田村厚労相発言「酒類提供と感染者数は非常に相関関係がある」は本当か 厚労省の見解は?
緊急事態宣言後も酒類提供停止措置を続けるかどうかに注目が集まる中、田村憲久厚生労働大臣が6月15日の記者会見で「(酒類提供の)停止をお願いすると新規感染者数が下がっていく」「酒類提供と新規感染者は非常に相関関係にあることは間違いない」と発言したことが大きく報道された。
だが、田村厚労相は、会見でそう判断した根拠について、具体的に明らかにしたわけではない。
本当に「酒類提供と新規感染者に相関関係がある」と言えるのか。酒類提供停止措置が行われた地域の実効再生産数の推移をみて検証してみた。
(冒頭写真:6月15日放送FNNニュースより)
首都圏と関西圏の実効再生産数
以下のグラフは、国立感染症研究所が作成した、首都圏と関西圏の実効再生産数の推移の最新資料である(6月15日作成、アドバイザリーボード資料より)。
実効再生産数は「1人の感染者が平均して何人に感染させるか」の指標で、1を上回れば感染拡大、1を下回れば感染減少を意味する。
メディアで報道される「発表日ベースの新規感染者数」は報告の遅れなど社会的要素が反映される指標だ。それより、国立感染研究所が作成した「推定感染日ベースの実効再生産数」を確認した方が、より正確に感染状況の推移を把握できると考えた。
<首都圏の実効再生産数>
<関西圏の実効再生産数>
これによると、首都圏の実効再生産数は2月1日以降、徐々に上昇を続け、3月上旬ごろに1を上回り、4月10日ごろをピークに減少に転じた。1を下回ったのは5月初めごろで、5月10日ごろまで減少が続き、その後は横ばいで推移している。
関西圏の実効再生産数は2月1日以降、上昇を続け、2月下旬ごろに1を上回り、3月20日ごろをピークに減少に転じた。1を下回ったのは4月中旬ごろで、5月15日ごろまで減少が続き、その後は横ばいで推移している。
酒類提供停止は4月25日以降 相関関係は?
では、酒類提供停止の措置の有無と実効再生産数の推移に、相関関係があると言えるだろうか。
そもそも「酒類提供停止」措置は、4月23日に厚労相告示で追加され、4月25日の第三次緊急事態宣言以降、首都圏と関西圏で相次いで実施されたものだ(埼玉・神奈川・千葉では4月28日から実施)。
それまでは、まん延防止等重点措置に基づく時短要請は行われていたが(大阪では4月5日〜、東京では4月12日〜)、酒類提供停止措置はとられていなかった。
新たな対策の効果が出るのは約2週間後からと言われているから、酒類提供停止措置の効果が現れるとしたら5月9日以降になるはずである。
なお、「酒類提供停止」措置は、5月以降も緊急事態宣言・まん延防止等重点措置が適用された他県でも実施されたが、効果が現れるのが5月下旬以降で、国立感染研の実効再生産数の最新データが5月末までのものであったため、ここで取り上げることは見送った。
先ほどの実効再生産数の推移を改めてみると、首都圏では、実効再生産数は4月10日ごろから減少局面に入り、5月初めごろには1を下回ったが、5月中旬以降は下げ止まっている。
関西圏では、実効再生産数は3月20日ごろから減少局面に入り、4月中旬ごろには1を下回ったが、やはり5月15日ごろ以降は下げ止まっている。
つまり、首都圏も関西圏も、酒類提供停止措置の効果が現れる前から実効再生産数は減少し、1を下回っていた。
酒類提供停止措置の効果が現れる時期から、減少ペースが加速(実効再生産数がさらに減少)したという事実も確認できない。
これをみる限り、酒類提供停止措置の実施と実効再生産数との間に明確な相関関係を見出すのは難しいのではないだろうか。
大臣発言の根拠 厚労省の見解は?
では、田村厚労相の発言の根拠は何なのか。
この問いに対し、厚労省は次のように回答した(山尾志桜里議員が照会)。
昨日(注:6月14日)の記者会見において、田村厚労大臣が、「酒類提供と感染者数に『相関関係があるのは間違いない』と述べられていることについて、エビデンスを示す資料をお願いいたします。
(回答)
お尋ねの資料については、例えば、令和3年4月8日の新型コロナウイルス感染症対策分科会において、下記リンク先の資料3にあるような資料が提出されております。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/ful/taisakusuisin/bunkakai/dai1/gijishidai.pdf
これは4月8日の新型コロナウイルス感染症対策分科会で、尾身茂会長が提出した「今冬の感染対策の効果の分析について~人出と感染者数を中心に~」と題された資料だ。
これは主に年末年始の新規感染者数の増減の要因を分析した資料である。
その中に、次のような記載があった。
〈新規陽性者数の増加局面における寄与率〉
・新規陽性者数の増加局面においては、忘年会の寄与率が大きかったと考えられる。このことはツイッター分析と一致。
・また、人出の中でも、特に21時の人出の寄与率が大きかったと考えられる。
〈新規陽性者数の減少局面における寄与率〉
・新規陽性者数の減少局面においては、飲み会の抑制、21時の人出の減少の寄与率が大きかったと考えられる。8時、15時の人出の減少も一定の寄与率があったと考えられる。
これによると、忘年会や飲み会が新規陽性者数の増減に影響を与える重要な要因だったということなのだろう。
ここでは、尾身会長の分析の妥当性について仔細に検討、評価することはできないが、これはあくまで、年末年始の忘年会や飲み会と、新規感染者数の関係について分析したものである。
また、居酒屋・バーなどの酒類提供店において、年末年始に大人数で行われる忘年会や飲み会がいつも行われているわけではないことにも留意する必要がある。
そもそも田村厚労相の発言は、4月25日から導入された酒類提供停止措置と新規感染者数の関係について述べたものであった(後掲の発言原文を参照)。
これは、人数の規模や感染対策などと無関係に、一律に「酒類提供」そのものを止めてしまう措置である。
この措置と新規感染者数の減少の間に、田村大臣がいうように「非常に相関関係があることは間違いない」と断定することには、疑問が残る。
田村厚労相の発言(6月15日の記者会見)
(記者)解除されるかどうか、その後の対策はこれからかと思いますが、解除しても重点措置に切り替えたとしても、酒類の提供について、大臣どのように。
(田村大臣)今回のまん延防止重点措置、また緊急事態措置、こういうものを見ていても、お酒を出されているお店等々の営業、こういう機会を、停止等のお願いをさせていただくと、下がっていきますよね、新規感染者数。それと、酒類の提供と新規感染者の関係は非常に相関関係にあることは間違いがないわけです。
そういうものを念頭に置きながら、どのような対応をとるかというのは、専門家の方々のご意見を踏まえながら、最終的には政府が判断していくものと思います。
(会見概要全文は厚労省ホームページ)
<お知らせ>
「コロナ禍検証プロジェクト」はメルマガ(無料)配信を始めました。
ご関心のある方は、是非ご登録ください(いつでも解除できます)。
また、本プロジェクトの運営・調査活動には様々な経費が発生しております。
活動を継続するために、ご支援をいただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
【ご支援のページへ】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?