宗教勧誘された話

大学最終学年の頃、授業が終わり帰ろうとしたら1組の夫婦に話しかけられた。
奥さんのほうは日本人、旦那さんは韓国人だった。

「授業の帰り?」「なんの勉強をしているの?」と聞かれ、私は第二外国語で韓国語を履修していたこともあり、韓国人の旦那さんに興味を持たれた。そしてその場で韓国語での会話が始まるという妙な展開が繰り広げられた。
こういう咄嗟の場面になると全くもって習った言葉が出ずにただの相槌をうつ人間になってしまった。

40分くらい立ち話をしただろうか。そのまますぐ帰ればよかったものの話しかけられてしまったことで引くに引けないような状況になり当時の私もなぜそこで「急いでるんですみません」の一言も言えなかったのだろうかと思う。

やっとそろそろ帰りたいという雰囲気を出したところでアンケートに答えてほしいと言われバインダーに挟まれたアンケート用紙とボールペンを渡された。

最後の方に連絡先を書く項目があり、なんの躊躇もなく書いてしまった。その時の自分に言いたいが、見ず知らずの他人に個人情報をなんの戸惑いもなく受け渡すなんて、プライバシー保護厳守に関しての意識が低すぎる。

そして旦那さんからとある教祖の本をいただき、「また会おう」と言われ夫婦と別れてやっと家に帰った。

そして数日後。


その「また会おう」という言葉が現実となった。

連絡先を教えていたので携帯の方に突然電話がかかってきた。

ちょうど就活をしていた時で電話がかかってくれば知らない番号でもとりあえず出るようにしていたのでこのときも即座に出たのだが、「そっちに行くから会ってご飯でも食べながら話をしないか」とのことだった。

電話で流されるがまま会う約束が決まり、後日私の家まで夫婦がきた。

私はご飯を食べながら話をしようと言われたので喫茶店にでもいくのかと思いきや、「ちょっとそこまで」という感じで何の変哲もない家に案内された。
いわゆる教派の支所みたいなところだろうか。

こんなに普通に他の住宅と混じってあるなんて…と正直驚いた。
本当にごく普通の民家だった。

私はその家まで夫婦と一緒に歩いている時にふと思った。
赤の他人である夫婦と大学生が一緒に歩いているなんてどんな状況だろう。
ちょっと複雑な思いになった。


そしてそのごく普通の民家に見える支所に入ると中には他にも人が何人かいた。
みなさんとても柔らかい方で親切だった。

2階に案内され、部屋に入るとそこはとても綺麗な部屋だった。
小綺麗にされているが生活感がなく、本当にちょっと談話するための場所のようだった。


そしてお昼を過ぎていたので食事を頂いた。
カレーライスにサラダ。刺身までもついていた。
下の台所で誰かが作ったであろう手作りのご飯だった。

タダで食事を頂いて申し訳ないなという感覚があったが、「どうぞどうぞ」と言われお言葉に甘えていただくことにした。

とてもおいしかった。
ここに住みたいとちょっと思った。

綺麗に完食し、そのあと猛烈に眠たくなった。
その日は深夜2時頃まで夜更かしをしていて、暖かい陽気にうとうとしてしまい、一生懸命旦那さんが愛について語っているのにすべての言葉が右から左に流れていった。

みかねた旦那さんが「寝不足??」と声をかけてくださり、慌てて寝ぼけた頭を奮い起こした。
本当、一生懸命に話しているのに失礼な態度だよなぁと思う。

しかしながら心の中でずっと「私は今何をしているんだろう…」という感覚がふわふわとあった。

そしてビデオを見ることになりそこでも愛についてを考えさせられ感想を求められ、何も考えていなかった私はそれとなく「愛は人間が幸せに暮らすためにも重要ですよね〜」的なことをまとめて行った。

その後は謎に記念写真を撮り終わった。

あれからもう一回電話が後日かかってきた。
就活について心配をして下さったり、韓国の大学に留学している娘さんが代わりたいと言うのでお話をしたり、本当に謎の関係が続いた。

それからも定期的に夫婦から会わないかと連絡がきて、就活がそのときちょっとうまく行っておらず、ストレスが徐々に溜まっていき、どうせ学校卒業したらこの人たちとは会うことはないだろうし…と考えていとも簡単に着信拒否をした。

着信拒否をしてからはもしかして家に押しかけられるなんてことがあったらどうしようと考えたけどそういうのもなく至って普通にフェードアウトに成功した。

そして後日、大学の学内メールに学生を宗教勧誘する人がいるとの注意勧告が届いていた。「これ私じゃん」と思い、でももう連絡も途絶えているからってことでこれまで起きたことは誰にも言わず自分の中で封じ込めた。何年か経った今も誰にも言っていない。

それにしても学生を狙った勧誘なんてあるんだなぁと思った。
夫婦は別に普通に優しかったし美味しいご飯も食べられたし、これも大学生活の思い出として残そうと思った。おわり。

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