Outrunとは・2018

改めてアウトラン

アウトランって、何でしょうか?ここで語るアウトランとは、音楽のジャンル名です。
アウトランでググると当然セガのドライブゲームばかりが出てきます。当たり前ですが。で、そのアウトランの名を冠した音楽ジャンルとしての「Outrun」。このOutrunというジャンルと、ついでにSynthwave等について、いま2018年の初頭の時点で、私が知っている事について書きます。(2018年の正月休みに書き上げて新春のうちに公開しようと思ったけど、チマチマと書いているうちに1か月ほど過ぎてしまった…)
思えば初めにOutrunというジャンルを知ったときは衝撃的だった。その時私はYoutubeでVaporwaveなどの動画をブラウズしていたわけですが、(Vaporwaveを知った時もたいがい衝撃的ではありました)、そのVaporwaveの魔境の中に混じって、「何か違うものがある」ことに気づいたわけです。それがSynthwaveやOutrunとの出会いでした。基本的に私は業務用ゲームが好きな人間で、「Outrun」といえばセガの名作ゲーム、というのはもちろん常識として知っていましたが、それが全く別の世界のジャンル名になっていることに衝撃を受けたのです。ちなみにセガのアウトランは、もしゲームの歴史の教科書があったとしたら、遣隋使や鎌倉幕府と同じくらい確実にテストに出る重要なゲームです。

Outrunしてますか?

Outrunとは音楽であり、インターネットミームでもあります。音とアートワークと、あとはタイトルやアーティスト名のネーミングなど、その辺がミームを構成する要素として密接に関わりあいます。
まずミームとしての根底にあるのは「80年代」。サウンドについてもアートワークについても80年代的要素でがっちり固められている、というか、80年代というもの自体が手段であり目的であるという感じです。「80年代のキラキラしたデジタルなサウンド」、「青とピンクを基調としたネオン街っぽい風景」、「80年代のスーパーカー」、「メタリックでギラギラしたロゴ」、「ワイヤーフレームのCGで描かれた地面」、「ブレードランナーやAKIRAっぽいSF要素」、「ヤシの木」、「夕陽」、「エアロビクス」などがこのミームにおいてよく使われるシンボルです。

Redditを通してOutrunの現状を知る

私はこのOutrunという音楽およびミームをウォッチするためにRedditという海外の掲示板をちょくちょく見ています。Redditというのは要するに海外版の2chみたいなものという言われ方をよくされますが、似ているといえば似てるし違うといえば違う所です。Redditには2chでいうところの「板」のようなものがあり、SubRedditと呼ばれています。2chの板と違うのはものすごく種類が多く、かなりニッチなジャンルや話題についてもそれを語るためのSubRedditがあります。私がRedditを使い始めたときに当然VaporwaveOutrunのSubRedditを登録したわけですが、Redditでは自分が購読登録したSubRedditについては、どのSubRedditがいま活発なのかが画面上部で一目でわかるシステムになっていて(追記:2018年春ごろにRedditのレイアウトが変わってこれはデフォルトでは見れなくなりました・・・)、私がRedditを見始めた当初、OutrunとVaporwaveを比べるとVaporの方がはるかに活発度が高いようでした。しかし、長い間Vaporwaveの方が活発度が上でしたが、なんか去年あたりのある時期からOutrunの方が順位が上に来ていることに気づき、地味に驚きました。単純に現在の登録者数で比べるとOutrunは約15万人、Vaporwaveは約8万人となっています。
しかしこれは、音楽としてのOutrunが盛り上がっているというわけではなさそうで、どっちかというとミームとしてのOutrunが盛り上がっているのが実情ではないかと見ています。というのは、OutrunのSubredditではあんまり音楽の話をしていないからです。盛り上がっているのは主に絵や写真の投稿で、「Outrunっぽい絵を描いたぜ!」とか「Outrunっぽい写真が撮れたから見てくれ」というような投稿がもてはやされる傾向にあります。まあ、日本のTwitterとかを見ていても、音楽を作る連中より絵や写真を投稿する連中の方が注目を集めやすいのは世の真実のようです。
とは言え、音楽としてのOutrunやSynthwaveについて語りたい人たちには、NewRetroWaveというSubredditがあり、こちらは割と過疎ってはいますが音楽メインで新作のチェックにはこちらのほうが役立ちます。

Outrunを聴いている間は、21世紀に生きていることを忘れられる・・・

上で述べたOutrunやNewRetroWaveのSubredditに、去年の末くらいにOutrun/Synthwave/Retrowave Essential Album Chartと題された画像が投稿されました。これは大きな一枚の画像に、このジャンルにおける「必聴盤」の数々を網羅したものです。過去にはVaporwaveのSubredditでも同様の画像が何度か作成されました。
https://i.redd.it/gim6p3fi4b301.png
なかなか解像度のでかい画像ですが、興味のある人はこれを見れば何から聴いていけばいいのかわかると思います。
ジャンル的には大きく分けると「Synthwave/Retrowave」「Outrun」「Darksynth」の3つが大まかな流れです。

OutrunとSynthwaveの違い

この二つは、一緒くたに扱われていることも多いですが、まあその区別はあいまいな部分がいくらかあります。
音楽的には、OutrunやSynthwaveに共通ですが、基本的に「80年代に使われていたシンセサイザー」の音が使われます。DX-7とかD-50とかTR-707などの「デジタル」なシンセ(あるいはそれに近い音)です。アナログなシンセの音も使われますが、総じて「DX-7登場以前のあの時代の雰囲気」の何とも牧歌的な感じを再現するために使われます。
使われている音は大体同じですが、おおまかな違いは曲の雰囲気の問題。とはいえそこまで明確に区分されているわけでもないので作った人の気分的なものも含めて適当なジャンル分けでしょう。

OutrunとVaporwave

この二つは明確に違います。とはいえ、両方を聴いているマニアの人も多いと思われ、若干はクロスオーバーする部分もあるでしょう。しかし、門外漢的な人にとっては海外でもこの2つのジャンルを混同する人は結構いるようです。
ゲーム機をすべて「ファミコン」と呼んでしまうオッサンとか、あるいは暗号通貨や仮想通貨を全部ひっくるめて「ビットコイン」と呼んでしまうのと同じような感覚で、ナチュラルにOutrun/SynthwaveのことをVaporwaveと呼んでしまうことはそこそこあるようです。
混同されるのはたいていの場合、音楽というよりミームの部分でだと思います。ものすごく遠めに見れば似てるかもしれませんが、一つ一つの要素を見ていけば割と違うのは明白だと思います。ただし、若干オーバーラップする部分はあります。ヤシの木とかは両方で見受けられますし、Outrunの世界でもたまに「Aesthetic」という表現は使われます。あるいはもっと根本的に、独特なノスタルジー志向の部分が双方の根底にあるので、そこで混同される可能性もあるかもしれません。

今のところのサブジャンル

上で紹介したEssential Album Chartの作品群から、サブジャンル的なもの強いて挙げるなら、
Synthwave
Outrun
DarkSynth
の3つくらいに大別できると思います。

◆Synthwave

上でも述べたような、80年代に主に使われて、90年代以降に使われなくなったようなシンセサイザーの音をメインに使った音楽。別に80年代のシンセの音を使ってはいけないという法律はないけれど、それを使うと「どうしても80年代っぽくなる」という理由だけで使われなくなってしまった様々の音たち。でもそれらの音にも美しい音や気持ちのいい音は沢山あるので使わないのはもったいない!と思っているのかどうかは不明ですが、そういう音ばっかり使う人たちの音楽です。
全体的な雰囲気としては、まあ80年代的なんですが、80年代の映画のサントラ的な感じ、もしくはちょっとAORっぽいエレポップというような趣があるもの、ニューウェーブっぽいもの、なんとなくユートピア的で牧歌的、といったところでしょうか。

◆Outrun

Synthwaveと比べるとちょっとシリアスというかダークでクリミナルな雰囲気を醸し出しているものが多いです。80年代のSF・ホラー映画のサントラ、あるいはメガドラのゲームのタイトル画面のようなもの、サイバーパンク、ディストピア的、といった志向があります。
どうも海外の連中はサイバーパンクというものをノスタルジーの対象としてみている節があるのですが、それはおそらく子供の頃にブレードランナーとかAKIRAを見たからではなかろうかと思います。私はそういうサイバーパンクのバックグラウンドが全くないのでその辺の感覚はわからないですが、
たとえば「ネオTOKYO」みたいな感じで、夜の都会のビル群に乱雑なネオンサインの看板がひしめいているような、そういう景観が思い浮かぶようなものが好まれます。

◆DarkSynth

3つのジャンルのなかで、最もダークでハードで邪悪なサウンドです。まあ、上のEssential Album Chartに挙がっている作品群を見て一言でいえば、「Hotline Miami組」です。
使われている音としては、上2つと共通するものがありますが、あまりノスタルジー的な要素は薄めです。そういう意味で上の2つとは若干異質。メタルっぽいとも形容されているのを見たことがありますが、どっちかというとエレクトロニック・ボディ・ミュージック以降のインダストリアルに近いものがあるのではないでしょうか。一昔前のB級映画や洋ゲーのサントラには、EBMやインダストリアル・メタルの影響下にあるものが少なからずありましたが、海外の若い世代には子供の頃にそういった作品からその成分を知らず知らずのうちに摂取していた可能性はあるかと思います。
それにしても「DarkSynth」ってなんとも雑なジャンル名ですね。日本語にすると「暗黒シンセ」ってところでしょうか。「暗黒ギター」とか「暗黒ドラム」とかそんなジャンルありえないでしょう?でもまあ「Synth」ならありうるのでしょう。多分。
例えば「エレクトロニックミュージック」とか「電子音楽」と書くとそれなりに立派な感じがしますが、「シンセ音楽」って書くと何とも腰砕けな感じがします。おそらくですが、海外の人たちにとっても「Synth」というのは若干そういう語感なのではないかという疑念がちょっとあります。

Outrunの神話世界

インターネットミームは、時として神話を持ちうる。Outrunもまた例外ではない。そんなOutrunの神話たちがこれ。

◆Kavinsky

これはすべての出発点でしょう。2012年のアルバム、タイトルもズバリ「Outrun」。赤いフェラーリテスタロッサとスタジャンを着てたたずむKavinskyの姿を写したジャケット。そして言わずもがな、そのサウンド。
ただ単に80年代っぽいとかレトロとかそういうのだけではなく、一つのスタイルを作り上げてしまったという金字塔です。

◆Drive

2012年公開、ライアン・ゴズリング主演の映画。正直私は映画をあんまり見ない人間なので特にコメントはないが、Outrunの人たちはこの映画が大好きである。劇中歌にKavinskyの「Night Call」が使われています。
あと、CollegeのA Real Heroという曲も使われていますが、RedditのOutrunのSubRedditにあるアクセスカウンターみたいな奴の表示は15000 real human beings, 400 real heroesといったような表記になっていて、これはこの曲の歌詞から来ています。正直分かりにくい所にネタを仕込んどるな、と思います。

◆HotlineMiami

80年代のマイアミを舞台にした、なかなかカルト的な支持を得ているゲームです。steamとかで買えます。2作目まで出ています。
ゲームとしては思いっきり洋ゲーであり、思いっきりインディーズゲーム、そして高難度でハードコアなゲームなので、決して万人にお勧めできるものではありませんが、そのようなハードルを越えてしまう人達にとっては非常に味わい深いゲームです。
サントラにOutrun/DarkSynth系のアーティストを多数起用していて、それがまたゲームの内容に上手くはまっています。

◆Kung Fury

Youtubeで公開されている短編コメディ映画。 昔のセガ、カプコン、SNKのアクションゲームの舞台設定をそのまま拝借したような、カンフーの使い手の熱血刑事が活躍するギャグ映画です。
主題歌はデビッド・ハッセルホフ(ナイトライダーの俳優)が歌う「True Survivor」で、この曲はMitch Murderが作曲していて、まさにOutrunの王道を行く直球のキラーチューンです。

Outrunに気づいてしまった人たちへ

ここまで長々と書いてきましたが、よくよく考えると日本で普通に暮らしていてOutrunを知ることは今の現状ではかなり可能性が低いのではないかと今更ながらに思いました。私の場合は、Youtubeで半日ほど未知の世界をパトロールしていた時に偶然見つけて今に至るわけですが、多分、今の日本でOutrunというものの存在を知るにはいくつかの偶然が重ならないと知りえないのかもしれません。まあでも、もしかしたらたまたまなんかのきっかけでOutrunというものの存在に気付いてしまう人もいるかもしれないので、そんな人たちが「これは何だろう?」とググった時のためにこの文章を書いてみました。そんな感じで読まれたならば幸いです。

まあ、「海外でこんなに大人気!乗り遅れるな!」と言えるようなジャンルではなく、あくまでインターネットミームとしてのおふざけを立脚点とした、一部の好事家に受けているニッチな世界です。

このnoteでは、この手のジャンルの作品から私のピックアップしたものを不定期で紹介しています。私の文章を書くスピードが遅いので更新は少なめですが、ちょっとずつ記事も溜まりつつあるので興味のある人は過去の記事もチェックしてください。