スクリーンショット_2020-01-24_17

教育格差について「エリート教育」をしながら考えること

担当:中山

1. 松岡先生との出会い

こんにちは。元教員の中山諒一郎です。
先日、教育格差に関する第一人者である早稲田大学准教授の松岡亮二先生と意見交換させて頂く機会がありました。松岡先生は『教育格差-階層・地域・学歴』という新書を上梓されたばかりで、日本における経済格差が一貫して維持・拡大し続けていることを膨大なデータと緻密な分析から解き明かし、警鐘を鳴らしている方です。


2.日本は緩やかな「身分社会」である

松岡先生のご著書を読み、お話を聞いて、日本が緩やかな「身分社会である」ということが決して大袈裟な表現ではないことを痛感しました。
個人単位で見ると、親の学歴と子供の学歴には明らかな相関があり、これは依然として維持・再生産され続けています。つまり、生まれたときに親(父)が大卒かどうかで、20年後に子供も大卒かどうかの割合が変わってしまうのです。
また、集団単位でも「学校ごと」や「地域ごと」にいわば子供には「どうしようもない」格差が存在していることがわかります。
そして、生まれによる教育格差を皮切りに、それが大学進学率や大学の「レベル」に反映され、それらの学歴から初職が決まり、初職が現職に影響する。
こうして、生まれによる格差は維持・再生産されていくのです。


3.脱「身分社会」のために

では、このような「緩やかな身分社会である」という現実を変えるために、何ができるのでしょうか。
私は教育に関わる1人として、この問題を教育の側面から解決したいと考えています。
very50では「自立した優しい挑戦者を育てる」というミッションを掲げています。特に「優しい挑戦者」を増やすことが、この問題の解決につながると、私は信じています。

自分の成功だけに囚われることなく、他者に「優しい」眼差しを向けながら社会をより良くするために「挑戦」する人が増えれば、この現実は変えられると信じているからです。
たしかに、社会を変える方法は「政治」や「ビジネス」など、いくつもあります。
しかし、そのいずれの方法をとるにしても、それを実行するのは「人」です。
「人」を育てることなくして社会を変えることはできないと、私は信じています。

スクリーンショット 2020-01-24 17.24.49

4.「エリート教育」は格差を助長するか

一方で、私たちの活動には強烈な自己矛盾も含まれています。
それは私たちが行っているのは「エリート教育」であり「格差の再生産を助長させている」側面もあるからです。
事実、very50の提供している有料プログラムに参加している時点で、経済的にも学力的にも「階層上位」を対象としていることは否定できません。
彼らにさらに教育を行うことで一層の機会の不平等を再生産しているのは、厳然たる事実です。
では、私たちは格差拡大を防ぐために、自らの手を汚さぬよう座して見つめるべきでしょうか。
松岡先生のお言葉を借りるならば、私は「自らの行為が内在する有害さを意識し返り血を浴びながら教育と社会の転換を進める試みに従事する」一端であり続けたいと思っています。
そして、その矛盾から目を背けることなく、その矛盾を抱えながらも決して完全に実現することはない「解決」に向けて、一歩ずつでも半歩ずつでも、前に進んでいきます。

具体的には、いわば「刀を振りながらも返り血を少なくする」ことを、同時にやっていくしかありません。
それは言い換えれば、「マクロに、社会変えるための人材育成・リーダー教育」や「社会全体への問題提起・啓蒙活動」をしながらも、同時に「ミクロに、特に低階層に所属する目の前の生徒1人1人に対し、可能性を最大限にするための教育や機会提供をする」ということです。

スクリーンショット 2020-01-24 17.25.15

5.未来の「M君」を日本中に

結びに変えて、1人の教え子を紹介させてください。
高校教員時代にM君という教え子がいました。彼はいわゆる「ヤンキー」で、「ヤンチャ」の限りを尽くしていましたが、彼と毎日向き合う中で少しずつ落ち着きを見せるようになり、何とか推薦入試で大学に進学しました。
彼は親戚一同で初の「大学進学者」だったそうで、彼の親族ではちょっとしたニュースになりました。
しかし、やはり大学は続かず、途中で退学して親の稼業である鳶職となりました。

そんな彼から半年ほど前、子供を授かったと連絡がありました。
光栄なことに、私はその子供の名付け親になったのですが、彼と名前を決めた席上、不意に「このまま親と同じ道は進みたくない」と言ってきました。何をしたいのかと尋ねると、「先生になりたい」とのこと。
すでに自分で通信大学なども調べ始めていました。
今、一緒に大学入学の準備をしたり、彼のような若者のキャリア支援をしている団体とコンタクトをとったりしています。

社会を変えるには、当然時間がかかります。その間にもこぼれ落ちていく「一人一人のあったかもしれない未来」があります。
その可能性を1人でも多くすくい取りながら、同時にシステムの変換を図りたい。そのような考えから、私は教員時代の教え子たちや今のNPOのプロジェクト参加者と向き合いながらも、very50で教育関係者向けのイベントを行ったり、個人的に教育政策に関わる仕事をしたりしています。

もし、M君が教員になったら、きっと彼は子供たちにとって「教育格差」の克服を体現する存在になるはずです。
教員はどの子供に対しても「君の可能性は無限なのだ」と心からの確信を持って伝え、それを具体的に導くべきです。そして、彼にはそれができるはずです。

彼は自分の子供にもいい教育を受けさせたいと言っています。
先日、一緒に絵本を買いに行きました。その本で、奥さんと一緒に読み聞かせをしているそうです。
「生まれ」による格差の再生産はここで終止符が打たれると、彼も私も信じています。

スクリーンショット 2020-01-24 17.26.28

「ミクロな視点」で彼の可能性を育てることは、やがて「マクロな視点」での変化につながる。また、逆に「マクロな視点」でシステムや人々の意識を変えることはやがて「未来のM君」(=教育格差の克服者)を育てることにつながる。
このように、ミクロとマクロを行きつ戻りつしながら矛盾と向き合うことで、きっと「現実」は変えられるはずです。
いずれの道を辿るにしても、「優しい挑戦者」を増やしていくべく、たとえ返り血を浴びながらも教育の道を進んでいく覚悟はできています。
このブログを読んでくださった方も、もし「現実を変えたい」と思うなら、よりよい未来を願うなら、ぜひ力をお貸しください。

2020年も、多くの方のお力添えをお願い致します。

〈特定非営利活動法人very50〉
HP▶︎http://very50.com/
Mail ▶︎info@very50.com
Instagram▶︎@very50__
Facebook▶︎very50
Twitter▶︎@very50