MASTER BOOT RECORD 「Direct Memory Access」

MASTER BOOT RECORDというアーティストの、「Direct Memory Access」というアルバムです。MASTER BOOT RECORDって、最初はレーベルの名前かと思ったのですが、どうもこれがアーティスト名のようです。後述しますが、このアーティスト名といいアルバム名といい、非常にググりにくい名前です。

それにしても、「またとんでもない音楽に出会ってしまった…」というのが第一印象です。
一言でいえば、「打ち込みシンセメタル」でしょうか。なんじゃそらと思うかもしれませんが、これでほぼ言い表せてると思います。
何から説明したらいいのか分からんような、なかなかの曲者なんですが、私のように興味本位だけで音楽を聴いている人間からすれば、こういう音楽との出会いは面白いけども、そうでない人間にとっては多分厳しいと思います。(そうでない人間ってどんなんだ?義務感で音楽を聴いてるとかか?)

ジャンルとしては、DarkSynthの流れの上にあると思うんですが、しかし実際はこれはヘビメタです。正確に言うならば、「使っている楽器以外は完全にヘビメタ」です。使っているサウンドは、FM系シンセベース、PCM系ドラムマシン、そしてFMシンセによると思われる疑似エレキギター、といったところです。ベースとドラムに関してはほぼSynthWaveやDarkSynthと変わりありません。ギターについては、DarkSynthではシンセをディストーションギターっぽく鳴らす事は多々ありますが、MASTER BOOT RECORDは一歩踏み込んで、さらに本物っぽくギターに近づけることに心血を注いでいるようです。

つまり、実物のギターやベース、ドラムが無くてもヘヴィメタルが作れる、ということを証明してしまっています。ただ、それを証明してどうするのか?ということについては考えないことにしましょう。

古くはゲーム業界において、FM音源とPCMだけでハードロックやヘヴィメタルを再現しようとする試みはありました。それはただ単に、その当時のゲーム機に搭載されているFM音源でどうにかして曲を鳴らすしか手段がなかったからそんなことをしていたわけですが。
例としては、メガドラの「サンダーフォース4」が有名です。その他にもピンボール機ですが「ブラックナイト2000」という機種があり、このBGMはFM音源のギターサウンドによるFMロックンロールで、検索すれば動画が見れると思います。実物は見たことないですが、ピンボール台からこれが流れると思うとなかなか最高です。これらに比べると、MASTER BOOT RECORDのサウンドは、音数や音質に制限のない状況で作っているはずなので、よりゴージャスでリアルなメタルサウンドになっています。

で、このDirect Memory Accessというアルバムをレビューするに当たって、一つ問題があります。それは、私があんまりヘビメタに詳しくない、ということです。私としては、自分は多少はヘビメタを聴くこともあるという認識でしたが、でも自分がヘビメタだと思っていたのは実はインダストリアル・メタルだったという、なんとも中途半端な知見しか持ち合わせていません。
ストリーミングで定額聴き放題のサービスに加入したときに、せっかくだから今まであんまり聴いたことのなかったジャンルを聴いてみようと思って、いろんなヘビメタのバンドを聴いて回ったことがあるのですが、その時分かったのは、自分的に聴けるメタルと、割と苦手なメタルがあるということでした。そして、このDirect Memory Accessは、どちらかというと苦手な方のメタルに近いテイストを感じました。ただまあ、私にとって苦手なタイプのメタルというのは、世間一般のメタル好きにとってはむしろ正統派のようなのでいいんじゃないでしょうか。具体的には速弾きギターが物悲しいメロディでピロピロしていてハイトーンなボーカルが歌い上げているようなやつですね。このDirect Memory Accessに関しては、物悲しいピロピロはありますが、ハイトーンなボーカルは無いので、自分的にはまだ大丈夫です。ボーカルは何というか、ラムシュタインみたいな歌い方です。
ただこのアルバムにおけるこのギターソロのような音は、よく聞くと昔のゲームのBGMのような雰囲気を出しているんですね。雰囲気というか、曲によってはゲーム音楽そのものです。昔のRPGの終盤のダンジョンみたいな雰囲気というか。随所にチップチューン的な音とか高速アルペジオのような音が入っているので、これは意図的にそうしているんでしょう。なのでDarkSynth + ヘビメタ + ゲーム音楽という三つの柱で構成された作品と言えるでしょう。
メロディーはともかく、リフについては、FM音源の気持ちよさと、メタルのギターリフの気持ちよさがいいとこどり的な感じになっており、これは可能性を感じます。見方を変えれば、EBMとインダストリアル・メタルのいいとこどりと見ることもできるかもしれません。

さて、「Direct Memory Access」というタイトルについても触れなければいけません。というか突っこみどころが多くて書くのが疲れてきました。
字面だけを見ると、ダフトパンクのRandom Access Memoryに引っ掛けたのか?とも思いますが、曲名のリストを見るとちょっとそれどころではなさそうです。Direct Memory Accessというのは、DMAと略されますが、要するにコンピュータのメモリ上のデータを周辺機器などに高速に転送できる仕組みです。メモリというのは・・・・と解説していくときりがないので詳細はググってもらうしかないのですが、要するに昔のパソコンのプログラマにとっては親しみのあったであろう技術的な専門用語です。

Bandcampで曲目を見てもらえばわかるのですが、このアルバムの曲にはそれぞれDMA 0~DMA 7までの番号が振ってあり、それぞれに割り当てられた周辺機器の名前がついています。この周辺機器の名前を見る限り、相当年季の入ったパソコン(マイコン?)のようです。
ふつう、曲にタイトルを付ける場合は、その曲のイメージが分かるようなものにすると思いますし、ヘビメタであればなんかおどろおどろしい言葉をちりばめたタイトルが必須だと思いますが、そのような意図は微塵も感じられず、謎のコンセプト感を押し出しています。この部分に関しては、ある意味でテクノ以上にテクノです。ちなみに、過去の作品も大体こんな感じです。
正直、マジでやっているのかネタでやっているのか判断しずらい作風であるだけに、このようにタイトルでネタ感を漂わせることで、あくまでネタであることを提示しているか、あるいは実際にはマジでやっているけどもネタということにするための逃げ道を用意しているか、といったところかもしれません。

実際のところ、ガチでヘビメタが好きな人にこのアルバムを聴かせた場合にどういう反応をするのか知りたいという怖いもの見たさはあります。まかり間違ってバーンのレビューでこのアルバムが扱われたらどうなるんだろう?多分、-2点とか弾き出してくれそうな気がします。

なんだかんだで結局「こんなもん、奇をてらってるだけじゃないか」と思われるかもしれませんが、「奇をてらい切っている」というか、しっかりとやり切っている所は積極的に評価していきたい次第です。