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北海道日高ツアー 浦河編(2019年)

 2019年9月13日、朝5時半に家を出てから約5時間で千歳空港に到着した。ロビーで馬仲間のTO君、TJ君と落ち合い、3人の馬産地珍道中が始まった。まずはレンタカーで優駿の里、浦河を目指した。その途中、平取町の義経神社に立ち寄り愛馬息災を祈願する。何と220年振りの修繕が行われたらしく、社殿の内装が新しく綺麗になっていた。地元の多くの牧場が寄進しており、馬名と生産牧場が記された垂れ幕がずらりと並んでいた。ヤナガワ牧場のアレスバローズ、サンライズノヴァ、西山牧場のニシノデイジー、ASKスタッドのファンタジスト等の名がある。社殿に置かれている。勝守と御朱印を購入し(といっても無人なので料金台に置く)、義経にゆかりがある静御前と常盤御前の石碑、資料館を見学した。義経は奥州で自刃したとされているが、実は北へ逃げ「義経北方伝説」が生まれ、馬を大切にした騎馬武者として馬産地を守護している。

 さてお昼だ。北海道日高ツアー最初の食事は何が良いか3人で相談し「やっぱりラーメン!」、ということでサラブレッド新冠道の駅のレストラン樹林に向かった。この店の味噌ラーメン、昨年の北海道ツアーで食べた中で一番美味しかったのでもう一度行くことにした。私の運転はここまでということで、生ビールをオーダーし、TO君と乾杯!「TJ君あとはよろしく!」そして赤みそラーメン、このマイルドな味が素晴らしい。

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 浦河市内には16時前に到着し、まずは谷川牧場を目指す。谷川牧場はハイセイコーのライバルとして当時はヒール役だったダービー&菊花賞馬タケホープ、菊花賞馬ミナガワマンナ、オークス馬チョウカイキャロル、ジャパンダートダービーやフェブラリーステークスを制したサクセスブロッケン、そして現在活躍中のニシノデイジーなど、数多くの名馬を出し続けている。

 今回訪問の目的はシンザンのお墓参り。谷川牧場では、シンザン、ミホシンザンを種牡馬として繋養していたため、2頭のお墓が祀られている。そこにはタケホープやミナガワマンナ、タケフブキのお墓も並んでいた。シンザンのお墓は一際立派で、武田文吾騎手の「シンザンよ、シンザンよ、、、」の思いが刻まれた墓碑の上に、今にも走りそうなシンザン像がある。リアルに血管が浮き出ていて、現役の頃の筋肉質な馬体が再現されている。

 事務所に寄りサービスコーナーを見学させてもらう。そこで自分たちの大失態に気が付いた。チョウカイキャロルの献花台がある。前日亡くなったことを新聞で読んでいたのだが、旅の興奮から失念しうっかり手ぶらで来てしまった。丁重に手を合わせ、1994年オークス馬のご冥福をお祈りした。谷川牧場さん、大変失礼いたしました。

 次に郷土博物館と同じ敷地にある馬事資料館に向かう。馬の群れのモチーフで飾られた「優駿の門」を見上げながら、残り30分での見学。馬事資料館では浦河の馬の歴史と当時の馬具などを見学したが、印象に残る展示はなかった。一方の郷土資料館は元小学校を再利用しており、教室ごとに馬のいる生活や漁師の生活等を再現している。昭和の匂い満々の展示が懐かしく、見学した後の3人の意見「細部に手間をかけた展示は素晴らしい!ここは入場料取った方が良いかも。」

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 ツアー初日の宿泊先は競馬ファン憧れの浦河優駿ビレッジAERU。「JRA日高育成牧場見学ツアーセットプラン」を早くから申し込み、国内唯一の「屋内1,000m坂路」の視察を楽しみにしていた。AERUを訪れるのは21年振りになる。オープンしたばかりの頃に家族5人で立寄り遊んだ記憶が蘇る。お土産の品揃えも充実していてAERUマークの財布や定期入れなど馬ファンならつい欲しくなるものが並んでいて、沢山買って帰ったのを記憶している。その店舗は残念ながら閉鎖されていた。しかし、敷地内道路の「馬優先」の標識は健在だ!

 大浴場で汗を流し、レストランで日高ツアー初日の記念すべき乾杯!美味しい地の肴を堪能し、馬の話題で盛り上がる。TJ君は同僚や親しい人から「北海道旅行で札幌に寄らないなんて信じられない。ましてや日高だけなんて」と言われたと得意げに語る。「日高そして帯広と、すべて馬だけの旅は夢のようです!」とTA君。私は昨年も新冠とレイクビラファームを訪れたが、家族からは「北海道に来て馬ばかりなんてつまらない」と言われ、気兼ねしながらの旅だったことを思い出した。今回は馬好き3人だからできる馬オンリーのツアー、最高だ。アーモンドアイ命のNA氏も日程が合えば一緒に来たかったに違いない。お酒が進み、初日の食事は楽しく盛り上がった。

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 AERUに隣接する広大な敷地にある「軽種馬育成調教センター~通称BTC」を見学した。フロントに集まった総勢10名がマイクロバスで施設に向かう。かなり年配の運転手がバスを走らせながらガイドを始めた。「皆さんこれより金欠の第3セクターAERUから、潤沢な資金を有するJRAの敷地に入ります。ここが天国と地獄の境目です。」「右手がJRAの研究エリアです。ここで馬の生態から血統まで研究しています。JRAの研究施設は国内にここ浦河と九州は宮崎の2か所のみとなります。ここでは毎年当歳馬を50頭購入し、9か月のメニューで鍛えた後、JRA育成の抽選馬としてセールで売却されます。1991年オークスを勝ったイソノルーブルが代表的な1頭です。」テンポの良い解説を聞くうちに、敷地内の建物に着いた。

 2階建ての展望台に出て、広大な敷地に点在する施設の説明を受ける。「BTCでは毎日500~600頭の馬が調教されています。右奥に屋根付きの細長い建物が見えます。あれが1,000mの屋内直線ウッドチップ馬場です。その手前が1,600mと1,200mの直線ダートです。今丁度走っているのが見えますね。」「ダートは札幌競馬場のダートとほぼ同じ状態に仕上げられており、砂も青森の砂です。」「中央には直線2,000mの芝馬場、その左の屋根付きの建物が屋内1,000mの直線坂路です。」「手前には厩舎と円形のウォーキングマシンが見えています。」

 次に高台にある2,400mの芝坂路馬場に向かう。馬に替わってキタキツネがハロン棒を通過して行った。さすが北海道だ。「この場所は日暮れになると無数の鹿が芝を食べに山から下りてきます。その風景たるや壮観です。」
高台には絶好の記念撮影場所がある。先ほどの展望台よりも敷地全体を見渡すことができるスポットだ。「ここからの撮影で『ここはBTCだとわかる看板みたいなものがあるといいですね』という見学者の意見がありました。それをJRAに伝えたら、こんな素晴らしいものを造ってくれました。」木製のプレートにはJRA日高育成牧場(軽種馬育成総合施設)とある。ここで皆爽やかな笑みを浮かべて記念撮影。確かに1,500ヘクタールの広大な敷地を一望できる。そして屋内直線1,000mや屋内坂路1,000mも近く見える。

 高台から降りて、広い直線の芝やダートを右手に見ながら移動する。調教中の馬たちがはるか彼方からこちらに向かって駈けてくる。その風景は壮観だ。右に左にぶれているのは若駒に違いない。驚いたことに乗り役は色黒のインド人?が多く、競馬界も人手不足なのだと実感した。

 次に屋内1,000m直線ウッドチップ馬場を見学する。建物の2階から馬場が2本見える。1,000m先のスタート地点ははっきり見えない。これから調教を始める馬が右手のコースを奥に向かって常歩で進む。左のコースにはこちらに向かって駈けてくる馬たちが見える。どうやら一方通行のようだ。2階の壁には、BTCで調教した活躍馬が紹介されている。BTCに隣接する吉澤ステーブルのゴールドシップ、タニノギムレット、武田ステーブルのインティ、アドマイヤコジーン、高昭牧場のメイショウマンボなど多くの名馬の写真がある。浦河地区の多くの牧場がこの施設を利用しているようだ。

 楽しみにしていた屋内1,000mの直線坂路だが、今回は見学できないとのことだった。以前は世界でも珍しい施設として見学できたらしいが、ルールを破って馬に近づき驚かす事故を起こした見学者がいたため禁止されたとのこと。そういうマナーの悪い奴のせいで皆が迷惑する。「せっかく屋内直線坂路を楽しみにしていたのに、許せんな!」3人のテンションが少し下がった。

 次に騎手や調教助手を育成するための人材育成用厩舎を見学した。ここにいる馬は無償で提供された引退馬たちで、経験の浅い人でもおとなしい引退馬なら安心できるようだ。研修生は寮に宿泊し、馬の世話をすべて行いながら乗馬の訓練も行う決まりのようだ。馬を放牧に出して空になった馬房の掃除をしている。驚くことに半数は若い女性だ。

 この施設の壮大なスケールは英国のニューマーケットや仏国のシャンティに匹敵するらしい。今回見た光景を目に焼き付け、今度はニューマーケットに行って比較してみたいものだ。こうして朝8時に出発した見学ツアーが10時に前に終了した。

      ⇒ 北海道日高ツアー 新冠編につづく

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