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ツインレイ?の記録32

6月11日
この日は私の学生が彼に現地言語を教えるレッスンの日だった。
場所は私の部屋。
18時からレッスン予定だったけど、17時50分、彼から
「今からそちらに向かいます。すみませんが到着が10分~15分遅れます」
というメッセージがきた。
相変わらず仕事が忙しそう。

そして彼が到着した。
この日は私は現地風の服を着ていた。
ドアを開けると彼が上から下まで私を見たが、それ以外はいつもの無表情で、相変わらずどこかそっけない。

でも彼はこの日、出張のおみやげを持ってきていたようで、まず私の学生に袋から取り出したお菓子を渡した。

それを横で見ながら「いいなぁ」と思っていたら、彼が私に「はい」と袋を渡してきた。

私は、袋だけ預けるんだ……と思った。

これは私目線なのだが、この時彼の目の前に座っていた学生によると、学生におみやげのお菓子を渡した後、彼はすぐ袋から私へのおみやげを取り出そうとしていたらしい。

でも私が「はい、これ」と言われて、袋ごと奪ったので、出すタイミングを失っていたようだと……。

本当に自分のフィルターと客観的事実は違うというのが恐ろしい。

私の視点では、彼は私と目も合わさず、袋ごと「はい、これ」と渡して来た印象なのだ。
でも学生視点だと、彼が「はい、これ」と言った瞬間「え、私にもおみやげあるんですか!」と喜んで飛びついて袋ごと奪ったという笑

でも、学生がもらったように大きな箱ではなかったので、私は中身がないと思って、袋だけ渡されたと思ってしまった。

でもその中身は、私が大好きな日本酒、しかも大吟醸だった。

私がずっとこの国では日本酒が飲めないと言っていたことを彼は覚えていたらしい。
前にこの地に駐在していた彼の部下が私によく日本酒を飲ませてくれたという話も彼によくしていた。それも覚えていたんだろう。

「袋だけ渡されたのかと思いました」

と言いながらも私はめちゃくちゃ喜んで飛び上がっていた。

そしてレッスンが始まったけれど、私も現地語を勉強しているので、自分が知らない内容になると一緒に学生の話に聞き入る。

私はもともと人と距離が近い人間で、ちょっと老眼も入ってきてる気がするし、もともと目が悪いので、学生のiPadでの説明に、字が見えづらくて、隣にいる彼に寄っていく感じになった。

すると、彼が身を固くしたのがわかった。
めちゃくちゃ警戒されている。

しかたないので向かいに座る学生の隣に行き、もうくっつく感じで字を見ていた。
彼にはそこまでくっついていたわけでもなく、むしろ二人の間には猫一匹入るぐらいの空間がある。
それでもここまで警戒されるのかと、とても悲しくなった。

ツインレイは自然と距離が近くなるとか、一緒にいても自分の体のようで違和感がないとかよくきくけど、それでいうと私と彼はちがうだろう。
最初に会った時は居心地よくて、ずっと一緒にいたいと思ったし、むしろ彼の方が身を乗り出して話していたけれど、私の気持ちが大きくなり、彼が私を警戒するようになってからは、二人の間にぴりぴりとした結界のようなものを感じる。

前述したとおり、私は基本的に人との距離が近く、それが外国人だろうが年齢が上だろうが子どもだろうが性別も何も関係なく、他人と親密になりやすい。
自己開示も大きいので、私相手になると大抵の人が素を出してくるし、ほとんど警戒されることがない。

だからこそ、ここまで私に警戒を示す彼は本当にめずらしいのだ。

いや、もちろん警戒を示す人はいる。
「純粋すぎる人は怖い」と言われたこともある。
人に対して熱心すぎるので「そういうお仕事ですか?」とか言われたこともある。

でも、彼の場合、私の性分や性格はすでによくわかっているし、決して嫌ってもないはず。
それなのに結界バリアがすごくて、ここから入ってくるなというのが強い。
だったら私なんて無視すればいいし、家にも来なければいいのにと思うけど、それはしたくないらしい。

本当に何を考えているかわからない。

わからないから色々悪い妄想をしてしまう。

だけど思い込みもよくないから、彼についつい聞いてしまう。
本当のところはどうなのかと。

そしてこの日も「袋だけくれたのかと思った」と言ってしまった。

私の中で脳内彼は私のことが嫌いで苦手で避けたくて逃げたくて、時々自分は彼の苦手な虫か何かかなと思ってしまう。

「脳内の自分どれだけ悪い奴なんですか」

と彼が笑って言うので、

「最初は優しかったし、私の目をよく見てくれたのに、今は目も合わさないじゃないですか」

と私が言うと、彼は私をまっすぐじっと見た。
そんなことありませんけど?って態度だ。

こういうあまのじゃくなところが彼にはある。
そして「そんなことないですよ」と言う。

「でも、この前のレッスンの時、私無視してたし、ずっと学生のほうしか見てなかった」と私が言うと、

「レッスンなのに、ずっとそっちに体向けて見てたら変でしょ」
と彼は笑いながら言う。

そして「あまりそういうこと言わないほうがいいですよ」と釘を刺す。

「前にも言いましたが、言葉に出して言うことだけが本音の伝え方ではないし、そうやって自分の気持ちを勝手に決めつけられるのは嫌です」

顔は笑っていたけれど、「嫌です」という言葉の語気を強めて彼は言う。

「だって……」と私が何か言おうとすると、「嫌です」とまた彼がきっぱりと言った。

二回も「嫌です」と言われて、私は何も言えなくなってしまった。

そして彼は学生にはとても優しいのに私には意地悪な面を見せる。

この日も、学生に「何が好き?」と彼は笑顔で聞いていた。

彼はもともと人に何かおみやげやプレゼントを渡すのが好きらしく、特に相手の故郷のものを渡したがったりする。

だから私にも二回ぐらい故郷のお菓子「白い恋人」を買ってくれた。
そして今回は私の好きな日本酒だ。

後から知ったことだけど、この日彼が学生に渡したのは、私の故郷の北海道のお菓子だったらしい。学生の故郷や好きな物を知らなかったからなのか、私にくれるつもりだったのか、よくわからない。

彼が学生に何が好きか質問し続けるのに対して、大人げない私は、
「どうして学生にばかり聞くんですか! 私にも聞いてくださいよ」
と言ってしまう。

「だってもう知ってるし」と彼は言うが
「プリン!プリンが好きです!」と私は連呼する。

でも彼は私にはそっけない。

「私にも何か質問してください」と私が言うと、
「じゃ、誕生日は? 何年(生まれ)? 何年?」と意地悪く聞いてくる。

これは前に私が彼の生年月日を聞いた時、何年生まれかを連呼したからだ。

彼は私を年下と思っているが、実は私のほうが年上だ。
しかも一つや二つじゃない。
だけど彼の方が落ち着いた大人の雰囲気がある。
そうかと思うと子供じみた仕返しをしてくる。

前に私は彼にしつこく何年生まれか聞いたのに自分のことは言わなかった。
その時の仕返しに今度は彼が私の「質問して」に対して「何年(生まれ)?」とそっくりそのまま同じ言い方をしたのだろう。

「意地悪ですね」と私が言うと、彼は満足そうに笑う。

「ドSですか?」と私が言っても、
「だって質問してって言うから」と、やはり意地悪く笑う。

そしてレッスンが終わって、私はまた彼を門まで送った。
学生は来なかったので二人きり。
エレベーターで降りる時も彼は私の目をそらすことはなかった。
たぶん私が「目をそらすようになった」と指摘したからだ。
私が指摘したことは基本的にそんなことはないと示していたいんだろう。

彼はどこかあまのじゃくだし、私の言うことは聞かない。

彼がマンションのエントランスの出入り口で、ここが入り口って思っているところしか通らないこともその一つ。
でも実はそこはみんなあまり通らない。住人も外から来る人も。
それを私が言うと、
「だって、建物の作りがそうなってるし、ここが入り口でしょう」
と彼は言う。

住んでいる私が、「こっちのほうが近いですよ」と言うんだから、「あ、そうなんですね」ぐらい言ってもいいのに、彼はあくまでも自分が「ここ」って思ったところしか通らない。

いつも規則正しくて、頑なに自分が決めたルールを守ろうとするのが彼だ。
よく言えば意志が強く、悪く言えば頑固で融通が利かない。

彼のルールに基づくと、私とは二人きりになりたくないし、私の打ち明け話みたいなのは聞きたくない。

私が彼の息子の誕生日に驚いていても、彼は無関心を装う。

「私の息子が生まれていたら、同じ誕生日ですよ」

こう言っても、彼は何も言わない。

「私が流産した時、横で元夫は我関せずで寝てました」と言っても
「それは対応がまちがってますね」とだけ言ってすたすたと門を目指して歩く。

本当はこんな人じゃない(と私は思っている)。
少なくとも、他人に対してそこまで無関心ではないし、仮に無関心だったとしてもそれを露骨に出すような人ではないのだ。
どうふるまえば印象がいいか、どう言えば相手を不快にさせないかを考えすぎるほど考える慎重な人なのだ。

だけど私に対しては、ぞんざいもいいところだ。

門が近づいて私が
「知ってますか? ある胎内記憶の先生の話によると、子どもは親を選んで生まれてきたって言うんですよ」
と言っても返事もしない。

「私はね、息子を生んであげられなかったんです。二回も。その話に基づくと、親として選んでもらえなかったってことです」

彼は聞いているのかどうかもわからなかった。

そして学生によろしく伝えてとだけ言って去っていった。

私が言いたかったのは、それでも私のところに生まれてなくても、もっといい親を選んで生まれてくれてたらそれでいい、それが彼の家庭ならずっといいってことだったけど、彼は私の話をぶった切って、無視もいいところで帰ってしまった。

そんなに思いやりのない人ではないのだ。
そんなこと言われて困ったとしても、「そうなんですね」ぐらいは言えるだろうけど、あろうことか言った言葉は「じゃ、学生さんによろしく」だ。
「すごくレッスンよかったと言ってあげてください」と学生に対しての気遣いはある。

私はまた悲しくなった。

同情されたいとか、優しさを期待したわけではないけれど、彼の息子が生まれた年と私が二回流産した年が同じだったこと、もし生まれていたら10歳、それが男の子だという事実は、私に思わずこの話をさせたのだ。

彼にとってはどうでもいいことかもしれないし、そもそも私の話なんて興味もないのかもしれないけれど、無視は本当に悲しかった。

最初は出会えたことが嬉しかった。

だけど彼の警戒や結界バリアがどんどん強固になっていき、二人きりになるとまるで逃げるように去ってしまう。
そんな彼の態度に私はだんだん嫌気が差してきていた。

そこまでの態度を示しておいて、本音の伝え方も人それぞれだとか、自分の本当の気持ちを決めつけられたくないとよく言えるものだなとすら思う。

だけど、ただ一つ、確実に私が感じるのは、私が嫌いとか苦手とかより何よりもっと根源的に何か「怖い」というのがある気がする。

あれだけ社会でそつなく振舞えて、周りから人望もあり、余裕のある彼が私の前では余裕なんてみじんもない。

彼は得体のしれない私に対して恐怖があるのだと思う。
彼にとって私は彼の常識が通用しない異世界から来た人間か、或いは宇宙人なんだろう。

人は自分が理解できない存在を否定することで自分の世界を守るのだ。






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