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緊急事態宣言の拡大・延長 軽症入院者が過半数の地域も

 緊急事態宣言の適用地域が8月20日から拡大され、まん延防止等重点措置とあわせると29都道府県が対象となる。
 様々な私権制限措置の重要な根拠とされているのが「医療体制の逼迫」だ。
 政府は従来、中等症以上の患者、高齢者や妊婦などリスクの高い人を入院対象とする方針を示してきた。だが、実際は軽症入院者がかなり多数、病床を使用している地域もあった
 政府は8月初め、コロナ対応病床が逼迫してきたことを踏まえ、入院対象を重症者と重症化リスクの高い人に絞る方針を示した
 この方針は議論を呼んだが、比較的軽度な患者を自宅・宿泊療養とすることで、入院治療の必要性が高い患者を確実に入院させる狙いがあったとみられる。
 現在の入院患者の状況はどうなっているのか、宣言適用地域を中心にみていくことにする。

(冒頭写真は、田村憲久厚生労働大臣の記者会見より)

中等症・軽症入院者数を分けて公表している自治体

 実は、中等症・軽症の入院者数を分けて公表している自治体は少ない。
 緊急事態宣言が適用される1都2府10県(8月20日から実施を含む)のうち、神奈川県茨城県福岡県沖縄県が公表している。
 宣言が適用されていない地域も含め、8月18日時点で中等症・軽症の入院者数を分けて公表している10県のデータを整理した。
(追記:新潟県、奈良県も公表していたため、追記しました)

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 これをみると、入院者全体に占める軽症者の割合は、神奈川県、沖縄県を除いて、3割以上を占めていることがわかる。
 とりわけ、緊急事態宣言が適用される福岡県は55.2%、まん延防止等重点措置が適用される広島県は74.4%、愛知県は59.6%と、入院者の半分以上が軽症者を占めている。

 このうち、緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が適用される7県について、病床・宿泊療養施設の使用率も調べた。

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 緊急事態宣言が適用される4県(神奈川、茨城、福岡、沖縄)はいずれも、重症用を除く病床使用率が70%を超えている。
 だが、福岡県は、軽症入院者だけで中等症用病床の4割を使用している。もし軽症者の入院をより限定的に運用していれば、病床使用率は50%未満になっていた可能性がある。
 まん延防止等重点措置が適用される3県も、現在はまだ病床に余裕があるせいか、軽症入院者の使用率は比較的高い。

 一方、沖縄県も、以前は軽症入院者が多かったが、最近は中等症以上の患者が急増し、入院者全体に占める軽症者の割合は15%に低下している。
  神奈川県は、従来から、独自の入院優先度スコアを導入していたこともあり、軽症以下の患者は1割前後で推移していたが、最近は6%となっている。神奈川県は病床確保が遅れていたこともあり、厳しい状況にあることは確かのようだ。

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中等症・軽症入院者数を分けて公表していない自治体

 緊急事態宣言が実施される地域のうち、上記4県以外の自治体が公表している情報に基づき、病床使用率を算出した。
 これら9都府県の中等症以下の病床使用率はいずれも50%を超えていた。
 だが、中等症・軽症の入院者数を合算したまま公表しているため、軽症入院者の実数や割合は不明だ。

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 入院率(全療養者に占める入院者数の割合)が高い地域では、軽症入院者が多い可能性がある。
 先ほど見た中等症・軽症入院者を分けて公表している自治体では、入院率(全療養者に占める入院者の割合)が15%を超えているところでは、いずれも軽症入院者が入院者全体の3割以上を占めていた
 このことを踏まえて、上記の1都2府6県で入院率15%を超えている自治体を挙げると、茨城県(19.4%)のほか、栃木県(19.5%)、群馬県(17.8%)、兵庫県(16.2%)となる。
 これらの自治体では、軽症入院者が多い可能性がある。

軽症入院者を推定することは可能か

 ほかに、重症患者数から中等症患者数を推定し、軽症入院者を割り出すことも考えられる。
 ただ、中等症・軽症入院者数を分けて公表している自治体のデータから、中等症者数が重症者数の何倍入院しているかを算出してみると、かなりバラツキがあることがわかる。

・神奈川県:7.6倍 (222 / 1,207)
・茨城県:10.1倍 (27 / 272)
・福岡県:13.6倍(27 /368)
・沖縄県:29.7倍(18 / 534)
・愛知県:6.4倍(34 /219)
・広島県:6.7倍(9 / 60)
・熊本県:20.1倍(8 / 161)
・新潟県:4.8倍(8 / 38)
・奈良県:13.6倍(5 / 146)
・山口県:38.7倍(3 / 116)
(カッコ内は重症者数 / 中等症者数)

 沖縄、熊本、山口は、重症者のわりに中等症者が非常に多い(逆にいえば、中等症者数のわりに重症者が非常に少ない)といえる。
 ここからみえる傾向として、重症者に対する中等症の比率は、人口の少ない地域では大きく、人口の多い都市部では小さい、といえるかもしれない。

 一般に、都市部は重症化しにくい若年者が多く、人口の少ない地域は重症化しやすい高齢者が多い(人口統計資料集)。中等症者は、軽症者が重症化した患者であるから、感染者の年齢層が影響している可能性がある。
 ただ、若年者が多いことが知られている沖縄県でも、重症者に対する中等症者の比率が非常に高いので、それだけでは説明がつきそうにない。

 都市部で重症者に対する中等症の比率が比較的低いのは、病床逼迫により入院していない中等症患者が一定数いるため、実際は中等症患者がもっと多いということは考えられないか。だが、病床がさほど逼迫していない愛知県、広島県でも中等症者は少なく、それでは説明がつかない。
 ほかに、自治体ごとに重症患者や中等症患者の定義・集計方法が統一されていないことも影響している可能性が考えられる。

 いずれにせよ、公表されている情報から、軽症入院者数を高い確度で推計して割り出すことは困難である。

まずは基準の統一と実態把握を

 結局、症状別患者の集計方法について、政府は統一的な基準を示しておらず、中等症の定義も含めて、自治体任せにしていることが(厚労省は、政府として中等症の定義は決めていないと認めている)、軽症入院者の実態把握を難しくしている。

 本当に、入院者数を中等症以上とし、治療の必要性の高い患者が滞りなく入院できるよう軽症者の療養原則を徹底したいのであれば、厚労省が入院対象としての「中等症」の統一基準をつくり、中等症・軽症入院者数を分けて調査・報告するよう各自治体に指示を出し、実態把握することが必要なのではないだろうか。

 さもなければ、感染収束期に病床の余裕が出たとしても、軽症入院者の割合が増えることで、様々な私権制限措置の解除をするかどうかの判断を左右する病床使用率が高止まりする可能性もある。

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