J2第38節 レノファ山口FCvsヴァンフォーレ甲府

3試合連続の引き分けでJ1昇格の夢が絶望的となってしまった甲府。
今節はアウェイ山口に乗り込んでの一戦となる。
だが、試合内容は着実に成長を見せており、残り試合で来シーズンに繋がる戦いを見せたい。

一方の山口は現在最下位に沈んでいる。
6連敗中で10試合勝ち無しと苦しい状況となっている。
だが、前節を除いた11月の試合は1点差であり、紙一重の差と言えるかもしれない。
最下位だからといって油断して勝てる相手ではない。

前回対戦は甲府のホームで1対1の引き分けに終わっている。
直接対戦の成績は3勝2分1敗。
アウェイでは3戦全勝と相性のいい相手となっている。

1.復活

スタメンはこちら。

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甲府は前節より5人、前回対戦からは7人の変更となった。
注目は橋爪勇樹。
リーグ戦再開直前の怪我で今シーズン初出場となる。
1年4ヶ月ぶりの復帰戦となる。
過密日程の中、右のWBが固定できない状況が続き橋爪がいたらと思う場面は多かった。
残り試合も少ない中、存在感を示すための一戦となる。

山口は前節より2人、前回対戦からは6人の変更となった。
注目は森晃太。
名古屋U18より加入し、昨年まで4シーズン甲府で過ごした。
今節の出場で30試合目の出場となり、プロ入り後最多の出場数となる。
甲府ではなかなかチャンスを掴めなかったが、成長した姿が見たい。

立ち上がりいきなり甲府にビッグチャンスが訪れる。

荒木のロングスローのこぼれ球を武田が前線にヘディングで送り、橋爪がペナルティエリア内でボールを奪いシュートを放つも左に外れてしまった。

試合後の橋爪選手のコメントより。

『最初のシュートチャンスは決めないといけなかった。』

決めなくてはいけないシュートではあるが、1年以上試合から遠ざかっていた中で橋爪にとってはいい試合の入りとなった。

1分後にも甲府に決定機。

宮崎が高のパスをカットし、カウンターを仕掛ける。
奪った段階では甲府の攻撃陣は宮崎とラファエルに対して、山口は高、ヘナン、眞鍋と数的不利な状況。
後ろ向きに下がるしかない山口のディフェンスに対し、宮崎がドリブルで仕掛ける。
それに対し、右にいたラファエルは左斜めにフリーランニングすることにより、高とヘナンを引きつけ宮崎にドリブルするスペースを与えた。
宮崎のドリブル、ラファエルの献身性とお互いの特徴を活かした形から決定機を作るも橋爪のシュート同様に左へと外れてしまった。

後方から繋いでいく姿勢を見せる山口に対して甲府のプレスが機能し、甲府がボールを持つ時間が多い展開となる。

甲府のボール保持時の立ち位置はこちら。

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山本が1列上がり、サイドは荒木、橋爪が基本的には幅を取るが左では武田、宮崎、右サイドでは山田、松田が入れ替わりながらポジションを取る。

甲府の狙いとしては山口のSBの裏のスペース。
左では宮崎あるいは荒木が、右サイドでは橋爪が積極的に背後へ飛び出していく。

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背後は取れるもクロスが合わなかったり、シュートが相手にブロックされたりと決定的な形にまでは至らない。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『サイドバックの裏のスペースを突いていったが、クロスや最後合わせるところ決め切れなかった。』

ラファエルを中心に、松田や山田、武田も前線に飛び出しながら規制をかけることで山口は思うように攻撃を組み立てられない時間が続く。

そんな中、甲府のミスから山口にシュートチャンスが訪れる。

小柳がトラップミスをしたところを河野に狙われ、セカンドボールを高井に拾われる。
ここで高井もトラップミスをし、小柳がクリアするも高井に当たり前線へ。
山本の後方に落ちたボールを懸命にクリアするも森の前にこぼれ、拾った森がシュートを放つもゴールの上へと外れた。
シュートシーンでは山本と中塩がシュートをブロックするために足を出していた。
攻撃時にゴール前で冷静さや勇気を欠いて得点数が増えていないが、守備面ではこのように冷静にコースを消すことや飛び込む勇気を発揮しているからこそ1試合平均1失点以下に抑え込めている。

1分後にはまたもミスから山口に決定機。

岡西のロングパスからヘナンがラファエルに競り勝ち、イウリが前線で収め、前を向く。
イウリから高井へと繋ぎ、高井はペナルティエリア内で小柳に仕掛けるも、小柳は冷静に反転し防ぐ。
こぼれ球は山田の足元へ転がり、山田は荒木へ繋ごうとするもパスは弱く森にカットされシュートを打たれる。
岡西がシュートを防いだ。
山田のパスミスはやってはいけないミスではあるが判断は間違っていなかったように思う。
後方から繋ぎ相手を剥がし、前進を図るのが甲府のスタイル。
この場面で足りなかったのはパスの強度。
今シーズンの甲府は可変に目が行く場面が多いかと思うが、パススピードも明らかに速くなっている。

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昨年のデータは無いため向上したとデータで示すことができないが、1ヶ月前の時点ではリーグで4番目の速さとなっている。
パスで相手のプレッシャーを剥がしていくにはスピードは重要となる。

すぐに今度は甲府に決定機。

宮崎のサイドチェンジから橋爪のクロスに松田が合わせるも吉満に防がれた。
ピッチの幅を広く使い、ディフェンスの目線を動かし、その隙に飛び出す形。
甲府の狙いの1つであるピッチを広く使うことと背後への飛び出し、サイドからのクロスと積み上げてきたものが形として現れた。
これまでも同様な形を作れどもクロスが合わない場面は幾度も見られたが、橋爪はクロスの質の高さを見せた。

試合後の橋爪選手のコメントより。

『相手のラインとGKの間にスペースが見えた。松田選手が良い入りをしてくれたのでクロスを合わせるだけと思っていました。』

このプレーの直後GKからのリスタートで今度は山口に決定機。

イウリの落としを高井が収め、森のクロスに河野が合わせた。
前線4人が絡み決定機を作った場面。
吉満からのリスタートが速かったこともあり、橋爪が戻りきれなかったところに河野が飛び込んだ。
クロスの場面で山本が小柳に外を見るように指示を出しているが、小柳は対応できず頭を越されてしまった。

立ち上がりは橋爪が復活を示した。

2.決定力

飲水タイム明け、機能していた橋爪のポジションを変える。
宮崎と入れ替える形となる。
橋爪の背後を取られていることを修正するための交代となった。

26分のラファエルがプレッシャーをかけた場面。
ヘナンに渡ったボールを左サイド側から追いかけ、徐々にタッチライン際に追い込み、前線に蹴らせマイボールとした。
プレッシャーをかけるとは全力で追いかけることだけではない。
このように前線の選手が規制をかけてくれるとパスが出てくるコースが限定されるため、後ろの選手は守りやすくなる。

1分後岡西のゴールキックから始まった場面では、立ち位置を取るのが遅れてしまい相手のプレッシャーにハマってしまう。
岡西から小柳と繋ぎ、宮崎にパスが出たが横へのサポートも縦に抜ける選手もいない状況で宮崎が孤立してしまう。
運びながら立ち位置を取るのを待つも間に合わず、小柳を経由し岡西に戻す。
岡西の周辺には時間があったが、中塩へと繋ぐ。
そこに森がプレッシャーに来たことで中塩は荒木にパスを出すも、先ほどの宮崎と同じ状況となってしまう。
川井に当ててマイボールとすることはできたが、危ない場面であった。
結果的には岡西のところでもう少し相手を引きつけるか、中塩が前線に蹴り出すべきであった。
この場面のように立ち位置を取るのが遅れてしまうと相手のプレッシャーにハマりやすくなる。

31分にはDFラインのギャップを突かれ、山口にシュートを許す。

森のドリブルに対し、中塩が上手く遅らせることはできたが池上のダイレクトで浮かせたパスにイウリが反応し、シュートまで持っていかれた。
小柳と山本の間のギャップを上手く使われた。

36分には甲府が揺さぶりをかけ、山口ゴールに迫る。

山本からのクロスをラファエルが落とし、武田、荒木と繋ぎ中塩がクロス。
橋爪の折り返しに最後はラファエルが合わせた。
起点は背後に抜け出た橋爪に中塩からロングパスが出た場面から。
右に左に前後に揺さぶりシュートまで持っていった。
相手を揺さぶりゴールに迫ることも甲府の特徴である。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『前半2本チャンスがあった。そこは取らないといけない。ゲームを落ち着かせてネット揺らすことが大事。』

試合後の霜田監督のコメントより。

『このところずっと課題なのはボールを奪ったあと。奪ったあとにしっかりカウンターに行くのか、もう一度やりなおしてポゼッションに切り替えるのかの判断。ボールを持っている選手と持っていない選手で、どうしても点を取りたい、前に行きたいとなると、前の選手はカウンターに行きたくなり、ボールを奪った選手はつなぎたい。そういうところでパサーとレシーバーのタイミングが合わない。技術的なミスもありますが、ここは落ち着いてやるところ、ここはカウンターで行くところというようなメリハリが、ピッチの中でコミュニケーションを取りながらやれるようになれれば良いのですが、みんながそれを模索しているという段階です。

試合後の森選手のコメントより。

『前半はかなり山口らしい展開で、攻撃もチャンスは何回かありました。耐える時間も長かったですが、決定機も何本かあり良い試合運びはできていたと思います。』

試合後の池上選手のコメントより。

『最後の意思疎通であったり、個人の技術というところがまだまだだと思います。最後のところで、クロスのところでニアに飛び込む選手とか、(ファーサイドに)逃げる選手だったり、その最後のところで合っていないシーンが多いので、そういうところが得点につながっていないと思います。
『最後の思い切りの良さを出すところで消極的になっているシーンもありますので、脚を振れるところで思い切り振ったりすれば相手に当たって入るというのもありますが、そういったところがなかなか出せていないというのはあると思います。』

お互いに決定的な場面がありながらも決めきれず。
また、シュートの前の局面で味方に合わない場面も多く見られた。
特にクロスが合わない場面は目立った。
得点を増やすためにラストパスの精度を上げ、勇気を持って脚を振ること、ゴール前に飛び込んでいくことが必要となる。

3.積み重ね

後半から橋爪に代えて内田を投入する。
大きな怪我からの復帰戦で前半で全てを出し切る姿勢でプレーをした。
復帰戦とは思えないハイパフォーマンスを示した。

試合後の橋爪選手のコメントより。

『久しぶりに楽しかったけれど、体力面はすごくキツかった。自分のできるところまでやろうと思って全力を出せたと思います。』
『試合勘はないと思っていたのでとりあえず走ろうと、走って味方にチャンスを作ろうと思いました。』

試合後の伊藤監督のコメントより。

『橋爪は久々のゲーム。半分でもパワーを使ってくれればいいと思っていた。体力的にきつそうなところがあったし、最初チャンスがあって、起点となって次に繋がるプレーになった。』

後半の入りは一進一退の展開で始まる。
だが、53分に山口のプレッシングを逆手に取り甲府が先制する。

松田のバックパスが乱れ、そこを合図に山口がプレッシャーを開始する。
荒木、岡西でプレッシャーを回避。
高井と森がプレッシャーを岡西にかけに行くも周りが連動しておらず、森のプレッシャーも規制が掛かっていなかったため簡単に回避することに成功した。
内田から宮崎へと繋ぎドリブルで運ぶ。
この時宮崎はドリブルで運びながら、高を引きつけ武田をフリーにする。
フリーとなった武田は逆サイドの松田へ。
清永はボールウォッチャーとなっており、松田の動きについていけず。
クロスは防がれるもこぼれ球が武田の前に転がり落ち着いて流し込んだ。
この場面も山口の選手はボールウォッチャーとなっており、武田の動きに気付いていない。
甲府としては最終的に5人がペナルティエリア内に侵入しており、厚みのある攻撃となった。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『後半はもうひとつプランがあったが、変える必要がないと考えて後半に入った。そこでしっかり決められたことはよかった。』

幸先よく先制した甲府だが、57分にアクシデントでラファエルが交代する。
腿裏を押さえて担架で運ばれてしまう。
シーズン通して怪我なくプレーしていただけに残念な交代となってしまった。
代わって金園が投入された。

1分後には山本に代えて今津が投入される。
直前に接触があり、痛んだ場面も見られたことから心配ではあるが、15試合連続の出場でもありコンディション面を考慮しての交代であることを願いたい。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『連戦で足に張りが出ている選手が出てきたが、交代できたことで大事に至らず。』

伊藤監督のコメントを見ると山本は大事をとって交代となったのではないか。

65分には山口が動く。
河野に代えて小松を投入する。

甲府が積み重ねてきたスタイルから先制に成功し、試合を優位に進めていく。

4.試合巧者

後半の飲水タイム明けに甲府が交代枠を使い切る。
山田、宮崎に代えて中村、中山を投入する。

すぐに交代策が当たる。

ヘナンのパスミスを小柳が奪い、武田へ。
武田のパスから中山が得点を奪う。
今シーズン2点目の得点はGKとの一対一を冷静に流し込んで決めた。
試合毎に成長を見せている中で際立つのは、フィジカル面での成長。
激しい当たりにも負けずボールを簡単に失う機会が減っている。
守備でも2度追い、3度追いもこなせるようになり、成長のために起用しているのではなく、明らかな戦力となっている。
だが、あえて厳しいことを言いたい。
まだまだ、特徴であるスルーパスからのアシストは見られていない。
周りとの兼ね合いもあるとはいえ、やはり中山に期待するのは相手の意表を突くスルーパス。
中山が甲府の攻撃陣を操る姿を期待したい。

試合後の伊藤監督のコメントより。

『中山もいいタイミングで飛び出してゴールを決めてくれた。』

試合後の霜田監督のコメントより。

『シュートの意識も高く、相手ゴールに向かっていく姿勢も見えていました。クロスからのチャンスもありましたので、前半あるいは後半の頭で、取られる前に僕らが先制点を取ることができれば違った展開になったと思います。先に取られたとしても追いつくことができている試合は多かったので、顔を下げずに、しっかり同点に追いつくためにみんなで攻めましたが、クオリティー、勇気が伴わなかった。2失点目は隙を突かれてしまったと思います。

得点を取らなくてはいけない山口は78分に池上、清水に代えて村田、田中パウロ淳一を投入する。

84分には高井に代えて田中陸を投入し、交代枠を使い切る。

終盤になっても得点を奪いに行く姿勢を崩さない甲府はボランチコンビで決定機を作る。

荒木から武田に下げたボールに対し、山口はラインを上げる。
そこに下がった位置にいた中村が背後に飛び出すことにより入れ替わる。
ボールを後ろに下げることでディフェンスラインは上げることを逆手に取った攻撃である。

終盤になっても得点を奪いにいく姿勢を示し続け、試合をコントロールし勝ち切った。

5.あとがき

完勝と言える試合となった。
序盤からチャンスで決めきれず、試合を難しくしてしまったがしっかりと勝ちきった。
連戦の中、チームとしての成長を見せた。
可能性の上では昇格の可能性は残したが、2位福岡が残り試合で勝ち点3を上積みした段階で可能性が潰えるだけに現実的ではないが、奇跡を起こすには勝ち続けるしかない。
ここ数試合の内容は来シーズン以降に向けて可能性を感じさせる試合を見せている。
伊藤監督の去就はまだ決まっていないが、来シーズン勝負できる土台はできたと言えるだろう。

MOM 武田将平
武田以外にいないだろう。
6試合連続のフル出場となったが、試合終盤まで運動量衰えず走り切った。
前線までプレッシャーをかけ、中盤では潰し屋となり、ゲームをコントロールし、ラストパスに得点と一人で何役もこなした。
岡山から借りている選手なだけに、来季甲府に残ってくれるかわからないが、残ってくれることを願うしかない。

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