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禍話リライト 墓石の写真

コロナが蔓延し始め、それから少し経った頃の話だという。

感染を避けるため。あるいは利便性の向上のため。仕事の連絡や簡単な打ち合わせに、LINEなどのSNSを使うようになった。
そんな人も少なくないだろう。

この話の体験者である男性、Aさんもそうだった。
「◯日の◯時から打ち合わせ、よろしくお願いします!」
「必要なデータを送ったので、確認よろしくお願いします!」
そんな風に、業務関係の簡単なやり取りを、仕事用のスマホに作ったLINEアカウントで行っていた。

ある日のこと。
その日は仕事関係でいろいろ予定が重なり、かなり立て込んでいた。
それでも何とか仕事を片付け、一息ついたところで、
(あ、LINEのメッセージに見落としがあるかもしれない)
そう気づいたAさんは、LINEを開き、メッセージを確認し始めた。


……すると、その中に一つ、奇妙なメッセージを見つけた。


送り主について、全く記憶になかった。
アイコンは未設定。名前も、どこにでもいそうなありふれたあだ名、という感じだ。
そして、内容はというと。

『送っときます! これがその写真です! よろしくお願いします!』

これだけである。

(……写真? 写真って何だろう?)
写真の送付を誰かに頼んだ記憶もなかったし、そもそも打ち合わせの中で写真の話が出た記憶もなかった。
知らない相手からの、記憶にない内容のメッセージ。
守秘義務だ何だと、業務上のアレコレを考えれば、本来そうするべきではなかったのだが、
(……いったい何だろう?)
気になって、Aさんは反射的にメッセージを開き、写真を確認した。


群れを成すかのように、ミッシリと密集した。
無数の、小さな墓石。
それらを、至近距離から撮影したものらしい。
そんな写真が添付されていた。


「……なんだ、これ?」
誰が何のためにこんなものを送ったのか、全く検討がつかなかった。

結局、何かの間違いかイタズラなのだろうと判断し、Aさんは写真もろともそのメッセージを削除して無視することにしたそうだ。


しかし、それから一ヶ月後。
再び、Aさんの元へ、その写真が送られてきた。
前回同様、仕事が立て込んで忙しい、そんな時期のことだった。

「前に言ったアレのことなんだけど……」
そんな取引相手からのメッセージに対し、
(……どれ⁉︎)
と、着信を確認していた時だった。


『お疲れ様です! 頼まれた分、送っときました! 確認お願いします!』


そのような、見覚えのない相手からのメッセージを見つけた。
不審に思いつつも、中身を見てみると。
前のものを削除してしまったので、同一のものかどうかは確認できないのだが。
先月送られてきたものと酷似した、密集した墓石を接写した画像が添付されていたのだという。


(うわ、気持ち悪……)
前に届いたメッセージのことを思い出し、さすがにAさんも気味悪く思った。
(なんだろ、最近はこういうチェーンメールみたいなのが流行ってるのかな?)
悩んだ挙句、最終的にそのように考え、前回同様メッセージを削除したそうだ。


それから数ヶ月後。
八月半ば。即ち、お盆の時期。
コロナ禍が少々収まったこともあり、Aさんは久しぶりに実家に帰省した。
「あんた! 久しぶりに帰ってきたんだから! 墓参りに行きなさい!」
帰って早々、母親からそのように叱られた。
確かに、数年間、全く帰省していなかったわけだ。それは確かに、墓参りに行くべきだろう。
そう考え、Aさんは両親と共に、代々お世話になっている寺へと向かった。

墓参りを済ませた後。
寺の住職と話すことがある、とのことで、Aさんは両親から車で待っているようにと言い渡された。
しかし、お盆の時期、夏の暑い最中だ。車の中で、ジッとしていられるはずもない。それに、退屈で仕方がない。
そのため、Aさんは車を離れ、住職と両親の話が終わるまでの暇つぶしとして、お寺の敷地内をブラつくことにした。


その内に。
Aさんは境内の中、墓所に足を踏み入れた。


古いお寺である。
檀家の中にも家系が断絶したり、後継が他所に行って連絡が取れなくなったり、そうして世話をする者のなくなった墓も多い。
そんな墓石が、墓所の片隅に集められていた。


片隅に集められた、たくさんの墓石。
それは間違いなく、メッセージで送られてきた写真。そこに写っていたものだった。


「……ウワッ!」
集められた墓石を目の当たりにし、驚くAさん。
しかし、驚きながらも彼は、もしかすると勘違いかもしれないと思い、確かめるために歩み寄っていった。


そうして、いろいろ確かめる内に、不可解なことに気がついた。


(これ、どうやって撮ったんだ……⁉︎)


元の画像を削除してしまったため、記憶が確かではないが。
送られてきたものと同じ構図で撮影しようとすると、周囲の配置物、墓石との距離や角度、それらの関係で、どうしても無理が生じてしまうのである。


つまり、送付されたあの写真は。
生身の人間ではまず不可能な位置、角度から撮影していることになってしまうのだ。


例えば脚立や自撮り棒でも使えば同じように撮影できるのだろうが、わざわざそんなことをする意味がわからない。
そんなことをしている者がいれば、お寺の人たちに目撃されているはずである。
そうでないならば、例えばダル◯ムのように身体を曲げたり伸ばしたりでもしない限り、そんな構図での撮影は不可能なのだ。

それに気づいたAさんはゾッとしてしまい、急いでその場を立ち去ったという。


いったい誰が、何のために、墓石の写真をAさんへ送ったのだろうか。
無理やり解釈するのなら、なかなか墓参りに来ない彼を何とか帰省させるため、先祖の霊がやったのだと。そう考えることも出来るのだろうが。
それにしても、そんな不可解な写真を送ってくる意味がわからない。


結局、何もわからないままだそうだ。



この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『忌魅恐 最終夜』(2021年5月7日)

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:44:25くらいから)
題はドントさんが考えられたものを使用しております。
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見出しの画像はこちらから使用させていただきました

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