実体験 交差点の話

小学校四年生の時、九月末の日曜の晩の話。

その日の内に揃えておかなきゃいけないものを買い忘れてしまったということで、母親が親父に近くのショッピングセンターに連れていって欲しいと頼み、それに自分もついていったのです。

そのショッピングセンターには交通量の多い国道側に通じる方と、工場や倉庫などの立ち並ぶ裏道に通じる方。
二つの出入り口がありまして。
うちの場合は、そっちの方が近いし行き帰りも楽だということで、国道側をいつも使っていました。


が。
何か理由があったのか単なる気まぐれだったのか、今となってはわからないけど。
その晩は、親父は裏道側から帰ろうと判断したのです。


裏道に出て右折し、そのまま進むと右手に私立高校の校舎とグラウンドが見えてきます。
そこからさらに進むと片側二車線、右折レーンのある比較的大きめの交差点に行き当たり、そこを右折してさらにその先にある狭い道を抜けると自宅のある住宅街の近くに着く、という具合です。
国道側のルートと比べると、完全に遠回りになります。


その交差点で信号待ちをしている時。
助手席に座っている母親が、急にこんなことを言いだしました。



「ねえ、赤ちゃんの泣き声が聞こえない?」



俺も親父も聞こえないと答えましたが、母親は聞こえる聞こえるとずっと言い続けています。

運転免許を持った今でもあまり用事がないのでその交差点付近を通ることはなく、今現在その周辺がどうなっているか知りません。
少なくとも当時は、その交差点付近は工場や倉庫ばかりで道路に面した場所に住宅はなかったはずですし、自分たち以外に信号待ちをしている車もなかったはずです。

仮に、自分の記憶違いで、付近に住宅や信号待ちの車があり、そこに泣いている赤ちゃんがいたとしましょう。
それが母親だけに聞こえて、自分たちにはそれらしい音は一切聞こえない、というのは変な話だなあと思うわけです。



結局、その件は、

「母さん、変なこと言わないでよ。はい、この話はお終い!」

と、その手の話を信じない親父によって強制終了させられ、そのまま帰宅しました。





後日、その交差点から少し離れたところに住む友人宅で遊んでいた時のこと。

遊んでいる最中にふとあの夜のことを思い出し、

「実はこの前の夜さあ……」

と、交差点での出来事を友人に話しました。

自分たちはリビングで遊んでいて、すぐ近くで友人の母が洗濯物を畳んだり家事をしたりしてたんですが、俺が語り終えると友人母が

「あの交差点ねえ……」

と、次のような話をしてくれました。



恐らく地元の歴史から考えるに明治大正、あるいはそれ以前の話でしょう。
その一帯に工場や倉庫などが出来るより以前。
そこには森が広がっていて、その中に池があったそうです。

その池で女性が赤子を抱いたまま入水自殺したらしい、と。



友人の母の話が本当なのか、それがあの晩のことと関係あるのか、それはわかりません。
が、あの晩、母親だけが赤ちゃんの泣き声が聞こえると訴えたことは紛れもない事実です。


実体験 交差点の話

https://venal666.hatenablog.com/entry/2019/09/28/215433

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?