禍話リライト へこむ影

禍話には特定ジャンルの話に特化した『提供者』の方々がいる。

コックリさん専門のKくん。

よくない廃墟に詳しい甘味さん。

そして『学校』の『トイレ』にまつわる話を提供することからそれに因んだ名で呼ばれる、花子さん(仮)である。

 

これは、その花子さん(仮)から提供された話だ。

 

とある中学校の話である。

その学校は、上から見るとちょうどアルファベットのHの形をしている。

正門や昇降口から見てその校舎の最奥にある、三階のトイレ。

一般に(オバケの方の)花子さんは、例えば三階の女子トイレに出る、という噂が伝えられているものだが、その学校の問題のトイレにも、花子さんだか何子さんだか知らないが女の子の霊が出る、という噂が伝わっていた。

 

そのトイレに、噂の真相を確かめに行こうとした生徒たち四人組がいた。

肝試しも兼ねて。ということで、交代で一人づつ、順番に問題のトイレの様子を見に行こうという話になった。

今よりふた昔ほど前の話である。当然、スマホなど存在しない。なので、証拠写真の撮影用に『◯るんです』のようなインスタントカメラを準備してきた。肝試し中に気になるところを各々撮影し、後でまとめて現像に出してみんなで何か写っていないか確認してみよう、というわけだ。

 

当日。

敷地内に入った彼らは、一旦昇降口に集まった。本番では一人ずつ行くと事前に決めていたこともあり、万一のことも考えてまずは全員でルートの確認がてらそのトイレに行ってみよう、というわけだ。

全員で校舎内を進み、問題の女子トイレへ入る。一応電気をつけておこう、ということで照明のスイッチを入れてみたのだが、電球が切れかけているらしく妙に明かりがパカパカと点滅する。

「なんだよ、勝手に雰囲気出ちゃうな〜」

もしかして、隣の男子トイレもこうなのだろうか。

そう思い確認しに行ってみると、男子トイレの方はちゃんと電気がつく。

「女子トイレだけかよ、気持ち悪いな……」

まあ確かに明かりが点滅して気持ちは悪いのだが、それでも完全に真っ暗であるよりはマシではある。

まあいいや。ということで一同は再度昇降口に戻り、当初の目的である噂の検証、そして肝試しを開始することにした。

 

校舎へ入る順番を決め、まず一人目が中へ入っていく。

(わかりやすいように、入っていった順にそれぞれA、B、C、Dとする)

Aの背中が屋内の暗闇に消えていくのを見送ってしばらくしてから、残っている内の一人がふと呟く。

「……でも、コレってさ。実際に行かなくても言い逃れは出来ちゃうよね?」

「あ、ホントだ」

「そうだね」

問題のトイレまで行って、写真を撮って戻ってくる。肝試しのルールはそれだけしか決めていなかった。

例えば、必ず何か目的物を撮影してくるとか、最低何枚は必ず撮影するとか、そういう細かいルールは決めていない。

そうなると最悪の場合、目的のトイレまで行かずに校舎内の適当な暗がりを撮影して、後で『行ったけど何も写らなかった』なんて言い訳をすることも出来てしまうわけだ。

最初に行ったAは仲間内でも特に根性のあるやつだったため大丈夫だとは思うが、残っている面々はといえば、そういう話をしてしまったからには途中で怖気付いてしまった時にそんな考えが浮かばないとも限らないし、ダチョウ倶楽部の『押すなよ! 押すなよ!』的なノリで、

(あ、『そういうこと』をしろってことね?)

と、変に解釈しないとも限らない。

 

何か上手い手はないか。そう考えていると、一人が良い案を思いついた。

問題のトイレは校舎の最奥にあるのだから、そこまで進んでいく姿を校舎外のどこか良い位置から確認できるのではないか、というのだ。

なるほど、それなら何か条件を考えたり準備をする必要もない。というわけで残っていた面々はどこかいい場所はないかと校舎の周りをぐるっと回って確認してみることにした。

「う〜ん、見えないな〜」

「ここはダメか〜」

「……おっ、いるいる!」

ある位置まできたところで、問題のトイレのある階の廊下を進む、最初に行ったAと思しき影が窓越しに見えた。

ちょうどいい。ということで、外で待つやつらはここから様子を確認することにしよう、という話になった。

 

その内にAが何事もなく戻ってきた。仲間たちが先程の取り決めについて伝える。

「……ということで、こういうことになったから」

Aに待機場所に関する話を伝えた後、次にBが校舎へ入っていく。

仲間たちが外から見ている中、廊下をBの影が進んでいき、そして彼も何事もなく戻ってきた。

次はCの番だ。

彼が校舎に入ってしばらくすると彼の影が窓に見えた。

先の二人と同じように、問題のトイレへと廊下を進んでいく。

 

 

その時。

影が、急にへこんだ。

 

 

正確に表現するなら、窓越しに見えるCの影、その背丈が急に頭ひとつ分縮んだのだ。

それはまるで、彼がその場でいきなり屈伸運動を始めたかのようでもあった。

「……?」

待っている面々はそれを見て、もしかして何かにつまずいたりしたのかと考えた。

しかし、だとすればすぐに体勢を直すだろうし、それと共に影も元の高さに戻るはずだろう。

それなのに、影はへこんだ状態のまま元に戻らず、そのまま何事もなかったかのように廊下を進んでいく。まるでつまずいた流れから膝立ち状態になり、そのまま歩いているかのようでもある。

先に行ったAもBも、そこに何かつまずくようなものがあった記憶などなかった。この後で最後の一人であるDも校舎に入ったのだが、彼もまた、つまずくようなものなどなかったと証言している。

 

外でその様子を見ていた仲間たちは、全員わけがわからなかった。

「……え、今の、何?」

思わず全員、顔を見合わせる。

互いにその表情や反応を見て、

(自分だけが何かを見間違えたとかじゃない。Cの影がへこんだのをみんなも見たんだ)

全員がそう悟った。

(……いったい今のはなんだ)

とはなったが、誰ともなく、

「……光の加減とかじゃない? ほら、屈折とか」

そんな意見が出たため、そういうこともあるのかなぁとその場はそれで全員納得した。

 

その内に、何事もなかったかのようにCが戻ってきた。そして先述したように、最後の一人であるDが校舎へ入っていく。

窓越しに見えるDの影に何の異常もないのを見ながら、先刻の異変を目撃したAとBなどは、

(……やっぱり、急に影がへこんでそのままってことはないよなぁ。何なんだろうなぁ)

そう思っていたのだが、結局Dも無事に戻ってきたので、

「……無事に全員撮影も終わったし、まあいいや」

ということで、そこで探索を終えて全員帰宅したそうだ。

 

 

「……それで、みんな帰ったんですけどねぇ。かぁなっきさん」

提供者である花子さん(仮)が言う。

「それがね。金曜日のことだった、っていうんですよ」

この肝試しが行われたのが金曜日。つまり、四人は土日の間に各々撮影した分を現像に出し、週明けにそれを皆で確認しよう。そういう話になっていたわけだ。

 

 
しかし週明け。月曜日の朝。

Cだけが登校してこなかった。

 

 

どうしたんだろう。

他の仲間が心配している内に朝のホームルームの時間になり、担任がやって来た。

教卓についた担任が口を開く。

 

 

「……Cくんが、亡くなりました」

 

 

Cはマンション住まいだった。

彼は、その自宅のベランダから転落死したのだそうだ。

状況から見て自分から飛び降りたとは考えにくいため、誤って落ちたのではないか、という話なのだが……。

(そもそも、生まれてからずっと暮らしていた家である。乳幼児ならともかく、例えふざけていたのだとしても『余程のことがなければ』そんなことになるとは考え難い、のではないだろうか)

とにかく、ベランダから転落したCはそのまま舗装された地面に叩きつけられて亡くなったのだという。

「そいつの家、結構な高層階にあったらしいんですけどね。そいつ、頭から落ちちゃって……」

 

 

花子さん(仮)が言うには。

Cの遺体は、まるであの時に見た影のように、

『へこんでしまっていた』

そうだ。

 

 

 

この話はかぁなっきさんによるツイキャス『禍話』 『禍話スペシャル・年末年始オールスター感謝祭 後編』(2021年12月31日)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/715444255

から一部を抜粋、再構成、文章化したものです。(0:10:00くらいから)

題はドントさんが考えられたものを使用しております。

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