見出し画像

論文紹介:海ではうまみは必要ない!?

画像1

PNGイメージ-90CDBE18261D-1

画像3

前回犬と猫のうまみに重要なのは味覚と嗅覚であるという話題を取り上げました。今回は”Loss or major reduction of umami taste sensation in pinnipeds“という研究報告を紹介します。

うまみを感じる味蕾(みらい)は口の中の舌乳頭(ぜつんにゅうとう)に埋め込まれています。さらにこの味蕾を詳しくみていくと、うまみを感じるのに重要な受容体として、T1R1 + T1R3やmGluR4、mGluR1があります。T1R1 + T1R3ヘテロダイマーは広範なうまみ受容体と考えられています。


著者らは、アシカやアザラシの一部でこのうまみ受容体であるT1R1 + T1R3受容体の生産に必要な遺伝子(Tas1r1遺伝子)に突然変異があり、偽遺伝子となってきちんと機能していないことを発見しました。つまり、うまみを感じていない可能性があるということです。

この原因として、著者らは下記のように考察しています。アシカやアザラシなどの鰭脚類(ききゃくるい)は魚やイカタコなど丸呑みできる獲物を捕らえています。甘みを増強するIMPはこうしたイカやタコ、生きた魚類にはほとんど存在しないため、うまみを感じることは海での生活では必要ないため退化したのではないかと考察しています。うまみを感じる物質は魚の死後の体でアデノシン5′-三リン酸adenosine 5′-triphosphateの分解で定着すると言われています。

また、高濃度の塩分はうまみを隠すので感じる必要性がなくなった可能性があるとも言及しています。
他の研究では、他の肉食動物と比べてアシカやアザラシ などの鰭脚類では味を感じる味蕾(みらい)の存在する舌乳頭(ぜつにゅうとう)が少ないということも報告されています。

研究概要

方法:鰭脚類(ききゃくるい、アザラシやアシカ、オットセイ、ゾウアザラシなど)と他の6種の肉食動物のTas1r1エクソン3のDNA配列を得て、ホッキョクグマとイエイヌのものと比較しました。
結果:Tas1r1エキソン3の453-bp配列のセグメントを調べたところ、6種の鰭脚類とジャイアントパンダではオープンリーディングフレームの破壊があり、ほかの7種類の肉食動物では破壊はありませんでした。また、フレームシフト型の突然変異(4bpのフレームシフト挿入)とナンセンス型の突然変異(置換)もみられました。
4bpの挿入は4種のアザラシ科 の共通の祖先で起こり、1bpの欠損とナンセンス置換はその後北ゾウアザラシの系統で起こり、さらに2種のアシカ科の共通祖先でナンセンス変異が起きたことが明らかになりました。


参考:Loss or major reduction of umami taste sensation in pinnipeds , Jun J. Sato & Mieczyslaw Wolsan ,Naturwissenschaften (2012) 99:655–659


犬や猫、ウサギの獣医師です。色々と勉強中の身ですが、少しでも私の経験や知識を飼い主さんや動物に還元していきたいと思います。