月刊Synthwave生活 2021年5月号

このシリーズでは、だいたい月1を目標にSynthwave、Outrun、Darksynth等の作品のレビューと言うか紹介をしていきます。
連休なわけですが、意外にも朝早く起きてしまって、でも何もやる気が起こらないし、とりあえず何の目的もなく外に出てブラブラして、結局どこに行くとも考えてなかったので行くところもなく、通りがかった公園でベンチに腰掛けたのです。しばらく公園の様子を見ていると、ウォーキングしている高齢者しかいない事に気づきました。みんなジャージを着てサングラスとかかけて、首にタオルをかけたりして、何か暗黙の了解があるのか、全員が同じ方向にぐるぐる回っているのです。まるで回転寿司のように。高齢者たちは言葉を交わすことはないが、お互いにライバルのような意識を持っていそうな雰囲気です。ただ休日の公園のベンチに腰掛けただけなのに、その場では浮いた存在になってしまいました。「なぜお前はウォーキングしないのか」というような無言の圧力を感じます。完全に無目的な行動として公園に行ったんですが、実際には目的を持って公園に来ている人の方が多数だったんですね。この社会には、完全な無目的の時間を享受できる環境というのはほとんどないのかもしれない、というような事を考えながら高齢者のレースを見ていると、でっかい蜂が飛んできたので公園を後にしました。
というわけで、今月もレビューの方に行きましょう。

Timecop1983 - Faded Touch

Synthwave界の巨匠、Timecop1983の久々の新作。今回も得意とするバラード系のSynthwaveが揃っていて、まあベタと言えばベタなんだが、でもそれはTimecop1983がやってこそ様になるのは間違いない。子供のころに見た映画のエンディングテーマのようなしんみりとした安堵感のあるシンセが美しい。

Mitch Murder - Then Again

この人もSynthwave界の巨匠であるMitch Murderの待望の新作。これまでサントラやEPはちょくちょくリリースしていたが、ちゃんとしたアルバムは数年ぶりではなかろうか。極上のデジタルフュージョンとも言えるようなSynthwave。FM音源や80~90年代初頭辺りのフュージョン的なゲーム音楽に対する偏愛的なこだわりも随所に見られる。サントラやEP作品では様々な方向性の音楽を見せていたが、満を持して出したアルバムでのこの作風が、本来の彼の方向性だろう。ジャケットの絵もなんかすごいリアルな日本の風景で素晴らしい。

System96 - Emotion

すごい率直に言うとChillsynth。とても正統派で直球なChillsynth。というか逆に直球じゃないChillsynthがあるのかというと、あんまり無い。ローファイ感はそれほど無いが、余韻と残響が素晴らしい一枚。

Emil Rottmayer - Deflection

基本的にChillsynthの系統に入るかと思うが、とろけるようなローファイ感はちょっと控えめな感じもするEmil RottmayerのEP。ただ、シンセの音で気持ちよく空間を満たすことを志向しているのはやっぱりChillsynthの世界を感じる。

Lukhash - We Are Stardust

NewRetroWaveからのリリース。ジャケットの絵の通り、サイバーパンク系で若干Darksynthな要素もありだけどそこまでゴリゴリにダークなわけではないという塩梅はNRWらしい感じ。音作りが重厚なのもこのレーベルの傾向かな。

OSC - Yume No Machi

シティポップ・80'sファンク系というかもうそのものといった感じの方向性のSynthwave。いかにも和風なジャケット絵に日本語のタイトル、曲名も基本日本語のタイトルで、「ショッピングモール」や「フードコート」などは、何かローマ字英語になっている。Vaporwave系のレーベルからのリリースだが、なんとこのアルバムの曲を全部Vaporwaveバージョンにした「Vapor Edition」も同時発売になっている。自給自足のセルフVaporwaveと言えるだろう。