月刊Synthwave生活 2020年12月号

このシリーズでは、だいたい月1を目標にSynthwave、Outrun、Darksynth等の作品のレビューと言うか紹介をしていきます。
今年の初めに書いた、Sovietwaveの記事がちょっとずつ反響が増えてきているようで、それは光栄なのですが、どのくらい読まれているのかな?とアクセス数を確認してみると、なんとこちらの記事の方がSovietwaveの記事の3倍くらいのアクセス数をたたき出していることが分かりました。みんなロシアよりインドの方に興味津々なんでしょうか?次はインドのシーンをチェックするべきだろうか…

というわけで、今月も作品を紹介していきます。

VHS Glitch - CARVED

どうもハロウィーン向けに作られたアルバムのようである。先月紹介すべきだったか・・・。まあジャケットの絵を見て分かるとおりのDarksynth。この絵はなかなか良い感じだと思ってクレジットを見てみたら、なんとアートワークも自分も手掛けているらしい。なかなか何でもできる人のようだ。

Molchat Doma - Monument

以前、Sovietwaveの記事でも紹介したベラルーシのポストパンクバンド、Molchat Doma。あれ以降も着実に成功へのステップを登って行っているようで、もはやDoomerのおもちゃでも無くなったかもしれない、そんなMolchat Domaの新作。なんかTikTokでもミームになったそうだが、TikTokとか一回も見たことが無いのでよく分からん・・・。ベラルーシは最近どうも政情不安定のようで、Molchat Domaは大丈夫なんだろうか?と思っていたが、後述の「Discoteque」のビデオを作ったりしているのを見る限りは大丈夫そうだ。Discotequeはなんだかんだで必聴。典型的なSynthwaveとはだいぶ毛色が違うし、Sovietwaveともまた微妙に違う独特な路線で、もしかしたらBoy Harsherの影響もあるかもしれない。生々しいまでにレトロでリアル80年代なシンセの音で、なかなかクセの強いロシア語ヴォーカルとも相まってかなりの中毒性。Discotequeはシンセが主体だが、それ以外は普通にポストパンクなのでバンドサウンドな曲がメイン。しかしドラマーがいないバンドなのでドラムは全部打ち込みの模様。Synthwaveに限らず、レトロ系の音楽(音楽にも限らないが)では、レトロと言いつつなんだかんだで今風な音作りで現代のリスナーにも聴きやすいように妥協しているのが少なからずあるが、ロシア圏のポストパンクのバンド達にはあまりそういう面が見られず、徹底的にレトロでローファイな音を完全再現しようとするし、下手をすれば実際の80年代の録音よりもローファイなものを作りかねないので、そういう所こそは評価されるべきだと思う。
で、このDiscotequeのビデオは、多分西欧のリスナーに向けて、「西欧の人々が想像するSovietwave」な感じをあえてやっていると思われる。幾何学的な巨大建造物、マルクス・レーニン・スターリン像、そして整然と並んだ同じ形の団地。リンカーンの像も置いてあるが、急に立ち上がって歌ったりはしない。彫像はライティングによって若干Vaporwave的な見せ方で異化されて、歴史的な意味合いを失っている。知らない人が見たら、音も映像も「何じゃこれ?」となるかもしれないが、しかしこれは2020年の今、わりと必然性をもって作られたコンテンツだろう。

Thought Beings - Neon Beach

シンセポップからファンクな感じまで、いくつかのスタイルの曲が収められたアルバム。ジャケットの画像に期待して構わないレベルの完成度。80'sディスコな感じの「Satellite」が良い感じ。

Zane Alexander - Death by Space

ジャケットの絵からして宇宙的な雰囲気を漂わせているChillsynth。本当に最近はChillsynthの作品は毎月のようにリリースされるし、新しいアーティストも続々現れるので、やっぱりこのジャンルの需要は順調に伸びているのだろう。確かにこういった自律神経にやさしい音楽は、ついつい聴きたくなる。ついでに言うと、アーティスト側にもこういう音楽を作りたい欲求が高まっているのではないかと思う。というか俺もチルシン作りたい。

2DCAT - Weeks Where Decades Happen

最初はこのジャケットの絵を見てSovietwaveか?と思ったが、聴いてみると割と普通のSynthwaveだった。一言で言えばThe Midnightスタイルの都会的なSynthwave。ヴォーカル入りSynthwaveを求めている人にはお勧めできる。どうでもいいけどこのジャケットに写っているタワーは東京タワーだろうか?

Ace Buchannon - THE VERY BEST OF [2020 Peter Zimmermann Re​-​Master]

あまりSynthwaveでベスト盤を出す人は多くないと思うが、Ace Buchannonの過去作をPeter Zimmermannという人がリマスターしたらしいという、あんまりそれ以外の情報が無いアルバム。Ace BuchannonはSynthwaveとしてはそこそこ長い事やっているかと思うが、サウンドとしては都会的でとてもクリアーなシンセを基調とした、若干サイバーパンク感もあるようなそういうスタイルのSynthwave。せっかくなので元のバージョンとリマスターバージョンで聴き比べてみたが、リマスター版のほうはちょっと耳に痛いかもしれない帯域を抑えて聴きやすくしたのかな?と感じた。あくまで個人の感想です。