第35節 ヴァンフォーレ甲府vsジュビロ磐田 レビュー

愛媛戦が中止となったことにより、10日ぶりの試合となる。
開幕戦後の中断以降は最低でも週に一試合は行なってきただけに、久しぶりに感じる試合。
ここからの残り9試合は9連戦とタフな日程だが、全て勝ち昇格の可能性を繋げたい。

1.規律と自由

スタメンはこちら。

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甲府は前節から5人、前回対戦からは4人の変更となった。
プレビューの予想からは1人外れてしまった。

磐田は前節から1人、前回対戦からは6人の変更となった。
プレビューの予想からはこちらも1人外れてしまった。

強風の中始まった一戦。
立ち上がりはお互い陣取り合戦の様相を呈する。
前線にシンプルに長いボールを入れていく。

立ち位置で勝負したい甲府に対して、自由にポジションを変え流動的に動く磐田。
甲府は磐田の流動性の前に正しいポジションが取れず、磐田のプレッシングの前にミスからボールを失う展開となり後手を踏む。
しかし、磐田のプレッシングは勢いこそあれど、2人同時にプレッシャーをかけたり、局地的に数的に多くなっていたりと一つ剥がせれば大きく前進できる守りをしていた。

一方の守備では甲府は前線からプレッシャーをかけに行くことを選択した。

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磐田のビルドアップに対して、甲府は人を捕まえに行く。
しかし、磐田はボールに人が寄る傾向があり、大森あるいは山田が下がることにより数的優位でボールを保持できる。
人を捕まえる前にワンタッチ、ツータッチで動かすため甲府が勝手に引きつけられてしまいボランチの背後が空いてしまう。
そこを起点に押し込まれていく。

11分になり、初めてプレッシャーを回避し磐田陣深くまで攻め入る。
最終的に荒木のパスが松田に通らずシュートまではいけなかった。
自陣のペナルティエリア内からスタートしたが、岡西を経由し新井のパスで磐田のプレッシャーを回避した。
このパスで磐田の選手6人を置き去りにし、泉澤のサイドチェンジから右サイドで2対1を作った。

このプレーをきっかけに甲府がボールを持つ時間が増える。

最初にチャンスを作ったのは甲府。

後方からのビルドアップで磐田の2トップ脇から小柳がドリブルで前進する。

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後方からビルドアップで前進する上でスペースがある状況ではドリブルで前進することは必要となる。
それにより相手はポジションを動かさざるを得なくなる。
この場面では松田が遠藤と松本の間に立ち、2人を困らせる立ち位置を取ることにより遠藤を動かし、ドゥドゥへの縦パスを通したが山本康のポジションも動かしたことから泉澤も空いていた。

ドゥドゥへの縦パスからの落としはカットされるも、そのボールに対し泉澤がプレッシャーをかけ、前線からの連動した守備からミスを誘い、決定機を作る。
しかし、シュートは八田に防がれてしまった。
冷静に横に流していれば武田とドゥドゥが走り込んでいただけに悔やまれる。

序盤はDFラインやボランチといった中央の選手へプレッシャーをかけることで剥がされ前進を許していたが、ビルドアップに対するプレッシャーの仕方を変える。

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ドゥドゥが牽制をしながら中盤のライン4人で中央を固め、磐田のボール回しをサイドへ誘導する。
WBに対し、WBが牽制することにより後ろに下げさせ、徐々に磐田陣に閉じ込めていく。
磐田は前線に長いボールを入れ込むしかなくなるが、空中戦では甲府に分があり甲府ボールの時間が増える。
守備で試合をコントロールし始める。

しかし、磐田の選手は個々の能力も高くロングボール一本でもチャンスを作る。
19分には大井からのロングボールを松本が収め、中野から伊藤と繋ぎ松本が背後に抜け出すもオフサイドとなる。
少しタイミングが遅れただけで完全に崩した場面。

チームとして規律を持ち戦う甲府と個々の能力を活かすため自由度を与える磐田という構図。

2.一進一退

飲水タイム明け、甲府にアクシデントが発生する。
磐田のスローイングで再開したが、後ろに下げたボールに対しドゥドゥがプレッシャーをかけた際に負傷してしまう。
足を伸ばした際に内転筋を痛めてしまう。
1度ピッチへは戻るもプレー続行不可能となり、担架で運ばれ交代を余儀なくされる。
それに伴い30分に金園を投入する。

膠着した展開となるが磐田はサイドからチャンスを作る。

小川のクロスから小柳のクリアミスに最後は大森。
決定機も岡西の正面へ。
時間とスペースを与えると危険なボールがゴール前に入ってくる。

40分には伊藤のクロスから大森がネットを揺らすもまたもオフサイドに。
3バックの一角から上がってきた伊藤は質の高いクロスを見せた。
磐田の選手は一瞬でも隙を与えると決定的な場面を作り出す。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『相手の中央の守備が固いので、ボランチの脇を狙いつつ、前半はそこで起点を作りつつ攻撃が出来ていたことは良かったと思います。』

立ち上がりは磐田の勢いと個の能力に圧されるも徐々に甲府が試合をコントロールした。
エースの負傷はあるも前半は一進一退の展開で進んだ。

3.危険な時間

後半は甲府が勢いを持って入る。

勢いそのままに甲府はセットプレーから先制に成功する。

泉澤、武田、内田の関係性から掴んだFK。
自慢の左サイドがなかなか機能しなかったが、得点に繋がるFKを獲得した。
内田からのFKにゴール前で混戦となり、松田のシュートは磐田の選手にも当たりながらゴールの中へ。
得点後を見てもチーム1つにまとまっていることがわかる。

試合後の松田選手のコメントより。

『ゴール前で待っていたらボールがこぼれてきて、メチャクチャ混戦になったが決められて良かった。』

試合後の山本義道選手のコメントより。

『前節の岡山戦でも同じようなセットプレーで失点してしまっているので、GKコーチも含めて改善しようと立ち位置なども変えたのですが、一発で跳ね返せなくてごちゃごちゃとなったところで失点してしまいました。後半立ち上がりから自分たちもピリッとは入れていなくて、そこを突かれたと思うので、やはり立ち上がりはしっかり集中して入らなければいけないと改めて感じました。』

得点後のキックオフから甲府はチャンスを作る。
武田がプレッシャーをかけ、敵陣で奪い、ショートカウンターへ。
武田がシュートを放つもGKの正面となってしまう。
結果的にこのプレーがこの試合の行方を左右した。
このシュートを八田がキャッチし、伊藤に繋いだところから磐田が押し込む。
この流れから遠藤がシュートを放つ。

遠藤のパスに中野抜け出し、最後は遠藤のシュート。
ここで得たCKからの流れを止められず、追いつかれてしまう。


右サイドからのFKを跳ね返すもセカンドボールを拾えず、左サイドへ展開される。
クロスを入れられるも跳ね返すがまたもセカンドボールを拾えず、右サイドからのクロスに合わされ同点に追いつかれた。
クロスに対してゾーンで守る甲府に対し、ゾーンの隙間に松本が入り込みヘディングを決めた。
甲府としては左右に何度も振られ、ゾーンの形を保つことができなかった。

試合後の松本選手のコメントより。

『クロスがドンピシャだったので、あとは流し込むだけでした。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『先制点の後のビッグチャンスで2点目が奪えていればこのゲームは変わっていたと思いますが、逆にその流れの中で右サイドから押し込まれてファール・セットプレー、そこから崩されたことが痛かったと思います。』
『やはり凌ぎ切らなければならないところだったと思います。右サイドのところで崩されていることが多かったので、得点を取った後の5分間を大事にしなければならなかったと思います。またジュビロさんの左サイドからの攻撃がすごく脅威であったので、そこでやられたのは力負けしたなと思います。失点はカウンターのシーンで武田将平がシュートしてキャッチされてからの展開だったので、シュートではなく右サイドの松田力に展開して決め切れていればまた違ったかなとも思います。』

試合後の新井選手のコメントより。

『相手のキックオフからのボールを奪って全員でギアを上げていくことができたが、その後耐え切るところ……。意思統一をして守り切る、はじき切るところをもう少し徹底しないといけなかった。』

武田のシュートシーンでGKの正面ではなく、リスタートを素早くできないシュートだったなら。
八田からのリスタートで一度ボールを奪った時に小柳からのパスを繋げていたら。
遠藤からのパスを新井が空振りをしていなければ。
失点直前の場面で荒木がファールをしていなければ。

勝負に「たられば」を言ってもしょうがないが、これだけ防げるチャンスがあった。
絶対勝たなきゃいけない中で隙があったと言わざるを得ない。

お互いに気を付けなければいけない時間に失点をして試合が動く。

4.磐田の土俵

得点直後に磐田は選手交代を行う。
大森、中野に代えてルリーニャと三木を投入する。

武田の前線からのプレッシャーで甲府にチャンスが訪れる。

武田が山本義道にプレッシャーをかけ、それに連動し野澤がパスの受け手となった山本康裕へプレッシャーをかけボールを奪い取る。
泉澤のドリブルから松田へ預け、ダイレクトで金園へパスを出しシュートへ。
連動した守備から連動した攻撃へと繋げた。

ここまで試合をコントロールし試合を進めていた甲府だが、徐々に遠藤を中心にボールを動かしていき磐田のペースとなっていく。

飲水タイムを経て、お互いに選手交代を行う。
甲府は荒木に代えて山本英臣を、磐田は山田に代えて上原を投入する。
松田が荒木のいた右WBに入り、野澤が松田のいた右シャドーへ。
山本英臣はボランチに入った。
磐田は上原が山田のいたトップ下に入った。

山本英臣の起用で試合を落ち着かせ、陣形をコンパクトに保ちたい甲府だがオープンな展開でより力を発揮する磐田の戦い方に飲まれていく。

78分には野澤と松田に代えてラファエルと太田を投入する。
お互いにそのままのポジションに入る。
より攻撃的に2点目を取りに行く采配を見せる。

お互いにチャンスを作れないまま試合が進む中、またも甲府にアクシデントが発生する。
85分にシュートを打とうとした泉澤が背後から戻ってきた小川の足を蹴ってしまい痛めてしまう。
試合終了まで出続けるも心配である。

87分に磐田が決定的なシュートを放つ。

甲府の前線からのプレッシャーを回避し、前進。
小川がカットインからシュートを放つも岡西が防いだ。

甲府はアディショナルタイムにCKからチャンスを掴むもディフェンスにブロックされてしまい、その後も試合は動かず。
お互いに悔しい引き分けとなった。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『お互いに試合終盤で得点を奪いに行き、オープンなゲームになりましたけど、どちらかというと我々が守ってカウンターというのが多く、その中で何度かチャンスもありましたが、引き分けは妥当な結果だったと思います。お互いに決めるべきところを決めていれば、どちらに勝ち点3が転んでもおかしくないゲームだったと思います。ジュビロさんは今年J2で戦っていますけど、選手たちのクオリティが高く、チームとしても個としても強いチームなので、我々としても隙がないようなゲームをしたかったです。』

試合後の松本選手のコメントより。

『チャンスは少しずつ試合を重ねるごとに増えていると思うので、シュートの精度やタイミングを合わせることだと思います。』
『崩せたシーンも多かったので、最後の決め切るところの精度、ラストパスの精度、シュートの精度を高めていけば、おのずとゴールも増えていくと思っています。』

お互いにゴール前での精度を欠き、勝ちきれなかった。

試合後の新井選手のコメントより。

『昇格を目指す上で、全部の試合で勝点3を取らないといけない状況だったので、先制したのに勝点3を取れなったことは悔しいし情けない。』

昇格へ向けて後がない中で先制しながらも勝ちきれなかった。

自分たちのやるべきことが出来ず悔しい結果となってしまった。
個人の能力で劣る相手に相手の土俵で戦っては厳しい戦いを強いられてしまう。
残り試合でどこまで積み上げてきたものの完成度を高めていけるかが課題となる。

5.あとがき

負けに等しい引き分け。
ドゥドゥが負傷交代、泉澤と新井も終盤に負傷してしまった。
勝てなかったことも痛いが、残り8試合の中でやり繰りも厳しくなってしまった。
上位2チームが勝てず、差を縮めるチャンスだっただけに悔やまれる。
それでもまだ可能性は残っている。
終わったことを悔いてもしょうがない。
残り8試合勝つしかない!

MOM 大井健太郎
守備面ではドゥドゥ、金園が起点となるところを封じ、鋭い読みで危険の目も詰み、未然に攻撃を防いだ。
また、攻撃面では配球役にもなり起点となった。
さすがの存在感を見せた。

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