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ツインレイ?の記録9

異国の小さな町に私たちは住んでいる。
この地の大型連休初日、町がフェスティバルのムード一色の中、私の心は荒れていた。

この日、うちに泊まっている友人親子と私は、友人の元夫に呼ばれて、近くのレストランで食事をしていた。
この元夫は友人と復縁を強く望んでいた。
しかし彼女はこの元夫を毛嫌いしている。

しかし5歳の息子も喜ぶだろうと考えた私は、誘いに応じて、彼女に付き添って食事会に参加した。

本当なら彼と一緒に過ごしていたかもしれない日だ。
私は彼が私との予定を空けてくれていると思い込んでいたのだが、断られた上に別の予定を入れていたことにショックを受けていた。
結局それも仕事でつぶされて流れたようだが、私は私にとって楽しみにしていた予定が、彼にとっては別な予定を入れてしまうぐらい大したことではなかったのだろうかと、思うと悲しくてたまらなかった。

そして連絡を受けたその時、花火があちこちで打ち鳴らされる騒音の中、路上で一人号泣した。

その勢いでレストランに行った私は、友人のメリー(仮名)の元夫が用意してあった赤ワインを一気に飲み干してしまった。

さらにこの地で最も強いとされるお酒まで要求し飲み干した。

その結果泥酔。酩酊状態で、そのランチの後も荒れていた。

そして、その勢いで彼にメッセージを送ってしまったのだ。

しかしここでもなぜか私のやりきれなさは、私のものじゃない感覚だった。
本来は休みなのに仕事にされてしまった彼の無念さ、苛立ちやストレスを思うと、なんともやりきれない気持ちになり、彼をそのような目にあわせている現地の仕事関係者すべてに腹が立ち、挙句はこの国そのものに悪態をついてしまった。

「本当に、うるさい花火ごと吹飛ばしてやりたい。あなたのつらさが自分のことのようにつらい、本当につらい」

そんなことを書いたと思う。
なぜならもう削除してしまい、記録に残っていないのだ。

ただ、自分の湧きおこる強い感情がそのままぶつけられたようなメッセージだった。そしてあろうことかこの国のバカ!といった悪口も書いてしまった。

これにはメリーも「すぐ消しなさい」と言った。
もしもそんな記録がみつかれば、外国人である私たちは立場が悪くなってしまうと。外国人が他国の悪口を言うことを軽く見てはいけないと。受け取った彼の側にも削除を求めるよう注意した。

私は夜中に慌ててメッセージを送った。
「ごめんなさい。消してください」

でももう夜中の1時。彼は寝ている時間だ。

それから私はすっかり酔いも醒め、眠れなくなり、2時頃にまたメッセージ。

「申し訳ありません。飲み過ぎてしまいました。本当に迂闊で粗忽なメッセージでした。本当に本当にごめんなさい。私はもう終わりました……。でも謝罪だけはさせてください。心から本当にごめんなさい」

彼からの返事はこなかった。

あれから一週間彼からの連絡はない。

私はもう彼は私と連絡がしたくないのだと思った。
謝罪を無視するような人ではないのだ。

それを無視するということは、怒っているにちがいない。
そう思った。

ただ、メッセージを削除したかどうかだけは本当に気になって、日本にいる彼の部下でもともと彼を私に紹介してくれた人にも連絡をした。

彼が怒っているのではないかとひどく気にしている私に、その人は

「絶対に怒る人じゃないんでだいじょうぶですよ。本当にあの人ほとんど怒らないんです」

と返事をくれた。

ただその人は一度怒られたことがあるらしく、それは仕事で安全管理を怠ったまま工程を進めようとしたことに対して叱られたということだった。

いつも人のことを考える彼らしいと思った。

「きっと体調が悪いから返事ができないんですよ。気長に待ってみましょう」

その人はそう言うけれど、その後も返事はこない。

冬休みももう終わる。
私が勤める大学も新学期が始まる。
もう彼は私に会おうともしない。

一週間後、返事はこないことも覚悟で最後のつもりで連絡した。

「まもなく新学期が始まります。私への御怒りはごもっともですが、学生を紹介する件は私とは別に考えていただけないでしょうか?」

私は彼に学生を紹介しようと思っていた。
私はこの地の大学で日本語を教えているが、この小さな町には日本人はほとんどいない。
だから、家庭教師ということで、日本人と交流する機会を学生たちに与えてもらいたかったのだ。

そのことを以前い彼は快く了承してくれた。
学生も期待している。
私のせいでこの機会をつぶすわけにはいかない。

そして私は学生の連絡先を教えた。
私には返事をしなくてもいいから、学生に直接連絡をとってくれないかと。

「私はどうしようもない先生ですが、学生たちは本当に良い子です。どうか目をかけてやってください」

でもそれ難しいようならあきらめます、と。

さらに私は最後と思い、長い独り言を書いた。

実はこの日、私はこことはさらに違う異国の大学で働くための面接をZOOMで受けていた。
それは日本から派遣される仕事なので、日本人が面接する。
しかし準備不足だったこともあり、大失敗に終わってしまった。

何を聞かれているのかさえもよくわかっていなかった私は、わからないま曖昧に答えて、わからないまま話が進み、結局とんちんかんな受け答えをしてしまった。
その時私は彼のことを思い出していたのだ。
彼は私と話していてもわからない言葉はすぐに聞いていた。

「賢い人はそうするのだなと思いました。こんなことならもっと面接の時にどうすればいいか聞けばよかったです」

私はマッサージの時に幾重にも防具をまとって毎日社会で闘っていると彼に対して感じたこと、少しでも楽になってもらいたくて脱がせたかったけど、それは余計なお世話だったこと、社会や組織で闘い続けるってどれだけたいへんか、私は何もわかってなかったということを書いた。

「今日は本当に本当に怖くて、これまでの私の経験もスキルも否定された気がして、私はやはりだめでした。社会も組織も自分には向いていないと思いました。面接の失敗でいかに自分がダメなのかよくわかりました。独り言です。ごめんなさい」

返事はこないと思った。

なのにこの後、すぐにきた。

彼は大型連休もずっと仕事で、この日がやっと最終日だったらしい。
私に連絡していなかった間もずっと連勤で、もはや達成感があるとまで言う。その終わったタイミングで、私はちょうど連絡したのだ。

「何やらとても誤解されているようなので弁明しますが私は何も怒っていないのでご安心ください」

そうは書いているけれど、怒っていないならなぜあんなにも謝罪している私を無視したのかが今でも謎だ。

ただその後に理由と思われることが書いてある。

風邪体調が悪くなっていることを他人に心配させてしまっている状況が逆につらくなったのだと。だから回復するまでは返事をしないと決めていたのだと。

この時、私が思ったのが、彼もまた、私の感情に呑まれてしまったのではないかということだ。あの時、私は彼に同情するあまり、彼と同じような怒りやストレスと味わっているような気分になった。そして「あなたがつらい思いをしているのが耐えられない」とまで書いたような気がする。
でもそれはその言葉通りで、まさに耐えられないぐらいのつらさや苦しさが私の中にあったのだ。

そしてその強い感情に彼はあてられたのではないだろうか。何の飾りもない言葉でストレートにぶつけた私の言葉をまともに受けたのではないだろうか。

私は彼も共感力が高い人だと思っている。
もしかしたら私と同じエンパス能力があるのかもしれない。
日本人にはとても多いと言われている。
あれだけ空気を読む彼なのだから、そうである可能性は高い。

私たちはお互いにお互いのつらさを鏡のように反射しあって、そして双方が辛くなってしまった。

それなのに彼は「他人」に心配かけてつらくなったと書いている。
この人は「家族」と「他人」を線引きする。
「家族」という輪の中に「他人」を決して入れようとしない。
何がそこまで彼を「家族」に囚われさせてしまうのか。
私は彼にとって「他人」。
当たり前なのに、そのことに私は深く傷ついた。

さらに彼のメッセージは続く。
久しぶりの彼らしい長文すぎる長文だ。

学生の家庭教師の件も話を進めたいと言ってくれている。

そして私の面接についても言及してくれている。

「面接は緊張しますし、色々と準備していないと回答できなかったりします。私も就活で何度も面接しているのでよくわかります。たいへんでしたね。面接は慣れも必要なので経験を積むと大丈夫になってきますよ」

最後はいつものやさしい彼だった。

私は彼がまた連絡をくれたことがうれしくて、明日、家でごはんをいっしょに食べないかと誘った。メリー親子もいるし、ご飯食べにくるだけでもいいと。咳取れないなら私が試した現地の薬もあるから試さないかと。そして面接の心得も教えてほしいと。

面接は二回あるのだ。
一回目の面接は失敗したが、二回目はまだあり、挽回のチャンスと思った。
大型連休のために作った風邪によく効くスープも大量に作って冷凍してある。だから来てほしいと言った。

しかし、これは10分後にすぐ断られている。

まだ咳がかなり出るとのこと。メリー親子にうつすことも気にしていた。
心配性の彼らしい。
完全回復してから食事はお願いしたいと書いてある。

そして面接については得意なので色々と助言できるとのこと。

この申し出はありがたく、22日に控えた面接のためにアドバイスをもらうことにした。

そしてまずその日に失敗した面接について細かく書いた。

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