番外編-VET X Talks に込めた想い③:与えられるものこそ、与えられたもの
楽しいからやっている獣医学研究。その先に…
--:前田先生にとって獣医学研究とは?
前田:なんでしょうね…。うーん、、やっぱり自分にとっては趣味みたいな感じかもしれないです(笑)楽しいからやっていることというか…。
「動物を助けたい!」という思いから研究を始める人もたくさんいると思います。そういう高い志で研究を始められることは、本当にすばらしいと思います。でも、僕の場合はスタート地点が少し違いました。僕にとっての研究は、まず自分のためというか、自分が興味のあるもの、おもしろいと思うことを突き詰める活動な気がしています。正直なところ、例えば「がんを治したい」といったような“大義”はスタート時点ではなかったんです。「これ、おもしろい!もっと知りたい!試してみたい!」というような極めて私的な動機です。
--:私の知り合いの愛犬も前田先生に診ていただいてます。“大義”から始めた研究ではないということですが、実際に救われた動物や飼い主さんはたくさんいるはずです。
前田:それはもう、望外の喜びというか…僥倖というか…。とにかくめちゃくちゃ嬉しいことです。本質的には私的な活動なんですけど、続けていく中で病気の治療に繋がったりもしたりすると、続けていてよかったなあと心から思えます。飼い主さんから、「希望が持てました」とか「お会いできて良かったです」とかそんなびっくりするようなことを言っていただくようなこともあって、これからまたがんばろう!ってものすごくモチベーションをいただいています。
--:動物病院に愛犬や愛猫など“家族”を連れて行く時は、飼い主は不安でいっぱいです。特に重い病気を診ていただく二次診療の病院では、獣医さんはすべてを与えてくれる神様に見えます!(笑)
前田:少なくとも僕はそんな崇高な存在ではありませんが…(笑)飼い主さんが「与えられた」って思って下さることって、僕も含めて獣医師も誰かから与えられたものですから。基本的には、それをお返ししているだけだと思います。
「与えられるものこそ、与えられたもの」
--:どういうことですか???
前田:「藤井 風」っていうアーティストの方、ご存知ですか?
僕は『帰ろう』っていう曲がすごくすきなんですが、その曲の中で「与えられるものこそ、与えられたもの」ってフレーズがあるんです。これを聞いたときに、「ああ、本当にその通りだなあ」と思いました。自分の仕事は、まさにそれだと思います。
僕が病気の犬や猫に対して行っているいる獣医療って、学生時代に先生から教えていただいたり、同僚に聞いたり、論文を読んで勉強したり、研究結果から得られたデータから学んだり…。すべて「誰かから与えられたもの」なんです。
--:すごく哲学的ですが…おっしゃることは分かる気がします。持っていないものは分けてあげられませんからね。つまり今、自分が持っている知識や経験、考えというものは、もともと誰かから分け与えてもらったものっていうことなんですね。
前田:そうです。だから、さきほど獣医師が神様に思えるっておっしゃっていただきましたが、ぜんぜんそんなことないですよ(笑)自分が楽しいから続けてきた研究ですが、その過程でいろんな方から与えてもらった知識や経験、思想、哲学というものが誰かの役に立つって、本当に望外の喜びです。
特にがんの症例の場合は、ハッピーエンドは多くありません。それでも、飼い主さんに「ありがとう」と言っていただけることがあって、そんな言葉をもらえると、やっぱりうれしいです。
自分が好きで始めた獣医学研究ですが、「やってて、よかったな~」って一番強く思う時は、実はそんな時かも…。
--:お墓の中にお金や物は持って行けないですから、人生の最期に「楽しかったな」「良かったな」ってしみじみ思えるのが一番幸せかもしれないです。
前田:ただ、僕は理想を高く掲げてしまうと、うまくいかない時に辛くなってしまうんです。だから、まずは自分が楽しめて、続けられることをコツコツやっています。それがどこかで誰かの役に立つことがあれば、ラッキー!というようなスタンスでいます。
--:誰かの役に立てるって、実はすごく “有り難い” ことだと思います。とっても価値ある報酬というか…。初回に来て下さった水野先生(山口大学・水野拓也教授)もおっしゃってましたよね。「死ぬ間際に、“飼い主さんには喜んでもらえたな”って思えたら、それが一番幸せかもしれない」って。
前田:その言葉は僕も印象的で、すごく共感したのを覚えています。僕は獣医学も獣医学研究も、基本的には自分が楽しんでやっています。だからこそ、それを通じて自分が与えてもらったものを、学生さんや飼い主さんなど、必要としてくれる方々につなぐというか、手渡していけたらいいなあと思います。
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