見出し画像

ひとり、知らない人に花束を贈る〜続編〜

また、一人、花束を作っている。朝起きて、外は雨で、それでも花束を作っている。朝は緊張して、5時前に目覚めてしまった。雨はどんどん強くなる。仕方ないので傘をさして、畑にみにいく。


私は月に2度ほど、ジモティーで知らない人に花束をあげている。ただ、いらないからあげるよ、っていうんじゃなくて、プレゼントみたいなのがジモティーにあったら面白いと思った。うちに有り余っているのは花くらいだし、人が喜ぶのもやはり、花くらいかと思った。


今は、アキレアとアスチルベ、チェリーセージとエルダーフラワーが満開だ。スモークツリーもかなり咲いてきた。これらを束ねよう。ヤマアジサイもいける。あと、パープルセージの花も忘れずに。これはすごく珍しいからね。咲くってだけで奇跡みたいなものだから。


ぶつぶついいながら、ちょきん、ちょきん、と切る。今日は大雨で水浸しの花束になってしまって。申し訳なく思っている私とは裏腹に、ますますしゃきっとしてきたハーブ。雨好きなんだね。


今日来る人は、主婦の方。0歳と2歳の男の子がいて、精神的にも金銭的にもお花を選んで、買って、家に飾ってなんてことをしていることはできないそうだ。私の姉も同じ年齢の女の子がいるから、わかる。髪の毛をとかす時間もない、といっていた。


レリビ〜、愛を飛ばしていこうぜ。じゃあ、私が、タダでもらえるお花やさんになってあげるよ。大丈夫。それくらいならわけないからね。


10時に取りに来る。緊張する。タダであげるだけだ。手渡すだけだ。誰も怒ったり、不安になったりしない。ただ、車でブーンときた人に、はい、とやるだけ。なんなら、ドライブスルーみたいに、車から降りないであげちゃってもいい。大丈夫。


自分に言い聞かす。玄関に座って、マスクをして待つ。手には花。今から告白でもするみたいだ。スマホで検索する。「勇気が出ない」。なんでかわからないけど検索すると落ち着く。勇気が出ない時の対処法みたいな啓発ブログがずらっと出てきたけど、一つも読まなかった。


白い軽バンが止まった。きた。すぐ外に出て、傘をさす。車から出てきた女の人は、もう笑っていた。よかった。ここからは私も緊張しない。楽勝だ。


どのように世話をしたらいいのか、と尋ねられる。すごく真面目な人なんだろうな。普通に水にさして、毎日水を取り替えてください。茎が腐ってきたらちょっと切ってあげて、だいたい1週間くらい持ちます。何か声をかけたかったけどなんて言えばいいかわからない、ご苦労様です、子育て大変そうですね、いや、なんか違うか。するとむこうから、話し始めてくれた。


私、花なんてこの数年考えたこともなくて。もう概念の中から吹っ飛ばされていたんですよね。生活の中にないどころか、頭の中になかった。だから、咲いてる花も見てなかったし、買うなんてもってのほか。


そうか、忙しいんだな。ただ、頷いていた。


だから、ジモティで子供のグッズとか探してて、花束、って出てきた時、しばらく理解できなかったんです。花って何?この人は何を出品しているんだ?って


聞いているとどうやら、この方は相当遠くから取りに来てくれたそう。市外の方言で話していた。


でも、取りに行かなきゃって思ったんです。これを逃したら私の人生に花は絶対戻らない!っておもって。変ですよね、私。


変じゃないです。なんかわかります。わたしも、花を育てる前はそうだったから。


チャイルドシートに座っている2歳の子にまずは嗅がせていた。そのあと、その男の子の隣にそっと置いて、走っていった。おかきの詰め合わせをくれた。あとでばあちゃんと食べよう。ばあちゃんも、花束あげる日は私とおなじ早起きして朝からやきもきしているんだから。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?