J2第32節 大宮アルディージャvsヴァンフォーレ甲府

前節琉球に勝ち、3戦負け無しとした甲府。
今節はアウェイで大宮との1戦となる。

一方の大宮は前節北九州に勝利し、8試合ぶりの勝利を挙げた。
怪我人が相次ぎ、苦しいチーム状況は変わらないが前節の勝利できっかけを掴めるか。

直接対戦の成績は甲府の15勝9分23敗。
アウェイでは6勝5分12敗となっている。
甲府が2連勝中で4戦負け無しとなっているが、アウェイでは4戦未勝利で2014年以来勝てていない。

甲府には大宮に所属していた選手も多いだけに気持ちの入る一戦となることが予想される。

1.落ち着かない立ち上がり

スタメンはこちら。

画像1

甲府は前節から6人、前回対戦からは3人の変更となった。
注目は新井涼平。
大宮の下部組織出身の選手であるが、30歳になり、初めての試合は古巣との一戦となった。
今シーズンからキャプテンに就任し、チームを牽引しているがパフォーマンスはなかなか上がらないシーズンとなってしまっている。
例年怪我も多い選手ながら、シーズン通して試合に出場し続けていることは見事である。
30歳最初の試合で古巣相手に成長した姿を見せ、いい1年の始まりとしたい。

一方の大宮は前節と同じメンバーで前回対戦からは7人の変更となった。
注目は畑尾大翔。
畑尾も甲府でデビューした選手。
早稲田大学在学中に慢性肺血栓塞栓症という病気を発症し、卒業後も1年以上の治療やリハビリを経て甲府に加入した苦労人。
プライベートでも新井とは仲が良いことでも知られているが、デビュー戦は新井の負傷により出場した。
4シーズン甲府でプレーした後、J2降格を機に名古屋へ移籍。
その後大宮へ移籍したが、甲府とは初めての対戦となる。

甲府には佐久間GMをはじめ、伊藤監督、渋谷コーチ、新井、ラファエル、泉澤、山田、特別指定の長谷川と大宮に在籍していた人は多くいる。
佐久間GM、伊藤監督、渋谷コーチはいずれも大宮での監督経験もあり、新井、山田、長谷川は大宮のアカデミー出身と思い入れが強いクラブであろう。
大宮側も伊藤監督がアカデミーで指導していた頃の選手も多くいるため、負けたくない気持ちはお互い強い一戦となる。

立ち上がりいきなり左サイドを崩し、決定的な場面を作る。

画像7

数的同数ながら完全に崩し、背後を突いた。
武田のランニングにより畑尾を釘付けにし、山田の背後をカバーに行けない状況を作る。
泉澤に内田がパスを出し、タメを作る間に山田の背後へ内田が抜け出す。
このランニングに対し、小島がついて行くのか山田に受け渡すのか曖昧になり左サイドを攻略した。
最後は内田のクロスに松田が合わせるも相手DFに当たってしまったが、立ち上がりすぐにチャンスを作る。

大宮は立ち上がりシンプルに前線に入れ込んでくる。
4分には西村から山田へ、甲府の左サイドの裏へ長いボールを入れ込み、山田が内田をかわしクロス。
1分後には左サイド青木のクロスから黒川に際どいボールを入れるも合わず。

その流れで得たゴールキックから荒木が右サイドを駆け上がりドゥドゥへ縦パスを入れ、FKを得る。

内田が壁の下を通す強いシュートを放ち、こぼれたところにドゥドゥ、松田が詰める形を狙うも笠原がキャッチ。
笠原が弾いていたら1点という場面。

入り5分でお互いゴール前に迫る形が多く、得点が多く生まれそうな立ち上がり。

2.黒子

岡西含め、後ろから繋いで前進しようと気概を示す甲府。

画像3

左サイドは泉澤、内田で右サイドは荒木が幅を取る形。

一方の大宮は長いボールからDFラインの背後を狙う。

画像4

小島がアンカー気味に構え、菊地の後ろに青木、三門、黒川が並ぶ。
サイドはWBの翁長、山田が幅を取る。

立ち上がりのバタバタ感から一転試合は落ち着いて進む。
大宮のプレッシャーを回避するため、岡西から前線へ長いボールを入れるも収まらず、大宮がセカンドボールを回収し大宮の攻撃時間が増えて行く。

そんな中、大宮がCKからチャンスを作る。

ゾーンで守る甲府に対し、人がいないファーサイドで折り返し、触れば1点というチャンスを作る。

飲水タイムを挟み、プレッシャーの強度を高める甲府に対し、剥がして行く大宮。
立ち上がりから見られる形だが右サイドの山田が走力を活かし、内田の背後へ飛び出して行く。

大宮の時間が続くが、先制に成功したのは甲府。

CKは跳ね返されるもセカンドボールを拾った野澤から内田へ。
ドリブルでの突破は失敗し、再び野澤へ。
野澤のクロスから最後はドゥドゥが合わせ先制に成功する。
野澤のクロス、ドゥドゥのヘディングは見事だが、見逃してはいけないのは小柳の動き。
内田の突破に対し、ニアサイドに飛び込むもクロスが上がって来ず、野澤に下げたため、動き直す。
ファーサイドへ膨らむように動き出すことにより相手DFを引きつけ、空いたスペースにドゥドゥが走り込んだ。
小柳は目立つ選手ではないかもしれないが、流れの中でも献身的に味方を活かすランニングを繰り返せる選手。
今節も3バックの一角での出場ながら泉澤からのクロスに飛び込む場面も見られた。

得点後畳み掛けたい甲府は41分に決定的な場面を作る。

泉澤の仕掛けから松田が落とし、ドゥドゥのオーバーヘッド。
翁長がゴールライン上で防いだ。
前線3人が絡んでゴールに迫った場面だが、ここまであまり3人が絡む場面は作れていなかった。
攻撃面では泉澤、ドゥドゥに主役の座を渡している松田だが、フリーランニングで味方のためにスペースを作る等見えない部分での貢献度は高い。
この場面でもニアサイドに走り込み、ドゥドゥのシュートを演出した。

得点を決めた選手やアシストをした選手が目立つが、小柳や松田のように献身的な動きがあるからこそ得点は生まれる。

3.甲府スタイル

43分にもDFラインと岡西のビルドアップで相手を食いつかせ、中盤に上がった新井を経由し、各々が相手に捕まらないポジションを取り、前進しゴール前まで迫る形を作る。

画像5

GKに下げることの意味はこのように数的優位でのビルドアップの局面を作り出すこと。
相手のプレッシャーが中途半端だったこともあるが、ビルドアップで相手を食いつかせ、立ち位置を変えることで相手を動かし、できたスペースを使い前進する。
伊藤監督が目指すサッカーの形を出せた。

同日に行われたユースの試合でも似たような形から得点を挙げている。

GKを経由はしていないが、バックパスを起点に相手を食いつかせ、空いたスペースを攻略して奪った得点。
大宮戦とは直接関係は無いが、チームとして下部組織含めて一体となりスタイルを構築していることが窺える。
後方でビルドアップしている先を見て行くことも、このサッカーにおいては楽しみ方が増える見方かもしれない。
レビューで書くことでは無いかもしれないが、ユースはこの試合での勝利で全国大会への出場を決めた。

トップチームから連動して甲府のスタイルを構築している。
スタイルに正解は無いが、チームとして同じ方向を向いて新たなスタイルに挑戦していることはチームとして良い方向へ向かっているのではないか。
目先の勝ち負けはプロである以上必須であるが、見る側として挑戦していることに理解を示し、受け入れることは必要となる。

4.再び落ち着かない展開へ

後半から大宮は青木と黒川のポジションを入れ替える。

試合後の高木監督のコメントより。

『ゲームに関しては前半のできなかったこと。要するに後ろからのビルドアップの中でうまくいかないところもあったけど、後半は少しずつ良くなってきて、やりたいことやシャドーの選手が絡むようなところも出てきたと思います。』

ボールを保持する時間が増え、前線からのプレッシャーもハマり出す。

そして大宮がワンチャンスで同点に追いつく。

試合後の菊地選手のコメントより。

『だいぶ遅くなってしまいましたが初ゴールを決められたことは自信になりますし、ホームで、自分の生まれ育った地元で点を取れたことは嬉しいです。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『大宮が後半変えてきたところがあった、そこを押さえきれなくて同点に追い付かれた。』

新井のクリアが中途半端になったところを黒川が拾い、菊地へスルーパス。
入れ替えたシャドーのところから得点が生まれた。

得点の直後に大宮は青木に代えて小野を投入する。

追いついたことを機に、勢いをつけたい大宮だが試合の展開を大きく変えるプレーが生まれる。

ドゥドゥのファールに対して、山越が熱くなってしまい報復で一発退場となってしまう。
ドゥドゥのファールは行き過ぎたプレーであったが、報復はやってはいけなかった。
お互いに不必要なプレーであり、試合を壊すプレーとなってしまった。

山越が退場になったことにより、67分に黒川に代えて高山を投入する。

画像7

菊地を1トップで残し、中盤は3枚に変更。
高山は山越のいたポジションにそのまま入った。

試合後の高山選手のコメントより。

『試合自体が久しぶりだったのですが、スムーズに入れましたし問題はなかったです。NACKでのプレーはやはり力がみなぎりますしパワーをもらえるので、ホームでは大きなアドバンテージになると思います。一人少なかったのである程度相手にボールを持たれる展開になりましたが、守備では周囲の選手と声を掛け合いながら対応できました。また次のチャンスにつなげたいです。次は中2日でのアウェイゲームですが、しっかりと準備をして勝点3を持って帰ってきたいですし、山形のサポーターの皆さんにも頑張っている姿を見せたいです』

今シーズン山形に期限付き移籍していたが、怪我人が相次いでいるチーム状況下で復帰した。
これが復帰後最初の試合となった。

大宮にとって悪い流れが続く。

飲水タイム明けの流れから西村のパスミスを奪い、ペナルティエリアに侵入。
一度は奪い返すもタッチが長くなったところを足をかけてしまいPKとなった。
甲府にとっては今シーズン初のPK。

試合後の笠原選手のコメントより。

『難しいことはしていない。止められて良かったです。』

泉澤のシュートは力も弱く、コースも甘かった。
このPKストップを境に笠原の存在が輝き出す。

大宮が1人少なくなったことにより、甲府はボール保持時の並びを変える。

画像8

新井が中盤に上がる形を取っていたが、DFラインを右肩上がりにする。

PKストップで勢いを取り戻した大宮とNACK5スタジアム。
一方の甲府は大宮が1人少ないこともあり、焦りが見え始める。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『リスクマネージメントができていなかったところは相手のシュートがポストに当たった。』

起点は小野と山田のワンツーから。
山田のスルーパスから決定機を作られるもポストに救われた。
その後もクリアミスからクロスバーに救われる。
この場面はリスク管理の甘さから招いてしまった。
人数は足りているにも関わらず、正しいポジションは取っていなかった。

直後に甲府にもアクシデントが発生する。
山田のクロスが中塩の頭を直撃。
脳震盪の危険もあるため、主審が試合を止めた判断は正しい。

4.執念

中塩のアクシデントも含め、甲府は選手交代を決断する。
中塩、ドゥドゥに代えて山本、金園を投入する。
山本はこれで10試合連続の出場となる。
栃木戦でも同時に投入したが、試合になかなか入りきれなかった。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『山本英臣が入って、ゾノが入って、ラファが入って落ち着きができた。相手が一人少なかったこともあるが、落ち着いて入れたことも一つの要因。』

この後、投入されるラファエル含め、バタバタしていた試合を落ち着かせジワジワと大宮を追い込んで行く。

しかし、笠原が立ちはだかる。
王手をかけながらも詰むところまでは至らず。
いくつも手を打ち、大宮を追い詰めて行く甲府。
詰むのが先か、時間いっぱいが先か。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『大宮に退場者が出たことで押し込めた。選手は最後まで2次、3次攻撃ができていて素晴らしかった。』

後は決めるだけ。

甲府の執念が大宮を上回った。

試合後の内田選手のコメントより。

『あれはみんなの思いが詰まったゴールです。僕のゴールというよりかは、ヴァンフォーレに関わるすべての人のゴールだと思っています。もう負けられない状況で、あの時間帯でこぼれ球が来た。強い気持ちを持っていたからこそだし、あそこまで運んできてくれたチームメートに感謝しています。』

甲府に関わる全ての人の思いが詰まったゴール。
執念が生んだ素晴らしいゴール。

試合後の笠原選手のコメントより。

『チーム全体として前節同様にアグレッシブなゲームをしようという認識でしたが、それは体現できていたと思います。最後は勝ちに行った結果、ひっくり返されてしまいましたが、良いゲームだったのかなと思います。連戦でフィールドの選手たちは体力的にも精神的にも大変だと思いますが、アグレッシブなゲームができていますし、これを継続していきたいです。』

大宮は1人少なくなっても最後まで勝ちを目指し、素晴らしい試合をした。

昇格を諦めていないチームかどうかが、最後の部分で勝敗を分けた。

5.あとがき

負けられない中、最後の最後に執念を見せ、勝ちきった。
PKを含め、2点目を取れるチャンスがありながら、決めきれず難しい試合になってしまった。
だが、結果的には2点目を決め切り勝ち点3を得たことにチームとしての成長を感じた。
残り10試合となったが一戦必勝で勝ち続けていくしかない。
まずは、中2日で迎える水戸戦。
勝って次に繋げて行こう!

MOM 野澤英之
今節山田が契約の関係上、中村が負傷のため出場できない中、先制点のアシストも含め、安定したプレーを見せた。
積極的にボールに絡み、守備でも武田に負けず前線までプレッシャーをかけた。
脳震盪からの復帰後、コンディションが上がりきらずボランチのポジションの序列を落としていた。
前節の琉球戦に続き、良いプレーを見せ野澤復活を示した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?