見納めとなる。

今節も前々節松本戦同様に強風の中での一戦。
コイントスでまたも風上側を取られてしまう。

立ち上がりから風上を活かし、岡山はロングボールを前線に入れ込んで来る。
一方の甲府は後方からビルドアップしながら岡山のSBの裏を狙っていく。

試合後の有馬監督のコメントより。

『しっかりと風上を感じながら前半は戦えましたし、セカンドボールも良い準備ができた。』
『選手が考えて取ったのだと思います。風があることやピッチの状況を考え、全員で共有しながらどういうふうに攻撃してどういうふうに守るかっていうことは共有して入りました』

前線に入れこんだ後は強度高くプレッシャーを掛けていく。

試合後の有馬監督のコメントより。

『今年、継続と進化ということでつなぐこともやってきて、ノーリスクで相手コートにボールを入れていけば勝点をもっと稼げたかもしれないですけど、それをせずにやってきた中で、最後のゲームに関しては風と勝点3をより考えながら、前に入れるチャンスを逃すことだけはやめようと。それがウチの良さであって、長いボールだけじゃなく前へ入れるチャンスを逃さないでらしさを出して戦おうっていう中で、選手が考えながらやってくれたことで縦パスの回数が増えたと思います』
『闇雲にではなくて、常に奪いに行く姿勢を見せながら、行くところと行かないところをはっきりとさせ、しっかりと危険なところを消しながら行こうと。サブもいるんで、今日は一人いなかったんですけど、準備している選手がいるんで行けるところまで飛ばそうと。そういうことをしっかりと共有して入ってくれた。これができるかできないかが、ウチがらしさが出るか出ないかだと思います』

試合後の白井選手のコメントより。

『うまく守備のスイッチも入りましたし、そこに対して後ろも連動してコンパクトにやれたことが良かったかなと思います』

試合後の上門選手のコメントより。

『後ろから声をかけてくれて、チーム全員で取り所がはっきりしましたし、ハマってショートカウンターでゴールにつながったシーンもあった。良い形で試合に入れたことが一番かなと思います』

積み上げてきたことを出そうとする甲府と状況に合わせ、戦い方を変更した岡山。

岡山は山本が背後へ飛び出すことで甲府のDFラインを押し下げ、中盤の選手にスペースを与える。

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最初のチャンスは岡山。

CKのこぼれ球に上門のミドルシュート。
枠に飛んでいたシュートだが、中村に当たり枠の外へ。

甲府は右サイドで橋爪、松田が優位性を持つ。
その右サイドからのクロスで決定的な場面を甲府が作る。

松田からピンポイントのクロスが入り、中村が飛び込むも金山の見事なシュートセーブ。

甲府は局面の数的優位を活かしながら、攻めていく。

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ビルドアップ時には岡山の2トップに対して、DFライン3人でボールを繋ぎ前進を試みる。
前線では松田と荒木が「ホール」に留まることで岡山の両サイドの4人を「ロック」する。
齊藤と上門は「ホール」に立つ松田と荒木に通させたくないためボランチとの距離感を詰める。
また、同数で守るために後方に下がると直接「ホール」に通されてしまうためにポジションを下げることもできない。
椋原と下口は橋爪と内田に近づけば松田と荒木に背後を突かれるため出ていけない。
そのため甲府はサイドで起点を作れる。
泉澤がいなくても配置の優位性でサイドからチャンスは作れる。

そのサイドからまたもクロスで決定機を作る。

椋原が内田に食いついたところに荒木が裏を突き、ダイレクトでクロスを入れた。
松田が触れれば1点という場面を作るも金山に阻まれる。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『今日のゲームに関しては前半から良い形を作れていたとは思うのですが、やはり決め切るところを決め切れなかったことが痛かったです。用意していた「サイドの突破からクロスに入っていく」というところで惜しい場面が何度かあった中で、得点を取り切れていれば結果は変わっていたと思います。』

狙い通りサイドから続けて決定機を作るも決めきれないことから試合を難しくしてしまう。

橋爪がボールを奪いにいくも取りきれず、その背後を突かれてしまう。
上門がドリブルで運び、並走した白井へ横パス。
白井は足元に止めず少し横に流しながらトラップし、自らシュートコースを作り出した。
また、山本が斜めにランニングしたことで新井を吊り出すことでスペースを作った。
連動した攻撃から岡山が先制に成功する。

試合後の白井選手のコメントより。

『中盤とディフェンスラインの間にスペースが空くっていうことはわかっていましたし、うまく知樹の場所まではがせて、知樹が前向きになった瞬間にスペースが生まれて走り込んだら良いパスが来たので、後は決めるだけでした』
『ファーストタッチが良いところに止まったので右にも左にも打てるような場面で、落ち着いて流し込めたと思います』

先制点を許した試合で今シーズン逆転勝ちは一度も無い甲府にとっては痛すぎる失点。
風上を取られ、前半に先制点を許し敗れた松本戦と同じような流れとなってしまった。

ボールを持つ時間は増えるも決定的な場面が作れない甲府。
前半終了間際に再び試合が動く。

岡山に追加点を許す。
セットプレー崩れからの失点となった。
椋原からのロングスローが起点。
一度は跳ね返すもセカンドボールを拾った上田がダイレクトで前線に入れ込み山本が落とし、CBとは思えない見事な濱田のボレーシュート。

試合後の上門選手のコメントより。

『前半は風上に立って良い形でセカンドボールを拾いながら攻撃できて、その中で2点取れたのは本当に良かったのかなと思います』

松本戦同様の展開かと思われたが、松本戦以上の代償を払うことになってしまった。
コイントスは運であるため風上を取られてしまったことは運が無かったとしか言いようがない。
だが、風下で耐える力は9連戦を戦ってきたチームには残っていなかった。

2.停滞

後半も岡山が前線にシンプルに入れ込む立ち上がり。

一方の甲府はビルドアップの形を変更する。

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後方から繋いで攻めたい甲府だが、ミスもありゴールに迫れない。
そんな流れが続く中、セットプレーから岡山にチャンス。

上田の精度の高いFKから山本が合わせる。
タイミングがズラされるも岡西がなんとか防いだ。

59分に停滞感を打破するために甲府は3人を交代する。
小柳、中塩、橋爪に代えて今津、山本、ラファエルを投入する。

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山本の投入により甲府はより大きな展開が増える。
ビルドアップ時にはショートパスでの前進を図る機会が多かったが、山本がサイドに長いボールを振り岡山のDFラインを広げようとする。

67分に岡山は赤嶺に代わって阿部を投入する。
岡山に加入し、5年目のシーズン。
契約満了が発表され、この試合が岡山の選手として出場する最後の試合となった。

交代直後に追いかける甲府はやっとチャンスを作る。

DFラインと中盤の間のスペースで受けた中村が山田にリターンのパス。
ラファエルが粘って繋いだボールを最後はドゥドゥがシュートも枠の外。
ボランチの関係でペナルティエリアに侵入し、シュートまで持っていけた。

岡山は先ほどの交代でシステムを変更した。

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自陣でブロックを敷く時には541で構えるが、甲府のビルドアップに対しては齊藤か上門が山本と共に最前線からプレッシャーを掛けに行く。

甲府はなかなかシュートまでの形を作れない状況が続く中、より岡山に守備を強固にされてしまう。

3.最初と最後

71分に荒木に代わって藤田が投入される。
今シーズン限りでの引退を発表しているため、この試合が現役最後の試合となる。

試合後の藤田選手のコメントより。

『チームを勝たせたい、点を取るという気持ちで入りました。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『対人の強さとキックの精度などのプレーが素晴らしい選手でしたが、何より「気持ちがすごく強い」。そこを一番感じましたし、我々スタッフにも男気あるプレーヤーでした。怪我や様々な状況がありましたけど、12年間お疲れ様と言いたいです。』

79分には山田に代えて入間川を投入する。
U18から昇格して3年目。
甲府で初めてのリーグ戦出場となる。

試合後の入間川選手のコメントより。

『小さいときからこのピッチに立ちたいと思っていた。リードされていたが、試合を楽しめた。またこのピッチに立ちたいと思った。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『全員出したいというのはターンオーバーを敷いた時から思っていました。入間川に関しては何回かチャンスがあったと思うのですが、最後の最後に少しの時間でも経験できたこと、これからの成長の糧にしてほしいと思います。落ち着いてボールタッチも出来ていましたし、これからも頑張ってほしいと思います。』

入間川が起用されたことで全選手が今シーズン出場したことになる。
また、特別指定選手も3人起用されており、今シーズンは32人もの選手が試合に出場した。

岡山は同じタイミングで山本に代えて福元を投入する。
山本は前半から献身的に走り続け、岡山のハードワークを牽引した。

追いかける甲府は藤田から続けてチャンスを作る。

楔のパスを起点にサイドからのクロスに合わせるも金山が立ちはだかる。

入間川が連動した動きでゴール方向へ向い、藤田へパス。
藤田はドゥドゥを使うもシュートは枠の外へ。

試合後の入間川選手のコメントより。

『シュートチャンスがあったのにパスを出してしまったので、足を振り抜けるようになりたいと思いました。』

チーム全体の課題であるが、あの場面で足を振れるか。
岡山の2得点は共に思い切りよく足を振り抜いたから生まれた得点であった。

藤田の右サイドからのCKから5つの得点が生まれ、今シーズンの大きな武器であった。

試合後の藤田選手のコメントより。

『短い時間でしたが、自分らしいプレーは出せたと思います。サッカーを30年間やってきて勝敗にこだわってきたので、最後の試合でチームを勝たせたかった。この点は情けないと思っています。』
『プロサッカー人生が終わった感情よりも負けた悔しさがあってちょっとイライラしました(笑)。』

12年間に渡る現役生活お疲れ様でした。
1シーズンの在籍ではあったが、現役最後のクラブに甲府選んでくれたことに感謝します。
セカンドキャリアでの活躍を願っています。

4.来シーズンに向けて

福岡、山形、栃木、松本、千葉、岡山、金沢、群馬。
これらのチームに共通しているのはハードワークを身上とするチーム。
また、松本は監督が変わった後のホームでの試合こそ違ったが、いずれも442で構え、ハイプレスを行うチームである。
この8チームとの対戦成績は3勝5分8敗。
シーズン通して喫したのが9敗であることから昇格を逃した最大の理由はハードワークを身上とするチームのプレッシングを回避することができなかったことと言える。
特にボールを持てる時間が増えた後半戦の結果は顕著である。
2分6敗と8試合で得た勝ち点はわずかに2。
ボールが持てて主導権を握れるようになった反面、プレッシャーに飲み込まれやすくなってしまった。

また、先制を許した試合は一度も勝ちきることができなかった。
先制された試合は15試合あり、6分9敗。
当然先制される試合も減らさなくてはいけない。
上記のクラブとの対戦でも先に点を取れていればという試合は多くあった。
だが必ず先制を許す試合は来シーズンも出てくる。
それだけに先制を許しても冷静にゲームをコントロールしていかなくてはいけない。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『負けているときも落ち着いてゲームをコントロールしつつ追加点を奪って勝ち切るゲームが必要だと思います。まだまだ来シーズンも若い選手たちはいると思いますので、そういうところで今シーズンの経験を踏まえてゲームに入れるように、今日のような先に得点を奪われて荒れたゲームになったりとか、自分たちがファールしてフリーキックを与えたりとか、もう一度見直さないといけません。』
『チームとしてやるべきことは整理されてきたと思います。今日のゲームの中でも失点するまでの間とかはしっかりとゲームコントロールをしながら自分たちの形を作れていたと思います。「最後のゴールネットを揺らすこと」「アタッキングサードの精度」、来シーズンに向けてやはりここを磨いていかないといけません。1人のストライカーに頼らず、チーム全員でどこからでも得点を取れるようなチームにしていくことが私の目標ですし、最後のゴール前での「足を振る勇気」というのが来シーズンも大事になってくると思います。』
『今シーズンに関しては本当に苦しいシーズンでしたが、若手を使いながら、選手たちも様々なモチベーションの中でサッカーが出来る喜びを噛み締めながら良くやってくれましたし、本当に選手が自分たちの立場やクラブのことも含めて、チームが1つになって戦ってくれたことが本当に良かったです。私自身もこのようなチームを作れたこと、こういう選手たちと一緒に出来たことが良かったシーズンでした。しかし昇格を逃したことはすごく悔しいですし、申し訳なく思いますし、若いチームでも関係なく「昇格にチャレンジしていく」「昇格を掴み取る」「勝ち切る」というところを前面に押し出してやっていきたいと思います。』
『若手の選手たちは、今シーズン足りなかった部分を来シーズンに向けて今から準備すべきだと思います。ベテランの選手たちは体を休めて自分を見つめ直して、またどうやってパワーを出すのかということを、リフレッシュした上でシーズンインして欲しいと思います。そういう意味では若手の選手たちは大きな器の中で暴れまくって、しっかりと整理した上で強いパワーを出せるように、そこに期待したいと思います。』

伊藤監督のコメントにあるようにチームとして積み上げてきたものはできるようになってきた。
若手の選手の成長も多く見られ、土台を作ることには成功したシーズンであった。
課題は明確である。
決定力を上げることとハイプレスの回避。
簡単に言っているが、簡単に解決できるものではない。
それでもここまでの成長を見せたチームに期待しかない。
来シーズン勝負できるだけの下地は作れた。
楽しみなシーズンが待っている。

5.あとがき

2月の開幕戦が遠い昔に感じるシーズンも今節で終了となった。
6月から半年で41試合を行うタフなシーズンを昨年を超える4位で終えることができた。
厳しいシーズンを戦い抜いた選手、スタッフの皆様お疲れ様でした。

コロナ禍の中で私に何かできることは無いかと始めたレビューも再開後の初戦から41試合続けることができました。
読んでいただいた方々のおかげです。
始めたきっかけは小瀬の雰囲気をなんとかできないかと考えたことからでした。
ただ、残念ながら私の力では大きな成果を挙げることができませんでした。
よりわかりやすく、読んでいただける方々に伝わるようオフシーズンも勉強を重ね、一人でも多くの甲府サポーターの皆様に伝わるよう努力し、また来シーズン頑張りたいと思います。
ありがとうございました。

MOM 山本大貴
序盤からDFラインの背後へ飛び出し甲府の守備陣を押し下げ、前線からプレッシャーを掛け岡山を牽引した。
2点目のアシストも背後への飛び出しから生まれた。
過密日程の今シーズンにおいて全試合出場しながら疲れを見せず、豊富な運動量で勢いを与えた。

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