月刊Synthwave生活 2022年4月号

このシリーズでは、だいたい月1を目標にSynthwave、Outrun、Darksynth、Chillsynth等の作品のレビューと言うか紹介をしていきます。
毎回この記事を書く上で、エレポップという言葉をついつい使ってしまうのですが、なんかキーボードで「えれぽっぷ」と打って変換しようとすると、常に「エレポン化工機」という変換候補が真っ先に出てくるのですが、これは何なんでしょうか?気になって調べてみたところ、会社名のようです。大阪にあるんですね。堺市とか行ったことが無いので何とも言えないです。まあエレポップと言う呼称は、昔から呼び方が安定してないみたいで、テクノポップとかシンセポップとかエレクトロポップとか、あんまり統一されてないというのが前から気になってたんですが、何なんでしょうか。
というわけで、今月もレビューの方に行きましょう。

Kavinsky - Reborn

ジャンルの名前にまでなってしまった前作「Outrun」から9年、このシーンにおける象徴ともいえる存在であるKavinskyの待望の新作。とはいっても9年も開いてるしどうなんだろうかな?と思いながら聴いてみたら、思ったよりSynthwaveなサウンドだった。そして思ったよりもポップ。Kavinsky自身は自らの音楽について「Synthwaveと呼ぶな」と言うような事を言っていたらしいが、それはまあ、アンドリュー・エルドリッチが「ゴスと呼ぶな」とかラルクアンシエルが「ヴィジュアル系と呼ぶな」と言ったりするのと同じ現象だと思われる。前作は、現在の感覚で言うとDarksynthとも言えるようなヘヴィな音だったが、今作は結構ポップである。そして一聴して思ったのは、音が良い。格の違いが音の良さに現れている。あくまで80年代の音へのこだわりはぶれていないようで、やっぱりデジタルシンセ系に代表されるようなクリアで鋭い音が好きなんだろうと思われる。その音がこのハイファイな音質で生きてくる。このアルバムを聴いて、改めてSynthwaveと言うのは、シンセの音色による魔術なのだと実感した。この音でなければという必然性を感じる音に出会えるかどうか、そういう音が的確に選択されているかどうか、というのがこのジャンルの肝だろう。

Windows96 - Empty Hiding World

今回もWindows96サウンドが全開なアルバム。前作からはそれほど間をあけずにリリースされたが、多分制作意欲が絶好調なんだろう。いつも思うがこのWindows96の音楽はどういった音楽に影響を受けてこういう作風になったのかが割と謎である。もっとも私の音楽知識は偏っているので、私が知らないだけでみんなが知っているような分かりやすい影響元があるのかもしれない。一つ思うのは昔のYMOとか坂本龍一とかその辺に近いのかな?という事だが、私はその辺の音楽をそれほど聴いていないので断定はできない。

Ultraboss - Yachtmaster

ロック寄りでギター多めのSynthwaveを手掛けてきたUltrabossの新作は、タイトルが示すようにヨットロック・AOR系の曲を入れてきている。しかもかなり本格的だ。非常に的確に80年代の音楽をやり切っている。とはいえSynthwaveなのでシンセの部分にも抜かりはない。80年代エレポップとAORのいいとこどりのような作品。どの曲もクオリティが高い。いわゆる捨て曲なしというやつ。

Daniel Deluxe - Ghostrunner Project HEL

ゲームのサントラ。ゲームの本編ではなくDLCで追加になった部分の曲の模様。ちなみに私はこのゲームをやっていないのでどんなゲームかちゃんと知らない。本編の方のサントラも手元にあるので、多分そっちの方もレビューを書いたはず。ゲームをやってないのにサントラが2つもあるのはどうしたもんか…。サウンドの方は直球のCyberpunkで、EBM的なゴリゴリしたシンセのシーケンスが軸になっているが、奥行きを感じさせる展開もあって良い感じ。

Trevor Something - The Death Of

Trevor Somethingの新作は、なんとも不穏な感じを抱かせるタイトルで、曲名にしても大丈夫か?と思うような、本人の精神状態が心配になってくる言葉が並んでいる。元々ベタなSynthwaveを作るようなアーティストではなかったが、今作は一層バンドサウンド的な音楽になっている。といっても全部自分で演奏してミックスしているようだが。でもやっぱりDepeche Modeを感じさせる部分がいくらかあって、その辺はやっぱりTrevorらしいと思う。80年代のエレポップとかDepecheとかそういうのばっかり聴いていた層にとっては、Synthwaveの出現はある意味救いだったのかもしれない。

FUJII - Spirit Anthem

Chillsynth系は相変わらず沢山リリースされているが、その中でも特筆すべき部類に入るであろうFUJIIの新作。Chillsynthは誰でも作れそうだし誰が作っても同じような出来栄えになりそうに思えるかもしれないが、やっぱりそういうジャンルだからこそ、センスの差と言うのが大きいのではないかと思われる。つまりレビューを書く上で、これは良作だという事を表現しようにも、他との違いを文章化するのがなかなか難しいのだ…。

DEADLIFE - Tortured Waters

引き締まった強靭な肉体のようなDarksynth。地盤のように強固なFMシンセベースが全体を支えているこの感じがやっぱ素晴らしい。このジャケットのアートワークは、最近こういう感じのをちょくちょく見かけるような気がするが、どうやってこういうのを作るのか割と気になっている。VHSっぽい感じを極端にしたような画像。ちなみにこのアートワークのクレジットはToneboxとなっている。