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2024年のインターネット音楽についての覚書

今回の記事は、よくわからないものをよくわからないまま紹介する感じになりそうです。
新しい音楽を探索するときはYouTubeでいろいろ流し見することが多いのですが、その過程で出会った、最近台頭していると思われるよくわからない音楽をこの記事でつらつらと紹介していきます。

かなり雑多な記事になると思いますが、あまり系統立ててジャンルで括るもんではないような気がします。というか、「これは○○というジャンルで、○○が特徴です」みたいな感じで書いてしまうのはなんか敗北感があるのです。これから紹介するものは、ジャンルというよりかは、タグとかキーワードに近い側面があるかもしれません。例えばBandcampとかのタグは、アーティスト側が設定するし、リスナー側が検索する上でも利便性があるので、今後ジャンルよりタグ的な考え方のほうが重要になってくるかもしれません。

「この音楽は○○というジャンルだからこれこれこうだ」というような先入観なしで読んでもらえたらと思います。別に私は「ジャンル警察」とか、「新ジャンル驚き屋」みたいな行為をしたいわけではないです。これから紹介する音楽は、別に音楽雑誌とかレコード会社が旗を振っているわけではないので、誰かがジャンルの定義を責任もって決めているわけでもなく、ジャンル名が音楽に箔をつけているわけでもありません。

前置きが長くなりましたが、とりあえず今回の記事は「インターネット音楽」という漠然とした言い方をタイトルとしました。これらの音楽をひっくるめて言い表す適切な言葉は知らないし、思いつかないので仕方なくこういう言い方にしました。「ミーム音楽」という言葉も検討しましたが、それは一つの側面ではあるもののなんか誤解を招きそうでちょっと違うと思いました。後世ではもっといい感じの名前がついているかもしれませんし、付いてないかもしれません。

(Drift)Phonk関係

なんだかんだでまだまだ勢いのあるPhonk系から行きましょうか。Phonkもまあジャンル名に混乱のある音楽です。でも正統性はなくとも今現在なんか妙な勢いがあるのはロシア勢のDrift Phonkの系統でしょう。なんだかんだで、「Phonk」といえばDriftPhonkの事を指すという具合にほぼなっています。とりあえず、現在YouTubeとかSpotifyでPhonkとして出てくる曲が現在のPhonkと捉えるしかないでしょう。もしかしたら来年には全然違う音楽が「Phonk」と呼ばれているかもしれません。そういう意味ではやっぱりジャンルというよりタグに近いかも。

Spotify公式のPhonkプレイリストがこれです。

ほかにもYouTubeを見ればいくらでもPhonkのMix動画は出てきます。YouTube上の盛り上がりだけをみて適当に言ってしまいますが、Drift Phonkはそれなりに時代が求めている音なんだろうと思います。

YouTubeのMix動画では「○○Phonk」とか「××Phonk」といったタイトルがよくありますが、これは派生ジャンルという感じではなく、やっぱりタグとかキーワードみたいな感覚で適当につけてるだけと見たほうがよさそうです。

Phonk系のシーンにおいては、アルバム単位で作品を作る/聴くという意識が殆どないようで、もっぱら曲単位で聴かれているようです。
さて、そもそもDriftPhonkのドリフト要素はどこから出てきたんでしょうか?前々から気になっていたんで調べてみましたが、わかりませんでした。いかがでしたでしょうか。
しかしこのドリフトの要素の持つミーム的な意味合いがPhonkをPhonkたらしめているのかもしれません。
まあ10年前のOutrunから、Driftへと主戦場が移り変わったので、着実に時代が進んでいる感じがしますね。

METAMORPHOSISとその亜種

INTERWORLDという人のMETAMORPHOSISというPhonkの曲がありまして、Phonk界で一世を風靡したんですが、

この曲の続編みたいなナンバリングされた曲がいくつかあります。

なんかもう虎舞竜のロードみたいですね。FAN MADEとか書いてあるので別の人が作ったものも入っているっぽい。1と2はオリジナル作者のINTERWORLDが作っているようですが、それ以降はなんか怪しいです。別の人が作っていたとして、ちゃんとオリジナル作者の許可を得ているのかどうかは知りません。多分勝手に作ってるんじゃないでしょうか。ほとんどミームみたいな扱いだと思います。

METAMORPHOSISは基本的にはPhonkの曲ですが、一般的なアグレッシブでゴリゴリなPhonkとは一線を画した、(Phonkにしては)優雅でエレガントな作風の曲です。雰囲気的にはHomeのResonanceに近いものがあります。そしてMETAMORPHOSISに影響を受けた、同じような作風の曲が続々と作られて、これはこれでPhonkから派生した新しいジャンルとして成立しそうではあるんですが(HomeのResonanceからChillsynthが生まれたように)、特にこれといったジャンル名は定着してないようです。なんだかんだで「Phonk」でひとまとめにされてる感はあります。MIX動画ではAtmosphericPhonkとかChillPhonkといったタイトルがついてるものもありますが、この先定着するのかどうかは知りません。

やっぱりHome - Resonanceの影響がありそうな曲が散見されます。Phonkの手法でChillsynthの雰囲気を作りだしているというか。

曲の雰囲気だけではなくて、サムネイルの画像も「スポーツカー+女の子」の写真というフォーマットが踏襲されていて、ミーム的な盛り上がりが伺えます。

これはS L A Y E RのHyadesという曲ですが、「Super Slowed」から「Super Speed up」まで5段階の再生速度の動画がアップされています。お好みのスピードで聞いてくださいといった感じでしょうか?再生速度の決定権をリスナーに委ねてしまってる形ですね。個人的にはこれはSlowedのバージョンが好きです。ゆっくりにするとほとんどChillsynthみたいになります。

あとは同じような括りに入れられている曲として、Memory Rebootという曲があります。VØJとNarventという人による共作で、どちらもロシアの人っぽいです。音楽のスタイルとしてはSynthwaveだと思うんですが、ほとんどPhonkと同じ扱いでMETAMORPHOSISに近い曲として認識されているようです。SpotifyのPhonkプレイリストにもちゃっかり入っています。その辺はやはりジャンルとしての適当さがありますね。


Rally Phonk/Rally House

何でしょうかこれは?ミーム感と勢いだけで作ったようなジャンル名。もはや音楽ジャンルはその場の思い付きで作る時代へ。
PhonkとHouseとラリーが合体したような感じですかね。PhonkとHouseはわかるが、ラリーはどっから湧いてきたのか…?
まあでもなんというか全然遠慮のないハウスで素晴らしいですね。私はこういうのは大好きです。

なんでラリーカーがドリフトしている映像を見ながらハウスを聴く必要があるのかわかりませんが、ひたすらミーム的としか言いようのない現象です。久々にドリームキャストを引っ張り出してセガラリーをしたくなります。
2分足らずで終わってしまうのも良いですね。まあ今時のインターネット音楽は大体そんな感じです。

やっぱりDriftPhonkからの流れなんでしょうか。Phonkからの派生であることは多分間違いなさそうなんですが、どのような過程を経てこうなったのかは現時点では分かっておりません。

もしかしたらMachine Girlとかの影響も受けているかもしれないとちょっと思いましたが、この人たちがMachine Girlを聴いているかどうかは知りません。

Brazilian Phonk

なぜか知らないけどもブラジルにもPhonkが飛び火しているようです。ブラジル音楽のことはよくわかりませんが、確かにリズムとかがブラジルっぽい感じがするような気がします。

現在はSpotify公式のPhonkプレイリストにもブラジリアンなPhonkが散見されます。
なぜロシアからブラジルにつながるのかよくわかりませんが、BRICSとか言うくらいなのでそのうちインドや中国も参戦してくるんじゃないでしょうか。

Witch House

Witch Houseは、Vaporwaveが日本で紹介され始めたころ(2012年位?)にSeapunkと共に「Vaporwaveと近縁の何か」として紹介されていた形跡があるようなのですが、その当時の「新ジャンル驚き屋」みたいな人たちに言及されたきりでほぼ忘れ去られて消えたジャンルかと思っていました。しかし最近知ったのですが、どうもロシア辺りではずっと生き残っていたようです。前々から気になっていたのですが、ロシアのいろんな音楽を探っていると時折Witch Houseの名前がちらほら出てくるのです。
一応WikipediaにはWitch Houseの由来などについての記事がありますが、たぶん今のWitch Houseとの関係は希薄なような気がします。ロシアに渡った上に10年ほど経過してるのでだいぶロシア化されてそうです。今回Wikipediaを見て初めて知ったのですが、ジャンル名の由来自体がジョークだったんですね。「マイクロジャンルを作りたがるマスコミの性向を冗談としてまねた」という下りは共感できるものがあります。

WITCH-HOUSE.comというサイトがあり、おそらくここにはまとまった情報がありそうです。

ここにはWithHouseの年表があり、2005年から始まっているので本当だとしたらVaporwaveより歴史はちょっと長いようです。Wikipediaの記事より詳しいんじゃないでしょうか。(個人的にはWikipediaの音楽ジャンルについての記事はあんまりあてにしてません)
あんまり詳しく見てないですが、Witch Houseに関しても源流とロシア系では何かしら隔たりがあるかもしれません。ただオカルト要素についてはずっと共通しているようです。

映像の見せ方はオールドスクールなVaporwaveの影響がうかがえます。

なんか"Na zare"のサンプリングとかt.a.t.uのリミックスとかが入ってますね。t.a.t.uのロシア内での立ち位置がどんなもんなのかよくわかりません。しかしロシア人はずっとNa zareを擦ってますね。

音を聴いている限りは、昔ながらのDarkwave、Goth、EBMとかの残党の残党みたいな印象を受けます。あとは若干Phonkっぽいところも見え隠れしますね。同じロシアなので多少はつながりがあるのかもしれません。

WitchHouseのルーツに関わってるんじゃないかと思われるアーティストに、Crystal Castlesがあります。YouTubeのおすすめ動画にずっと出てくる常連なんですが、特に人気のある曲がこれです。

Crystal Castlesの曲を聴いてみると、なるほどこれは後のWitch House勢に影響を与えてそうな感じです。IC3PEAKとか Mr.Kittyもこの影響下にあるような気がします。特にIC3PEAKの歌の歌詞にもKEROSENEという言葉は出てきますし。

Keroseneの、「ベスト部分」をスローにしてループさせただけの動画。なるほど、ここがベストパートという認識なんですね。

KeroseneとAudiの車を関連付けたミームと思われる動画がいくつかあるのですが、発祥がわかりません。何でしょうかこれは?やはりなんかTikTokがらみのようですが・・・


Ambient Jungle / Atmospheric Drum&Bass

これもなかなか定着したジャンル名がないというか、まあ名前の通りアンビエントにブレイクビーツを入れた音楽です。Bandcamp上ではタグにAmbientとかAtmosphericとかJungleとかDnBとか入れとけば伝わるので、あんまり固有のジャンル名を定める必要がないのかもしれません。そういう意味で言えばやっぱりジャンルというよりタグですね。まあ昔から存在するものを今あえてやっているので、新しいジャンルというわけでもないです。

一言でいえば、90年代末~00年代初めごろのゲームのBGMの雰囲気を再現したドラムンベースです。
このシーンの立役者はやはりPizza Hotlineの「Level Select」(2022年)でしょう。

これに先立つ2020年にはBAKGROUNDの「BUMPS 'N' BREAKS」という作品もあります。曲のタイトルの付け方と言いコンセプトはほぼ同じです。

共通点としてはどちらもDream Punkのレーベルから作品を出していることですね。Dream PunkはVaporwaveの派生の一つで、要するに2814「新しい日の誕生」みたいなダークアンビエント色の強い一派です。Pizza Hotlineも過去の作品ではいかにもDreamPunkなダークアンビエントや、さらにはもっとベタなVaporwaveの作品を作っていたようです。
もともとPizza Hotlineは別の名義でダブテクノをやっていた人らしく、ダブテクノやVaporwaveを通過してこのようなアンビエントなドラムンベースに至ったというのはなかなか興味深い所です。

YouTubeでは4AM Breaksというアカウントがこの手の昔のドラムンベースのMIX動画をたくさんアップロードしていて、個人的にはテレワークをやってた頃にこの辺の動画を流しながら仕事をしてた記憶があるので、多分2~3年くらい前から盛り上がり始めたように思います。

現在YouTube上には似たような内容のMix動画が雨後のタケノコのようにたくさんあるのですが、Pizza Hotline自身もMix動画を作っています。

Pizza Hotlineはドラムンベースだけでなくて普通のアンビエントの曲についても当時のゲーム音楽のMixを作っています。

しかしこの動画の1曲目は、「モーショングラビアシリーズ MEGUMI」というPS2のソフトのBGMですが、どうやってこんな誰も知らないようなソフトを見つけてくるんでしょうか。しかもなかなかいい曲なのがやばいです。やはりすごいミュージシャンというのは貪欲に音楽を聴いていて、どっからでも名曲を探し出す能力を持っているんだろうと思いました。

Barber Beats

Barber BeatsもVaporwaveから派生した一派ですが、今でも割と根強く人気があるようで、Vaporwave系ではなんだかんだで最も勢いがあるんじゃないでしょうか。というか最近は昔ながらのベタなVaporwaveもあんまりないような気がします。その中にあってBarber Beatsは今でもリリースが多く、YouTubeでもBandcampでも存在感を示しています。

基本的にはhaircuts for menという人の始めたスタイルを踏襲して、本当にサンプリングした曲をそのままピッチを落としただけのようですが、その特色は実はジャケットとかタイトルにあるんではないかという気もします。まあジャケットの絵も大体無断使用っぽいですが、そのチョイスと、独特の色使いに加工することで一目見ただけでBarber Beatsとわかるジャケットになり、それがサムネイルとしてYouTubeの画面に並ぶわけです。

Barber Beatsは基本的にアルバム単位で聴かれているようです。多分ジャケットの絵とアルバムタイトル・曲タイトルが全部セットになって一つの作品なんだろうと思います。前は変な日本語のタイトルが多かったような気がしますが、最近はなぜかアラビア語とかのタイトルも増えているようです。多分意味は無いと思います。

なぜBarber Beatsが今でもそこそこのペースで作られ続けているのかというのを考えると、たぶん作るのが簡単という面もありそうですが、それ以上に需要があるからではないかと思います。YouTubeで音楽を聴く時って、だいたいBGM的に聴き流したい時にYouTubeを使うことが多いんですよ。そういう時にYouTubeを開くと、おすすめ動画に如何にもBarber Beatsですというようなサムネイルが出てくる。そしてついついBarber Beatsを聴いてしまうと。そういう構図があるんではないでしょうか。


というわけで、いろんな音楽を見ていきましたが、今回の記事は割とロシアに寄ってしまった感があります。なぜロシア産の音楽がインターネット上の空間で勢いがあるのか、確かなことはわからないのですが、とにかくあの国で音楽制作をしている層が分厚いのではないかと見ています。あと、かなり年齢層が若いように思われます。MetamorphosisのInterworldは23歳らしく、Nerventに至っては19歳となっています。あの国では上層部は戦争とか暗殺とかテロで忙しい反面、若い人々は意に介さず自分のやりたいことをやってるのかもしれません。

さて、これらの音楽を見ていて思うのは、どうにもこうにも文脈の無さを感じます。Phonkが進化していきなりラリーとハウスの要素が湧いて出たり、とか。やっている本人たちには何かしらの文脈があるのかもしれませんが、受け手のところに来た時にはその文脈が抜け落ちているというか。Twitterの海外のミーム画像アカウントで、「No context」とか「Out of context」とかそういう名前のアカウントがいくつかありますが、インターネットのSNSなどではただひたすら細切れにされた情報だけが流れてきて、前後の文脈は抜け落ち、そして文脈がないがゆえにどこまでもナンセンスな面白画像が生まれ続けるという仕組みがあるように思います。その「No context」という表現は、和製英語でいうところの「シュール」と同じような意味合いで人々に捉えられている。初期のVaporwaveでは、変な画像や言葉をなんの文脈もなく急に提示するというシュールな芸風が多かったと思いますが、その辺の文脈の無さが脈々とこの辺の音楽にも多かれ少なかれ受け継がれているように見えます。

音楽の進化の仕方が、ネットミームのそれと同じような動きになってきているんでしょう。ミームと同じようにすぐに変異して元ネタや文脈が失われがちになる。みんながよく使っているミームでも、元ネタの発祥を知らないまま使っていたり、Twitterのトレンドに上がってきたキーワードも、トレンドになった時点ですでに発端がわからなくなってたりすることがよくあります。今回の記事で紹介したのは、そういう時代の真っただ中で制作され消費されている音楽です。

どうでもいいですがGoogleで「WitchHouse」を検索していたところ、検索ワードのサジェストに「音楽 ジャンル 一覧」というワードが出てきました。もし世の音楽を網羅した一覧があったとしたら、読み終わるまで何年かかるんでしょうか。読んでる最中にもどんどんジャンルが増えるので一生かかっても無理そうです。
よく考えたらジャンルというのは、音楽制作をする人とか制作手法を知りたい人以外にはあんまり必要ないものかもしれません。まあ正式なジャンル名を制定するなら、後世から振り返った時でもいいんじゃないでしょうか。現在進行形のムーブメントは、どう変異するかわからないので。