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様々な方法で集計されている重症者数データの見方を整理する(加筆修正あり)

 新型コロナの「重症者」数が重要な指標の一つであることは誰しも認めるところであろうが、一言に「重症者」といっても、様々な定義、データがある。
 そのため、それぞれの意味を正確に理解し、目的に応じてどのデータを使うか判断しなければならない。
 今後ますます注目されるであろう「重症者」データの見方について、ここで整理しておきたい。特に重要な東京都の重症者数について詳しく分析しておく。

(冒頭写真はNHKニュースサイト2021年5月19日放送動画より)

【まとめ】
(1)厚労省は「全国の重症者数」を毎日発表している。これは、都道府県によって異なる定義によって集計された重症者数を合算したものである。大手メディアの報道でもしばしば使われている数値である。だが、その内実は異なる基準で集計されたもので、数値自体の信頼性には疑問がある。

(2)国基準で統一的に集計された重症者数は、厚労省が週1回、都道府県から報告を受け、発表している。これは、人工呼吸器/ECMOで管理していなくても、ICU・HCUを使用しているコロナ患者であればカウントされるため、重症未満(中等症)を含んだ人数である。政府のステージ判断指標である重症病床使用率の分子となる重要なデータである。

(3)日本集中治療医学会など3学会が共同して運営しているECMOnetは、人工呼吸器(ECMOを含む)で管理・治療中の患者を重症患者と定義して、毎日、登録者数を更新している(運営主体はNPO法人で、厚労省の委託事業)。受入可能数も公開しており、使用率も把握できる。全ての重症患者数を網羅しているわけではないが、約8割をカバーしているとされる(追記:ただし、東京都はカバー率が6割未満とされる)。行政ではなく、医療の観点から統一的な基準で集計されているため、実質的な重症者数の増減を把握するうえでは最も信頼性の高いデータと考えられる。

厚労省が毎日発表している「重症者数」の意味

 大手メディアは一時期「全国の重症者数が過去最多」と日々報道していた時期があったが、これは厚労省が毎日発表していたものである。
 たとえば、5月18日は、全国の重症者数が過去最多の「1235人」と報道されていた。

 この「1235人」は、厚労省が毎日発表している「報道発表」資料に基づくものである。以下の表は5月18日発表資料からのものだ。

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 この発表資料の「重症者」に関する注釈には、次のように記されている。

※6:一部の都道府県における重症者数については、都府県独自の基準に則って発表された数値を用いて計算しており、集中治療室(ICU)等での管理が必要な患者は含まれていない。

 ここにいう「独自の基準」を採用している自治体の一つが、東京都である。
 都が毎日発表している重症者数は、人工呼吸器を装着しているかECMOを装着している患者を重症患者と定義してカウントしており、ICU等で管理されている患者の全てをカウントしているわけではない(東京都の説明資料参照)。

 すでに知られていることだが、「重症者」の定義には「国基準」と「自治体の独自基準」があり、統一されていない。東京都の定義、大阪府の定義、国の定義が異なることは、これまでも指摘されてきた(以下の記事も参照)。

 つまり、厚労省が毎日発表している「重症者」数は、国基準による重症者数と、自治体の独自基準による重症者数をまぜこぜにして合算されたものである。したがって、データとしてはいささか信頼性の欠くものと言わざるを得ない(後述の「注記」のとおり、5月中旬以降、集計・発表方法を変更した自治体は少なくとも3つある)。

 厚労省の特設サイト「データからわかる新型コロナウイルス感染症情報」には、推移のグラフやオープンデータが掲載されており、都道府県別も確認できる。
 ここに「重症者数」データに関する詳しめの注記が載っているので、引用しておく。

【定義・計算式】
自治体により公表等された重症者数を記載している。
・チャーター便を除く国内事例。
【日付に係る制約条件】
・原則、情報更新日の前日に自治体が公表等した情報をもとに更新している。
・令和2年5月9日以降のデータをグラフ化している。
【データ定義に関わる制約条件】
・重症者数については原則、①人工呼吸器を使用、➁ECMOを使用、③ICU等で治療、のいずれかの条件に当てはまる患者を重症者と定義しているが、一部例外の自治体が存在する
・空港検疫症例については含まない。
集計方法の主な見直し:令和3年5月19日公表分から沖縄県について、令和3年5月26日公表分から大阪府・京都府について、重症者の定義を従来の自治体独自の基準から国の基準に変更し集計を行った
(注:太字は引用者)

国基準の重症者とは

 先ほど引用した注記にあるように、厚労省が定める国基準の重症者は、

①人工呼吸器を使用、➁ECMOを使用、③ICU等で治療、のいずれかの条件に当てはまる患者

と定義されている。

 「③ICU等で治療」には、HCU(高度治療室)も含まれる。症状として重症に至らなくても、ICU・HCUで管理されていれば、カウントされる。
 人工呼吸器・ECMOに加え、ICU・HCUの使用状況を把握するために、広い定義での集計を自治体に求めているとみられる。

 この国基準の重症者数は、毎週1回、水曜日時点(資料上は「木曜日0時時点」と記載されている)のデータを都道府県に報告させ、毎週金曜夜、厚労省サイトで新型コロナウイルス感染症患者の療養状況、病床数等に関する調査結果」と題する資料の中で公表している

 冒頭で見たように、厚労省が毎日発表している「全国の重症者数」は5月18日時点で1235人であったが、国基準で集計した「全国の重症者数」でみると5月18日時点(資料表記は19日0時時点)で1821人であった。

 「国基準の重症者数」は多く見えるが、これは正確には「重症病床使用患者数」と捉えた方がよい。国基準の重症病床の確保数は、5月18日時点で4752床と報告されており、使用状況は約4割であった。

 いずれにせよ、この国基準の重症者数ベースでみた都道府県別の病床使用率は、分科会が定めたステージ判断で使われる指標であり、政府の政策判断を左右する非常に重要な重みをもったデータである(使用率50%以上はステージ4、使用率20%以上(最大確保病床に対し)はステージ3とされている)。

東京都の重症者数の内実

 国基準の重症者定義は、①人工呼吸器を使用、②ECMOを使用、③ICU等で治療、のいずれかの条件に当てはまる患者であるが、①と②のみを重症者と定義しているのが東京都である。
 ここで、東京都の重症者数について詳しく見ておく。

 5月18日時点の都基準の重症者数は「73人」と発表されていた。一方、都は、国基準での重症者数を「529人」と厚労省に報告していた。同じ「重症者」と呼んでいるものに、456人もの開きがあった。

国基準の重症者(①〜③すべて):529人
都基準の重症者(①と②のみ):73人

 この差し引き456人の内実を知る手がかりが、毎週行われている東京都モニタリング会議の資料に記されている。
 「専門家によるモニタリングコメント・意見」という資料には、「重症患者」に関して次のような報告がある(以下、5月20日会議資料より)。

5 月 19 日時点で集中的な管理を行っている重症患者に準ずる患者は、人工呼吸器又は ECMO の治療が間もなく必要になる可能性が高い状態の患者等 278 人(先週は 274 人)、離脱後の不安定な状態の患者 58 人(先週は47 人)であった。

 言及されているのは、都基準の重症患者に該当しないが、それに準する症状でICU等で管理されている患者数である。
 ここでは、まもなく重症化する可能性のある患者を「準重症患者(上り)」、人工呼吸器かECMOからは離脱したものの依然不安定な患者を「準重症患者(下り)」と呼ぶことにする。
 5月19日時点で、都基準の重症患者(人工呼吸器かECMO治療)は73人であったが、準重症患者は合計336人であった。

 一方で、5月20日の会議資料には、次のような報告もある。

重症者用の最大確保病床数(都は 1,207 床)に占める重症者数の割合は、5月19 日時点で 43.8%

 人数は書かれていないが、1207床の43.8%は529人であるから(国にも529人と報告している)、重症患者(73人)+準重症患者(336人)よりも120人も多い。
 これは、都基準の重症にも準重症にも当たらないが、ICU等で管理されている患者が120人いるということを意味する。

 東京都の重症患者数について整理すると、次のようになる。

①都基準の重症患者:人工呼吸器 or ECMO
②準重症患者
③重症・準重症いずれにも該当しないICU等使用患者
①+②+③=国基準の重症患者数

 そして、確保病床数は、次にようになっている(7月1日現在)。

・都基準の重症患者にかかる確保病床数:373床
・都基準の重症患者にかかる最大確保病床計画数:500床
・国基準の重症患者にかかる確保病床数:1207床

 過去3ヶ月間の重症者数と確保病床の推移をグラフ化すると、次のようになる。

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 なお、東京都は、都基準の重症患者について年代別内訳を発表している。
 これを見る限り、重症患者が明確に若年化したと言えるほような傾向は出ていない。30代以下の重症患者は最も多いときで5人、40代以下でみても10人以下とわかる。

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(追記)最新の東京都の重症者数(都基準/国基準)については、以下のページで随時更新しているので、参考にされたい。

ECMOnetの重症患者数

 最後に、ECMOnetが発表している重症患者数を確認しておこう。
 日本集中治療医学会など3学会が共同して運営し、厚労省の支援を受けている。2020年10月時点で、協力している施設の総ICUベッド数は5500で、「日本全体のICUベッド(6500ベッドほど)の80%をカバーして」いるという。

<追記> ECMOnetの担当者に問い合わせたところ、カバー率は都道府県によってかなり違いがあり、東京都は従来よりカバー率が低く、現在は6割を切っているという。大阪府、京都府は100%近く、千葉県、栃木県、沖縄県は9割前後と高いという。

 ECMOnetが公表しているデータも、東京都基準と同じく、人工呼吸器またはECMOで管理されている患者を指す
 同じ定義に基づく集計なので、都の発表値とややズレがあるが、ほぼ同じ数値、傾向を示している。

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 ECMOnetで表示されている受入可能数は、東京都が公表している373床より約4割少ない218件となっている(7月1日現在)。それでも6月の使用率は2割台であった。

<追記> ECMOnetの担当者に問い合わせたところ、東京都のカバー率は低下傾向にあり、もともと7割程度だったのが、現在は6割を切っているという。6月までは東京都発表値と大きな乖離はなかったが、7月以降は乖離が大きくなっている。東京都の重症者数については、都の発表値が実態に即しているようだ。

 今年1月以降、東京都では、第二次緊急事態宣言(1月7日〜3月21日)、まん延防止等重点措置(4月12〜24日)、第三次緊急事態宣言(4月25日〜6月20日)、まん延防止等重点措置(6月21日〜)と続いている。
 この間、ECMOnetのデータを見る限り、重症病床使用率が5割を大きく超えた時期はなかったことがわかる。

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厚労省の「年代別重症者数」データは取扱い注意

 最後に、公表されている重症者数データの中に信頼性に疑問のあるものがあるため、ここで注意を促しておきたい。

 厚労省が発表している「重症者数」情報の中に、「年代別重症者数」というものがある。週1回更新されているが、このグラフはどうもよくわからないのだ。

 例として、7月1日の厚労省報道発表で掲載されたグラフをみてみよう。

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 これをみると、6月30日現在の30代以下の重症者数はゼロと読める。だが、これをよくみると、全ての重症者数の年代別人数を網羅したものではない
 上記資料に記載された重症者数は合計413人(6月30日18時時点)となっているが、同じ日発表された公式資料では、重症者数517人(6月30日24時時点)である。100人くらい漏れていることがわかる。

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 全ての自治体が年代別重症者数を詳らかにしているわけではなく、厚労省が自治体の発表情報を積み上げたに過ぎないためだ。
 この厚労省「重症者割合」の資料は、なぜか、東京都のデータが反映されていないようだ。6月30日の東京都発表資料には、20代の重症者2人と記されているからだ。

 厚労省が発表している「重症者割合」は、正直いって謎のデータである。
 母数の「入院治療等を要する者」は、陽性者のうち退院・療養解除となっていない者、つまり「入院中もしくは療養中の陽性者」を指すが、計5万8763人となっている。だが、実際は、6月30日24時時点で「入院治療等を要する者」は全国で計1万6539人のはずである(上記資料参照)。
 数字が大きくかけ離れており、「重症者割合」資料の母数のデータソースが不明のため、この資料の「重症者割合」データの信憑性は留保が必要である(原因が解明されたら、追記する。情報提供はこちらまで)。

 同様に、厚労省特設サイト「データからわかる新型コロナウイルス」に掲載されている「性別・年代別重症者数」のグラフも、全ての重症者を網羅したものではない。
 オープンデータをダウンロードすればわかるが、25道府県のデータしか収録されておらず、東京都などが含まれていないのだ(6月29日現在)。

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