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J2第18節 ヴァンフォーレ甲府vsV・ファーレン長崎

前節2位北九州に勝ち4位に浮上した甲府。
今節は首位長崎をホームに迎える。
北九州に勝った勢いそのままに首位長崎との差も縮めたい。

アウェイ3連戦の最後となる長崎。
新潟、金沢との試合は引き分けでいずれも先制しながら追いつかれる試合。
その直前は3連勝しており5戦負けなしを継続中。
直接対決はリーグ戦では1勝1敗で昨年の天皇杯ではベスト8で破れた相手。
ここまではお互いのホームで勝っている。

1.負けられない闘い

スタメンはこちら。

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甲府の注目は山本英臣以外にいないだろう。
Jリーグ通算500試合出場となる一戦。
ジェフユナイテッド市原ユースからトップチームに昇格し4年間で4試合の出場。
契約満了で退団し、甲府に加入したのが2003年。
今年18年目を迎えた甲府のレジェンド。
そのレジェンドの記念試合にふさわしい首位相手の試合。
負けるわけにはいかない。

一方の長崎の注目は毎熊晟矢。
東福岡高校から桃山学院大学を経て今シーズン加入したルーキー。
元々FWの選手であるが長崎では右のサイドバックとしてポジションを掴みJ2ではトップレベルの選手となっている。
泉澤、内田の左サイドを強みとする甲府に対して毎熊がどこまで主導権を握れるかが注目となる。

19時キックオフ予定であった試合は雷雨の影響で19時33分キックオフと発表されるがその後48分キックオフに変更となった。
イレギュラーな試合の中試合の入りは重要となる。

いい入りをしたのは甲府。
切り替え早くインテンシティーの高さを見せる。

ビルドアップもここ数試合安定してきた。
今節のビルドアップ時の基本の立ち位置はこちら。

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山本をアンカーに上げる形で幅を取るのは泉澤と藤田。
武田、内田の入れ替わりや中村が右SBの位置に降りようとする動きも見られたが基本はこの形。

一方の長崎。

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イバルボはサイドに流れることを好み、名倉はフリーマンのように動き回る形。

最初の決定機は長崎。
16分右サイドを駆け上がった毎熊のクロス。

1分17秒頃より。

触れば1点の形を作られる。

相手の立ち位置を見ながら冷静にビルドアップする甲府に対し構える長崎。

右サイドで小柳を起点にし、藤田、松田、中村、金園と連動した形で崩しCKを獲得する。
栃木戦以降変化してきた連動性が生んだCKから先制に成功する。

藤田のキックの精度の高さと中村のヘディンングの強さが生んだゴール。
中村のマークについていたのは大竹とミスマッチをうまく活かせた形のゴールとなった。
イバルボ、カイオセザールがストーンとなっているため高さで優位に立ってていたところをうまくつけた。
これで中村は2得点目。
いずれもヘディングからの得点となった。
藤田は4つ目のアシスト。
藤田からのCKは大きな武器となっている。

得点後も出足の速さ、立ち位置を取る速さで長崎を押し込んでいく。
特に右サイドの小柳、中村、藤田、松田のコンビネーションを止められない長崎。

負けられない1戦最高の入りをしたのは甲府。

2.立ち位置

30分過ぎから長崎はポゼッションの仕方を変える。

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加藤をDFラインに落とす形が増える。
ボールを意図して握れる時間は増えるがイバルボの運動量が少なく危険な位置にボールが入らない。

一方の甲府は立ち位置を取る速さ、前への推進力で長崎の攻撃を封じ込める。
立ち位置を整理し、ポジションを速く取ることにより攻守が一体となったのが好調の要因である。

試合後の伊藤監督のコメントより。
『今シーズンは最初からボールを動かすところもやってきましたし、5-4-1で守るところからの可変システムがすごくスムーズに出来てきました。守るだけじゃなくて前線からのプレッシャーも良くなってきました。これらのバランスも良くなってきたと思いますので、これは続けていくべきだと思います。 』

伊藤監督、渋谷コーチのコンビは立ち位置にこだわりを持っているだけにここにきてスタッフと選手たちのイメージが合致してきたのではないだろうか?
また、相手に合わせて立ち位置を変化させており、その中で結果が出ていることから相手の分析においても上手く行っていると言える。

守備時

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攻撃時(ビルドアップ時)

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攻撃時(押し込んだ時)

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基本的な形はこの形である。
試合によりどこに誰が入るかは変わるがこの形をいかに速く形成するかが鍵を握っており、北九州戦と今節は素早くポジションを取れていたことが上手くいっている要因である。

3.バックパス

前半金園に2つ決定機が訪れた。
どちらも山本からのロングパスに抜け出た形である。
山本のロングパスも金園の抜け出しも見事であったがここで注目したいのは山本のパスの直前の場面。

2分19秒頃より。

1分19秒頃より。

どちらもバックパスが起点となっている。
バックパスにはため息が漏れる場面も多々あるがどのような効果があるのか?

サッカーの守り方には大きく分けて2種類ある。
人をマークするマンツーマンディフェンスと場所を守るゾーンディフェンス。
マンツーマンディフェンスは目の前の相手選手をマークし続けるのに対し、ゾーンディフェンスはボールの位置と味方の位置で守備の位置が決まる。
簡単な説明だが相手がボールを下げたらその分ディフェンスラインを上げるのがゾーンディフェンスのやり方となる。
現代のサッカーで完全にマンツーマンで守るチームは少ない。
J2で言えばマンツーマンと言えるのは金沢くらいである。
局面においてマンツーマンとなることはあるが基本はゾーンで守るチームがほとんど。

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バックパスにも意図したバックパスは存在する。
上記で述べたようにボールを下げることにより相手はその分ディフェンスラインを上げる。
それにより相手を食いつかせることがバックパスの狙いである。
その効果が出たのが金園の決定機2回であった。

J2では徳島がJ1では大分が意図してこのような形を作ることが多いチームである。
これから意図的か下げさせられたのかを見ながら次にどこをチームとして狙うのか見るのもよりサッカーを楽しめる見方かもしれない。

4・左の矢

後半から存在感を増し始めたのが泉澤。
後半開始すぐに見せ場を作る。

2分35秒頃より。

チームとして泉澤が1対1でドリブルを仕掛けられる場面を幾度となく作る。
バスケットボールやフットサルで用いられるアイソレーションという形に近い。

『アイソレーション(Isolation)は英語の「分離、独立、絶縁」などの言葉から使われているバスケットボールの用語で、1on1を仕掛けやすくするための戦術』

泉澤が1対1を仕掛ける場面を作ると基本的には誰も近寄らない。
失った場合のことを考え、内田や武田が周りにはいるが近寄ったり後ろをまわるようなことはしない。
圧倒的な質的優位を持つ泉澤を最大限活かす形である。

今節のドリブル数はトップの4回。
チームの得点数をより増やすには泉澤のドリブル数の増加も必要となる。

その泉澤から得点が生まれる。

起点は山本。
バックパス気味の横パスを受けたところ相手の加藤が寄せてきた。
松田の裏へのランニングに合わせ中村が加藤の背後にポジションを取る。
中村にまず二見が食いつくがサイドに中村が流れたことにより今度は亀川が反応する。
DFラインにギャップができたところへ裏抜けした松田が戻ってきてそこに加藤を引きつけ交わした山本から松田に縦パスが入る。
松田からその裏の空いたところへ走った金園へパスが出てリターンを受けた松田から逆サイドの泉澤へラストパス。
あとは決めるだけという形を演出した。
完全に相手を崩し切った素晴らしいゴール。
バックパスの効果、立ち位置を速く取る効果両方飛び出したゴールである。

そしてこのゴールは甲府のJ2ホーム通算400ゴール目となった。

試合後の泉澤選手のコメント。
『右サイドから良い崩しがあって、あとは決めるだけというところでうまく流し込めた。』
『ボールが来た瞬間に相手が来ることが分かっていて、うまく股を通せました』
『ゴールやアシストをもっとやらないといけないのが自分の課題。得点を取ったあとは彰さんに迷惑をかけているという気持ちがあったので走っていきました。』

J2に泉澤は反則だ。

5.あとがき

3連勝!!
ヴァンフォーレファミリー全員で掴んだ勝利。
今節はまさに小瀬劇場だった。
今節から手拍子解禁となった一戦。
サポーターの手拍子はチームの力となったのではないか。
全員が一丸となって掴んだ勝利。

終盤は危険な場面も作られながらも岡西のビッグセーブもありクリーンシート達成。
攻守両面が噛み合ってきた。
首位との差は勝ち点7。
まだまだ遠いが今やれていることを続けていければ十分逆転可能な差だ。
俺たちは強い!!

MOM 山本英臣
この試合の主役はこの人以外にいないだろう。
Jリーグ通算500試合出場達成の試合。
選手、スタッフだけでなくサポーターも一体となって勝利を目指した中心にいた。
「甲府の漢」であり「甲府の魂」だろう。
プレー面でも鋭い読みや元コロンビア代表のイバルボにも仕事させず、攻撃面では起点となり続け、決定的なパスも通した。
サッカーIQの高さは段違いである。
相手を引きつけることによりどこが最終的に空くのか、前線からのプレッシャーのかけ具合によりパスがどこに出てくるのか。
ピッチで起こる現象全て予想できているのではないか。
まだまだやれるしまだまだ必要な存在である。
もう一度J1の舞台で輝く姿を見たい。

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