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Interview with Krikor Kouchian



今回は、フランス出身のプロデューサー/DJのKrikorにインタビューを行いました。エレクトロニック・ミュージックの重要レーベルである、L.I.E.S. Recordsなどからもリリースを重ねる気鋭のアーティストです。最新のプロジェクトや、制作の裏側について伺いました。

Mako(以下M):今日はお時間をいただき、インタビューに応じてくれてありがとうございます。改めてよろしくお願いします!
まず、あなたのことをよく知らないリスナーのために 簡単に自己紹介をお願いできますか?

Krikor(以下K):もちろん!名前はクリコー・クーシアンです。
クリコーという名前は、僕がアーティスト活動で一番多く使っている名前。ファーストネームをそのまま使ってるんだ。
もう25年間近く音楽を作り続けてる。いろいろなプロジェクトに取り組んだり、たくさんのスタイルを作ってきたけど、主にエレクトロニック・ミュージック、テクノとハウス・ミュージックが多いかな。特にハウス・ミュージックを長い間作ってきたけど、今はもう少しハイブリッドなんだ。アルバムではポップでメロディーのある物も作ったりしたよ。
そして今はフランスのアーティストプログラムで京都に滞在してて、毎日たくさんの音楽を作ってる!

(M)あなたのことを知りたいと思ってインターネットで調べたのですが、いくつかのプロジェクトに取り組んでいると知りました。詳しく教えてください。

(K)今、僕はヴィラ九条山で特別なプロジェクトに取り組んでいるんだけど、ウェブサイトに載っていたものとは最終的に少し違うものになったんだ。本当は日本の伝統的な楽器である琵琶を改造して、電子音楽と融合させたパフォーマンスを行うっていうプロジェクトだったんだけど結局変わったんだ。

Covidの影響で電子部品がなかなか手に入らなくて、ただ部品が来るのを待って時間を無駄にするのが嫌だったから、いろんな人に会おうと思った。人と出会うってうことが僕にとっては一番重要で、ディスカッションを通して生まれる交流が良い音楽体験を作り出すと思っているから、プロジェクトの変更を決断したんだ。

そこで僕は京都の人にたくさんインタビューをし始めた。一人の人間が毎回同じ質問をするっていうプロジェクト。いろんな場所に行っていろんな人に出会ったよ。豆腐屋さんとか喫茶店、レコードショップ、たくさんの人に出会った。お年寄り、若者、いろんな世代の人たち。それで僕はみんなに同じ質問をした。あなたの人生で起こった過去の出来事において重要だった思い出はなんですか、って。

この質問から聞いたたくさんの人の思い出を集めて、僕は一人の人間を作ったんだ。多分それは京都の人。この人を琵琶とフルートと電子音楽の演奏に組み込むことによって、何か物語を語りかけてくれるかなと思ったんだ。おそらく京都の物語。これが僕のヴィラ九条山でのプロジェクトだよ。

(M)面白いですね!

(K)ありがとう!他にもセミの音のレコードを作ったり、まだ完成してないんだけどもう2つレコードを作ってる。

蝉が死んでいくのを聞きながら by Krikor Kouchian

ひとつは地下鉄の音を使って。もうひとつはボール工場の音で。お寺のボールを作ってる工場。それから、ヴィラ九条山の他のアーティストと一緒にたくさんのパフォーマンスをしたよ。そうだね、だからいろいろなプロジェクトをやったよ。ヴィラでの時間を有効に使おうと思ったんだ。あとは東京のアーティストであるJACKSON kaki(ビデオアーティスト)と一緒に特別なライブアクトを作った。僕がライブをやっているところを3Dスキャンして、ビデオオブジェクトを作るっていうプロジェクトだよ。

(M)たくさんのプロジェクトを同時進行しているんですね。

(K)うん。いつもいろいろなものを作ってる。

(M)あなたの音楽からは、記憶やあなたが言ったように過去の思い出をとても大切にしていることが感じ取れます。

(K)うん。思い出というのは何かとても強いものであると同時に、とても奇妙なものだと思うんだ。なぜなら僕たちの思い出は、それが(実際に起こったことの)記憶であるかどうかはわからないから。 もしかしたらそれは自分が作り出した物かもしれない。時間はある意味で伸縮自在だし、僕らは時々思い出を自ら描き出すと思うんだ。そう….だから...それは僕の作品の中でとても重要な一部分だね。それはノスタルジックとは言わないかな。僕はそこが好きなわけじゃない。興味がないんだ。ただ僕は、思い出というものの一部分が好きなだけなんだ。人が特別な瞬間を思い出すとき、それを特別な形で覚えておきたいだけであって、多分それは現実とは異なっているっていうことに人に話すとわかったりするよね。人々は同じ出来事でも違った角度で覚えていたりするから。そういうことが、多分僕の作品にとても影響を与えている。それは作品にとって必要な要素なんだ。

(M)なるほど、ありがとうございます。
最近の作品はミニマルなサウンドになっていますね。

(K)うん。最後にリリースしたセミの音の作品はとてもミニマルなノイズのレコードだよ。アンビエントノイズ。僕が聞いたことを元にして作ったんだ。日本に着いたとき、2週間ロックダウンで部屋にいたんだけど、その時は夏だった。とても奇妙なジメジメとした夏。いろんな種類のセミがそこにいたから録音してみようと思ったんだ。セミの音を音楽に変換するために、機械やシンセサイザーでセミの音を真似してみたり、セミの音の背後にあるコードとかメロディーから作曲する古典的な方法を試みたりもした。最終的にはフィールドレコーディングを多用したとてもミニマルな作品に仕上がったよ。前にもこういうレコードを出したりしたことはあったんだけど、フルアルバムは初めてだよ。次の作品と、その次はそんなにミニマルではないかな。実はBiglove Recordsからもうすぐ出すんだけど。

(M)音楽のスタイルをあまり変えないアーティストもいますが、常に違った方向性に挑戦していますよね。

(K)僕はいろんなジャンルが好きなんだ。それに、ジャンルを変えながらでも自分のスタイルってキープできると思う。でも時々一つの音楽のジャンルにとどまる方が良いっていう人もいるよね。今の社会、世界では一つのジャンルにとどまる方がお金を稼ぎやすいと思うから。人は割と同じものが好きだし、もしいつもいろんなスタイルに挑戦していたら多分生計を立てるのは難しいよね。だからいつも同じ曲ばっかり作るロックバンドがたくさんいたりするんだと思うよ。生計を立てるためには同じことを繰り返しやらないといけないって思ってるんだと思う。いつか成功するまでずっと。でも僕はあんまりそういう風にやろうと思ったことはないんだ。もしそういう風なやり方をしたら多分退屈だから。危険な道だけど、退屈なのは好きじゃない。多分だけど、こっちの道の方が幸せだよ。

(M)その方がもっとかっこいいです。

(K)うん。でも時々大変だけどね。

(M)いつもリリースをしている、L.I.E.S Recordsについても聞かせてください。
L.I.E.S Recordsは独立したレーベルで、そこからリリースされるアーティストはいつも自分たちが本当に好きなことをやっていると感じられるので好きです。

(K)そうだね。僕もL.I.E.Sの音楽的アプローチと美学が好きだよ。L.I.E.Sの音楽はセンスが良いし、僕らの音楽的バックグラウンドが共通していたから一緒に働くのは理に適ってた。彼らのビジュアルアート表現も好きなんだ。だから、L.I.E.Sと何か作り上げるっていうのはとても自然なことだったよ。

(M)NYに住んでいたのですか?

(K)住んでいないよ!僕はパリに住んでたんだ。L.I.E.Sは数年前にパリに移ったんだよ。もう8年前かな。だから、僕らは数年前にパリで会ったんだよ。

(M)あなたは自分のレーベルも持っているんですか?

(K)レーベルは持っていないんだけど、たまに自主制作でカセットをリリースするんだ。カセットテープはすぐに作れるから好きだよ。レコードよりも取り扱いが簡単でスリーブ代もかからないし、それにこのフォーマットと音が好きなんだ。
日本に着いたときに制作したセミのアルバムもカセットで作ったんだよ。すごい早かったし制作が楽しかった!

(M)デジタルよりもフィジカルなものがお好きなんですか?

(K)僕はデジタルの方が好きだよ。カセットの音もすごく好きなんだけど、個人的にはあまりモノに執着がなくて簡単に手放せる。レコードも以前はたくさん持っていたんだけど全て売ったんだ。少しだけ残したかな。機材も同じで、音楽を作るときに使うのは好きだけど、でも使わないときは持っていなくてもいいんだよね。愛着とかはなくて、それが何かの役に立つかどうかなんだ。
機材もレコードも好きだし、少しだけ所有するのはいいと思う。レコードを好きでも、手放してもどちらでも良いと思うよ。デジタルはもう一度聴きたいなって曲があったときにすぐ聴けるのが良いよね。

(M)それではなぜ、カセットやレコードを売るのですか?

(K)大体、Bandcampで売ってるよ。

(M)なぜデジタルだけではないんですか?

(K)カセットをデザインするのが好きなんだ。
物をデザインしてそれを作るっていうことが好きなことの一つなんだよ。でもすごく限られた量だけ作って、一度作ったらリプレスしたりはしない。
作るのはとても楽しいよ。カセットの音が好きだし。若い頃、カセットから音楽に出会ったから特別な音に聞こえるんだと思う。子供の頃にたくさんカセットを持ってた。そのあとはCD。でも初めはカセットと、それとレコードだった。お父さんのレコードコレクションから盗んでたんだ笑 小さい時、自分でレコードをいくつか買ったけど、その前はほとんどがカセットだった。だからたくさんの音楽はカセットっていうフォーマットから出会った。それで心に深く残ってるんだと思う。

カセットの音域は狭くて、高音域もなくて音が濁っている。それは僕が音楽を制作するときにも影響してる。時々、聞こえる物全てを聞きたいわけじゃない。全部を聞かない方が面白かったりする。カセットですごく良いなって思ったトラックとかも、すごく音質の良いCDとかで聴いたら初めて聴いた時よりもあまりインパクトが感じられなかったりする。音楽を作るときにもカセットは影響を与えるね。

(M)カセットテープのアートワークも毎回デザインされていますよね。
すごく好きです。

(K)ありがとう。

(M)ビジュアルではどんなことを表現しようと思っているんですか?
音楽作品とはまた違うんですか?

(K)うーん、大体とても近いものがあるね。
デザインをするときにすごく影響を受けるのは、僕が好きな80年代のB級映画やホラー映画なんだ。ビジュアル的にもすごく好きでよく使用したりとか、実はタイトルとかにも使う。ビジュアルもサウンドも大体は同じプロジェクトなんだけど、時々異なる物だったりする。例えばアンビエントなサウンドの時には、旅行先でとった空っぽのお店が映った写真を使ったし、プロジェクトで何を伝えたいかによって変化するよ。暴力的で攻撃的な表現になったりもするし、柔らかい表現をしたりもする。いろんなことが好きなんだ。写真を撮るのも好きだから、作品にも写真を結構使うよ。

(M)B級映画ってどこで見つけるんですか?

(K)B級映画のほとんどは子供の頃に見たものだね。映画はたくさん見るけど、今はそれほどB級映画は見ないかな。時々ヴィジュアルに使いたくて子供の頃に見ていたものを見返したりするよ。
映画のシーンを切り取って少し変化を加えたり、違う映画をくっつけたりして一つのイメージを作るのが楽しいんだ。

(M)一番好きな映画は何ですか?

(K)僕の好きな映画は…多分『La Jetée』かな。多分それがお気に入り。
タルコフスキーの『ソラリス』も好きだし、めちゃめちゃいろんな映画が好きだけど、でも『La Jetée』は僕にとってかなり重要な映画だね。実はこれも記憶に関する話なんだ。僕がさっき言ったことにもすごく影響してる。

(M)初めてみたのはいつだったんですか?

(K)初めて見たのは、コロナの隔離期間の時だね。

(M)チェックします!

(K)うん!すごく良い作品だよ。YouTubeで見ることができるはず!
今は何でもYoutubeで見れるからね笑
彼の他の映画もとても良いよ!『sans soleil』っていう作品。フランス語で太陽がないって意味。
すごくすごく美しい映画で、日本も舞台になってるんだ。ほとんどが東京。

(M)ありがとうございます。観ます。
最近のお気に入りの音楽についても伺います。クラブでかける曲を教えてください。

(K)最近DJよりもライブをやることがほとんどなんだよねえ…しばらくやってないから…でも去年好きだったレコードがいくつかあったな…ちょっと待ってね、今覚えていないや…
最近聴いていたのは、UKのこの曲かな…

Time Suffocation (feat. Kamaljeet Ahluwalia) by Only Now

このアルバムと、あとこれも。

No More Shitty Years by Various Artists


Unexplained Sounds Group - 7th Annual Report by Various Artists


JOGMODE by jog mod


(M)いつもBandcampから購入されているのですか?

(K)うん、そうだよ。これらが最近買った曲たちだね。
Fujitaの曲と、Easy Riderのやつもよかったな。

NOISEEM by FUJI​|​|​|​|​|​|​|​|​|​|​TA


Easy Rider - Beneath The Surface - IDS038 by Easy Rider


(M)バンドサウンドも聴きますか?ロックバンドのようなサウンド。

(K)時々聞くけど、ロックはあんまり聞かないかなあ。新しいロックは。
時々、なんだろうこの曲!みたいな感じでチェックするけど、自分で探す時は再構築系の音楽だったり、ノイズミュージックとかの方が惹かれるかな。時々ノイズロックとかを聴いたり。でも今週はランニングするときにNirvanaをもう一回聴いてたんだ!ランニングに良いんだよね。良いエナジーをもらえる。

(M)音楽を作っていない時はどのように過ごしているんですか?

(K)料理が好きなんだ。実は結構料理に時間を使ってる。ほとんど野菜しか食べなくて、野菜を美味しく調理するために時間をかけるのが好きなんだ。

(M)京都は美味しい野菜がたくさんありますよね。

(K)そうそう、たくさんある。

(M)どこの国に住むのが一番好きですか?音楽を作るのに、影響はありますか?

(K)うーん。多分どこでも住めるかな。今は日本にいられることがとっても嬉しいよ。音楽を作るためにはリラックス できる場所が必要だね。僕はあんまりうるさい場所では制作しないから静かな場所がいいね。マイクの音を録音するのが好きだから、そのための静かな場所も必要だ。面白いものに出会える場所も必要。でも、どこにでもいられるよ。好きな街はたくさんある。マドリードとかベルギーとか、ロシアも好き。もちろんここが好きだし、大阪も好きだよ。僕はいろんなところに行けるんだ。その時次第だと思う。

(M)カルチャーを作る、みたいなことにあまり興味をお持ちではいないのですか?例えば、UKとかは集まってイベントを主催したりして彼らがやっていることを世界に提示したりします。

(K)時々他の人とも音楽を作るよ。大勢の人とバンドとかは組んだことないけど。デュエットみたいな形で一人の人と一緒に作るのも好きだね。どちらかというとディスカッションみたいになってある意味面白いんだ。最近だと東京のMars89と一緒に音楽を作ったよ。こういう音楽制作の仕方は、誰かを深く理解できるし本当の交流ができるから充実感を得られて楽しいね。
バンドを作るとなると人が増えて違ったエネルギーが必要になると思う。いつも最終的にはリーダーが必要になるのが僕はあまり好きじゃない。わからない、あんまり惹かれないんだよね。一人で音楽を制作したりとか、誰かとディスカッションしながら制作するのがいいかな。

(M)色々な国にいながら、世界中の同じバックグラウンドを持った人と繋がれているのがすごいです。

(K)誰かと出会うとき、仕事の共通点とか好きなことが同じだったりすると自然とそうなることが多いんだ。それはとても自然だよ。でも、時にはうまくいきそうだと思って、うまくいかないこともある。そういうこともあり得るよね。でもたいていの場合誰かと出会って少し話すと、「あ、これだ」と思うことがある。それで一緒に作って、その人がアイディアを持ってきて、次に僕が持ってきてっていうのを繰り返す。それが最高だね。バンドだと人がたくさんいることによって、こういう動きがスピーディーじゃない。そうすると、クリエイティブではなくなってしまう時もある。多くのバンドはリーダーがいるけど、僕は僕自身のリーダーにしかなりたくない。他の誰かのリーダーにはなりたくないんだ。その方がもっと心地良い。

(M)UNDERCOVERともお仕事をされていましたよね。どうでしたか?

(K)L.I.E.S RecordsのRON MORELLIに誘われて参加したんだ。初めは彼一人でやる予定だったんだけど、彼は旅行することが多くて時間がたりなかったみたい。それで一緒に制作を始めたんだ。その後振付師のダミアン・ジャレとともにトラックを完成させた。すごく面白かったよ。映画でもドキュメンタリーでもファッションショーでも、いろんなプロジェクトに取り組むのは好きなんだ。だいぶ前にLemaireと働いたり、他の企業ともやったりしたことがあったんだけど、ファションショーは久しぶりですごく楽しかった。ショーは最高だったし、作品もかなりうまくいったと思う。良い経験だったよ。

(M)すべてのコレクションを見てから音楽を作ったのですか?それともコンセプトを聞いてから作ったんですか?

(K)コンセプトだね。黒澤映画の『蜘蛛巣城』っていう映画が元になったコレクションなんだ。ほとんど映画で使われているオリジナルサウンドを使用したけど、制作に当たってもう一度映画を見て、映画から感じた感情を元にして制作したよ。
コレクションはショーで初めて見たんだ。全てが同じ映画から受けた印象を元にして制作されたもので、とても面白かった。

(M)インタビューの最後に、日本のリスナーにメッセージをお願いします。

(K)えーっと、難しいな笑 
日本にもう少しいられたらいいな。日本のリスナーやいろんな人にもっと出会いたい。日本では、みんな音楽を本当に良く聴くと思う。僕が出会ったほとんどの人が音楽を聴くことに没頭していた。音楽を作る人間として、とてもやりがいを感じたよ。今のフランスは少し違うんだ。ここにはたくさんのレコード屋さんもあるし、いろんな音楽を聴ける場所もある。ここでの暮らしでは音楽がすごく重要なものなんだって感じられたよ。

(M)今日は本当にありがとうございました!

(K)こちらこそありがとう!

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