禍話リライト コックリさん×2話

●『コックリさんVS口裂け女』

 

七十年代の話。

つまり、俗に言う『第一次コックリさんブーム』の頃の話だ。

当時、同時期にかの有名な『口裂け女』の噂も広まっていた。

インターネットがまだ存在しない時代の話である。口裂け女の情報はテレビや雑誌でしか伝わっておらず、実際にそんな事件が起きたのかどうか、当時はそれを確かめる術がなかったわけだ。

しかし、確かめる術がないからこそ。

例えば、どこの地域で警察が出動したとか、便乗して口裂け女の扮装をした者が人を脅かしたという報道だとか。そんな話が、当時の子供達の不安と恐怖をいたずらに煽っていた。

 

この話の舞台となった小学校。

その地域にはまだ、

『近隣に口裂け女が現れた!』

という話は伝わっていなかったのだが、当時の子供からすれば、いつ自分たちの生活圏に口裂け女がやって来るのか、不安で仕方がなかった。

大人たちの見ているワイドショーや週刊誌では、口裂け女の話題が連日出ている。

そのため、まだ物を知らない子供たちからすれば、

(……大人たちがみんな言っているんだから、コレは本当の話なんじゃないか?)

そう思い、不安になっていたわけだ。


そこで。

当時、同じタイミングで流行していたコックリさんに訊いてみよう。

そういう話になった。

 

 

放課後の教室に集まり、コックリさんを始める。

「コックリさん、コックリさん……」

そこまで言って、質問役の生徒が詰まってしまった。

あまりにその存在を恐れていたため、

『口裂け女』

その名を口にすることすら怖くなってしまったのだ。

どうしたらいいだろう。

いろいろ考えた末、ある生徒からこんな提案が出た。

 

 

コックリさんは何でもわかるオバケなのだから。

『口裂け女』という名前を出さなくても、そういう姿やイメージを頭に思い浮かべたら、それでわかってくれるんじゃないだろうか?

 

 

なるほど、それはいい考えだ。

ということで質問役の生徒は、

 

『マスクをつけた大人の女性』

 

そんな姿を思い浮かべ、コックリさんに訊ねた。

 

 

 

「……コックリさん、コックリさん。こういう人は、私たちの学校に来ますか?」

 

 

『はい』

 

 

その答えが出たことで、軽いパニックになった。

「……どうしたらいいんですか⁉︎」

『いいえ』

「……使えないコックリさんだなぁ!」

 

 

(そのコックリさんは無事に帰ってくれたらしいが)

結局、

『マスクをした女が来る』

という情報だけが生徒間に広まる事態になってしまったそうだ。

 

 

……その後、その学校で風邪が流行した。

生徒はもちろん、先生たちも感染防止の対策をして学校にやって来る。

 

 

その結果。

その学校の女性教員たちが、

『マスクをした大人の女性』

として学校に来たのだ。

 

 

あの時。

生徒たちは『口裂け女』という名前は出していなかった。

単に、

『マスクをした大人の女性』

を思い浮かべ、そういう人物が学校に来るか、としか訊いていなかったのだ。

つまり、確かにコックリさんの答えた通りになったのである。

 

 

そんなわけで(口裂け女の話はともかくとして)その学校では、

「コックリさんは本当にすごい!」

と評判になったそうである。

 

 

 

 

●『……シネ』

 

体験者であるAさんが高校生の頃。

クラスメイトたちがコックリさんをしている中に混ぜてもらったことがあった。

卒業がだんだんと近づいてくる時期のことである。必然的に、質問の内容も進路や将来のこと、そういう関係のものが多くなる。

Aさんがその時にした質問もそうだった。

当時、具体的に将来はどうしたいという明確なビジョンはまだ固まっていなかったが、

(こういうことをやりたいなぁ)

そんな考えが、朧げながら二つあった。

 

一つ目は、書籍関係の仕事に就きたい、というものだった。

子供の頃から本が好きだったので、例えば書店員だとか、そういう仕事をやれたらなぁと、ずっと考えていたわけだ。

 

もう一つは、音楽の道だった。

その時はちゃんとしたバンドを組んでいたわけではなかった。が、以前に文化祭でその時きりのバンドを友人と組み、ギターを持ってそこに参加したことがあった。

その際、結構な好評を得た。

その時の気持ちよさ、それが忘れられなかった。

だから、大学に進学して、軽音部だとかそういうところに所属して、ゆくゆくは……。

そんな考えが、その時以来、頭の片隅にあったのだ。

 

周りの友人たちも、それについて本人から聞いていたので、

「おう。おまえ、ちょっとそれ訊いてみろよ」

と促す。

「僕の将来について、大事なキーワードとかあったら教えてほしいなぁ」

そんな風に質問したAさんへ返ってきた答えは、あまりにひどい内容だった。

 

 

(この話の結末につながるため、ここでは伏せるが)

音楽を続けることに対して極めて否定的な意味に取れる『……シネ』だとか、『そんな感じ』の答えが出たそうである。

 

 

「……『死ね』はないよなぁ」

それまで仲間たちが質問していた時は差し障りのない答えばかりだったのに、急にそんな冷たいことを言われたのだ。

「……趣味でやってることに『死ね』はひどいなぁ」

「え、コックリさん、急にどうしたの?」

「このコックリさん、機嫌悪いな! A! お前、何かしたんじゃないの?」

「いや、何もしてないよ!」

「コックリさんってキツネらしいからさぁ。キツネが嫌うようなこと、したんじゃないの?」

「……キツネが嫌うようなことって何だよ!」

 

 

結局、なぜ急にコックリさんがそんな風になったのかはわからなかったが、

「……まあ。気にすんなよ!」

ということで、その時のコックリさんは無事に終わったそうである。

 

 

それから何年か経って、Aさんが就職した後のこと。

大学卒業後、地方の書店に就職したAさんだったが、その店舗は売上があまり芳しくなく、店長や経営陣、そして社員であるAさんも困っていた。

 

そんな時である。

 

「……イチかバチか。ちょっと変わったものも置いてみようか」

そういう意見が出た。

そして正にそんな時に、出版社側の営業からもそういう提案があったため『あるジャンルの本』を扱うことにしたそうだ。

 

 

それが大当たりした。

 

 

地方の書店だったが、

『そのジャンルの本を扱っています』

というのをウリにしたところ、口コミで評判が広まった。

その結果、新たに固定客がつくわ、県外からも来客があるわで、最終的にはその店舗だけでなく会社自体も業績が持ち直すほどの盛況ぶりになったそうだ。

 

(いやぁ、よかったよかった……)

そう考えるAさんの脳裏に突如、学生時代のコックリさんの記憶が蘇った。

「……ぅああぁッ!」

 

その後。Aさんは、高校生だったあの時、いっしょにコックリさんをやっていた同級生たちに片っ端から電話をして何があったのか伝えた。

「……いや、俺さぁ! 海外のマンガを仕入れたらな、それで業績が戻ったんだよ!」

「お、おう」

「コックリさんの言ったことは正しかったんだよ!」

「……ハァ?」

「いや!あの時、俺、コックリさんに『シネ』って言われたじゃん! それでウワーッてなったじゃん! 趣味だったことで『シネ』って言われたじゃん! 

違うんだよ! 俺、海外のマンガとか仕入れてるって言っただろ?」

「……おお。つまり、アメコミとかだろ?」

「違うんだよ! ヨーロッパとかのマンガはな……」

 

 

 

『バンドデシネ』っていうんだよ!

 

 

 

「……あっ! あの時、

 

『バンドで死ね』

 

って! 

そう言われたんじゃなかったんだ!」

「そうなんだよ! 後で、仕入れた本のジャンルを確認したら『バンドデシネ』って書いてあったんだよ!」

「……合ってるゥー!」

 

コックリさんにまつわる話には、時にこうしたトンチのようなエピソードも存在するのである。

 

 

……ところで。

この話の提供者であるコックリさん専門のKくんによれば、

「彼(Aさん)って真面目な人だったらしいから、彼のことを煙たがってた誰かが嫌がらせで、

『バンドで死ね』

ってやったら、たまたま合っちゃっただけ、なんじゃないですかね?」

とのことである。

それを聞いたかぁなっきさんは、

「おまえ、冷たいこと言うなよ! 今んとこいい話だったじゃねェか!」

そうツッコミを入れたそうだ。

 

 

これらの話は、かぁなっきさんによるツイキャス『禍話』

 

『禍ちゃんねる 小ネタ祭り』(2019年1月14日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/519225734

(1:12:20くらいから)

 

『THE 禍話 第16夜』(2019年11月9日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/576990894

(0:25:50くらいから)

 

 

からそれぞれ、一部を抜粋、再構成、文章化したものです。

題はドントさんが考えられたものを使用しております。

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禍話リライト コックリさん×2話 - 仮置き場 
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