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つる屋さん

暇な田舎でする縫物はするすると進み、安価な生地を買ってゆかたを縫ってみるくらいには経験を積んだ。手元にある墨染めの紬、胴裏、八掛で女物の着物がひとつ縫えるのだけど、さりとて一人で反物から着物を仕立ててみる度胸は流石に無かった。

どうしようかなと思いつつ、そういえば草履が欲しかったなと隣街の呉服屋にまた出掛けてみる事にした。前回はデパートに入った大手の呉服屋支店に行ったのだけど、他にも数件あるらしい。今回は違う呉服屋さんの品も見てみたい。ふらふら見つけたのがつる屋さんだった。

まず門構えが素敵。古びた商店街の一角、木造のショーウインドウに、すり硝子の入った引戸。からりと気持ちのいい音と共に開けると、土間のような店内の左手に番頭台があり、奥に小上がりがあった。

いらっしゃいませと声をかけてくれたのは、柔らかい雰囲気の年配男性。50代後半くらいかなぁと思いながら、礼装用の草履を見に来たと伝えると幾つもの箱を持ってきてくれた。品定めをしつつ、世間話をしつつ、たぶん何かのタイミングで私が和裁に挑戦している事を伝えたのだと思う。つる屋さんの旦那さんは、そういえば娘が夏に和裁教室に通った際に、そこの先生が、興味があればこの先を個人的に教えてもいいと言っていたはずだと言う。そして、先生の連絡先を探しておいてくれると約束してくれた。

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