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正しいパンの厚さがわからない


思い出したように、苺ジャムが人気です。

この苺は4月初旬に見つけたものですから、もう作ってから一ヶ月以上が経つわけです。もともと、花見会を開くときにロシアン紅茶を作ろうとして仕込んだものでした。それが瓶詰めになっていまのいままで冷蔵庫で眠っていたのです。


そしてつい昨日、弟がイギリス食パンを食べようと冷蔵庫を探り、ジャム瓶を見つけてからもう大変な様子です。食パンとジャムが相対的なリズムを持って減っていっています。


私としては、ジャムが残ってしまわないことや、ジャムパンで朝食を済ませてくれることはとてもありがたいですが、同時にすこし手間も出てきました。


なんと、食パンのスライス係に任命されているのです。


食パンを切って、と言われたときには驚きました。それくらい、自分でやればいいじゃないかという私に家族は言います。


ジャムを作った張本人でないと、正しいパンの厚さはわからないものだ。


はて、何のことだろう。弟が言い出したのでくわしく尋ねてみます。
どうやら、ジャムの食感や風味の濃さで、いちばん合う食パンの厚みがだいたい決まるのだとか。私がどのくらいの厚みを想定して味付けをしたのかが彼らでは分かりかねると主張するのです。


私はそんなものはなにも狙っていません。助けを求めようとすると、夫も深く頷いています。母はさあどうぞ、と言わんばかりにまな板の上に食パンを置きました。おばあさんは

待ってるね

と言いながらコーヒーを飲んでいます。


彼らの口ぶりを見ていると、どうやら面倒くさいから私に押し付けているわけでもないようです。8枚切りなのか、5枚切りなのか、はたまたその間なのか。

そんな様子で見守られると、知るか、とパン切りナイフを放り投げてしまいたくなります。


少し悩むふりをして、これくらいでいいだろう、というようにナイフを入れました。
4枚スライスをしました。そして、面倒だから一気に切っておこうとしました。そうすれば、各々が袋から取り出しささっと塗って食べられるわけです。


すると止められました。パンが乾くと言うのです。どうか、パンを塊のままにしておいて、食べるときにその都度切ってほしい。そう懇願されました。


直火で表面をきつね色に焼き、バターを塗ります。バターが溶けきらないうちに苺ジャムをのせ、混ぜるように塗りたくるとところどころピンク色になって綺麗でした。


赤の絵具と白の絵の具を混ぜると、ピンク色になる。

女の子はいつ、それを学ぶんだろう。そんなことをふと思いました。年齢にしておそらく幼稚園児かその前。先生に教えられた記憶はありませんから、誰かがやっていたことを真似ていたのだと思います。


少し経つと、青と黄色を混ぜると緑になる、ということも覚えます。がやはり、女の子たちは皆ピンクに夢中でしたから、あえて面倒をしてまで緑をこしらえている人はいませんでした。


大人になってから、ある男性と話したことがありました。その方は、少年のころは青や緑などを好んでいると思い疑うことはしなかったが、大人になってから妙にピンク色が気になるのだと言いました。


スマートフォンのケースも、本当はショッキングピンクにしたいくらいなんだよ。見るだけで元気が出る気がする。


そういって、深緑のケースを見つめていました。本当はベッドシーツもバスタオルも全てピンクにしてみたいが、家族が何というか、と気にしている様子でした。


そこで弟と夫に、その色をどう思うか、聞いてみようと口を開きましたがすぐ諦めました。パンの上のピンク色はもうすっかり消え、食後のコーヒーをすすっているところでした。




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