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クリエイターになりたい

クリエイターになりたいと思うようになった。

もともとものづくりは好きだった。
「ものづくり」とは私の中ではかなり広義な言葉で、例えば漫画を描くこと―――キャラクターを「つくる」、物語を「つくる」―――もものづくりだし、仕事としているプログラミングも「無いものを作る」という意味ではものづくりだ。
物語を考えるのがものづくりなら、小説を書いたことだってある(結局才が無さそうだったのでこちらは早々に諦めたが)のでそれもものづくり。趣味のプラモデル作りもものづくりだし、レーザーカッターを使うこともデジタルものづくりだ。

クリエイティブなことはなんだって、ものづくりなのだ。

漫画家になりたいと本気で思い、東京に行った時期もあった。
結局なれなくて、「あー、自分はクリエイターでも何でもないのだな」と思って岩手に帰郷し、就職して5年。全く絵も描けなくなった。

描く意味がなくなったのだ。

絵や漫画を描くことは、自分の足りないコミュ力を補っているつもりだった。あの人たちとはうまく話せないけど、自分が描いた漫画を見せれば、きっと話せるようになるかもしれない。自分の描いた絵を見せてあの人に認めてもらいたい。そういうのが自分にとっての漫画だった。

だが、就職して人並みに稼げるようになり、それなりに人生経験も積んで人とそこそこ話せるようになると、補うはずの部分もなくなって、絵を描かなくても生きて行けるように思えてきたのだった。

☆ ☆ ☆

転機は今年、半年間行った仕事先の企業への出向だった。
そこでは、作成するプログラムの仕様がガチガチに定められていて、工夫とかそういうのが一切入り込む隙がなかった。
だけれどもそこは人間なので、個人的な癖や、うっかり仕様に沿わなかったミスがちょこちょこ出てくる。
すると、ソースレビューでそれを全部精査されて指摘され、また時間をかけて修正し、再び指摘され……あまつさえスケジュール上他人に迷惑をかける機会がしばしばあった。

私はものすごい劣等感に苛まれた。
同時に、自分がすごくロボットみたいな型に嵌められている現状を認識し、クリエイティビティの欠片もないこの業界で生きていくことに苦しんだ。やりがいも何もない。自分が自分でいる意味が無い。この席は別の人が座っていた方がまだいいのでは…。

《このまま仕事を続けていくと死ぬ。》

本気でそう思い、上司にも相談したのだが私の未熟さや慣れの問題だと言われ、全然取り合ってくれない。
「普通の企業はみんなそうだよ。今までがぬるま湯だっただけ」
自分がいま感じている劣等感、閉塞感、責任感、それはすべて甘え。
そう言われているのと同じだったが、正直それが本当ならば、出向先どころか今すぐにでも会社を辞めてコンビニでアルバイトをした方がまだいいなと本気で思った(コンビニを貶めているわけではなく、過去にコンビニでのアルバイト経験があった。当然失敗もしたし、今より給料も安かったが、気持ちの軽さではそちらの方がマシだった)。

幸い、死ぬ前に出向期間が終了し命からがら元の会社に帰ってこられたし、こちらでの仕事はまだ自由度があってクリエイティブだったけれど、私の心は完全に会社から離れていた。
今のところにいたら、いつまた同じような会社に修行に行ってこいと言われかねない。そしてそこは、きっと「一般的な企業はみんな同じ」であるように「ロボットみたいな型に嵌められた作業を強制されて」「慣れさえすれば理論上は誰だって同じ作業が出来るはず」のところなのだろう。


そんな生き方…嫌だな…。


一方で同じ時期、地域活動をしている岩手県紫波町に、ちょこちょことクリエイターの人が見受けられるようになっていた。

彼ら、彼女らはすごく活き活きとして見えた。
同時に、そういう人たちの仕事が、地域に求められているのも目撃した。イラストの力、デザインの力、そういうのが実はあちこちに溢れ、ひとつひとつの仕事に潤いをプラスしている様もわかった。

そういうとき、自分の足りない部分を補うためではなく、自分が生きていくために(稼ぎという意味でも当然そうなのだけれど、クリエイティビティを使いながらものづくりを続けていくということのために)クリエイターという生き方もアリなのではないかと思った。ものづくりは趣味でもあると同時に、自分を生かす生きがいでもあったということに、やっと気づいたのだ。

もちろん、まだ何も知らないし経験もない。

多分個人事業主登録とかもしなきゃいけないし、いきなりお金を払って仕事をくれる相手もいない、そしていたとしてもそれに応えられるだけの技術も。

だけど、今の会社は副業も認められているし、すぐに辞めずとも時間は残されている。

だから、一歩踏み出そうと思って、正月にとりあえずiPadとApplePencilを注文した。

絵を描くんだ。
ものづくりを続けていくんだ。

そう思うと、不安もあるけれど期待の方が大きい気がしてきた。
iPadの到着は今月末~来月頭くらいになるそうだ。とにかく、やれることをやっていこうと思った新年の始まりだった。

*画像は大学生のときに描いた水彩画。他に手ごろな画像が無かった。

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