禍話リライト NTR因果応報

「……禍話でも前に言ってるかもしれないんだけど、寝取られエロ(NTR)ってのが理解できなくて。昔から。

大事な彼女とか幼馴染が、なんかヤンキーみたいなのと身体だけの関係になってすっかり満足しちゃって、だいたい最後は携帯か何かにエッチなことしてる動画がきて、

『俺は何もできなかった……。終』

みたいなの。

アレがすっごい昔から嫌いで。なんでこんな勧善懲悪が成されずに終わるんだ! みたいな。

さらに言うなら、昔はただ単にそれでムカついてたんですよ。

なんで勧善懲悪じゃないんだ。もっとハッピーな終わり方でもいいだろ、って。

最近はね。この歳になるとね?

『この後が絶対あるでしょ』

って、思っちゃうんですよ。
 
つまり、むこうがいくら行為に夢中でもいつか絶対に肉体関係に飽きる時が来るじゃん、と。

その後のドラマの方が面白いなぁと思うんですよ。完全に欲望だけの関係って絶対冷めますからね。その後にグチャグチャになった関係が戻るのか戻らないのか、どうなっていくのかって話の方が面白いんじゃないかって。

 

ある時、そういう話をしてたんです。

とにかく、そうやって勝ち誇ってる連中の方がいつか絶対に不幸になるだろうし、十年二十年のスパンだけど、世の中ってのはそういう風に巧く出来てるもんだよ、って。仲間内で言ってたんです。

そしたら、

『ホントですね。例えば、すぐじゃないですけど、そういうバカなことをする奴には『報い』が来るんですよ。意味のわからない病気とか事故にやられたりするんですよ。

……ただね、俺はその『報い』がすごく早く来た話を聞きましたよ』

って、仲間のひとりが言うんで。

そこで聞きたい聞きたい! って聞かせてもらった、因果応報の話なんですけどね……」

 

 

ある大学のサークルでの話だ。一年生ですごく善良な男子生徒がいた(仮にAくんとする)

あまり人を疑うことを知らないようなタイプだったそうだが、その彼がサークル内のある女子に好意を抱いて告白をしたのだそうだ。

ただ、その女子にはすでに彼氏がいた。それならそうと彼女もはっきり伝えればいいものを、どうも彼氏共々、性格に難があったそうで、しばらくAくんをからかって遊ぶことにしたのだという。

Aくんもそのカップルも全員同じサークルに所属していたのだが、その時は周囲にいたサークルメンバーの誰一人としてそのことに気がつかなかった。

「あの子って彼氏いるはずだけど、アイツとも遊んでやってるんだなぁ」

「アイツもわかってるんだろうねぇ」

「さすがにそこは説明してるでしょ」

まさかそんなことになっているとは知らず、そんなバカなことをするようなやつらには見えなかったため、皆が全く疑わずにその様子を見ていた。

 


ある日のこと。

そのAくんの家でサークルの飲み会が開かれた。

宴が進んで皆いい感じに酒が入ってきた頃、酔って気持ちよくなったAくんが嬉しそうに語り始めた。

「いや、実はね、俺あの人と付き合ってるんですよ」

前述したような関係だと認識していたため、それを聞いた全員がギョッとした。

「……え、ホントに?」

「え? 何がですか?」

Aくんの様子から、どうやら事実は自分たちの認識とは違うらしいと全員気がついた。

そこで仲間たちは、いわゆる飲みサーではなく真面目に活動しているサークルだったこともあり、

(さすがにこれについて黙っているのはよくないのでは……)

そう考えてAくんに事実を教えることにした。

「いや、ちょっと、ゴメンね? 本当に言いにくいんだけど……、アイツら、実は付き合ってるんだよ」

「えっ、そうなんですか⁉︎」

普通そんな状況になれば、場合にもよるだろうが、よくも騙しやがってと怒りだしそうなものだが、皆が考える以上にAくんはいいやつだったというべきか、

「そうだったのかぁ……、知らなかったなぁ……。なんで言ってくれなかったんだろう……」

と、まるで自分にも非があるのだとでも言うように、静かに呟き、うなだれてしまった。

聞いてみると、Aくんとその女子が付き合い始めて1ヶ月ほど経つが、Aくんはまだ相手の手も握ったこともない。だがデートには行ったことはあるという。もっとも、その際の費用は全てAくんが支払ったのだそうだが。

それを聞いて、その場の全員が死語ではあるものの、

(ミツグくんじゃん……)

と思ってしまったそうだ。

 「……でも、アイツも応援してるって、そう言ってくれたから、てっきりそうだと思ってたのに……、そうかぁ、アイツが彼氏だったのかぁ……」

そう呟いてさらに深くうなだれるAくんの姿を見て、

(うわぁ、アイツら最低だなぁ……)

と、Aくんを哀れに思うと同時にカップルへの反感が湧き上がってきた。

 

そうしてサークルメンバーはAくんとカップルについての事実を知ったわけだが、前述したようにその日はそのAくんの家での飲み会である。

そんな雰囲気になってしまったとはいえ、まさか家主を放っておいてそそくさと帰るわけにもいかない。それに、Aくん自身の人柄やサークルの雰囲気というものもあったのだろう。

そういうわけで急遽、サークルの飲み会は傷心のAくんを励ます会になった。

 

「俺、人を見る目がないのかなぁ……」

俯いてそう溢すAくんを同級生や直の先輩たちが励ます。

「いやいや、まあ、飲みなよ!」

「よし、ここからは俺のおごりだ!」

そうして良い酒を調達してきて飲ませてやると、Aくんも案外とイケるクチだったらしく、思ったよりもグイグイ飲んでいく。その内に多少は元気が戻ってきたようだった。

「……新しい恋を探そうかなぁ」

ポツリとそう呟くAくんに対し、周りの仲間たちがフォローの言葉をかける。

「あぁ、もう! 見つかるよ! 何なら家出た瞬間に見つかるよ!」

そうやってAくんの周囲でワイワイやっている一方、一部始終を知ってしまったサークルの上級生たちは、

「アイツら、マジでシメような?」

「これ、男の方はブン殴ってもいいんじゃないの?」

「明日か明後日くらいにちょっと呼び出すか?」

と、部屋の隅に固まり、多少物騒な内容の協議を行っていた。


 
その時であった。

Aくんの携帯の着信音が鳴り響いた。相手を確認すると、そのカップルの女の方である。

「今、先輩たちと飲んでるんだって? アタシ、今からそっち行くわ」

携帯から漏れるその声を聞いた周囲の仲間たちは、

(オイオイオイ、マジか⁉︎)

と、まだ周囲にバレていないと考えているにしても、よくもまあこの場に顔を出せるものだと思った。

しかし肝心のAくんはと言えば、さすがに何か適当に理由をつけて断ろうとはしているようだが、本人の性格もあってかなかなか上手い断り文句が浮かばない様子である。相手に対しハッキリと言うことができず、しどろもどろになっている。

そうして彼が何も言えずにいる内に、

「じゃあね〜」

と通話は切られてしまった。

切られる直前、電話のむこうからケラケラと笑う声が聞こえた。間違いなく、それはカップルの男の方の声だった。

「……え? アイツら、どのツラ下げてここに来るの?」

一部始終を聞き、その場にいた全員がそう思った。部屋の隅でカップルの処遇について話し合っていた先輩たちなどは、

「もう、アイツらここに来たら最期だな……」

「俺なんかもう、ひさしぶりにキレた時の『アレ』が出ちゃうよ?」

「いや、先輩、それはやめて下さい?」

「あ、そう?」

「でも、ワンパンくらいはアリでしょ」

と、物騒な方向にどんどんヒートアップしていく。

「……それにしてもアイツら、どういう神経してたらここに来れるんだろうな? まだ誰も知らないと思ってるから、それを見てゲラゲラ笑おう、みたいな考えなのかな。だとしたらとんでもないサイコパスだよな」

「アイツらが来たらねぇ、俺はもうねぇ、許さないよ?」

全員が怒りで往年の浅香光代のようになっている中、不意にAくんがふらりと立ち上がった。グラスに入れる氷が無くなったので台所に取りに行って来る、という。

扉を開けて隣室の台所へ入っていくAくんの後ろ姿を見送りながら、また全員がカップルへの怒りをぶちまけ始める。

「とりあえず、アイツらは除名だな」

「他のサークルにも、アイツらはそういう人を不幸にして喜んでるような悪いやつらだって知らせておこう」

「ああもう、俺は許さねえよ。アイツら、ここに来たら最期だよ」

 

そうやって話している内、あることに気づいた。

「……遅くない?」

Aくんのことである。隣室である台所に氷を取りに行った、それだけのはずなのに、なかなか戻ってこない。

Aくんの部屋の間取りを大雑把に説明すると、まず玄関があって次に現在全員がいる居間があり、その奥に台所があるという形である。そのため、例えばAくんがその場にいる誰にも見咎められずに外に出た、という可能性はないと言える。

「……Aくん?」

台所の扉越しに声をかけたが返事はない。

もしかしたら部屋のどこかに隠れていて、誰か探しに来たところで飛び出して驚かせようとしているのでは。

そうも考えたが、今のこの状況で彼がそんなことをするとは思えないし、普段の彼もそんなことをするような人間ではない。

どうしたんだろう。

何人かが様子を確認しようと台所に足を踏み入れ、そこで、

「あっ……」

と言葉を詰まらせた。

 

台所の窓が開いている。

 

Aくんの部屋は2階にあった。

瞬間、台所に入った全員の脳裏に最悪の事態がよぎる。

慌てて窓辺に駆け寄って覗いてみたが、窓の真下は真っ暗で状況が確認できない。少し離れた道路に電柱が立っているのだが、ちょうどその街灯の明かりが届かない位置だったため、夜の闇に包まれて落下地点らしい場所が今どうなっているのか目視できなかった。

「ちょっとちょっと、ヤバい! Aくん飛び降りたかもしれない!」

「えっ⁉︎」

台所へ確認に行った仲間の声に、居間にいた他の仲間たちも慌ててそちらに駆けつける。窓の下が真っ暗闇であるため、ひとりが部屋の中から懐中電灯を探してきて、それでもって下を照らす。

 

窓の下にAくんが倒れている。

 

落ちた、といっても2階だったため、高さがそれほどでなかったのが幸いしたか、パッと見では命に関わるようなケガはしていなさそうだ。しかしあちこちから流血し、どうやら骨も折れているらしい。うつ伏せになったまま苦痛に呻いている。

「おまっ、バカなことしてんじゃないよ!」

「動くんじゃないぞ!」

「おい誰か、救急車呼べ!」

「おまえコレ、こんなことになって、アイツらもうただじゃ済まないぞ!」

全員、台所の窓辺に集まって口々に叫ぶ。

 

大変なことになった。

室内が騒然とする中、それぞれが慌てながらも思い思いに動く。当然だが119番に電話する者、窓からAくんの様子を確認し続ける者、そしてAくんの所へ向かおうとする者がいた。それ以外の者はその場にじっとしていても仕方ないため、ひとまず居間の方へ戻ろうとする。

しかし、

 

「えっ、ちょっと待って⁉︎」

 

窓辺から様子を見ていた者が突然叫ぶ。その声に全員驚いた。

「えっ、なになに⁉︎ 今救急車呼ぼうとしてんだけど、どうしたの⁉︎」

「えっ、ちょっと、ヤバい! おい! 動くな! 動くな!」

Aくんの様子を確認していた仲間が下に向かって叫び続けるため、部屋を出ようとしていた仲間も含め全員が、何事かと思って再度台所に駆け戻った。


窓の下では、全身にケガを負い脚も折れているように見える、そんなズタボロになったAくんが呻き声を上げながら地面を這いずるようにしてどこかへ向かおうとしていた。

 

普通、そんな状況なら何人かは部屋を飛び出して階下に落ちたAくんの元へ向かいそうなものだ。実際、先程も何人かはそうしようとしていたわけである。

しかし奇妙なことに、なぜかその時は誰一人として現場に向かわなくてはという考えが浮かばなかったそうだ。

 

「ちょっとおまえ、やめろやめろ!」

「なんで⁉︎ なんで⁉︎ 動くなって!」

部屋の中から叫ぶ仲間の声が聞こえていないかのような様子で、Aくんは呻き声を上げながらズルズルと這い進んでいく。

そうしてたどり着いたのは、先述した道路脇の電柱だった。それに縋り付くようにして身を起こし、電柱に背を預ける形で立ち上がった。

呆気に取られ、窓から見ていることしかできないサークル仲間たちの前で、それまで『痛い痛い』と弱々しく呟き続けていたAくんが、突然叫び始めた。

 

「オーライ! オーライ!」



 (……え? オーライ?)

いったい何を言っているんだ、部屋から見ていた全員がそう思った瞬間だった。

 

Aくんのもたれかかっている電柱のある小道。

そこが不意に明るくなったかと思うと、道路の向こうから急に車が猛スピードで走ってきて、そしてAくんのもたれている電柱に激突したのだ。

 


「えっ!」

「うわっ!」

全員、突然眼の前で起こった事故に思わず声を上げる。

その時になって部屋の中にいた全員がようやく、なぜ自分たちは現場に向かわず部屋の中でずっと見ているのか、ということに気がついた。

慌てて全員、外へ飛び出す。

そして現場に駆けつけ、

「……えっ?」

その場の状況を見て硬直した。

 

確かに電柱に車が衝突している。

しかし、それに巻き込まれたはずのAくんの姿がない。

 

どこへ行ったのか、周囲を見渡す彼らの耳に声が聞こえてくる。

「いてててて……」

声のする方向を見てみると、さっきまで電柱にもたれかかっていたはずのAくんが、落下地点である窓の下に倒れていた。

「……えっ、今おまえ、電柱の方まで這ってって、オーライって、えっ⁉︎」

全くわけがわからないが、とにかくAくんは事故に巻き込まれることなく無事だったわけである。それについてはよかったと一同、ひとまず安心した。

「あぁ、Aくんは無事、か……。よし、動くなよ、動くなよ!」

「いてててて……。ごめんなさい、ちょっと、本当にごめんなさい。なんか瞬間的に、なんか発作的にふらっと……。本当ごめんなさい」

「いや、いいから! 今はそれはいいから! ……変なこと訊くけど、ここから動いてないよね?」

「え? いや、ずっと、身体中が痛くて……」

「……ああ、そうだよな、ごめんごめん」

 

「……あ! そうだ! 今、車が突っ込んできて! スゴいビビったんですけど!」

「……あ、ああ。そうだよな、ビビったよな。突っ込んできたもんな。こっちはこっちで大変だもんな」

そこで外に出てきた仲間たちは、何人かにAくんの介抱を任せ、残りで電柱に突っ込んだ車の様子を見に行ったのだが、彼らは状況を確認しようと車内を覗き込んで驚いてしまった。

 

 

その車に乗っていたのは例のカップルだったのだ。

ふたりとも頭から血を流し、手足が痙攣している。

素人目にもわかるような危険な状態だった。

状況が理解できず、現場はパニックに陥った。

 

 

そこでようやく救急車が到着した。

一部始終を目撃したサークルメンバーたちもそうだったが、救急隊員にとってもわけのわからない状況だっただろう。

仲間が誤って窓から転落した。そう連絡を受けてやって来たのに、いざ現場に到着してみれば、連絡にない交通事故まで起きているのだから。

そんなわけで急遽、応援の救急車を追加で呼ぶような事態になってしまった。

 

そうしてAくんとカップルは病院へ搬送された。

 

まずAくんだが、飛び降りたとはいえ2階からだったことが幸いしてか、脚の骨折程度で傷痕や後遺症の類は残らなかったという。

 

一方、カップルはといえば、どちらがという点については伏せられているが、片方は助からなかったそうだ。


当然、警察の現場検証が行われたのだが、なぜこんなことになったのか全くわからない。

残された様々な証拠や証言から推察すると、カップルの乗った車が狭い路地を猛スピードで走ってきて、まるで狙ったかのように躊躇なくその電柱に正面から激突した。それ以外に説明のしようがなかった。

(実際にそうであれば本編内でも言及されているだろうし、当然その点についても検証が行われたと思われるため、飲酒運転や突然の故障でもなかったのだと思われる)

もしかしたら何か悩み事があり、自暴自棄になった末の自殺なのではないか。そういう意見も出たのだが、結局、詳細不明だが恐らく不注意による事故だろう、という結論に落ち着いたそうだ。

 

「……それって、もしかしたら生き霊とかそういうのがその場で恨みを晴らした、ってことなんですかねぇ?」

そうして提供者はこの話を締めくくった。

 

この事件についての話題は、死者が出てしまったということもあり、そのサークル内ではタブー扱いになっているそうだ。

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『禍ちゃんねる 百一回目の霊障スペシャル』(2019年4月19日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/539363129

から一部を抜粋、再構成したものです。(1:59:45くらいから)

題はドントさんが考えられたものを使用しております。

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禍話リライト NTR因果応報 - 仮置き場 
https://venal666.hatenablog.com/entry/2021/03/14/183737

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