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ツインレイ?の記録20

4月26日

この日は、私の学生を彼に紹介することになっていた。
もともと私たちはそのために会う予定だった。

この異国の僻地に日本人は私と彼と彼の部下だけ。
私の大学の学生は私しか日本人を知らない。
だから、他の日本人とも交流をする良い機会として、以前から日本人の駐在員さんに現地言語の家庭教師として学生を紹介している。

以前いた駐在員さんに彼を紹介された時、私はこのことをお願いした。
それが1月。
その時は冬休みだったので、学生はみんな帰省していたが、まずは私たちが先に会ってお互い挨拶しましょうということだった。

でも私が発熱して彼が助けに来てくれたというのが最初の出会い。
そして彼からの毎日の連絡、私の部屋で手料理とマッサージ、外でランチといったように急に距離が縮まる。

そうかと思うと急に連絡が途絶えたり、会えなくなったりもした。
※どちらも彼が理由

そして今回、約一ケ月ぶりにやっと彼に会える。
しかも本来の目的のとおり、学生を紹介するという名目で。

もう二人で会うわけじゃない。
でも、それでも彼に会えることが嬉しかった。


その日の晩御飯のメニューはかつ丼。
カツカレーかかつ丼の選択で、彼は最初カツカレーを希望したし、私はカレーも作ったが、結局彼も最終的にはかつ丼を希望した。
午前中からカツを六枚揚げて、玉ねぎを煮込んだ汁も準備した。
ほかにカボチャの煮物と味噌汁の下準備もした。

この日は昼間に別の学生が来るかもしれなかったので、カレーも作っていて、夜はカツカレーの選択もできるようにしていた。

なので準備に時間がかかり、バスの時間に間に合わず、私はタクシーで大学へ。

17時50分に授業が終わり、私は学生二人とタクシーで帰宅。
ほどなくして彼もタクシーで部下と到着。

門まで迎えに行こうと思ったが、彼の方が先にマンションの入り口に着いた。
最後にうちに来たのは二月三日。
あれから二カ月半も経っているのに彼は私の部屋がある棟に迷わず着いていた。

初めて見る彼と彼の部下。
私は水を汲みに行こうとしてたので、また門まで引き返し、ついてきてもらった(部下に「水持ってあげて」という彼は、いかにも上司といった感じだった)。

その時、私は彼の名前を初めて聞く。
学生に読み方を聞かれたからだ。

久しぶりに会った彼は明るかった。
会った瞬間、やっぱり私は彼が好きだと思った。
また会って話せてうれしかった。

日本に一時帰国する前の彼は疲れ切った様子だったけど、
今回彼はリフレッシュできたのか、若々しかったし、なんというか、もともとかっこいい人なのだけど、更にかっこよくなっていた。

服装も前は毎回同じ私服で特に気を遣ってる風でもなかったのに、今回はいつもとは違った服で、パンツの色がグレイから山吹色になっていて、黒いジャケットの彼は、おしゃれでとても素敵だった。

学生も、42歳の彼のほうが29歳の部下より若くみえると言っていた。
でも話していると、大人としての余裕、上司としての威厳ある態度、それらを見て、彼の方が上司だと理解したらしい。

圧倒的に成功者のオーラがあると学生が言っていた。

そんな彼の前で学生はひどく緊張していた。
彼は学生を和ませようと優しく話しかけている。

これが社会の中で見せる彼の姿なんだなと思った。
紹介してくれた人が言ったように彼は「完璧な人」だ。

メッセージだと心配性で堅苦しい印象だけど、実際に会う彼は堂々とした大人で、コミュ力も高い。

私も二人きりでいるよりも学生がいたほうが普段の自分らしさが出せた。
それに彼に紹介した学生がすごく緊張していたこともあり、先に緊張された私は緊張することもなく余裕が出た。

部屋に入った彼は私にお土産だと言って、私の故郷のお菓子「白い恋人」をくれた。前と同じ12枚入りの箱。

実は私は彼との希望のない恋にもうあきらめようと何度も思いながらも、彼に最初にもらった「白い恋人」がうれしくて、その箱をずっと飾っていた。

それは出張のお土産で、私は思いがけないそのプレゼントが嬉しくて、その後連絡がこなくなったり、スルーされたり、会ってくれなくなったり、たくさん傷ついたけど、それでもそのプレゼントを見ると幸せな気持ちになれて、だからずっと飾っていた。

だけど賞味期限が二週間後に迫っていた。
もうその時がこの恋も期限だと勝手に決めていた。
あきらめられないけど、あきらめようと。

そんなふうに思っていたから、彼がまた同じものをくれた時は驚いて、そして嬉しかった。
これで期限が一か月半延長した。
次の期限は6月27日だ。

さらに彼はゆずのパックと日焼け止めをくれた。
実は私は国産のパックがほしいと思っていた。
でもそれは二か月は前のこと。すっかり忘れていたからうれしかった。
日焼け止めをもらったのは意外だった。

日本の空港で買ったのだろうか。
聞きそびれてしまったけど、私のために買ったのかどうかもよくわからないと、またネガティブな発想で、奥さんがいらなかったものなんじゃないかとか、ほかにあげる人いたんじゃないかと思ってしまう。

ただ、それでも思いがけないプレゼントでうれしかった。

彼にとって私のイメージは「白」らしい。
そんな色にイメージされたことはないのだけれど、確かに私は彼の前で白い服を着ていたし、その日も白いシャツだった。

だから「白い恋人」を思い出すのかと思うと、まるで彼にとって私は「恋人」の位置づけなのではないかと勝手にかんちがいしてしまう。

でも、部下の前で堂々と渡すおみやげに、そんな意味合いはないんだろうなとも思う。

私は学生たちに手伝わせながら食事の準備をしていた。
学生たちに「横着しないの!」とか言いながら世話焼く私はまるで実家のお母さんのようだと彼の部下に言われた。彼の印象はわからない。

食事をしながら色んな話をした。

二人きりの時もだけど、この時も、私は彼と話すと彼の目に引き込まれる。そんな私の目から彼は目をそらさない。

私が聞いたのは彼の生年月日。
その日付は私がなぜかずっと印象深く覚えている誕生日だった。
生年月日を聞いているのになぜか彼は月日しか言わない。
私は「生年月日」と二回ぐらい「生年」を強調して言った。
その間もずっと目を見ている。

10秒以上見つめ合うと恋に落ちると言うが、私たちは毎回10秒以上は話す時お互いの目を見ている。だからその10秒に効果があるのかどうかは正直私にはわからない。
ただ、彼の目を見ていても、特にどきどきするというわけでもなく、ただただ引き込まれる。ずっと見てられる。それは不思議な感覚だ。

彼が私を見てなくても私は彼をずっと見ていた。
もうどうしようもなく彼が好きだった。
彼は出会った頃より更にどんどん素敵な男性になっていく。

学生が圧倒されるぐらいのかっこよさなのだから、別に私が色ぼけして勝手にそう思っているわけでもない。

私も私で彼に会ってから明らかに女らしさが出ているように思う。表情も話し方も優しくなっている。

彼が何を思っているかはわからないけれど、この日私は確実に彼との距離がいつもより近い気がしていた。

私がこの国の言語を覚えるために走り書きしていたメモのノートを彼は熱心に読んでいた。
ふだん自分がよく使う言葉なので、私の心の中を見られている感じだ。
日記を見られている感じで恥ずかしい。
そしてところどころ恥ずかしい内容を彼が声に出すと、私はノートを取り上げようとする。そして一度は取り上げたけれど、彼がまたそれを静かに奪って読み始める。そんな小さなやりとりがうれしかった。

そして21時に解散。
私は門まで彼と部下の人を送った。

その帰りの時、エレベーターの中で彼は私に
「物事は0か100しかないの?1はない?」と言ってきた。

その時は「ないですね」と言った。
私はこの日学生に「世の中、好きか嫌いかどうでもいいかだ!」と言っていたぐらい、白黒はっきりつけたがる。それがよくないとわかっていても、なかなか変えられない。でも今は、グレーがあってもいい気がしている。

帰り、彼のタクシーを待つ間、私は彼の血液型を聞いた。
彼はAB型と答えた。
私もAB型だ。
部下はB型。
この地に三人しかいない日本人のうち、二人がAB型なんてすごい。
彼と私は170cmという身長も同じだ。
そして私はどちらも目が印象に残るタイプだと思っている。

タクシーを見送りながら、私は今度はいつ会えるんだろうとずっと思っていた。

彼の恋人でありたい。心の中でお互いそう思っていたい。
そう思いながらも、私たちは友だちでもなければ職場が同じというわけでもなく、連絡を取り合わなければいけない相手でもない。

ただ、私は彼がこちらに戻ってきてから、彼にあまり気を遣わなくなり、自分が連絡したいときにするようにしている。

結果、ほぼ毎日で、文章量も彼よりずっと多い。
しかし私にはこれがデフォルトだ。

大部分彼はスルーするものの、彼の文章量もそもそも多く、一日一回、寝る前の時間に必ず返信してくれた。

そして翌朝、バスで一時間の道のりの間、私は彼にまた返信する。

そんな感じでゆるゆると連絡が続いていた。






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