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ジャン・チャクムルを見守り続けて・・・

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トルコの若きピアニスト、ジャン・チャクムル(Can Çakmur)の存在を知って以来、第10回浜松国際ピアノコンクール(2018)での優勝を経てさらに成長を続ける彼を応援していま…
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2019年11月の記事一覧

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(11)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――今日の激しい競争環境と厳しい経済条件のなかでは、ソリストだけをしながら生き残るのは容易ではありません。したがってソリストたちの多くは、同時にちゃんとした組織で先生となることもキャリアの一目標と見なしています。一部のソリストたちは、定期的にマスタークラスを開き、若い音楽家たちに経験を伝えています。 ジャン・チャクムルは、自身

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(10)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――あらゆる時代、あらゆる作曲家を制覇するという点で右に出るものがいないピアニストがいます。特にロシアの音楽院出身のピアニストたちは幅広いレパートリーを持っていることで知られます。ロシアの音楽院出身でなくとも、我が国のピアニストでいえばイディル・ビレットがこのグループに入ります。また例えばアルフレッド・ブレンデル、あるいはまた

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(9)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――もう一度、日本の話に戻りますが、今度は別の理由からです。日本とトルコの近代化の実践は互いによく比較されます。2国ともほぼ同年代に近代化の動きが始まったわけですから。しかしその後の時代に異なるスピードで異なる方向へと発展を続けていきました。一方、ヨーロッパのクラシック音楽もずいぶん経って、ほとんど同じ時代に2国に入っていきま

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(8)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――ジャン・チャクムルは〈考えるピアニスト〉という独自性をもち、単に作品の解釈の仕方だけではなく、クラシック音楽の世界、演奏と鑑賞の伝統などを歴史的視点から評価することができることでも、当代におけるピアニストの中でとび抜けています。アンダンテ誌でここ数年発表してきた読者の高い関心を集めている論考で、クラシック音楽の異なる側面に

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(7)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――ジャン・チャクムルがコンセルヴァトワールで教育を受けていないこと、大学以前にトルコで正規の音楽教育を受けないままドイツに大学段階で音楽(ピアノ)教育を受けるために行ったことは、彼に関しこれまでしばしば強調されてきたテーマです。 チャクムルは、ドイツ留学後のキャリアをどのように形作っていきたいか、このように語ってくれました。

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(6)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――ジャン・チャクムルに授与された褒賞のひとつで、おそらく一番重要なものは、クラシック音楽界で定評のあるレコード会社のひとつ、BISレーベルのもとでレコーディングされた素晴らしいCDです。チャクムルの優勝から時をおかずして世界市場にリリースされたこのCDを、私はレコード業界に長年精通した者として称賛とともに歓迎しました。BIS

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(5)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――現代におけるコンサートホールの出入りの激しさという話に戻れば、あのような制限された時間の中でソリストと指揮者の効果的な関係はどうやったら築くことができるか、というのがすぐに頭に浮かぶ質問の一つです。大抵の場合それ以前に互いのことを知らなかった指揮者とソリストが、1、2時間という時間のなかで会い、共通の立場で理解しあい、同じ

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(4)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――日本のクラシック音楽ファンは世界中のクラシック音楽に熱烈な関心を抱いており、“音楽家に抱く崇敬” という文脈のなかで他の国の人々とは大きく異なる位置を占め、音楽と音楽家に対し大きな敬意を抱いている人々として知られ賞賛を受けています。 ジャン・チャクムルも、日本と日本の人々、日本のクラシック音楽文化についてかなりの知見を得た

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(3)

(※以下の翻訳は、「アンダンテ」誌の発行人・編集長セルハン・バリ氏の許可を得て掲載しています。また、質問に相当する部分は必要に応じ要約してあります) ――若い音楽家たちは、国際コンクール出場のために行った外国でかなりの期間、滞在を余儀なくされます。この間、切望、喪失感、緊張、不安、喜び、悲しみと、これに類似した数々の感情が激しく渦巻くコンテスタント集団の一員になります。 さてそれでは浜松国際コンクールのために行った日本で、この浜松に滞在した期間を通しジャン・チャクムルはどん

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(2)

2018年の浜松国際ピアノコンクールでの優勝が、彼自身の言葉を借りれば「人生を180度転換させた」という。過去にセルゲイ・ババヤン、アレクサンダー・ガブリリュク、ラファウ・ブレハッチ、チョ・ソンジンなどを輩出した浜コンでの優勝者という名声以上に、副賞・特別賞の形で与えられた数々の機会によって、それまでほぼ無名の若き一音楽家の前に人生の新たな扉があたかも音を立てて開かれ、コンサート・ピアニストとしての一本の道がみるみる伸びていく様は、遠くから見守るだけの私のような一ファンにとっ

若き思想家―ピアニスト、ジャン・チャクムル(1)

トルコのクラシック音楽雑誌「アンダンテ」誌とジャン・チャクムル君との付き合いは長い。コラムへの寄稿は少なくとも2015年(17歳)頃から現在まで続いている。発行人・編集長のセルハン・バリ氏は、チャクムル君のピアニストとしての才能だけでなく、研究家として、また思想家として、あるいはコラムニストとしての才能をそれだけ近くから見つめてきた人物であり、2人の間に知的な信頼関係が築かれていることは間違いないだろう。 「アンダンテ」誌の第156号(2019年10月号)に掲載されたチャク