J2第34節 愛媛FCvsヴァンフォーレ甲府

11/15に延期となった一戦となる。
前節千葉に敗れたことで来シーズンもJ2で戦うこととなった甲府。
4年連続のJ2は初昇格以降最長となる。
成績だけ見ると低迷期に突入しているように思えるも、チームの哲学を作り直している時期であり簡単にはいかない。
J1の可能性は無くなってしまったが、来シーズンに繋がる残り4試合としたい。

一方の愛媛は現在21位と下位に低迷しているが、クラブの哲学を築き上げたチーム。
目指す方向性は甲府と同様立ち位置にこだわり、ボールを大事にするサッカー。
完成度は高まったが、結果に繋がらないもどかしさを抱えている。
前節は京都に敗れたが、その前は2勝1分と3戦負けなし。
愛媛としても来シーズンに繋がる試合をしたい。

直接対戦の成績は8勝5分3敗と勝ち越してはいるものの、愛媛ホームでは2勝3分2敗と五分五分。
愛媛ホームでは3試合連続で引き分けと簡単な相手ではない。

1.彰スタイル

スタメンはこちら。

画像1

甲府は前節から今津以外10人、前回対戦からは5人変更となった。
注目は小泉勇人。
昨シーズン途中に加入したが、甲府デビューの一戦となる。
容姿や料理が得意とサッカー以外で注目されることが多い選手だが、30節の栃木戦以外は常にベンチに入りチームを支えてきた。
昇格争いの中で出場機会を得るまでの信頼感は掴めなかったが、1年頑張ってきたからこそ掴んだ先発の機会。
サッカー人生を変えるような大きな活躍を期待したい。

愛媛は前節から8人、前回対戦からは6人変更となった。
注目は横谷繁。
昨シーズン甲府に在籍した選手だが、今シーズンはここまで27試合に出場している。
横谷の古巣との試合で思い出されるのは昨シーズンのホーム大宮戦。
試合終了間際に得たPKを決め、勝ち切った試合だが甲府相手にも再現を狙っているはず。

立ち上がりから甲府が安定してボールを保持し、試合を展開していく。
前節ボール保持に苦しんだが、今節は山本と中塩の存在がビルドアップを安定させる。
山本、中塩が安定しているためボランチが下がらず高い位置を取れるため、押し込んでいく。

ミラーゲームになる基本布陣だが、お互いにビルドアップ時は可変しボールを保持する。
甲府のボール保持時。

画像2

山本が1列上がるお馴染みの形。
サイドは両WBが幅を取り、太田と中山が中間ポジションを取る。
この形が基本型ではあるが、誰がポジションに立つのかは状況を見ながら変えていた。

愛媛のボール保持時。

画像6

渡邊が1列下がり4バックを形成。
433に可変し、ギャップを狙うも甲府のハイプレスを前に立ち位置を取るのに苦労する。

試合によって立ち位置を変えている甲府だが、起用する選手の特徴に合わせて与えるタスクを変えているためである。
今節で言えば両WBは走力もあり、クロスを得意としているためサイドで張らせ相手のWBとの走り合いの局面を多くしていた。
太田と中山をインサイドに置いているのは、お互いにボールを引き出すことが得意なことと相手を動かすことができるため。
太田は背後への抜け出しを得意としており、2列目から相手の背後へランニングすることでオフサイドにはかからないことから相手は付いて行かざるを得ない。
そうなるとDFラインと中盤のラインの間にスペースが生まれる。
一方で中山は狭い場所でも失わない技術もあり、ターンも行える。
中山に縦パスが入ることで相手DFはマークに出ていかなくてはいけない。
そうなると背後にスペースが生まれる。

前半9分の場面。
山田から橋爪へパスが出た瞬間、伊藤監督から「Dエリア!」という指示が飛ぶ。
これは太田に向けての指示と思われる。
その後橋爪に「ホール見て!」と声をかけた。
応援ができない今シーズンのJリーグにあって監督や選手の声がよく聞こえるようになった。
その中で甲府は「Dエリア」、「ホール」といった声は良く聞くかと思う。
これらの用語が何を意味するか。
あくまで想像でしかないが、私の見解はこちら。

画像3

Dエリアとは相手の背後でペナルティエリア幅の守備者にとって危険なエリアを指していると思われる。
また、ホールとは相手の中盤とDFラインの間かつ、上の図の5分割されているエリアの2つ目、4つ目のエリア(ハーフスペースと呼ばれている)のことを指していると思われる。

この場面で伊藤監督が思い描いた攻撃は、太田がDエリアへのランニングで相手を引き下げ、空けたホールに野澤が入りこみ前を向くこと。
結果的に太田の抜け出しを使おうと橋爪は考え、相手に引っ掛けたことから伊藤監督から「ホール見て!」という声が飛んだ。

この場面は伊藤監督の目指すサッカーの要素が詰まった局面である。
立ち位置を早く取り、ボールを動かし、Dエリアやホールを狙う。
得点が決まらず、勝負所で弱さを見せ、昇格は逃したが着実に彰スタイルは成熟してきている。

2.躍動

試合後の横谷選手のコメントより。

『相手は非常にボールを持つことに長けていて、ボールの奪いどころ(を定めるの)が難しかった。』

横谷のコメントにあるように愛媛は奪いどころを決められず、プレッシャーをかけられない時間が続く。

そんな中、甲府が一発で先制する。

前節の課題を山本の存在で解決した。
前節もこの場面と同じようにディフェンスラインでのビルドアップ時にプレッシャーに来ないで待ち構えて守られる時間は多くあった。
ビルドアップとは前線の選手に時間とスペースを与えるために行うものである。
では時間とスペースを作るには何が必要か?
相手を動かすためのパス回しやランニングをするか、相手の選手が動けない状況を作ることで相手に捕まらない場所を作るかとなる。
上述したホールを突くためにDエリアに走りこむ場面は前者に当てはまる。
この得点場面は後者。
愛媛は541で構えて守っていたが、愛媛の5人のディフェンスラインに対し、左サイドから中塩、荒木、ドゥドゥ、太田、橋爪とマッチアップする状況となっていた。
山本はどこへでも出せる状況を止まることで作り出した。
ドゥドゥのスタートポジションを見ると本来は西岡がドゥドゥに付いていき、長沼が内に絞ることで太田をケアし、山崎がカバーリングできる状況にできれば愛媛が優位な状況に持ちこめたが、橋爪が高い位置を取ることと太田が中間ポジションに立つことで西岡と長沼が動けない状況を作ることに成功した。
この場面のように立ち位置を正しく取ることは重要となる。

前節のプレーと比較してみたい。
前節の千葉戦27分に今津が金園へグラウンダーの速い縦パスを通した場面。
立ち位置を取れていなく、相手を動かすことも留めることもできていなかったために千葉守備陣は対応することが容易であった。
だが、このパスはスピードもあり、精度も高かった。
また、直前までハイボールを蹴っていただけに相手の意表も突いてはいた。
前線に時間とスペースを与えるために相手を引きつけることや時間を止めることができれば今津のビルドアップ能力は大きく向上する。
この山本のプレーから学ぶことは多いだろう。

試合後の川井監督のコメントより。

『スカウティングでも山本(英臣)選手の浮き球パスやドゥドゥ選手は警戒していたが、それでもやられるのはわれわれに抑える力がなかったと捉えないといけない。』

得点後も甲府のプレッシャーが機能し、愛媛が自陣から出られない場面が多くである。

プレッシャーをかけたことで愛媛のミスを誘発し、追加点を得る。

立ち上がりから甲府のハイプレスが機能し、愛媛にボールを持たせない展開が続いていたがプレッシャーを回避するためにGKに戻したパスを中山が奪い得点につなげた。
甲府の選手の前でボールを動かすしかない愛媛に対し、後ろ向きの選手に入った瞬間にスイッチを入れる。
前向きに甲府の選手がプレッシャーをかけることでGKに強引に戻すしかない状況を作り出した。

試合後の川井監督のコメントより。

『1-0や0-0で後半を迎えられれば違っていたと思うが、2点差でメンタル的にも違ったと思う。甲府さんのような相手に先制点を与えると難しい。かつ2点目を与えるとより相手の守備は強固になる。本当に試合の流れとしては最悪な展開となった。』

試合後の横谷選手のコメントより。

『まずはイージーなミスで失点してしまったことはプロとして反省すべき。チームとしても個人としてもそこは必要。僕自身のプレーももっとできるところはあったと思う。こういう試合をしたあとはベクトルを自分に向けてやっていかないと。時間は少ないけど、練習から取り組み、意識を変えていきたい。』

飲水タイム明け、愛媛は川村に代えて岩井を投入する。
同時にシステムも変更。
甲府に一方的に押し込まれる展開を打破しにかかる。

画像4

4バックに変更し、前線の枚数を増やす。
この変更により、愛媛がボールを持てる時間が増える。

試合後の西岡選手のコメントより。

『前半、みんな勇気を持てていなかった。僕はもっと動かせると思っていたし、ボールが来たら外せる自信もあった。』
『メンタル的な部分で自信を失っている選手や、ボールを受けたがらなかったりする選手、常に関わり続けようとしない選手が出てくれば、ああいう前半のようなモヤモヤするような展開になってしまう。僕はやるべきことをやらなかった選手がいたことが問題だった。』

徐々に良くはなるも西岡のコメントにあるように愛媛の選手は思いきりを失っていた。
一方で甲府の選手は積極的にプレスをかけ、ボールを持つことを恐れず躍動した。

3.モチベーション

後半から甲府はドゥドゥに代えて中村を投入する。
怪我明けでの起用であり、リードしていることから無理をさせない判断となった。
これにより太田が最前線に入り、野澤がシャドーに入った。

一方の愛媛は岩井と忽那のポジションを入れ替える。

画像5

自由にやらせ続けた山本をケアするため忽那を山本番に置く。
だが、それでも今節の山本は止められない。

愛媛のボールを持つ時間は増えるも、背後への動きだしもドリブルでの仕掛けも無いため甲府は守るのに苦労しない展開が続く。

64分に甲府は橋爪と野澤に代えて内田と宮崎を投入する。
橋爪は長期離脱から復帰2戦目、野澤も怪我からの復帰戦となったが64分間のプレーとなった。

66分に愛媛が3人を交代する。
渡邊、有田、忽那に代えて清川、丹羽、森谷を投入する。

甲府は交代の直前にボランチを左右入れ替えたり、前線の配置を変えたりと試行錯誤する伊藤監督。
交代直後の前線の配置は太田が頂点で左に宮崎、右に中山。
69分に伊藤監督から宮崎を頂点、太田を右、中山が左へと指示が飛ぶ。
76分には太田を頂点に戻し、宮崎を右にと指示が入る。
なかなか前線が機能しないことから試行錯誤することになってしまったが、来シーズン以降を見据えてもこの3人の成長は不可欠であり関係性の構築にも期待が集まる。

終盤は両GKが目立つ展開となる。
まずは失点に関与してしまった加藤。

後半から落ち着きを取り戻し、安定しだす。
試合の入りに成功していたら結果は違っていたかもしれない。

一方の小泉は直前にゴール前で相手にパスを出したりハイボールを目測を誤って落としてしまったりとバタバタ感が否めなかったがやっと見せ場が訪れる。

J3での出場経験はあるがここ2シーズンは出場機会が無かった。
甲府、J2でのデビュー戦となったが少ないピンチにも好セーブを見せた。

試合後の小泉選手のコメントより。

『やはりサッカー選手として試合に出られる幸せを感じながら90分間プレーした。無失点で終わったことは素晴らしいことだけど、自分自身はまだ満足できる出来ではなかった。その中でもフィールドプレーヤーたちが体を張って守ってくれて、そのおかげで勝つことができたと思う。』
『もう少し時間帯を考えたプレーや、状況を考えたプレーの正しい選択ができればと思った。言い訳のように聞こえてしまうかもしれないけど、試合勘がなかったこともあり、もう少しやれた、正しいプレーの選択があったのではないかと思えるところはいくつかあった。ただ、何より無失点で、さらに点を取って完封できたことは自分にとってプラスだったと思う。』
『緊張しているつもりはなかったけど、見ている側はもしかしたらソワソワしていると伝わったのかな。自分としては緊張というより、喜びをかみ締めながらプレーしていた。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『危ない場面もありましたし、落ち着いてやれるかどうかだったが、90分間抑えることができたことは自信になると思う。これも一歩だと思う。次のチャンスをしっかりやって、勝ちを手繰り寄せるパフォーマンスをしてほしい。最後にビッグセーブをしていいゲームになったと思う。』

小泉も伊藤監督も述べているようにこの経験はプラスであり、甲府でのキャリアの第一歩となった。
1年間頑張ってきたご褒美とも言える完封勝利となった。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『モチベーション、クオリティを出すことはやろうと話をしていた。サポーターに恥じない、楽しませるサッカーをやろうと、プロとして1試合も抜くことはできないと話をした。』

プロとしてモチベーションを落とさず、戦い抜いた姿勢は素晴らしかった。
一方の愛媛はチグハグ感が拭えない試合となってしまった。

試合後の横谷選手のコメントより。

『シーズン当初から健太さん(川井 健太監督)が目指したポゼッションをしながら押し込んでいく形にトライしたが、難しいところもあった。技術、判断を含め、いろんな状況で難しさがあった。少し割り切ってロングボールを増やしても良かったと思う。ピッチの中でそうしていくべきかベテランらが声をかけていければ良かったかなと思う。』

試合後の西岡選手のコメントより。

『ここからというときにボールを受けたがらない、関わり続けようとしない。逆サイドにボールがあれば俺は関係ないというふうに僕は感じていた。全員が関わり続けないとこのサッカーは成り立たない。もっと僕がそれをチームに浸透させられれば良かったけど、それができなかったのは自分の力のなさかなと思う。』

横谷と西岡のコメントを見ても結果が出ていないことから方向性を見失っているように思える。
お互いにモチベーションを保つのが難しい状況での試合ではあったが、昇格が叶わず中2日で迎えた試合でもモチベーションを落とさず戦えた甲府と戦い方や見る方向が定まらなかった愛媛。
これが順位の差であり今節の結果に現れた。

4.あとがき

最後の最後で決定機を許すも他に明確なチャンスを与えず完勝を収めた。
昇格の可能性が無くなった後の最初の試合となったが、モチベーションの低下の心配も感じさせず。
後半は試合を完全にコントロールして勝ち切ったことは来シーズンに繋がる。
来シーズン昇格するための第一歩となる試合で期待感を抱かせる試合ができた。
今シーズンも残り3試合となったが、残り試合も勝ちきり一つでも多くの勝ち点を取り、シーズンを締めくくりたい。

MOM 山本英臣
圧巻のパフォーマンスを見せた。
ビルドアップでは今津、中塩に実演して見せているかのようであった。
今でも甲府は山本英臣のチームであることを示す一戦となった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?