【新日本プロレス】1997年④ ムタが小川の毒を浴びる!ナゴヤドームの変

①THE FOUR HEAVEN in NAGOYA DOME

『フォーヘブン』とは、この年にまわる4大ドーム(大阪、名古屋、福岡、東京)を指しています。

長州の引退ロードと、小川・フライらの格闘技戦、本隊とnWoの対戦を軸にカードが組まれていきますが、この日の目玉はグレート・ムタvs小川直也の異次元対決。
プロレスではよくこの「異次元対決」という言葉が使われますが、この試合を超える異次元にはもう連れて行ってもらえないでしょうね…。
とにかく、大会前から終わった後まで、話題はこの試合にすべて持っていかれた感があります。
とはいえ、トピックは他にもあります。

・大谷晋二郎がサムライのジュニア7冠王座を奪取。悲願のIWGP奪取に感情を爆発させる大谷の姿が印象的。この試合以降、リング上での感情表現が1ランクあがった気がします 笑
・「名勝負数え唄・FINAL」として長州が藤波と最後のシングルマッチ。現役で残る藤波が勝利し、長州を介錯。
・健介が、パートナーを長州から山崎に変えてIWGPタッグ王座に返り咲き。力と技の、バランスの良いタッグチーム
・メインは橋本vs天山のIWGPヘビー級王座戦。G1のときとは違い、グラウンドもまじえて時間をかけた攻防。天山があと一歩まで追い詰めるが橋本が垂直落下式DDTで逆転勝利。ここでも天山がドーム大会メインの重責をしっかり果たす好勝負。

とまあこんな具合です。
これだけでも、まあドーム大会としては成功といえる内容でしたが、注目はやはりムタvs小川。この試合は、IWGP戦の前。つまりセミファイナルにくまれました。

まずこの試合は、特別レフェリーにアントニオ猪木が登場。きちんと白黒ストライプシャツで登場する猪木。この時点で、猪木が『小川サイド』の人間であることは周知の事実だったので、当然nWo陣営は面白くありません。
前シリーズまで若干微妙な空気感の漂っていたパートナーの蝶野もセコンドについて「ふざけんなオラ!服部テメーがチェックしろオラエー!」とサブレフェリーのタイガー服部に詰め寄ります。

そんな中、猪木はムタのボディチェックをしますが、めちゃくちゃ警戒していてほぼ体に触れられません。
形だけのボディチェックが済み、じゃあ次は小川のチェックを…というタイミングでなんとムタが猪木に毒霧!!あんなに警戒していたのに、猪木の顔が緑に染まる!!
並のレフェリーならここで無効試合にするところですが、ここは燃える闘魂。毒霧を食らって崩れ落ちながらも、しっかりと試合開始のゴングを要請して試合が始まってしまいました。

ここからはもう、文字通りムタの独壇場。
格闘技戦として戦おうとする小川に対して、反則殺法でムタが応戦するという、展開そのものはむしろ想像していた通りなんですが、その動きの一つ一つがとにかく洗練されていて、試合中ずっと「次、ムタはどんな動きをするんだろう」という事しか気にならなくなるくらい、この日のムタは素晴らしかった。
極め付きは、ムタが小川をきれいな巻き投げで投げきった事。
タイミングからフォームから、文句のつけようのない完璧な投げが決まり、ムタの格闘技的な強さを一瞬だけ垣間見てから、またいつものムタの反則殺法。そしてレフェリー猪木は緑の顔で不貞腐れて外で見てる 笑
最後はSTOから三角絞めを狙う小川に、ムタが下から毒霧を噴射!
そのまま指を極めながらの腕ひしぎ十字固め。そのまま佐山がタオルを投入し試合終了となりました。
格闘技的な強さを見せつつ、プロレスに終始するムタの独壇場です。ムタは小川だけでなく猪木をも凌駕する世界観を構築したのです。

恐らく水面下で行われていたであろう坂口と猪木による今後の路線への議論への坂口側の答えがこの試合だったのかもしれません。
坂口から猪木への「あんたのやりたいことには付き合わないよ」を強烈にアピールしたように見えました。

ともかく、小川サイドは以後nWoとの絡みは一切ありません。

代わりに、猪木はここから自分の理想とする「格闘技で興行を打つ団体」の具現化を推し進めます。
元々、96年に佐山と作った『格闘技連盟』というチームで新日本プロレスの中での格闘技戦を展開していくつもりだったのですが、新日本プロレスでの立ち位置が危うくなるにつけ、新たな団体立ち上げに興味を示すようになっていきます。
しかし、結論からいうとこの猪木・佐山コンビも後々空中分解します。
佐山は、その偏屈な正確が災いしUWF、そして自身で作り上げた修斗を追い出されています。
佐山の、周りの意向を無視した徹底的な『競技化』に、経営に関わる人達が辟易して距離を取るようになるのが通例ですが今回は…いや、その話は1999年のときにしましょうか。

ともかくこの時点では、猪木と佐山はともに「新団体設立」に気持ちが大きく動きます。

これは勝手な考察ですが、猪木や佐山にとって、小川がこの時新日本が推し進めたい”プロレス”に傾倒してしまうことの懸念があって、それを何とか自分たちの「プロレスラーが格闘技的な強さを持っていることの証明をする」という理想のために何とか小川をつなぎとめたい思いがあったのではないかと感じます。

ムタの毒を浴びて、試合自体もすっかりプロレス技術で凌駕された小川を新日本から引きはがす準備を、この頃からしていたような気がします。

そんな思惑とは裏腹に、小川はこの後、新日本プロレス側から次々とプロレスラーとしての試練を与えていくことになりますが…それはまた次回。



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