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療養者に占める入院者の割合(入院率)を海外と比較すると日本の「過剰入院」が浮き彫りに

 東京都などで新規陽性者数が増加するに伴い、入院患者も増加している。この状況が続くと医療体制が逼迫するとの懸念が高まっている。
 実は、陽性になった療養者に占める入院者の割合(=入院率)を、諸外国と比較してみると、日本は格段に高いことがわかる。
 日本では、コロナ療養者は「入院が原則、自宅・宿泊療養は例外」という考え方が根強く、政府分科会も「入院率が高い」現状を是としているためだ。

(冒頭写真:東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイトより)

欧米の主要国に比べて入院率が格段に高い日本

 まず、7月7日時点の主要国の療養者数と入院者数、入院率を比較してみたい。
 「療養者数」とは、全陽性者(Total Cases)から回復者(Recoveries)と死亡者(Deaths)を差し引いた人数である。
 厚労省は全国の療養者数・入院者数を毎週1回、集計発表しており、ここでは7月8日0時時点のデータ(9日公表)を基準に、諸外国と比較してみた。

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 この通り、日本は、陽性者(療養者)の3人に1人以上が入院しており、各国の中で断トツに入院率が高い。

 およそ1ヶ月ごとの入院率の推移をグラフ化すると、次のようになる。入院率は赤線で、目盛りは右側に記した。

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 日本では、第3波のピーク時(5月)に20%台になった時期はあるが、30%台が多く、高いときは50%を超えている時期もあった。

 主要各国の推移もグラフにした。右側の入院率の目盛りが国によって異なるので、注意されたい。

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 以上の通り、日本以外の主要国はほとんど、療養者数に占める入院者数の割合が1割未満である
 7月に入ってフランスとカナダの入院率が1割を超えているが、両国とも6月に比べて療養者数が大幅減となり、入院者数も大幅に減少している。

 入院者が少なく、自宅等の療養者が多いと十分な治療を受けられず、在宅で死亡する人が増えるのではないか、との心配の声も出てくるだろう(日本では、自宅・宿泊療養中の死亡例がセンセーショナルに報道される傾向がある)。
 欧米各国は日本に比べて桁違いに陽性者数や検査数が多く、逆に日本は検査数が少なく「隠れ陽性者数」がいるため、単純比較できないのではないかという指摘もあるかもしれない。
 だが、「死亡率」を見てみると、イギリス(2.57%)とイタリア(2.99%)はやや高いが、アメリカ(1.79%)、フランス(1.90%)、カナダ(1.85%)は、日本(1.83%)とさほど変わらない
 主要先進国間で医療水準(救命率)がさほど変わらないのだとすれば、死亡率が近い国との比較は可能だと考えられる。

カナダと比較してみる

 今度は、3月2日時点のカナダと日本の入院率を比較してみよう。
 カナダは英米仏に比べると陽性者が少なく、比較しやすいと思われるからだ。

 3月2日は、日本は第二次緊急事態宣言の最中であった(3月21日まで延長することが決まった時期)。カナダの療養者数は日本を上回っていたが、いずれの国も新規陽性者数は横ばいの状況だった(なお、カナダの人口は日本の約3分の1)。

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 見ての通り、日本とカナダの入院率は7倍以上の違いがある。
 重症者数のデータも入れてみると、それほど大きな違いはなかった。日本では、重症者以外の入院患者がいかに多いかがわかるだろう。
 日本では、入院者の約9割、約6千人が重症者以外の患者であった。
 一方、カナダでは新規陽性者も療養者も日本の3倍くらい開きがあるのに、重症者以外の入院患者は約1500人であった。
 カナダでは陽性者の大半が自宅療養なのである。

 これはカナダに限らず、他の主要国も同様である。
 その結果、適切な医療が受けられず多数の感染者が自宅で死亡しているのであれば、死亡率も高くなるはずだ。
 日本では入院者が格段多い代わりに死亡率が他国より低いなら、それも一つの選択肢だろう。
 だが、繰り返すが、日本とカナダで死亡率の違いはほとんどないのである。

東京都の入院患者が「過剰」である可能性

 日本において、陽性者数が突出して多いのは東京都であることは言うまでもない。その東京都において入院患者が急増しているが、その大半が重症者以外の患者とみられる。

 以前もレポートしたが、東京都は、入院患者を「重症患者」「中等症・軽症患者」に分類して公表しているが、「中等症」と「軽症」の患者数は公表していない。

 7月20日時点の東京都の入院患者内訳を確認してみよう(都福祉保健局より)。療養者数は9485人、入院患者数は2388人であるから、入院率は25.2%である。

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 東京都では、国基準の重症用病床として1207床確保しているとしている。
 これには、都基準の重症者(人工呼吸器/ECMO管理)を管理する病床だけでなく、それ以外の患者を管理するICH/HCU病床も含まれている。
 7月20日の最新のデータでは、国基準の重症用病床で管理されている624人中、564人が「中等症」患者にあたるとみられる。

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 公表されているデータをもとに、病床の種類ごとに使用状況を整理すると次のようになる。

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 入院患者を「重症」「中等症」「軽症」に分けて公表している自治体が複数ある。
 例えば、神奈川県の入院患者内訳は、次の通りだ。

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 神奈川県では、重症患者40人に対し、中等症患者505人となっている。
 神奈川県は入院対象を原則中等症以上として運用しており、軽症以下の患者は74人で入院者全体の約1割にとどまっている。
 神奈川県の重症者の定義は東京都と同じ「人工呼吸器/ECMOで管理されている患者」である。
 東京都では、都基準の重症患者64人であるから、神奈川県のデータをもとに推計すれば、中等症患者は808人になる。
 もちろん、日によって変動はあるし、地域差もあるから、多めに見積もっておこう。
 重症患者の20倍程度が中等症患者だと仮定する。その場合でも、東京都の中等症患者は約1200人と推定される。
 現在の東京都の入院患者は約2400人を超えている。
 そうすると、入院患者の半分が都基準の「重症」でも「中等症」でもない、軽症以下の患者ではないかとみられるのだ。

NHKも指摘した「軽症の入院患者」問題

 軽症の入院患者が過剰ではないかという指摘は、最近になってメディアからも提起されている。
 NHK時論公論(6月17日放送)で、米原達生解説委員が、65歳未満で基礎疾患のない軽症患者が、入院者全体の4分の1程度を占めているとのデータを紹介し「入院基準を明確化するとともに調整に関わる関係者の間で共有することが重要だ」と指摘している。

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 入院の必要性の低い患者が多いという「入口」の問題だけでない。
 米原氏は、入院期間が長期化しがちであることも、少ない病床をさらに逼迫させる要因になっていると「出口」の問題も指摘している。

政府分科会が導入した新指標「入院率」

 ところが、政府の分科会は、今年4月にステージ判断の指標を改定し、「入院率」という指標を導入入院率25%以下は「ステージ4」、40%以下は「ステージ3」とする基準を設けた。
 いわば「入院率40%超の状態を"正常"」とする考え方を前提とした指標が作られたのである。

 日本では陽性者数が少ない時期に入院率が40〜50%になり、多い時期に20〜30%になっていたという過去のデータを踏まえて作られたようだが、療養者数に占める入院者数が多いことを無条件に是とするものだ。
 必要性の低い患者が多数入院しているために、より症状が重く、入院の必要性の高い患者が入院しにくくなってしまう可能性は考慮されていない。
 諸外国では入院率1割以下であることも無視されている。

 この新指標をめぐっては、神奈川県の黒岩祐治知事は「神奈川は真に必要な患者を入院させており、療養者全体の入院者の数は少ない」と指摘し、入院率が導入された場合「病床が逼迫していないのに、『ステージ4』にいってしまう」と再考を求めていた(神奈川新聞)。
 だが、政府分科会は指標の見直しを行っていない。
 7月20日現在、内閣官房が公表しているステージ判断の指標では、東京都は入院率25%となっている。

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