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第19回書き出し祭り感想

 マシュマロで募集した第19回書き出し祭りの感想を綴っていきます。基本的に褒めつつ、「こうしたら良いかも?」という箇所に少しだけ触れるスタイルで行きます。
 誤読・曲解などもあるかと思いますが「こういう読み間違いをした奴もいた」という事実が参考になる可能性もあるので、ほかの方の感想も見つつ取り入れたり取り入れなかったりしていただけると良いです。
 初心者さんや、TLを追えていない方など、感想依頼があまりできていない方の依頼を優先したいと思っていますので、必ずしも依頼をいただいた順にはなっておりません。ご了承ください。


3-23 遠ざかっていく花言葉が僕を呼ぶ

https://ncode.syosetu.com/n0144ik/24/

 タイトル・あらすじの段階で、謎めいた雰囲気と佳澄さんの毒っ気のある色香が気になる作品でした。本文を拝読しても、知的なやり取りの中に主人公と佳澄の探り合いというか危うい駆け引きが見えて緊張感のある書き出しでした。ミステリやサスペンスが好きな読者を惹きつけるのではないかと思います。
 蠱惑的な佳澄さんと、非常に手慣れた様子で躊躇いなくストーカー行為を行う主人公と。このふたりだけでも常識離れしていて好奇心をかき立てられるのですが(お気に入りの曲を聞くように盗聴した内容を聞く、という描写、異常な行為が日常的に・罪悪感なく行われていることを示唆していてとても好きでした)、終盤ではこの「普通でない」ふたりをさらに出し抜く何者かの存在が蠢いていることが判明します。物語の起伏、次話へのヒキともに十分で、好みのジャンル・作風であることもあって先が気になりました。

 気になった点としましては、花の名前と香りを非常に印象的に使った作品なのですが、一般に男子大学生が持つ知識ではないように感じたので、少し説明が必要ではないかな、と思いました。
 彼が「普通の」学生でないことは冒頭部分だけでも十分に伝わるのですが、どうしてこの子はこんなに花に詳しいのかな、という疑問に答える「異常さ」ではないように思います。もしかしたら嗅覚に関する異能があるの? などと深読みしてしまいました。彼の嗜好を作り上げた背景について、作者さんには恐らく詳細な設定があるのだろうと思うので、もう少し匂わせていただくとよりキャラを立てる・世界観の解像度を上げることにもつながるかもしれません。
 多くの男性(虫)を惹きつける佳澄さんは薫り高い花のようでもあって、だからこそ彼は惹かれているのかもしれないですね。

2-22 勇者パーティーで『神童』と持て囃されてた現在30歳無職オッサンの事件簿

https://ncode.syosetu.com/n0141ik/23/

 タイトルからイメージしていたよりもずっとシリアスでハードな世界観でした。今回の書き出し祭りの中だけでも数作類似の発想があったと思いますが「魔王を倒した後の世界」がどうなるかについて、気になる人は多いのかもしれません。当面の脅威が去った後で人間がどう動き始めるかというところ、世界観を広げる余地は大いにありますし、各書き手の腕の見せ所なのでしょう。
 本作においては、魔界の開拓・開発およびその弊害というところが焦点・オリジナリティになっていくのだと思います。「半分は俺の理想通りとなった――」とのこと、人間社会が発展したところと、前以上の混乱に陥ったところと、二つの側面があるようですが、SF的な「if」の考察が好きなこともあり、この世界で何が起きているのかを見るのは面白そうだと思いました。
 また、あらすじからの情報から推測するに、本作の勇者は女性で、しかも既に亡くなっているのでしょうか(主人公の恋人=勇者と仮定)。そして、その彼女に似ている少女との出会いという点、恋愛ものの要素もあるのかな、と期待しした。亡くなった人への思いもあれば、現状への罪悪感もあるであろう主人公が、この少女とどう向き合っていくかも焦点になるのでしょうし、彼が前を向いていく(ことになるんじゃないかと期待するのですが)様子は見守りたいです。心身に傷を負ったヒーローを救済するヒロイン、の構図も個人的な好みです。

 主人公の性格を反映した描写でもあるのでしょうが、地の文が淡々としているのが少々もったいないかと思いました。冒頭、オークが街中に出現するのはどうやらイレギュラーな事態ということなので、驚きや焦りの描写があっても良いかと思いましたし、上記の推測通り、ミネリーに勇者の面影があるなら、彼女の顔を見て動揺したり過去のことを思い出したりといった描写もあり得るかと思います。視点人物の反応を通して、読者はそのキャラクターや作品世界の常識を知っていくものだと思います。何も知らない読者に教えてあげる、な気持ちで描写を盛り込んでいただけると親切かもしれません。

2-08 アフロディーテの皿

https://ncode.syosetu.com/n0141ik/9/

 実は投票させていただいておりました。また、別途気軽な「良かった」感想も呟いていますので、エゴサしていただけると良いかもしれません。
 という訳で、たいへん好きな世界観でした。美しい少女たちと、対照的に醜悪な食欲、同族を喜んでディナーに供し、食べられるほうもそれを名誉と信じて疑っていないという。そして、少女たちの間の姉妹的な絆! 歪で退廃的で残酷で、その中にも美しさがあってとても良いです。タイトルは、人間が食用の家畜として扱われる惑星を描いた藤子・F・不二雄先生の名作SF短編「ミノタウロスの皿」へのオマージュだと思いますが、あらすじと併せてこの世界観を好む読者を惹きつけるものになっていると思います。

 まず、冒頭で世界観を提示するのに成功しているのが良かったです。サーカスの華やかさ、がっつく貴婦人。登場した空中ブランコの少女は舞い降りながら斬首される。絵的にも非常に華やかですし、斬首のインパクトも大きいです。そうして読者の関心を集めておいて、和やかな授業シーン(でもやはり内容が物騒極まりないというギャップがある)で状況・世界説明に繋がるという滑らかな展開で、冒頭に必要な情報を効率よく詰め込んでいると思いました。

 明らかに異常な一族を描いたところで、その異常さに気付いた少女をヒロインとして登場させている点も、読者としては共感・応援しやすく、「この子は一族から逃れられるのか!? ここからどう行動していくのか!?」という次話への引きにもなっています。ディアナへの思慕、からの喪失への悲しみや理不尽への憤りなど、いろいろな感情が期待できますね。復讐の機会を窺う展開でも良いですし、もしかしたら捕食側に回りたい願望が芽生えても私的にはOKです。

 この後に書くことは、ご指摘というよりは私がそれだけ作品世界に惹きこまれているから、と解釈していただきたいのですが、女性だけの一族がどうやって繁栄してるかについて、バートリア家のディテールをもっと知りたかったなあ、と思っております。
 美貌は政略結婚や諜報に役立ちそうですが、食欲との折り合いをどうつけているのかな、とか。婿にもらわれた男性もいそうですが、アリの生態から考えれば「種」として優しく監禁されていそう! とか。薔薇蜜は本当に「神様からの贈り物」なのか、SF的に人為的な操作で生まれてきていたりして……? 等々、色々妄想が広がっています。
 最近、公募の講評で「世界観のディテールは物語の厚みに繋がる」という趣旨のコメントを見かけました。企画においては字数の制限もあるのは承知してはおりますが、細かな描写・情報で立体感を盛ることで、魅力的な世界がより魅力的に見えるかもしれません。

1-25 異世界で、鉄路を拓く。

https://ncode.syosetu.com/n0139ik/26/

 鉄道関係はまったく詳しくないのですが、冒頭のシーンから主人公の熱意や感動がしっかりと伝わってきました。「出発、進行!」が誤用であることも今回初めて知ったくらいでしたが、イメージとして強いフレーズですし、小さいお子さんなど、真似している場面も頭に浮かびますので、「子供の頃からの夢がかなったんだなあ」と微笑ましく応援する気持ちになれました。

 作品のテーマ・モチーフとしても「転移(転生)前に好きだったものを異世界でも再現する!」は分かりやすく共感しやすく、読者を惹きつけるのではないかと思いました。有名作品を例に挙げると「本好きの下剋上」もありますね。もの造りに関する蘊蓄で知的好奇心を満たしつつ、主人公のマニアックさによる活躍も保証する、現地の人々のためにもなって爽快感も! ……という構図なのかな、と分析するのですが、需要は大きいのではないかと感じます。
 本作の特色として、「箒」を運送のメイン手段にしているところが目新しく興味深いです。車輪はない訳ではないけれども、現地の人々は先入観があるので従来の手段に固執してしまうという説明で、魔法の存在を含めて世界観のリアリティラインを示していただけていると感じました。
 出発シーンから物語を初めていることもあり、汽車造りまでは成功することが約束されていますので、2話以降もどうやってそこに辿り着くのか!? という興味と期待で引っ張れるのではないかと思います。

 少し気になった点としては、「魔法(?)も使えない一介の学生が、どうして異世界で王族に庇護されているのだろう?」ということへの説明が欲しかったかな、と思います。
 ラストで取り出されたハチロクがその答えであり、答えは2話で! をヒキにする意図だろうとも思うのですが。また、転移ものにおいて主人公が足場を作るまでの流れはできるだけさらっと済ませたほうが良いんだろうなあ、とは察するのですが。
 「どうして俺が!?」という主人公の戸惑いを強調する、王子側で何やら過剰に期待している気配がある……など、「作者も説明が必要なのは分かってますよ、これからちゃんと描きますよ」というフリを見せていただけると、読者も安心できるかと思います。

2-21 家族もどきが壊れたら

https://ncode.syosetu.com/n0141ik/22/

 とある家族の危機に瀕した様子が詳細に描かれていて、息詰まる思いで拝読しました。それぞれに言い分や事情はありつつ、けれど「嫌なところ」もあって、読み進めながら「ひどいなあ」と「分かるけど……!」を行ったり来たりしておりました。私の年齢的に、親世代の疲れや金銭面でのストレスも、やや冷めた目線の子供世代のスタンスも、両方あるていど共感できるからなおさら身につまされたかもしれません。さらに自分語りするなら、私もたいがいうっかりなので、母親の「忘れてた」が他人事とは思えませんでした。大事なことだとは分かっているのに抜け落ちてしまうこと、あるんですよね……。
 ここからこの家族に何があってどんな形に落ち着くのか、胸が痛くなるだろうなあという予感はしつつ、気になってしまう第1話でした。冒頭の日付が過去のものになっているのは、作中の諸々を経て、現在に追いついたところで完結する構想なのかな、と深読みしたのですが、もしそうだとしたら、一時の爆発的な喧嘩ではなく、夫婦間・親子間・姉妹間での関係の変化やその時々のやり取りをじっくり描いていくのかな、とも予想しました。

 このタイあら・第1話から次話を開くかどうかについて、個人的には「ここからどう展開するか」のイメージがやや不透明かもしれない、と思いました。この冒頭から考えられる方向性としては、大きく①すれ違いを経て一家のわだかまりが解消され、再び家族になる、②家族がバラバラになっていく様を描いていく……のいずれかがパッと思い浮かびます。
 ①ならヒューマンドラマになるでしょうし、②なら皮肉を込めて描くか、悲哀を込めて描くかなどさらに細分化できるかもしれません。そして、読者のスタンスとしては、①なら感動やほっこりを求めるし、②なら他人の不幸を覗き見る野次馬的な興味が読書の動機になるでしょう。もしも、作者様の意図と違う方向性を予想して読み始めた読者がいた場合、戸惑うことになってしまうかもしれません。あらすじの後半を見た限りでは本作の方向性は①なのかな、と思っていたのですが、本文を拝読した結果、各人の「嫌なところ」がリアルに描かれていたので「いや、②かも……?」と迷っているところです。
 あくまでも一案ですが、作者様の意図が①寄りなら「良かったころの家族の思い出」を挿入する、②寄りなら各人の身勝手さをより強調して描く──など、読者が誤解する余地のない描写をするとミスマッチは起きづらいかもしれません。

1-07 全員ゴリ強(つよ)になっちまえ!~悲恋ゲー悪役令嬢の、ヒーロー&ヒロイン育成記~

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 エトワールちゃんの猪突猛進ぶりが可愛いですね。前世を思い出してからの行動開始もスピード感があり、このジャンルを好む読者に向けて、必要なところをぎゅっと圧縮しているのかな、と感じました。
 本来のヒロイン・スピカに対する「色なしなら全属性を極めなさい!」のお言葉、とても格好良かったです。描写として明示されている訳ではないですが、スピカちゃんは後略対象そっちのけでエトワール様に夢中になっちゃうんですよね!? というジャンルの「王道」を期待させるエピソードでした。ヒロインの目的意識と行動力、目的を実行するための能力(ゲーム由来の知識と、危機感ゆえに磨いた礼儀作法など)を明確に描いていただいており、次が読みたくなる書き出しだと思いました。
 エトワールの「計画」というのが王子との婚約破棄で。でも、あらすじと冒頭から、思い通りにはいかないんですね? というところまで予想ができて、愛されへの期待が持てるところも良いと思います。

 上述のように、現段階でも書き出しに必要な要素情報は十分詰めこまれているのですが、もしかしたらもう少し作品の方向性を明確に打ち出すことは可能かもしれない、と思ったので勝手な妄想を連ねさせていただきます。
 タイあらと、私のこのジャンルに対する少ない知識からして、本文を読む前にヒロインは、自分自身の恋愛には興味がなく、正ヒロインを応援したいタイプかな? とふんわりと予想しておりました。正ヒロインとヒーローをくっつける気満々なのに、なぜか自分に矢印が向いて困惑する悪役令嬢ヒロイン、たぶんあるあるだと思うのですが。タイトルも「ヒーロー&ヒロイン育成記」ですし、エトワールの目的は「ヒロインと攻略対象のハッピーエンド」ですし。

 さらに本作ではストーリーを改変しないと悪役令嬢であるエトワールの命にもかかわって来る、ということで彼女が起こすもろもの行動は決死のものになると思います。なので、冒頭の再婚約のシーンでの反応は驚きだけでなくもっと不安があるのではないかと思うし、正規カップルを応援する気持ちが大きいなら、スピカに会えた時の感動ももっと大きいのではないかと思うのです。そういった思いも描写されているのは分かるのですが、キャラ・ストーリーを知らない読者に一読で伝えるためには、もっとあからさまに描写を盛っても良いかもしれないと思いました。

3-17 世界平和は家庭内平和から、らしいです

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 幼い魔王・サタンの無邪気さ・傍若無人さが可愛らしくも恐ろしい書き出しでした。「背筋が凍ってそのまま昇天しそうな美しさ」とのことなので、見るからに人間離れした情緒の持ち主が分かる雰囲気なのでしょうね。美しく残酷な人外、良いですね。好きです。
 突然誘拐され、訳の分からないまま暴虐な魔族と対峙しなければならない、非力な身で、どうにか口先で丸め込まなければならない──という窮地のハラハラ感で惹きこまれました。書き出し段階では読者も状況が分からないからこそ、「行けるか!?」「ダメか!?」という駆け引きにいっそう手に汗を握りました。気まぐれなお子様のお相手はただでさえ疲れるものでしょうが、相手が生殺与奪を余裕で握られる魔王となると、緊張感もひとしおですね……。死んで解放、とならなかったクレオの今後の苦労が忍ばれます。あらすじによると、ラストに登場したバリトンボイスの人物が元勇者なのでしょうね。「元」がつく理由、この状況になった理由、クレオには何が求められているのか!? ……と、先が気になりました。

 上記にて、あらすじから元勇者の存在を推定したのですが、読了してから本文中には勇者の存在が全く触れられていないことに気が付きました。ほかにも、「クレオは就職先が決まったその日に何者かによって誘拐される」「クレオは回復魔法士」「元勇者に拾われる」「元勇者は何故か魔王の父親になっている」辺りの情報が、本文には記載されていませんでしたね。(何故か魔王の父親に~については、2話以降の謎・ヒキとして取っておいても良いかと思いますが)
 4000字の上限(結構厳しいですよね)がある書き出し祭りにおいて、本文に少しでも情報を詰め込むためにあらすじで既出の情報は省く、はあり得る手法だとは思います。ですが、私の感覚としては、「ん? どうしてこうなってる?」を確認するためにスクロールであらすじに戻るのは少々負担ではありました。
 上述の感想の通り、「どうしてこうなった! 訳が分からない!」は本作の魅力ではあるのですが、世界観の説明や、誰が・どこで・どうしてという辺りの、いわば背景を固める描写は、本文に盛り込んでいただけると状況がイメージしやすかったかもしれません(文字数の上限ゆえに、描写を削ったのかもしれないのですが)。

1-13 素人質問で恐縮ですが

https://ncode.syosetu.com/n0139ik/14/

 スチームパンクな世界観、好きです。魔法もある世界だと、遺跡の機構もこの世界とは違っているでしょうから、この先どのような文化・文明・遺物が描写されていくのか期待が高まります。遺跡名や様式名、王朝名などに幾つも言及されているのも、世界の広がりと深さを感じられて好きでした。ヒロインが研究者ということで、蘊蓄も期待できそうで、知的好奇心が刺激されそうな物語だと思いました。
 また、後半では費用や人員を引き出すため~という記述もあり、政治的な駆け引きや苦労にも触れていくのかな、と予想しました。現場と管理側でのシビアなやり取りでもドラマが生まれそうですし、このヒロインなら歯に衣着せぬ物言いで活躍してくれるだろう、とも思います。いっぽうで、ヒューゴの「前の持ち主」に言及しつつ彼を思い遣るくだりやラストの行動では彼女の優しさも見えて、書き出し部分でキャラクターの様々な面を見せてくださっていると思いました。

 私は学術的な発表をする機会がない人生でしたので、それこそ素人目線の疑問ではあるのですが。タイトルの発言が恐れられる理由は「分野外の人の素朴な疑問にも応えられない稚拙な発表だと突き付けられる」「分野外の人にも明らかに分かる不備・矛盾がある稚拙な(略)」「優れた研究者は多少分野が違ってもクリティカルな質問をしてくる」辺りだと認識しています。
 本作の冒頭のシーンを見ると「その分野の専門家が(つまり、素人ではない)」「やり込めて問い詰める気満々で」このセリフを口にしており、上述の一般的に語られる(であろう)文脈とはずれているように思います。観客の学生に発言を求めさせたのも、外堀を埋める感じでネチネチしている、という印象を持ってしまいました。後半の場面でだいぶミス・ベリルへの印象が持ち直した、という感じです。厳しいけど良い人なんだな、ということは分かったのですが、冒頭だけだと厳しさが先に目についてしあうといいますか。
 例えばですが、あくまでも善意の&好奇心からの質問を重ねた結果、相手がボロを出してしまう……という流れだと、ミス・ベリルの性格も見えるし彼女に好感も持ちやすいかも、と思いました。

2-23 魔女を脱がせてはならぬ

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 世界に疑問を抱く物語、大好きです。SFディストピアものに多い構図のように思いますが、ファンタジー世界を舞台に、皆が盲信する伝承に反発する物語も興味深いものだと知りました。儘ならない怒りに駆られて動いていたエドの世界が、ヒロインと出会って一変して彩りに満ちるのが伝わってきました。鬱屈も鬱憤も抱えていそうな彼が「目に焼き付けたくて」と思ってしまうところ、恋に落ちたのね……とにこにこしました。
 あらすじ・本文からは今後の展開が予想しきれない部分もありますが、魔女と人間の歴史への、また、フードの下の「魔法」は何なのか、という興味で先が気になる書き出しでした。

 これはご指摘ではなく純粋な疑問であり今後への期待なのですが、「魔女の人間への怒り」というワードがとても気になりました。どうも、人間が先に魔女に何らかのやらかしをしているのでしょうか……? 現在の迫害は『狂乱の夜』あってのことだと思うので、それ以前に・そもそもの切っ掛けに人間側の非があるとしたら、種族間の確執は主人公が思っている以上に根深そうで、ヒロイン(仮)との物語も波乱に満ちたものになりそうだと思いました。

 本文中の村人の声「(略)あんなことがあってはね……」と「彼はある時からそう考えていた」「16年前に殺された家族」という記述より、エドは家族の死によって価値観をひっくり返され、だからこそ伝承に疑問を抱くようになった──と読み取りました。彼には不釣り合いな可愛いお守り、からして妹さんもいたのでしょうか。魔女が関わっていたのかもしれないし、あるいは逆に、関わっていないからこそ伝承への反発に繋がっているのかもしれません。
 とても丁寧に、かつさりげなく伏線が散りばめられていると思います……が、たいへん申し訳ないのですが、私が上記の記述をすべて認識したのは感想を書くために再読&精読して初めて、でした……。ほかの方の感想を見た限りでも、これらの点に言及しているものは少ないと感じました。
 主人公の背景・動機は物語にとっても重要だと思いますので、まだ作品世界に入り込み切っていない読者のために、伏線はもう少しあからさまなくらいに強調しても良いかもしれません。

1-15 カノジョの前に妹とキスをした。

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 タイあらの段階から気になるドロドロ百合でしたが、本文を読むとさらにすごい世界が広がっていました。姉、妹、姉の彼女、登場人物の誰かひとりでも男性に置き換えたとしたら、多くの読者に眉を顰めさせるのではないか、生々しさも格段に上がるのではないかと思うのですが。「百合」というフィルターを通すことで、退廃的な中にも甘い香りが漂い始める構図・発想がお見事だなと思いました。

 姉の心に枷を嵌めて重石を乗せていく妹の言動がたいへん美味しいですね。「同意の上」「お姉ちゃんや凪さんのため」というテイにして反論を封じた上で「言わなきゃバレない」と罪悪感で縛り上げるという。策士! 受け取った数Bの教科書に何か仕込んだりしていないでしょうね……。
 しかも、危うい行為の最中に凪の名を出すのはNTRを楽しんでいるようでもあって嫉妬や独占欲が見える気がします。妹の本心を計りかねている、というか本気に取りたくなさそうな姉の反応と併せて、ここからどんなドロドロに展開していくのかと期待が高まります。

 妹の執着と、危うい三角関係への期待が高まる、たいへん私の好みかつ先が気になる書き出しでした。ご馳走様でした。もう少し食べたいな……ということであえて言うなら、メイン三人の関係性をもう少し見せていただけると続きへの期待がより高まるかもしれないと思いました。
 例えば、姉妹のこれまでの関係性・スキンシップのていど(もともと仲が良いんだな、というのは読み取りましたが)の具体的な描写があると、妹の変貌に対する姉の戸惑いの解像度がより上がるかもしれません。また、あらすじと本文から、妹と凪の間にも面識があると分かりますが、ふたりが一緒にいた場面を描写することによって、彼女たちの関係性に対する妄想が広がったり、姉が抱く罪悪感を読者がよりリアルに感じられたりするかもしれません。もちろん、第2話以降で触れられるであろうとは推察しますが、1話だけを読んだ段階ではその辺りが固まっているとより入りやすいかも、ということでご了承いただけると幸いです。

1-04 悪役令嬢に憑依したとたん婚約破棄を言い渡されましたが婚約破棄は破棄だそうです

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 ヒロインが、元は日本人、ではなく同じ世界から・それも、亡くなって転生ではなく憑依で、というのが斬新で興味深く拝読しました。前世で触れていたゲーム・漫画・小説等の知識ではなく、自分が生きていた世界の知識で状況を把握していくので、説明部分に地に足がついている感じがありました。「王都からは遠く離れた西の地」などとさらりと出てくるあたりに世界観の解像度の高さを感じました。ヒロインは王宮に勤めていた(らしい)という描写がある点も、今後の「王子の婚約者」としての立ち居振る舞い・活躍に期待が持てそうです(まさにその立ち居振る舞いゆえに、『婚約破棄が破棄』になってしまった訳ですしね!)。
 陰謀を企んでいそうな義妹に、強引そうな王子様に。ヒロインが振り回されるであろうこと目に見えるようで、どう切り抜けていくのか、彼女の機転やハラハラを楽しむ作品なのだろうと思いました。婚約破棄・悪役令嬢といったジャンルを好む方によく刺さる書き出しだろうと思います。

 気になったのは、アンナリセの変貌を見たグレクスの反応が早すぎるかな、というところです。「余りにも大人気ない」という冒頭の台詞からして、直前までアンナリセは日ごろの我が儘な振る舞いをしていたと思うのですが、彼女が一度だけ殊勝な振る舞いをしたからといって、それまでの評価が完全に反転するものかな、と……。私の感覚だと、何度も聞き返したり、それこそトレージュが指摘したように悪だくみを疑ったりして、あるていどのやり取りがあった後にどうやら「人が変わった」らしいと悟って初めて気が変わる、なら納得できるかと思いました。
 あるいは、グレクスが何か企んでいる可能性もあるかも、とも思いましたが、その場合は意味ありげに何か呟く・にやりと笑うなどの「フリ」を入れていただけると、読者としては「なるほど何かあるんですね?」と予想しながら読むことができるのではないかと思います。字数の規定がある企画ですので、ヒキのためにやむなく削った描写があるかもしれないとは思いますが、現状の本文を読んだ限りだと、上記のように感じました。

1-02 鏡映しの忌み子と、鰐の花婿

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 和の神話をモチーフにした物語、血腥い儀式が残る因習村、立ち向かう少年、生贄の少女──と、作者様の好き! を詰め込んだのだろうな、と思うタイトルあらすじでした。私も気になるモチーフが多く、気になっておりました。
 本文でも、冒頭とヒキで登場する狐面、「『まだ』生身」という気になるワード、消えた幼馴染……と、謎めいた要素がふんだんに散りばめられていて、神話・因習を紐解いていく展開になるのだろうな、という期待が高まりました。十二支の字を持つ登場人物の命名もそれぞれ意味がありそうで、考察のしがいがありそうでした。

 気になる・好みの要素は多く、また、上述の通り、狐面で始まり狐面で終わる構成には興味を惹かれるのですが、それらに挟まれた中盤、主人公の戌成が登場する場面は要所要所の流れが唐突に感じてしまう面もありました。企画の字数内でヒキに辿り着くために、描写を切り詰めたのかもしれない、と感じております。例えば、自分の首を絞めたばかりの相手にあっさり名乗ってくれるヒロイン(普通なら怖くて身元は明かしたくないのでは)、消えた幼馴染にそっくりな彼女に戌成が驚くのは分かるのですが、「綺麗だ」と抱き締める前にもっと色々問い詰めたり、疑ったりしても良いのでは、と……。これを書いている段階で、ほかの方の感想・配信にもすでに接しておりまして、戌成の行動の「不審」さは今後の展開の伏線かも、という指摘になるほど、あるかもしれない……! と思ってはおります。とはいえ、私が一読した段階では「私には共感しづらい言動のキャラクターを描く作者さんは、私とは感性が違う方なのかもしれない」「じゃあ、この先を読んでもひっかかりが多いかもしれない……」と、続きを読みたいというモチベーションが持ちづらかったのも事実です。
 実際に、作者さんとの感性の違いにより「私(のような読者)のために書かれた物語」ではないということでしたら、この感想は無視していただいて構いません。ですが、もしも上記のような違和感が実は伏線である、ということでしたら、読者がそうと察することができるような描写にしていただけると(本当に仮に&たとえばですが、戌成が何かに操られているのだとしたら、自分の行動に驚く描写を入れるなど)、種明かしへの期待を持つことができるのではないかと思いました。

1-09 夏へのスイッチ

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 タイトルあらすじの段階で、いったいどのような形式になるのか気になっておりました。本当に短歌のみで構成された作品だと確かめて、発想と、八十首作り切った事実に感服しております。本当にすごい。
 少しずつ近づいていく距離、深まっていく思いを一首ずつ追っていくのは趣深く甘酸っぱく、ほかの作品にない味わいでした。現代の女子高生が短歌で思いを綴ることを思いつく心情に思いを馳せると、思ったことをそのまま記すのは恥ずかしさがあるのかな、一日一日、一首一首ごとに思い出を凝縮させたいのかな、など……とても眩しく尊い気持ちになりました。

 オリジナリティある発想を実現させた、たいへんな労作・力作であることは重々承知なのですが。また、私にはとうていできないことですし、ものすごい無茶ぶりをしていることも分かっているのですが。それでも、もの足りない点はありました。
 各首が、「思ったことやできごとを三十一文字のリズムで並べているだけ」になっていて、単調ではないか、というものです。「小説や詩集などを読むが読書量は多いとはいえない」少女の作品であることを意識してのあえての稚拙さの可能性もありますが、恋を歌おうとするなら、字余りになったり字足らずになったり、読者には一見何のことだか分からなかったりする歌があっても良いかなあ、と思いました。本当に、難しいことを言っているとは思うのですが……。たとえば、短歌自体の出来もだんだん上達していくような造りになっていると物語としても短歌集としても読みごたえがあるかもしれません! 無茶ぶりは重々承知ですが、私としては是非読みたいです。

2-04 ぽんぽこ帝都身代わり婚〜妖狩りの旦那様と憧れのすろーらいふ〜

https://ncode.syosetu.com/n0141ik/5/

 タヌキのポン太目線で描かれる明治(っぽい時代&世界)の描写が楽しく可愛い書き出しでした。金の力で強いられる結婚、という深刻な状況が、人間社会を今ひとつ分かっていなさそう&いざとなれば化けタヌキの力でどうとでもなると思っているポン太のキャラクターによって和らげられて、読者も楽観的に臨める仕様になっていると思います。犬・猫・狐など、人家の身近にいそうな動物(のあやかし)は色々ありますが、中でもタヌキというずんぐりむっくり感がとても良い味を出していますね。ポン太、恩返しで身代わりを申し出る優しさ・正義感と、「すろーらいふ」を望む食いしん坊感(主に食欲が前面に出て見えたので……)がなんとも可愛らしいです。嫁ぎ先でも色々なイベントやどたばたがありますよ、ということがあらすじで示唆されていて、旦那様との関係だけでなく、姑や芸者のとのやり合いもどんな感じになるのか期待が持てます。

 本文をとても楽しく微笑ましく拝読したうえで、なのですが。また、これは、私が和風・あやかし・結婚な物語を「公募の研究のため」(すなわち、分析目線で)摂取しているため、思い込みというかバイアスがかかっている状態である可能性が高いのですが、「このジャンルはこう」というセオリーから外れている……気がするのが、作者様の意図通りなのか気になりました。

 不遇なヒロインが強く美しい存在に見初められて溺愛される、に反して、割とおおらかなヒロイン(こっちがあやかし)が嫁ぐところ。身代わりで恐れられる存在に泣く泣く嫁いで──に反して、自ら&楽観的に身代わりを申し出るところ。本来の花嫁が意地悪な(義)姉妹ではなく、心優しいお嬢様であるところ。タイトルの「帝都」「身代わり婚」「妖」から感じた「あの方向ですね、OK!」が、あらすじ→本文と進むに従って「あ、そうじゃないんですね……」に変わって行って少々戸惑ったかもしれません。
 もふもふスローライフも王道ですし、優しくほのぼのした雰囲気、おそらくはストレスフルな展開にならなさそうなところ、ポン太(蒼葉)のおおらかなキャラクターは間違いなく本作の魅力だと思います。そもそも、タイトルで「ぽんぽこ」「すろーらいふ」で力を抜いた感じですし、私のような誤解をする読者のほうが少数派なのかもしれませんが、的外れでも多様な意見があったほうが参考になるかもしれませんので、そのまま記させていただきます。

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