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東京地裁、都に時短命令を発した根拠の更なる説明求める グローバルダイニング提訴の第1回期日で

 東京都が緊急事態措置として発した営業時間短縮命令は違憲、違法だとして、飲食チェーンの「グローバルダイニング」(GD)が東京都に損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論期日が5月21日、東京地裁で開かれた。
 その中で、松田典浩裁判長は都に対し、緊急事態宣言の終了3日前に時短命令を出した根拠や、時短命令の対象が32店舗(うちGDが26店舗)に絞り込まれた理由について、具体的に説明するよう求めた。
 都は、弁護士をつけず、松下博之訟務担当部長ら4人の指定代理人が出廷した。
 次回期日は7月9日に決定。その1週間前までに、東京都は改めて命令の正当性について主張書面を提出することとなった。
 筆者(楊井)は、弁論期日で傍聴席から取材した。

(冒頭写真:5月21日午後2時半すぎ、司法記者クラブ(都内)での記者会見)

基本的対処方針「全ての都道府県が緊急事態措置区域に該当しない」との整合性は?

 原告GD側は訴状で、時短命令を出した3月18日時点の東京都は「緊急事態」の要件を満たしていなかったと主張。これに対し、東京都は事前に提出した答弁書で「緊急事態措置を実施すべき期間として公示されている期間は、同公示が外見上明白に無効といった容易に想定し難い場合でない限り、特措法45条2項の『緊急事態において』の要件を満たす」と反論した。
 これについて、松田典浩裁判長は、東京都に対し、緊急事態宣言の終わり間際に時短命令を出した具体的な理由について、次回期日までに説明するよう求めた。

 政府が3月18日に改定した基本的対処方針には「全ての都道府県が緊急事態措置区域に該当しないこととなった」と記され、予定通り3月21日に緊急事態宣言を解除することが決まっていた。
 そうした中、東京都は3月18日、時短要請に応じていなかったGDの26店舗を含む27店舗(2事業者)に時短命令を発出。翌19日にも、5店舗(5事業者)に時短命令を発出した。
 原告側は、都の答弁書に対する求釈明申立書で、基本的対処方針の記述との整合的な説明とともに、判断過程における内部資料の開示を要求。松田裁判長はこの求釈明に言及した上で釈明権を行使した形だ。
 この点に関する東京都の答弁に不十分な点があり、具体的な説明を求める必要があると判断したとみられる。

… 令和3年3月18日に、感染状況や医療提供体制・公衆衛生体制に対する負荷の状況について分析・評価を行い、全ての都道府県が緊急事態措置区域に該当しないこととなったため、緊急事態措置を実施すべき期間とされている3月21日をもって緊急事態措置を終了した。
 今後は、「緊急事態宣言解除後の新型コロナウイルス感染症への対応」(令和3年3月18日新型コロナウイルス感染症対策本部とりまとめ。以下「緊急事態宣言解除後の対応」という。)を踏まえ、社会経済活動を継続しつつ、再度の感染拡大を防止し、重症者・死亡者の発生を可能な限り抑制するための取組を進めていくこととする。…
2021年3月18日変更の「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」より一部抜粋)

「発信への狙い撃ち」疑惑を都は否定 「実効性が低下する懸念」に言及

 また、松田裁判長は、時短要請に応じていなかった約2000店舗から最終的に命令の対象が32店舗に絞られた経緯や理由についても、具体的な説明を次回までに求めた。
 松田裁判長が具体的な事項を特定して釈明権を行使したのは以上の2項目。その他に原告GD側が求釈明申立書で指摘した疑問点についても、都が回答を検討するよう求めた。

 都は、GDに時短命令を発した際の措置命令書で「緊急事態措置に応じない旨を強く発信するなど、他の飲食店の20時以降の営業を誘発するおそれがある」と言及していた
 この点について、原告GDは訴状で、同社の長谷川耕造社長がフェイスブックなどで要請に応じない旨の弁明書を公開したことから、反論した者への“見せしめ”の違法な目的で命令が出され、こうした目的での命令発出は憲法で保障された「表現の自由」の侵害にもあたると主張。
 これに対し、都は、命令書で言及した「発信」は具体的には、1月7日にGDのホームページで公開された記事を指していると答弁し、「特定の言論を狙い撃ち」にしたものでは全くないと反論した。
 一方、上場企業であることや知名度の高さといった「社会的影響力の強さ」に言及しつつ、1月7日の発信が要請に従わない事業者の増加や市中感染リスクの増大のおそれがあることから、命令の発出は「特措法の目的に照らして合理的」と主張した。

「個人経営の飲食点や中小規模の事業者を含めた都内の大多数の飲食店が要請に応じている中で、上場企業である原告が時短営業に応じず営業を継続する旨を発信して公然と営業を継続し売上を伸ばしていることは、その絵社会的影響力の強さから、大きな不公平感を生じさせることになり、他の飲食店の20時以降の営業継続を誘発するおそれがあること、すなわち、時短要請という緊急事態措置の実効性が低下する懸念があることから、本件命令を発出せざるを得ないことを指摘したものであり、何ら原告の表現の自由を侵害するものではない。(答弁書16頁)
 本件要請及び本件命令で原告の26施設が対象となったのは、これらの施設は上場企業である原告が経営する店舗であり、世間一般の知名度の高さから、営業継続による人流増大への影響が高いと考えられ、感染リスクが決して低いとは言えないこと、及び上場企業である原告が緊急事態に応じない旨をホームページで積極的に発信して公然と20時以降の営業を継続することは、その社会的影響力の強さから、他の飲食店等の営業継続を誘発し市中の感染リスクを増大させるおそれがあると判断されたことによるものであって、特措法の目的に照らし合理的なものである。(答弁書17頁)

 ただ、都側は、大半の都内の飲食店が要請に応じていたとしており、GD社の発信に呼応して要請に応じない店が増えていたという主張はしていない。
 そのため、原告側は、求釈明申立書で、1月7日の発信と感染拡大リスクの因果関係についても説明を求め、追及していく構え。この点も今後の重要な争点の一つとなる可能性がある。

命令前の専門家の意見聴取はきちんと行われたか

 特措法は、45条2項に基づく要請や3項に基づく命令を出す際は、あらかじめ感染症専門家など学識経験者の意見を聴取しなければならないと規定している。
 この点に関し、都は今回の訴訟で、2月19日に要請について、3月5日に命令について、それぞれ都の新型コロナウイルス感染症対策審議会の5人の委員に対する意見聴取を「書面開催」という形式で行ったと説明した。
 3月5日の審議会では「対応して頂いている事業者にとって不公平を生じる。対応していただけていないことによって結果として人流の増加をきたし感染を助長すれば、感染対策に対する事業者・都民の協力自体を無力化する可能性がある」(大曲貴夫 国立国際医療研究センター国際感染症センター長)、「時短営業を継続している事業者・施設も多数ある。平等原則からも、次の段階の命令を発することが必要」(紙子陽子 弁護士)などと、5人とも時短要請に応じていない事業者に命令を出す必要性を指摘していた(議事録)。
 だが、この審議会の書面開催がなされた3月5日は、緊急事態宣言を21日まで再延長することを政府が決定した日。実際に命令を発出したのは13日後で、期限通り緊急事態宣言を解除することが決まった日だった。
 GD社は3月11日、都から求めに応じて、要請には従わない理由を述べた弁明書を提出している。
 この後、3月18日に命令を出すまでの間に、要請に応じない「正当な理由」があるかどうか、「特に必要がある」と認められるかどうかについて、都がどのように検討を行ったかは現時点で不明だ。

 ただ、命令が出された3月18日には、改めて学識経験者による審議会が書面開催されていたが、時短命令について意見聴取はなされていなかった。
 委員からは、宣言解除後も人流抑制や時短要請が必要という意見が大勢を占める一方、「新規感染数は大幅に減少し、医療体制のひっ迫状況は大きく改善した。公衆衛生の最前線である保健所機能もほぼ正常化しつつある状況」(太田智之 みずほ総合研究所首席エコノミスト)との現状認識を示した委員もいた(議事録)。

新型インフルエンザ等対策特別措置法
第45条
3 施設管理者等が正当な理由がないのに前項の規定による要請に応じないときは、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため特に必要があると認めるときに限り、当該施設管理者等に対し、当該要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができる。
4 特定都道府県知事は、第一項若しくは第二項の規定による要請又は前項の規定による命令を行う必要があるか否かを判断するに当たっては、あらかじめ、感染症に関する専門的な知識を有する者その他の学識経験者の意見を聴かなければならない。

違憲主張に都側「憲法適合性の審査義務ない」

 原告GD側は、訴状で、飲食店の一律規制を可能とする特措法45条2項、3項は、営業の自由への過剰規制だとする「法令違憲」の主張や、ステージ3を下回った状況での時短命令は「必要最小限」(特措法5条)の制約を超えるものだとする「適用違憲」の主張も行っている。
 この点について、都側は答弁書で「被告の公務員が特措法を適用するにあたり、同法の憲法適合性を審査すべき職務上の注意義務があるとは到底解されない」などと主張するにとどまり、特措法やそれに基づく時短命令の合憲性について具体的な主張を行わなかった。
 日本国憲法は「公務員」の憲法尊重義務(99条)や憲法に反する法律、命令は無効となるという最高法規性(97条)が明記されている。
 地方公務員である東京都知事や職員は、こうした憲法上の規定に拘束されないという主張なのかどうかは定かでないが、答弁書の内容からは、都が事前に憲法適合性を全く検討、審査していなかった可能性が高い

 原告側は、第1回期日で、都の命令は「民主主義の根幹をなす日本国憲法を、あからさまに無視したもの」(GD社長・長谷川耕造氏の意見陳述書)、「本訴訟は、人権と統治それぞれにおいて現代日本社会で日本国憲法が生きているのか問う訴訟」(原告代理人・倉持麟太郎弁護士の意見陳述書)と、違憲性を問うていく考えを強調した。
 今後こうした憲法上の争点について、松田裁判長がどのように訴訟指揮するのかも注目される。

<参考記事>
「法廷で白黒をつけたい」グローバルダイニング訴訟、初弁論 都は全面的に争う姿勢(弁護士ドットコムニュース 2021/5/21)

本件訴訟の経緯

2021/1/7 特措法施行令改正・告示で、緊急事態措置の対象施設に飲食店を追加
1/7 東京都、緊急事態措置の内容を発表
1/7 グローバルダイニング社(以下「原告」)、「緊急事態宣言の発令に関して、グローバルダイニング代表・長谷川の考え方」をホームページに掲載
1/8 第2回緊急事態宣言(当初2/7まで。2度延長で3/21まで)
2/13 緊急事態措置として命令を可能とする改正特措法が施行される
2/19 東京都、特措法45条2項に基づく要請について専門家に意見聴取(書面開催)
2/19 東京都、原告に対し、特措法24条9項に基づく時短要請
2/22 東京都、原告に対し、特措法45条2項に基づく時短要請の事前通知
2/26 東京都、原告(を含む34店舗)に対し、特措法45条2項に基づく時短要請
3/3 1都3県の6つの指標で「ステージⅣ」はゼロになり、全て「ステージⅢ」以下に
3/3・5 東京都、計79店舗に対し、特措法45条2項に基づく時短要請
3/5 東京都、特措法45条3項に基づく時短命令について専門家に意見聴取(書面開催)
3/5・8 東京都、原告(を含む33店舗)に対し、弁明の機会を付与する通知
3/11 原告、東京都に弁明書を提出
3/15 東京都、原告に対し、特措法45条3項に基づく時短命令の事前通知
3/17 菅総理、緊急事態宣言解除の意向表明
3/18 政府、緊急事態宣言の解除(3/21)を正式決定。改定された基本的対処方針で「全ての都道府県が緊急事態措置区域に該当しないこととなった」と記述。
3/18 東京都、16店舗に対し、特措法45条2項に基づく時短要請
3/18 東京都、原告の26店舗(を含む27店舗、2事業者)に対し、特措法45条3項に基づく時短命令
3/18〜21 原告、20時までの時短営業に切り替え
3/19 東京都、5店舗(5事業者)に対し、特措法45条3項に基づく時短命令
3/21 緊急事態宣言終了
3/22 東京地裁で本件訴訟を提起(訴状
4/1 原告、訴訟の進行に関する意見書提出
5/14 被告東京都、答弁書提出
5/19 原告、求釈明申立書提出
5/21 第1回口頭弁論期日
7/9 第2回口頭弁論期日(予定)

(主張書面、証拠関係はcall4サイト参照)


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