新型コロナを一律に法律で縛る仕組みは変えられないのか? 大阪府専門家会議・朝野座長インタビュー詳報
オミクロン株の感染拡大で結核やSARSと同様の「2類相当」の対応が続けられていることについて、大阪府新型コロナウイルス対策本部専門家会議の朝野和典(ともの・かずのり)座長は、濃厚接触者の隔離などの現行法の定めや運用が「かえって社会の機能を阻害しており、マッチポンプになっていないか」と疑問を示した。
朝野氏は、オミクロン株での致死率がコロナ禍の当初から大きく低下しているとの認識を示し「新型コロナウイルス対策特別措置法の適用対象にすべきか議論する必要がある」との考えも明らかにした。また、保健所を介さずに医療機関が直接診断にあたる必要性も訴えた。1月下旬に行った筆者の単独インタビューで語った。
朝野氏は、大阪大学大学院教授(感染制御学)を経て、現在は大阪健康安全基盤研究所理事長。政府の基本的対処方針諮問委員会(尾身茂委員長)のメンバーでもある。特措法の制定当時も、有識者会議委員として関わった。
以下は、インタビューの詳報(一問一答)である。随所に筆者の補足説明を入れた。【訂正あり】
(概要版はこちら)
特措法が想定していた感染症の致死率は?
楊井 朝野先生が大阪府新型コロナ対策本部会議に1月21日に出された意見書の中で、「全数届け出、濃厚接触者も含めた隔離期間という2類感染症相当の対応、特措法に基づくまん延防止等重点措置や緊急事態宣言が、国⺠⽣活及び国⺠経済に重⼤な影響を及ぼす事態を引き起こし、法の定めによるマッチポンプとなっている側面があるのではないか」といったご指摘をされていました。
これについて改めて、朝野先生のお考えをお聞かせいただきたいのですが。
朝野氏 僕も特措法については最初の方から政府の会議に参加させていただいていて、法律上「相当程度高い」と書いてありますが、そもそも「致死率」をどれくらいと見積もりとするのか、といったときに「だいたいスペイン風邪の2%」というのが当時の議論だったんです。
(特措法の)「新型インフルエンザ等」には2つの要件があって「病原性が相当程度高い」、もう1つが「感染流行がインフルエンザ並みに広がっていく」という、この2つの要件を満たさないといけないということで、「感染が広がる」というのは大概インフルエンザと同じでわかりやすいんだけど、「病原性」をどのように評価するかという問題があったんですね。
そうすると、「スペイン風邪の2%程度」を一応目安にしていこうということに、確定的に決められたわけではないですけど、大体そんな感覚かなという話だったんです。
季節性インフルエンザ(致死率0.02〜0.03%)をベースにそれより数段高い、致死率2%くらいと考えていた、ということになります。
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【筆者注】朝野氏が言及した2つの要件とは、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)第1条の目的に書かれている条文の「全国的かつ急速にまん延」と「病状の程度が重篤となるおそれ」を指すと考えられる。
特措法には、適用対象となる「新型インフルエンザ等」がどういうレベルの病原性の感染症なのかは、一切定義がない。特措法第1条の「これにかかった場合の病状の程度が重篤となるおそれ」という非常に抽象的な文言だけで、どういう感染症を指しているかは法律上明確になっていない。
朝野氏は、特措法の制定直後に設けられた新型インフルエンザ等対策有識者会議(2012年〜)のメンバーであった。
その会議では、スペインインフルエンザなど過去のパンデミックでの死亡者数・致死率についての資料が示され、致死率2.0%で「重度」、0.53%で「中等度」と整理されていた。
これを受け、「有識者会議中間とりまとめ」(2013年2月)では「被害想定は、現行行動計画の数値(罹患率 25%/致死率 中等度 0.53%、重度 2.0%)を使用する」との記載とともに、「新型インフルエンザ等が発生しても、病原性が低い場合においては新型インフルエンザ等緊急事態宣言は行われない」との記載があった。つまり、感染症法の分類上の「新型インフルエンザ等」に当たる感染症が発生・流行した際、政府対策本部を設置して対策をとることがあるとしても、緊急事態宣言等の私権制限の対象とするかは、特措法上、別問題だという考え方が前提になっている。
緊急事態宣言を適用する際の政令で定める要件については「重症症例(肺炎、多臓器不全、 脳症など)が通常のインフルエンザと比較し、相当多くみられる場合」とすることが記されており、実際これとほぼ同じ政令の要件が定められている(後述)。
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オミクロン株の致死率はインフルエンザに接近?
朝野氏 この新型コロナは最初、致死率は高かったんですけど、だんだんワクチンも普及して、オミクロン株で致死率が随分下がったということが世界的に報告されて、いくつかのデータも出ています。
特に米国・南カリフォルニアのデータは、感染者を分母として、ゲノムで解析されて致死率が出てきているんです。まだ査読前ですけど、科学的には適切かなと思っています。その結果は、デルタ株との死亡リスク比は10分の1、0.09でしたかね。
そうすると、日本ではデルタ株の致死率が0.4%くらいだったんですね、それが10分の1になるなら0.04%。ということはインフルエンザの0.02〜0.03%に十分あてはまるようになってきたかなと考えているわけです。
ただ、一つ注意しなければならないのはインフルエンザの年齢階層別の致死率は、誰も知らないんです。インフルエンザの患者さんのデータを全部集めて年齢分布・予後を調べるのはできないので、およそ0.02〜0.03%、これが基本的対処方針の元になっています。
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【筆者注】政府の基本的対処方針には、冒頭の「新型コロナウイルス感染症発⽣の状況に関する事実」で、次のように記載されている。
オミクロン株についての記載は次のように「重症化リスクの低下」に言及しているが、オミクロン株の病原性と季節性インフルエンザの病原性の比較はなされていない。
基本的対処方針に書かれた致死率は1年半前のデータ
朝野氏 基本的対処方針の前文には「令和2年6⽉から8⽉まで」の致死率が約1.0%と書いてあるんです。これは1年半前の話なんですね。それを元に基本的対処方針を書かれているんですけど、今はそうじゃないですよね、という問題があります。
どんどん致死率が下がってきているんですが、コロナのスタート時点が「1%」だったから、そのまま特措法の対象になるという解釈が正しいのか、疑問であるという趣旨を、そこ(意見書)に申し添えたということです。
新型コロナ全体の致死率は最初から計算すると1%近くになりますが、楊井さんは弁護士さんですから法律の解釈として教えていただきたいんですが、「コロナ」という病気を一つのものとして、その中のオミクロン株も特措法の対象に入るという考え方で正しいのか。
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【筆者注】大阪府は第1波〜第6波の重症化率・致死率をまとめて公表している。それによると、大阪府での重症化率・致死率(全年齢平均)は次のように推移している(2022年1月30日時点)。
重症化率:8.2%→2.5%→3.2%→3.2%→1.0%→0.05%
致死率:4.9%→1.5%→2.6%→2.8%→0.4%→0.04%
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2類相当の運用、社会の機能を阻害していないか
朝野氏 それから「マッチポンプ」という考え方ですけど、これはご存知のとおり濃厚接触者をみんな引き抜いて自宅待機と言っているわけですね。これは「2類感染症」相当だから、そう言っているわけです。
だけど、「法律によるマッチポンプ」になっているのではないか、そう定めていることでかえって社会の機能を阻害していることになってはいないか、ということで「マッチポンプ」と申し上げたんです。
一方で、医療職は毎日検査して働いていいとなっているわけです。2類相当なのに濃厚接触者はフリーになっている。検査試薬は足りない状態で、毎日検査して働いていいよと言われても、症状ある人の検査ができなくなるという問題もある。これも「マッチポンプ」だと思うんですけど。
こういう状況を生み出している原則、これは本当に特措法の対象になるのか、という意味であります。
楊井 先ほど「スペイン風邪の致死率2%程度」を想定していたという話でしたが、当時どんな議論をされたのかもう少し詳しく教えていただけますか。
朝野氏 2009年の新型インフルエンザが起きて特措法を作ろうとなり、どの程度の感染症を想定するかと議論になり、致死率2%くらいなら、今のインフラと社会の体制で何とか対応できるという相場感でした。5%を超えたら社会的な対応はできないだろうと。
楊井 致死率2%くらいなら今の特措法の対象になるということですか。
朝野氏 そうです。もちろん致死率10%でも20%でも特措法で対応しないといけないんですけど、今の法体系では無理だと思います。ロックダウンが必要になってくると思うんですね。特措法は緩やかなソフトロックダウンしかできないので、致死率10%の感染症がきたときに、法的に対応できないと思います。
オミクロン株の重篤症例頻度はインフルエンザより「相当程度高い」のか?
楊井 ご存知だと思いますが、特措法の適用対象は「新型インフルエンザ等」のうち「重大なものに限る」ということが書かれていて、「施行令」の方に「肺炎」「脳症」「多臓器不全」の3つが挙げられ、「その発生頻度が季節性インフルエンザより相当程度高いもの」となっています。
今のオミクロン株がこれに当てはまるかどうか、どう考えますか。
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【筆者注】特措法は、まん延防止等重点措置、緊急事態宣言に適用される要件は、すべての「新型インフルエンザ等」ではなく、「国民の生命及び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがあるものとして政令で定める要件に該当するものに限る」と定めている(31条の4第1項)。
その政令の要件とは、次のような規定だ。
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朝野氏 脳症、多臓器不全は最重症の方がなるものなので置いておいて、今回「肺炎」が焦点になると思うんです。
新型コロナは90%くらい肺炎が起こると言われています。インフルエンザも高齢者が肺炎を起こして亡くなると言われますが、それは細菌性の肺炎なんです。インフルエンザウイルスによる肺炎ではなくて、その後の細菌に感染することによる続発性の肺炎なんですね。それも含めて肺炎ととらえたとしても、非常に頻度が低いんです、インフルエンザの場合は。
コロナの特徴は肺炎を起こしやすいということとそれによる重症化ですね。最初のころのコロナは特措法に対象に十分当たると思うんですね。デルタ株までは肺炎は起こって重症化していましたから。
ただオミクロン株については肺炎の発症率はかなり低いんじゃないかと言われています。それが10%であってもインフルエンザよりは高いと言っていいかもしれない。そこは抜け穴かもしれないですけど、致死率がほぼ同じなのに、肺炎の頻度が高いから特措法の対象ということでいいのか、きちんと議論すべきだと思います。
オミクロンの後にもっと強い病原性のものが来る可能性は否定できませんので、コロナ全部を「2類」から外してくださいということでもありません。
楊井 では肺炎は置いておくとして、致死率でみた場合、オミクロン株は季節性インフルエンザとさほど変わらないというご認識ですね。
朝野氏 海外の報告をみるとですね。ただ海外はワクチンの接種率とか高齢化というのが日本と違ってきますので。
水際対策している間に海外のデータが入ってきましたが、日本のデータも出てくると思うので、その結果をみてもう議論すべきだと思います。
基本的対処方針諮問委員会で議論は?
楊井 そろそろ議論すべきだと。先生はそういったことを基本的対処方針諮問委員会で提起されてはいるのでしょうか。議論になっていないのでしょうか。
朝野 尾身先生がオミクロン株になって意見書を出しましたよね。あそこで2類・5類の話は出ていませんけど、オミクロン株はこれまでのコロナと全く違うものだと書いてあったと思いますので、尾身先生はじめそういう認識はお持ちになっている。
でも、それが特措法の対象になるかという点は、議論になっていないということです。
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【筆者注】オミクロン株の感染拡大を受け、厚労省アドバイザリーメンバーである尾身茂氏ら専門家有志が1月21日、意見書を発表した。「人流抑制ではなく人数制限」という方針転換がニュースとして大きく取り上げられたが、その意見書の中に次のような記述がある。
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楊井 新型コロナは、以前は政令で定める「指定感染症」でしたが、昨年の法改正で「新型インフルエンザ等感染症」に位置付けられました。明確な定義はないため、変異株であっても、「新型コロナ」という大きなグループにくくられる形です。
ただ、「鳥インフルエンザ」が2類、「季節性インフルエンザ」が5類と分類されているように、同じ「インフルエンザ」であっても、感染症法上は異なる分類にすることも可能です。
そのためには法律改正が必要ですが、「新型インフルエンザ」は法律改正なしに「季節性インフルエンザ」と同じ扱いとなったので(2011年3月31日厚生労働省報道発表)、新型コロナも同じように変更可能かもしれません。
【訂正】かつて「新型インフルエンザ」を「季節性インフルエンザ」と同じ扱いに変更したのは、運用ではなく、感染症法に根拠規定がありました(44条の2第3項)。「運用により」という指摘は誤りでしたので、訂正いたします。あわせて、下記の筆者注も加筆修正しました。
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【筆者注】現行の感染症法の6条に感染症の分類が定められており、「新型インフルエンザ等感染症」という独自の類型には、「新型インフルエンザ」「再興型インフルエンザ」「新型コロナウイルス感染症」「再興型コロナウイルス感染症」の4種類がある。
このうち「新型コロナウイルス感染症」はカッコ書きで次のように一応の「定義」が定められている。
また、「新型インフルエンザ等感染症」という類型は、厚労相が公表することで、事実上「新型インフルエンザ等感染症」の適用除外にすることができる規定がある。
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新型コロナを一律に扱う法律の縛りは変えられないのか?
楊井 現在、コロナはいわゆる「2類相当」の扱いになっているため、季節性インフルエンザのように気軽にかかりつけ医に行けず、保健所の指示を待たないと医療機関にもかかれない。保健所もパンクして病院に行きたくても、連絡を待たされる人が続出している、という状況になっています。
保健所が感染者すべてをコントロールする仕組みは、本来は今のように毎日何千、何万人にもまん延している感染症ではなく、まだ非常に少なくて、保健所でコントロールが可能な段階の感染症を想定していたのではないでしょうか。
朝野氏 その通りです。大阪府では、無料検査の陽性率が5%とかとんでもない数字も出ていて、いま発表されている感染者数の数倍の感染者がいるんです。ボリュームが全然違ってきているというのは事実です。
もう一つは、濃厚接触者を隔離すると言っていますが、何割か発病するかもしれない濃厚接触者を囲い込んだとしても、もうすでに感染者が社会の中にいっぱいいるのだから意味はなくなっているとも言えると思います。
ただ、「新型コロナ」という感染症を一律に2類相当にしてしまっているので、状況が変わったのにもかかわらず、なかなか踏み出せない、変えられないという法的な縛りが残っています。
ですが、先ほど楊井さんがおっしゃったように、鳥インフルエンザと季節性インフルエンザは同じインフルエンザなのに感染症法上の分類が違うというように、もうちょっと合理的に判断する必要があると思っています。
もちろん、いま高齢者が重症化しつつありますので、コロナが原因で重症化したのではなく、基礎疾患のある方が風邪やインフルエンザにかかれば重症化するのは医療の現場では当たり前なので、それと同じことなのですが、「重症化しない」とは言えません。そういう基礎疾患のある方たちに感染すれば重症化します。
全体として重症化しにくくなっているけれども、特定のグループの方々にはまだ重症化が起こり得る感染症なので、メリハリのある対策を立てる必要がある。
一方で、もともとインフルエンザでもそうしたグループの方々が重症化するので、これだけが特別じゃないという見方もできると思います。
楊井 インフルエンザ流行期では、もっと感染者数が多かったのに、社会が混乱したり、医療が逼迫したり麻痺したりということが起こっていなかったと思うんです。今はインフルエンザよりまだ少ないのに、重症者が出てくるとはいえ、なぜこんなに麻痺してしまうのか、疑問なのですが。
朝野氏 もう今の状況はインフルエンザ流行期並みに多いと言えるんです。
オミクロン株が来たときに、これまでの「コロナ」として対応するのか、新たに別のウイルスととらえるのか、特措法から外すか、という議論もできたと思うんですけど、そういう議論を迅速にできないのが日本社会の仕組みだと思います。
よく内閣府とか厚労省の方ともお話しますが、そう簡単に立ち位置を変えられないし、彼らは保守的に動かざるを得ないところはあると思います。
豊中市医師会の取組みは「画期的」 医療側も変化を
楊井 まん延防止等重点措置を大阪府など各地でやり始めているわけですが、これについては別の対応があるとお考えでしょうか。
朝野氏 エビデンスがないわけではないと思っています。国立感染研究所が昨年10月6日に会食・飲食におけるコロナ感染症のリスク評価をしていますね(筆者注:国立感染症研究所の暫定報告)。
コロナを抑え込むには、まん延防止等重点措置における飲食の時短・酒類提供の自粛は、エビデンスとしては効果があると思っています。
尾身先生が「人流抑制ではなく人数制限」とおっしゃいましたけど「人流抑制」にはエビデンスがないと思うんですが。
エビデンスがあるので飲食店への対策は必要とは思いますが、季節性インフルエンザではやらなかったような、経済的に大きな影響を与える対策をとってしまっているわけです。
ですから、飲食店への対策だけでなく、医療側も変えていかなければならないと思うんです。まず、保健所から連絡が1週間も来ないという状況をどう変えるかということですね。
実は、豊中市医師会が感染者との「ファーストタッチ」や健康観察も始められたんです。
これはぜひ取り上げていただきたいんですけど、医師会の中でこれが今まで一番求められていて、できなかったことなんです。やっていたと言われるかもしれないけれど。
豊中市医師会が豊中市と協定を結んで、100以上のクリニック施設がファーストタッチをやる。
ファーストタッチというのは、最初に連絡して「具合はどうですか」「基礎疾患ありますか」「療養場所はどこにしますか」といったことを聞いて病院を手配したりする。これを医師会が協力してやっていくというんです。
これは本当に画期的なことなんですね。医師会がもっとこういう形で動いていけば、医療機関や保健所もだんだん逼迫していかなくなると思います。
(以上、インタビューは1月24日実施した)
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【筆者注】豊中市と豊中市医師会は、保健所が担っていた新規陽性者に対する療養方針の決定などの「ファーストタッチ」を医師会の医療機関が担うようにするための協定を1月20日に締結した(プレスリリース、大阪日日新聞報道)。
日本医師会に取材し、豊中市医師会のような取組みは他の地域でも行われているかどうか尋ねたところ、「把握していない」とのことだった。
厚労省が第5波で逼迫した昨年9月、保健所を介さずに医療機関が直接健康観察等を行うことができるとする通知を出しており、それを日本医師会が各都道府県医師会に連絡したことはあるが(昨年9月6日付文書)、「改めて積極的に要請するといったことはしていない」とのことであった。
東京都医師会にも取材を申し込んだが、現時点で回答は返ってきていない。
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インタビュー中、朝野氏から、オミクロン株も「新型コロナ」として一律に扱う法律の解釈は正しいのか、変えるにはどうすればいいか、法律家としての見解を何度か質問された。
それについての現時点での私の考えを整理すると次のようになる。(2月6日、一部加筆修正しました)
◯ 感染症法上は「新型インフルエンザ等感染症」という類型に「新型コロナウイルス感染症」が分類されており、その一種であるオミクロン株もこの分類と同じ扱いになることは法律解釈として正しくない、とは言えない。
したがって、分類を変えるには原則として法律改正が必要となるが、かつて法律改正をせずに「新型インフルエンザ」を「新型インフルエンザ等感染症」という類型から外し、季節性インフルエンザと同様の5類に変更した先例がある。
これは感染症法44条の2第3項に基づく厚生労働大臣の「公表」により、当時流行した「新型インフルエンザ(A/H1N1)」について「新型インフルエンザ等感染症」の適用対象外にし、その反射的効果として、5類感染症の「インフルエンザ(鳥インフルエンザ及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)」の適用に移行した事例であったみられる。
それにならって、オミクロン株など季節性インフルエンザとほぼ同様の病原性の変異株についても、感染症法44条の2第3項に基づく厚労相の「公表」だけで、「新型インフルエンザ等感染症」の適用対象外にすることは可能とみられる(実際、感染症法改正時の厚労省作成Q&Aに「厚生労働大臣が新型インフルエンザ等感染症と認められなくなった旨を公表すれば、法の適用対象でなくなります」との説明があった)。
ただし、現行の感染症法には、5類感染症として「新型コロナウイル感染症(新型インフルエンザ等感染症を除く。)」というような類型は設けられていないため、「新型インフルエンザ等感染症」の適用対象外にする趣旨の公表だけで、自動的に「5類」扱いに移行するわけではない。
省令を出せば、季節性インフルエンザ等と「同程度に国民の健康に影響を与えるおそれがあるもの」として5類に分類できる新たな感染症を定めることができる(感染症法6条6項9号)。つまり、厚労相の決断で(省令は閣議決定が不要)、季節性インフルと同じ「5類」扱いに移行することは可能とみられる。
◯ そもそも感染症の「ネーミング」で分類するという方法が合理的なのか疑問があるので、病原性(致死率)によって対策を変更できるような仕組みに抜本的に変える必要があるのかもしれない。
◯ 感染症法上の分類はともかく、現在の特措法に基づく緊急事態宣言等を行うためには「季節性インフルエンザの肺炎等の重篤な症例の発生頻度より相当程度高い」という政令の要件を満たす必要があるため、これに当てはまらないと判断すれば、緊急事態宣言等は実施できないことになる(この点、政府はこの政令要件にオミクロン株が当てはまるかの調査検討をしていなかったことが筆者の取材で判明しており、特措法違反の疑いがある)。